第93話 タロウ、潰す覚悟をする
よろしくお願いします!
戦いは意外とあっさりです!(ネタバレ)
『タロウ、こちらです』
俺はシェリーフに森の中を案内して貰っている。この辺までやって来ると流石に俺の気配探知にも引っ掛かる。戦う場所は森の中になるかな?遮蔽物があるとやりづらいからせめて広い場所には出たいかな。
それから更に森の中を進むと1人の男が切り株に座り込んで目を閉じていた。
「ありがとうシェリーフ。ここまででいいぞ」
『では、戻りますね。御武運を…』
「子供がこんな森の中でどうした…なんて質問は愚かかな?」
「あぁ、貴方が織田家の家臣や味方なら…俺は敵だ」
「そうか…。その容姿…異国の子だな?何故この戦に参加する?」「魔族共の好き勝手にはさせない。それは俺が俺を許せなくなる。織田家は何故魔族と手を組んだ?」
「さぁな?我が主の決めたことだ。」
「おかしいとは思わないのか?少なくとも安部、九重、徳川家の当主は織田家のやり方に疑問を抱いてるぞ?」
「それは我らも思っているし、反発もした。が、あの魔族の強さを目の当たりにして主は決断された。…ま、その魔族も部下を置いてどこかへ行ってしまったけどな」
「その魔族の名は?」
「確か…デグア。もう1人はサニーバ。この2人は感じる威圧感が凄かった。ま、デグアと呼ばれていた男が飛び抜けていたがな」
「今回は徳川家と織田家の確執から始まった戦だと聞いている。そこを魔族につけ込まれたとしか思えない。混沌を好む奴等だぞ?」
「問答はそろそろいいであろ?異国の子よ、子は宝だが…剣を取るならそれは兵。そしてこれは戦。お前に正義があるなら俺を倒せば良い。」
「俺の名前はタロウ。魔王を倒す者だ」
「我が名は羽柴秀政。織田家四天王筆頭だ。では…行くぞ!!」
◇◇◇
「境界を越えた者が3人でして~」
「お前ら、準備せよ!…晴海様、お疲れ様です」
「父上の簡易結界のお陰でして~。ん?更に1人越えたでして~」
「かしこまりました。者共もう1人だ!」
「「はい!」」
『晴海、強い者の匂いがしますよ。後から来たという1人です』
「強いでして~?」
『えぇ、私で対処できるかどうかわかりません…勘ですが』
「なら、最後の手段の準備もしておかないといけないかも知れないのでして~」
「ぐぁっ…!」
「な、なんだこの女…つえ…ぐはっ!?」
「近寄れば殺す。触れれば2度殺す。男共…貴様らは男というだけで罪だ。断罪する」
「晴海様!お退きください!あの2刀使いの女は狂っています!!」
「何やら男性を拒絶している様子でして~。男性は退かせた方がいいのでして~」
「で、ですが!?」
「分かってるのでして~。ここに女性は私1人でして~、つまり…私が出るのでして!!」
「は、はい…。お気をつけください!晴海様」
タロウさんと約束したのでして~。守るために戦う…なら、私が、ここに居る誰よりも強い力を持っている私が出ないといけないのでして~。
「近寄るな!近寄るな!殺す、殺す殺す!!」
「翡翠」
『分かってます!そこの女、止まれ!!』
「あ…?女か。ようやく対話の出来る奴を見付けれたな」
「貴女はなんの為に戦っているのでして~」
「決まっている。女と見たら舐めてかかり、下衆な考えしか持たぬ男という種族を殺す為だ!」
「貴女の陣営にも男は居るはずでして~?」
「そいつらもいずれ殺す。私は男を許せない。私が弱かったから…奪われた。母も姉も妹も友も!だから殺す、もう大切な人は死んでしまったが…私は強くなって復讐する」
『晴海、こいつはイカれてるぞ?』
おそらく、男性に何かしらの嫌な思い出があるのでして~。それについては同じ女として許せない気持ちはあるのでして~、ですが…。
「貴女は知らないだけでして~。女でも認めてくれる男性はたしかに居るのでして~」
「うるさい!!そんな言葉は聞き飽きた!!優しくする男に限って裏がある!子供のお前には分からない世界だ!」
「貴女は今のままで本当に強くなれると思っているのでして~?」
「あぁ、私は殺す事しか出来ない。男を殺す、そして強くなる。子供でも女でも邪魔するなら…殺すぞ?」
「なら…この勝負、私が勝ったら私の言うことを聞いてもらうのでして~」
「もし、勝てたら何でも聞いてやる。負けとはつまり死と同じだ。好きにすればいい。でも、私が勝ったときには…お前は息をしていないと思うことだ」
