第92話 タロウ、気合いを入れる
視点がコロコロです
よろしくお願いします!
「アトラスって力持ちって事は知ってるけど…他に得意な事ってあったりするの?」
『あたしか~?そ~だなぁ~…食べる事だぞ~』
それは知ってる。特にお菓子を沢山食べるもんな…。
「ほら、お菓子をもっとお食べ…。それ以外に戦う事に関しては何かある?」
『土魔法は使えるぞ~!でも、ハイドワーフでも魔力が少ないのはドワーフ達とそこまで変わらないんだ~』
「土魔法が使えるのか…。ん?魔力があればどのレベルで使えるんだ?」
『土魔法だけなら~エルフにも負けないんだぞ~』
「凄いじゃないか!魔力ならパスを通じて俺から受け取れば良いわけだし…アトラスも緊急時には遠慮せずに魔力を持っていっていいからな」
『凄い~?なら、もっとお菓子食べちゃうぞ~』
アトラスも自分の出来ることはちゃんと把握しているみたいだな…。それに比べて俺はエクストラスキルを持っているというのにそれを使いこなせて無いんじゃないか?
今は基礎能力を高めてる所だが…使ってないと使えないじゃ天と地ほどの差がある訳で。
「アトラス~…"読む"という事と"偽装"って事について何か思い付く事って無いか?1人で考えてもどうもパッとしたのが思い浮かばなくて…」
『あたしのお母さんは本を読んでくれるぞ~?』
「本…か。どんな本を読んでくれるんだい?」
『うんとね~…ドワーフの歴史とか…鍛治の全てとか…難しい本ばっかりで~眠たくなっちゃうんだぞ~?』
「確かに…それは眠たくなるかもな…」
うーん…やっぱりそう簡単には出ないかな…。
『お母さんは、楽しい本だと~あたしが寝ないって事が分かってるんだ~。流石はお母さんなんだぞ~私の"考え"を分かってるんだぞ~』
確かにアトラスの考えてる事は分かりやすいかも…。ん?考えが…分かる?
『どうしたんだ~?』
考えが分かるって事は…つまり、そう…言い方を変化させると"行動パターンが読める"ってならないか?…少し強引かもしれないが、少し先が明るくなった気がするぞ。この路線で試していってみるか…。
「ありがとうアトラス。少し思い付くことが出来たよ。よし、お茶会の続きと洒落込もう」
『お菓子は美味しいな~』
なんか…アトラスと紅緋は仲良くなれそうな感じがするな…。
それはそうと、行動パターンが読める実験をしなくては…。相手を知らないと読めないのか、知らなくても読めるのかでもだいぶ違うし、どこまで読み取れるのかも調べないと…。ちょっとカルミナで試させて貰うか…
「カルミナ、今からちょっと剣で斬りかかるから返してみてくれないか?」
「ぶつぶつアトラスと話してたのに急にどうしたのよ?」
「色々と試そうと思ってな」
「まぁ、良いわよ」
「鑑定 思考解読。行くぞ…」
うっ…右目が…。左目は普通に見えてるのに右目がブレてる?カルミナが多重になって見えるぞ…
いつもの練習の様に斬りかかると左目は普通に見えてるのに、右目に映るカルミナは俺の振り上げに対して受け流しの体勢で構えてから返す所までが流れる様に見えている。うぇ…左右で違うとちょっと気持ち悪いな…。
「せい!」
「はっ!」
右目が見えた結果の通りにカルミナが動いた。俺の剣を流して、そのままの勢いで返す。全て右目で見えた流れの通りだ。
「うん。とりあえず少し分かった。これはカルミナの動く可能性を示してるモノだなきっと。最初のブレてるカルミナはどう動くか分からないからそう見えていただけで…いざ俺が刀を振り上げると行動が決まったのか、動きの流れが見えたからな。左目は隠したいが…そうするとカルミナの動きの時差が分からなくなるし…。慣れるまで練習するしかないか」
「何?どうしたの?何がわかったの?」
「ありがとうカルミナ。また、少し考えてくるよ!」
「いや、タロウもこっちで警戒しなさいよね!ホントに怒られちゃうわよ!?」
カルミナの言葉を聞き流して、アトラスの近くに座る。
「さっきのやつだと相手がギリギリまで考えるタイプだとあまり意味ないかな~?あと、普通に俺が対処出来ない速さのやつだったら間に合わないだろうし…。相手がどう動いても更に返せる様になる事と、単純に速さを求めないとかなぁ…」
『どうだったんだぁ~?』
「うん。良い感じだよ、ありがとうアトラス」
そうだ、アトラスにも使ってみようかな。鑑定 思考解読。
ふむ…。左手で団子を掴み、右手で別のお菓子を…えい!
