第91話 タロウ、暇
視点がコロコロです
よろしくお願いします!
「父上、この人数でござるが…何とか平原まで間に合ったでござるな」
「そうだな。織田が攻めてくるならここを通るしかあるまい。苺、冒険者にも自分達のテントを張るように指示してきてくれ」
「分かったでござる」
◇
「お前達の中で、斥候は索敵に行くでござる。残った者達で自分等のテントを張るでござるよ」
「なぁ、ベリー。ノリで来たが本当に戦か?俺達は傭兵じゃねーんだぜ?」
「分かってるでござる。お前達の役目は罠を張ったりパーティーで戦えばいいでござる。正々堂々なんて物はエドヌの兵士達にでも任せればいいでござるよ。生き残って、金さえ貰えばそれでいいでござろう?」
「だな。徳川家が報酬を用意してくれるって話じゃねーか、敵だろうが味方だろうが報酬さえ払うなら俺達は何でもするからな」
「傭兵と変わらぬでござらぬか!」
冒険者達から笑いが起こる。ここに来ているのは最低でもCランク。それ以下は街に残っていた。冒険者はベリーが指揮するという事で特に反発も無く纏め上げられていた。
兵士と冒険者は水と油程ではないが仲は余りよろしくない。規律を守る兵士と荒くれ者の冒険者だから当然と言えば当然であるが。
「明日には命がけの戦いが始まるでござる。この後は罠の設置したりちゃんと休むでござるよ!…ビビったら死ぬぞ。覚悟はしておくように」
「お、おう。お前にやられるんじゃないかと思ったぜ…殺気はしまってくれや」
「気を引き締めてあげたのでござるよ。じゃ、そういう事でござる」
それから更に数時間経った頃、斥候として敵の様子を見に行っていた者が帰って来て報告があった。数はほぼ同数であと少ししたら姿を見せるだろうと。
「明日の朝には開戦となるだろう。夜は最低限の人数を配置して夜襲に備えるよう通達しろ。…苺」
「何でござるか、父上」
「敵の数が同数とは誠の情報か?」
「斥候達が皆、ほぼ同数だろうと言っておるでござるよ?」
「ふむ…」
「何か気になるのでござるか?」
「少し…な。予想ではこちらの数が少ない筈なんだがな。明後日以降に時間的な都合で集まりきれなかったエドヌ周辺の領地の兵が集まり、それで数が上回る予定であった」
「偶々…なんて言ってる場合ではござらぬな。思ったより多くの兵を遠回りさせてでもエドヌに向かわせた…でござるか?」
「向こうはエドヌ…徳川さえ討ち取ればいいからな。強者を送っている可能性もある。こちらが足止めか…」
「すぐに誰かを馬で帰らせるでござるか?」
「そうだな…安部家の門下生と九重の門下生を忠晴の所へと走らせろ」
「承ったでござる」
「間に合えばいいがな…」
◇◇◇
罠を設置してから更に1日。そろそろ戦も始まってるかな?まぁ、ここまで辿り着くとしても時間が掛かるだろうけど。
「カ~ル~ミ~ナ~ちゃん!」
「ひぃ…!み、命先生…何でしょうか?」
「そろそろ戦場では戦いが始まるかもしれないてど、もしかしたらこっちに人を急がせてるかもしれないじゃない?」
「た、確かにそうですね…元々の狙いはエドヌみたいですし…」
「カルミナちゃんもタロウ君に凄いとこ見せたいんじゃない?」
「ま、まぁ、それは…そうですね」
「そうよね。なら…索敵をよろしくね?」
「へ?索敵ですか?」
「そうよ。森の方から来る敵の索敵。森には動物も魔物も多いし案外難しいのよね…。ね?タロウ君もカルミナちゃんの活躍を見たいわよね?」
「カルミナ、頑張れ!」
「はぁ…では少しだけ…『風の探索』。嘘…」
「どうした?カルミナ」
「森の中を進んでる人を感じるわ。こちらに向かって進んでるわね…まだ遠いけど確実に居るわ」
「うん。やはりカルミナちゃんの索敵は凄いね。私は皆に警戒するよう伝令をしてくる。カルミナちゃんには敵が増えてきたら頻繁に索敵をお願いする事になると思うけど、よろしくね?」
「はい!勝率が上がるならいくらでも!」
「凄いな、カルミナ…。今のはシェリーフの力を借りて?」
「えぇ、そうよ。シェリーフは風だからね。風を薄く広げてそれで探知しているのよ!もっと近くに居たらフレイミアで熱探知、地面に罠があればランディアの地中探知が使えるのよ」
カルミナから隠れる事って難しいんじゃないな?人混みくらいしか思い付かないけど何かしら方法を考えて来そうだしな…。でも、今の状況から考えると1番優秀な能力だな。俺もアクエスと一緒に水中探知の練習でもしてみようかな?魚群探知とかしたら漁師になれるかも…悪くない。
「凄いな、俺も負けてられないかな。と、言ってもまだする事は無いみたいだけど」
森への警戒は他の方達がしてしまった。まだ俺みたいな子供を前に出さないといけないほど忙しくはないみたいだ。…本当にどうしようか?後ろの方に土魔法で簡易のトイレとか作ろうかな?使用回数は1回の使いきりだけど、また作り出せばいいし…