「それでいいのでして~。私の力を…ここで出しきるのでして!安部忠晴が娘、安部晴海。式神の力を借りて…参ります!」
「織田家四天王が1人、滝川双葉。その首…切り落とす!」
◇◇◇
「オラァ!オラァァァ!!…どうした鬼娘、強いのは力だけか?」
『くっくっくっ。そういうお主こそ、我が力の前に為す術無しかえ?』
「ちっ…たしかに受け流しを失敗すれば手が痺れやがる…。」
「紅緋ちゃん!助太刀するわ!」
『たわけ!お主らは足手まといじゃ!ま…死にたい奴は止めんがえ?』
「わ、私達は他の敵を警戒しておくわ!任せたわよ!」
「ははっ!良い判断だ。ここに居るものでお前が総合的に1番強い…さ、続きといこうぜ!!」
妾の力での一点押しじゃ埒があかぬの…。さて、どうするかえ…奴の槍の力もバカにできんからの。
『くっ…!その速さはちと、厄介じゃな』
「俺の売りは速さと技だ。時間は掛かるが削っていくのもありだな。最後に立っていた者が勝者だ!」
『くくっ、それは同意ぞえ。妾もはよう帰って菓子を食わねばな…。行くぞ!躍り狂え『炎手観音』!!』
「ちっ、鬼娘も中々の技巧派じゃねーの!いくぜ…魔槍『技の槍』!」
妾の炎の手が明智公久を追いかけ潰そうとする。それを奴の魔槍…色々な属性の魔法が付与されている槍で叩き、貫き、弾いていく。妾の炎の手は1本2本どころでは無いが…やるではないか…。
『潰れろ潰れてしまえい!』
「まだまだぁ!ぬるいぞ鬼娘!!」
『ちっ、これでも決まらぬか…。やはり我の魔法で倒せるのは有象無象ぐらいよの…緋鬼王にも通じんからの…。さて、もう手は1つしかないか…』
"紅緋、貴女は金棒が似合うわね!"
"紅緋、貴女には力はあるじゃない?それだけで武器になるのよ"
"紅緋、貴女は無茶をする時が多いけど…いざという時には必要な事よ"
"紅緋、いつだって貴女の力を信じているわ"
"紅緋、その時の貴女の主に甘えなさい。そして、その人の為に…無茶をしなさいね"
「お?攻撃は終わりか?なら、こちらから行かせて貰うぜ?はぁ!!」
『うん、そうじゃの…。そろそろ…煩わしいかのぉ』
「なっ…弾かれた!?ん?貴様…背が伸びて…」
『この姿を取ると長くは保てぬ…が、問題はなかろう。くくっ、懐かしい事を思い出してしもうたのぉ』
妾とひかりの思い出。伝承となった妾達を再び現世へ喚び出してくれた存在。くくっ。こんな所で負けておったら顔向け出来ぬわ。この姿の妾ならば無茶も出来るわい。
「背が伸びたからなんだってんだ!やる事は変わらねぇ!」
『貴様を潰す。我が力をこの一振りに込めよう。全てを砕く鬼の一撃』
「技の槍ぃぃぃぃぃぃぃ!!」
『鬼撃『木端微塵』!!!!』
交差する金棒と槍。力と技。己の全てを一撃に乗せて二人はぶつかり合った。何が勝敗を分けたかというならばそれは…
「なっ!?があぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
『出直して来い小僧。ま、そんな機会は無いじゃろうがの…。っと、妾もここまでかえ…。者共、後は任せるぞえ!』
「紅緋ちゃん?紅緋ちゃん!?」
くっくっくっ…。タロウには褒美を要求せぬと…な。
…どれだけ主に甘えられ、どれだけ主の為に無茶を出来るか…その心の在り方が決め手だったのかもしれない。
◇◇◇
「魔刀『呪傷』。ハグ…力を貸してくれ」
『ハグハグハグ…うん…ハグハグハグ』
「魔刀…か。我が刀、真刀『東雲』と比べてみるのも面白い。」
隙が…無い。
小さい隙はあるかもしれないが…俺には分からない。剣に生きてる男の威圧感を感じる。
「刀の実力は俺が下だな。まだまだ修行が足りてないか…。」
「ほう…実力差は感じ取れるか…。なら、どう戦う?目は死んでおらぬ様だが…」
当たり前だ。俺は刀だけじゃない、俺の本分は魔法戦闘だ。でも、少しは実戦で学ばせて貰おう。悪いが魔法がある限り、俺に負けは無い。刀の成長の為の糧になってもらうぞ羽柴…。
「ん?紅緋が消えた?っと、危ねぇ!」
「気を抜くとは…拙者も舐められておるのかな?」
いや、紅緋が消えた気がする…というか消えてるな。そういう感覚がある。負けた…のか?そうだとしたら…中々の手練れが行ってる事になる。四天王の1人…か?