『あ~!何で防いだんだ~?』
「ちょっと練習だ。アトラスは普通に食べようとしてくれ、それを俺が防ぐから」
アトラスが右手を動かすのが右目に写る。その後は左手で…か。右目で見えたものを左目でタイミングを測って弾く。
『う~。全部弾かないで欲しいぞ~』
「これはいい訓練になりそうだぞ。アトラス、後でちゃんと食べていいから今は付き合ってくれ」
『う…しょうがないんだぞ~』
それからアトラスと練習をして、少しずつだが少し早い右目と普通の左目との誤差にも慣れ始めた。俺が練習している間に敵が現れる事も何度かあったみたいだが、カルミナの索敵で他の人も早めに動けるから危機的な状況は全くなかった。
つまり、今日も俺は何もしなかった訳だ。だか、俺にとっては自分の戦力強化に繋がる事を思い付いたけっこう充実した日だった。
◇◇◇
「命先生、今日は昨日より多いみたいです!」
「分かったわ!皆、準備を!」
「「はい!」」
「な、アトラス。ここにドーナツが2つあるだろ?」
『うん~食べていいのかぁ~?』
「1つは石をドーナツに見せていてもう1つは本物だ。分かるか?」
『こっち~!…美味しいぞ~』
ぐっ、これで何連敗しただろうか…。失敗する度にお菓子が減ってしまうけど…仕方ないか。でも、見た目は完全に一緒なのにどうしてアトラスには分かるんだろ?
「アトラス~何で分かるかそろそろ教えてくれないか?」
『匂いと触った感触だぞ~。近くで見たら分かるぞ~?』
「そうか…視覚の情報は変えられても嗅覚と触覚は誤魔化せないか…」
『離れてたら多分、分からないぞ~?』
視覚は変えられるとして、距離か…。刀の長さを短く見せるとか長く見せる…とかか?他に偽装として髪の色じゃなく外見その物を変えてみるか?
「よし、ちょっと試してくるね」
『行ってらっしゃいだぞ~』
俺はカルミナが攻撃しづらいであろう桐華さんに顔を偽る。…そのうち千の顔を持つ男とか呼ばれないかな?
「カルミナ、覚悟!」
「え…!?桐華?…危ない!」
「ふむ。刀は止めるが反撃は無し…と。でも、これは敵になる奴の親しい人を知らないとダメだな。潜入とかに使えるけど…。次は刀の間合いだな。」
「ちょっ、ちょっと!どういう事なの?」
「この刀…どう見えてる?」
「え…?短い…けど?」
よし、間合いはちゃんと誤魔化せてるみたいだな。流石にこれで斬りかかるのは危ないからここまでだな。
「ありがとうカルミナ、また考えてくるよ」
「まさか…タロウね!声…声まで変わってるわよ!?」
「ん?あ!ホントだ!あーあー。あたし桐華!おぉ、凄い」
「遊んで無いでこっちを手伝いなさいよ!」
「ほら、この魔力回復薬とお菓子で手を打ってくれ」
「え?あ、ありがとう…。じゃなくて!もう!」
俺は偽装を解いてアトラスの近くまで戻って、良いことを思い付いた…。
「アトラス、そんなにお菓子ばっかり食べちゃダメって言ってるでしょ?」
『お、お母さん~!?ち、ちがうぞ~。これは、タロウがタロウが~』
「なんちって、俺だよアトラス」
『ふい~お母さんがおかしくなったぞ~』
俺はアトラスの正面に座って偽装を解いた。
『驚いたんだぞ~!お母さんかと思ったぞ~』
「凄いでしょ?声まで変えられるのは自分でも気付かなかったけど」
『それは、いつ使うんだ~?』
「…。アトラス、ほら、お菓子食べな」
『やったぞ~』
いつ使うなんて俺が知りたいよ。犯人を説得する時くらいですかね…。今日も俺は日が暮れて敵も姿を現さなくなるまでアトラスと話していた。つまり、今日も俺は何もしていない。
◇◇◇
「六道殿、遅くなったが助太刀に参上した」
「これは、美輿様の兄上殿。助太刀、感謝いたします」
「それで、戦況は?」
「敵は…おそらく、というかここまできたら確実ですが時間稼ぎに力を入れているみたいです」
「時間稼ぎ…。と、いう事は…」
「えぇ、おそらく敵の戦力の中心人物はエドヌに向かっているでしょう。先ほどまでは戦力は五分五分でしたが今やこちらが上となりました。ここからは…我々の攻める時間です」
「エドヌの守りは…忠晴殿か。なら、問題もあるまい。我らで織田の首を取るぞ!」
少しずつ戦の流れが傾き始めていた。織田家の戦力を上回った徳川勢が勝負を仕掛け、小さな勝ちを重ねていった。
「早く、この戦場を終わらせてエドヌに行かねば…な」
◇◇◇
「タロウ!今日こそは働いて貰うわよ!」
「アトラスは良い子だなぁ~」
『カルミナが怒ってるぞ~?』
今日も今日とて俺はトイレ作りしかしていない。どうせ今日も他の門下生の方達がやってしまうに決まっている。俺はアトラスと自分の力について研究するんだ。
「はぁ…。しょうがないわね。タロウ、森の中を1人で移動している者が居るわ。多分、強いわ」
「行く!行ってくる。シェリーフ、案内して欲しい」
『カルミナ、どうするんですか?』
「いいわ。案内してあげて…。でも、タロウ1回だけビンタさせて…」
「え!?ちょ、なんで!?」
「今のタロウを送りだしたら何かダメな気がするからよ…。ちょっと歯を食いしばってなさい。気合いよ!!」
バシィン!!
近くに居た人が何事かと振り返るレベルで音が鳴り響いた。痛い…。
「戦よ!死ぬのよ!決して軽い気持ちで戦いに行くなんて言わないでよ!」
あぁ…俺だけやる事が無くて少し気持ちが弛んでたのか…。ダメだな、ダメだ。こんなんじゃまだ足りない。
「カルミナ…もう1回反対の頬を叩いてくれ。気持ちが弛んでた俺をぶん殴ってくれ。そしたら敵を…無傷で倒してみせる」
「タロウ…そういう趣味が…わ、分かったわ!ちょっと、本気でいくわよ…」
いや、本気は出さなくていい…
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
「ぐわぁばぁ!!?」
痛いよ…痛い…。そこまでじゃなくて良いのに…死ねって言ってなかった?言ってたよね?
「どう?満足した?」
「あぁ、気合いが入ったよ…。ふぅ…シェリーフ、案内よろしく」
『はい。こちらです』
「タロウ、頼んだわよ!」
「あぁ、任せておけ」
俺はシェリーフの後を追って森の中へと入っていった。
◇◇◇
「紅緋ちゃんお願い!」
『妾をちゃん付けとは不敬と思わぬかえ?』
「ほら、お菓子あるよ?」
『ほう…ほうほう。分かっておるではないか!くくっ、タロウからもらった分は食べきってしまったからの…。よかろう、『燃え盛れ炎の舞』。』
「凄いわよ紅緋ちゃん!」
『ん?居るな…。来るぞ、来るぞえ』
「どうしたの?紅緋ちゃん」
「ぐぁ!?」
「何奴…がはぁ!」
「何?いったい…」
『敵にもできる者は居るという話なだけ…気を付けよ。強いぞ』
「俺の槍の錆びになりたい奴から掛かってきな。…居ないなら片っ端から押して参るぞ!」
「構え!魔法発射!!…すぐ、次の部隊は準備を!」
「うーん。ダメだな。お前ら本当にあの安部家の門下生や九重家の門下生か?手応えがねーぞ!!オラァ!!」
「退くな…魔法だ!放て!」
「食うか!せいやぁ!!来いよ!俺の力の糧となりやがれぇ!」
槍を振り回し魔法を断ち切る。普通の槍なら不可能だ。つまり槍に何かしらの仕掛けをしていると考えられる。だが、戦いに飢えてるのは男だけでは無い。ここにもう1人…もう1式神居る。
『よく吠えるではないか小僧』
「あん?誰に言ってやがる…角はともかくお前の方が子供じゃねーか?あ?」
『くっくっくっ…。妾が直々に相手をしてやろう。この金棒での』
「へぇ…。鬼の角に金棒かい。少しは楽しませろよ?」
『来ぬなら妾から行くぞ?『燃え盛れ炎の舞』。』
「うらぁぁ!!」
『ほうほう。妾を楽しませろよ小僧』
「楽しむ前にやられてくれるなよ。我が名は明智公久、四天王の1人だ。貴様、名前は?」
『妾は紅緋、主はタロウ。好物はお菓子じゃ!』
◇◇◇
「緋鬼王様、この後は如何なされますか?」
『我は主よりこの地に来るよう言われただけだ。我は指示をせぬ』
「は、はぁ…」
『だが、1つ。敵が来るぞ備えよ』
「!?…お前ら敵が来るぞ準備せよ!」
「「はい!!」」
『ふむ。ここが本命か?数が多いな…まぁよい。我が力を解き放てる敵は居るか楽しみだな』
「ふふっ!あたしを満足させられる坊やは居るかしら?…ぬん!ダメね、貴方じゃ足りないの。ふ~ん。貴方は良さそうねぇ~」
「おい、誰かこの女装男を止めてくれ!うぎゃあ!!」
「誰がバケモノじゃ、ボゲェ!…っと、いけないわね。優雅に美しく相手を倒さなきゃね。」
『ほう…。その筋肉に魔法も武器も受け流す体術。只者では無いな。』
「あらぁ?あらあらあらぁ?居るじゃないの、良いオトコが。うふ、タギっちゃうわぁ~」
『お主、名は?』
「織田家四天王が1人、丹羽権蔵。ごんちゃんって呼んでね!」
『権蔵…お主に似合う名だな。我が名は緋鬼王。主の命によりここに居る。お主に恨みは無いが通ると言うなら叩き潰す』
「へぇ…。では、力比べといきましょうか。小手調べよ?身体強化 部分強化 腕。はぁぁぁぁぁ!、」
『ふんっ!!』
二人を中心にして衝撃が風となり広がっていく。それだけで周囲の者は近づけないと判断し距離を取る。二人の今の一撃に差は無いように見えるが少し押されていたのは権蔵の方だった。
「へぇ、小手調べとはいえ押し返されるとは…やるじゃないの」
『力比べで負けたばかりでな…あの方と再戦するまでは負けるわけにはいかぬでな。次から本気でこい…』
各地でそれぞれの戦いが始まろうとしていた。
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