「ふぅ…それは後で考えるか。ベリー先生との修行を思い出せ。…よし、行くぞ。この刀に触れれば負けと思え!!」
森の中での剣戟が始まった。足場の悪さでも差が出る。俺が攻めに転じられる機会が中々訪れない…が、それでいい。吸収する。この戦いで刀を使った実戦、刀での斬り合いの体験を体で覚える。
俺に足りないモノをここで少しでも埋める。…こんな事言って死ななよな?使うか?思考解読を。
「子供にしては強い。大人と遜色無いと言ってもいい…が、届かぬぞ。守りばかりではいずれ死ぬぞ?」
「死…なない!まだまだ、これからだ!はぁっ!!」
「いい気迫だが…ヌルい!!」
「ぐっ…はぁ!!」
「ダメだダメだ!死ぬ気が足りない!刀には気持ちが乗る、気持ちを込めないと意味無いぞ!!」
「小手先の技に頼り過ぎだ!本質を見失うな!」
「型は効率化された流れだ!勝手に逸脱するな!」
「力が足りない!それだけで敵に1歩劣っている!」
くそ、分かってる。分かってる…なんだコイツは!?
「足が止まっている!気を抜くな!相手の動きを読み切れ!」
「お前…」
「確かに我が主が正気ならこんな戦いでは無かったかも知れない…。が、それは可能性の話だ。今、こうしてここで戦っている現状が全てだ。どちらか一方しか勝者は居らぬ。そろそろ…遊びは終わりにしよう。…すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ…。本気を見せろ、死にたくないだろ?お前を殺したら、その後はお前が守ろうとしている者の全てを殺しにいく。それが戦というものぞ!」
空気がピリつく。さっきまでが本気では無く遊びであった事が分かってしまう。だが…殺すだと?
殺す?誰を?俺じゃなく、俺が守りたい者を?
「殺させやしない。お前が殺すと言うのなら…もう、形振りは構わない。遊びに付き合ってくれた事に感謝する。貴方が織田当主に反対し続けなかった事が残念でした。」
「あぁ」
「行くぞ、羽柴秀政。俺は魔王を倒すまで負けない、負けられない。人同士で争っている時間はただの無駄だ。もう…終わらせる為に加減はしない。異国の事情だが…もう覚悟した。全力で潰させて貰うぞ」
「いい覚悟だ。やってみるといい」
◇◇◇
「それ!それそれそれぇ!!」
『その程度か人間?』
「ふぅ~ん?結構頑丈なのねぇ~。素敵よぉ~」
『もう、先が無いなら終わらせる。主の命を完遂させねばな』
「んもぉ~。慌てないでよぉ~ん。じゃあ…行くわよぉ~…身体強化でギリギリまで強くなったあたしの力で潰れろや!!」
『黒炎』
「んぎゃあぁぁぁぁぁ…!?」
『弱い…本命はここでは無かったかもな』
「誰が弱いだと、ゴラァ!!ぶち殺してやる!!オラァァァ!!」
ふむ。威圧感が少し増したか。だが、アトラス殿の力の方が強い。魔力も主と比べるまでもなく低い。
『遅い。このまま握り潰してやろうか』
「ぎぃぎぁやあぁぁぁぁぁぁ!?手がぁ!手がぁ…」
『吹き飛べ』
「がぁはぁっ!?……がぁ…は…」
『死んではおらぬ。捕縛せよ、後は知らぬ』
「うぉぉぉぉ!緋鬼王様が倒したぞ!お前達、勢いで進めぇ!!」
「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」
『歯応えがないな…。やはり、アトラス殿や主と試合をした方が有意義だな。…ちっ、早く終わらぬのか?』
「ひ、緋鬼王様、四天王を倒した事ですし、後は我々で十分であります!」
『ふむ。そこまで言うのなら分かった。我は主の元へ戻る』
「は、はい。ありがとうございました!」
さて、最短距離で向かうとするか…。ついでに紅緋の様子も見に行ってみるか…。
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(´ω`)