そんな風に考えていたら頭の中にピヨリの声が響いた。
『ご主人、人間の戦いが始まったッピ!』
「お、ピヨリか。人数の差はどう?どっちが優勢だ?」
『わからないッピ!それほど差はない様に思えるッピ!』
差がない…。と、いう事は他の道から抜けられたら追いかける余裕が無いって事か。これは思ったより忙しくなる可能性も出てきたな。
「カルミナ、森の中の索敵の回数を増やしてくれ。戦場の戦力差がほとんど無いらしい…。そこを抜けられたら直接こっちに来る事になりそうだ」
「タロウの情報収集能力もかなりのだと思うわよ…?でも、分かったわ」
「ちょっと命さんにも知らせてくるから」
俺は前方にいる命さんの元にまで行き、敵の数が増えそうな事とカルミナに索敵を増やす様にお願いした事を伝えた。
「それは本当かい!?」
「僕の使い魔からの報告です。他の3方向にも伝える手段があればいいんですけど…」
ピヨリや式神の二人を出すと戻るのに時間がかかってしまうし…。
ルミナス…は、この人間同士の戦いには参加させたくないと思っている。多分、お願いしたら力を貸してくれるだろうけど…俺の気持ち的には…ね。
「それなら大丈夫よ!」
「何か方法があるんですか?」
「忘れたの?こういう時の為に忠晴さんの式神がそれぞれの場所に居るのよ!」
そう言えば戦局を見ているって言っていたな。コレなら時間的なロスはほとんど無いといっていい。
「私から言っておくから後は任せて」
「お願いします。じゃあ何かありましたら呼んでください」
俺はカルミナの所に戻り、敵の位置を知らせる大切な役を担ってるカルミナの隣でポケーっとしていた。…何か申し訳ないな。
◇◇◇
「おい、ベリー。これはどういう事だ?敵さん本気で戦ってる訳じゃ無いようだが?」
「父上の予想が当たったでござるか…。敵は恐らく時間稼ぎでござる!時間を掛ければ掛けるほどエドヌが攻められるでござる!お前達、私等相手に舐めてる敵を叩き潰せでござる!」
「行くぞオメー等!」
そんな冒険者達の勢いも虚しく、敵を追えば下がられ、こちらが下がれば攻めてくるという戦法を取られ…敵の数は減らしてる筈が時間がただ過ぎていく。
「父上…」
「分かっておる。分かっておるがここを退くわけにはいかぬ。恐らくこれも魔族の入れ知恵かもしれぬ。織田家当主の考え方とは全く違うからな。ここで退くと何が起こるかわからん」
「魔族を叩くべきでござろうか…」
「恐らく敵地の奥に居るだろうな。苺、行くか?」
「魔族が人の姿をしてたら見分けがつかないでござるよ」
「それもそうか…。やはり、小さな勝ちを積み重ねるしかあるまいか…」
◇◇◇
「おい、魔族。貴様のこの作戦は本当に大丈夫なんだろうな?」
「えぇ、サニーバ様も上手くいくと仰られましたし。この中級魔族である私の、ウェプルが居るのです。失敗はありません」
俺はデクアという魔族に話を持ち掛けられ、ジパンヌを取り返せるという話だったから提案に乗って戦を起こした。が、最初以降あのデクアという魔族は姿を現さない。奴さえ居ればこんな戦もすぐ終わるというのに!!
「ちっ、俺の部下と貴様の部下をエドヌに走らせたが…貴様の部下は下級魔族だろ?向こうにも…安部家は強いぞ?足手まといになるなよ?」
「大丈夫ですよ。下級とはいえ魔族。魔法に置いては人間より強い事を保証しましょう」
本当は俺が直接乗り込んで九重の六道。安部家の忠晴。そして憎き徳川を潰したいが…本当にこの方法が確実なのか?時間稼ぎの足止めに意味はあるのか?クソ!何故か頭も上手く働かないし、どうなってやがんだ…。
「では、私は一度下がらせて貰いますよ。この戦場での魔族の投入は明日からと致しますので、人間だけで、何とか耐えてくださいね」
「ちっ、分かっておる」
「愚かな人族は扱いが容易くて面白いですね~。これで、デクア様やサニーバ様にお褒め頂けば私の地位も…ククカカカ」
◇◇◇
「よし、これだけあれば大丈夫かな」
「1つ借りるよ」
「あ、はい。使用後は正面の扉の一部に穴を開けといてくださいね。そしたら僕が新しく作り直しておきますので」
「あいよ」
俺はトイレを作っていた。これが意外と好評で、特に女性の方には感謝された。冒険してる時にもそうだが、森の中で用を足すのが普通でいちいち仕切りなんて作らない。
今回は戦であり、うかうかとトイレにもいけない状況だからこうして誰にも見られず、安全にトイレが出来るのが良かったみたいだ。後方に謎の土の箱が沢山並んでる光景はすこし面白いけど。
使用後は外から清潔魔法を掛けて扉の穴を防げば良いだけだからそこまで大変でもない。まだ敵の数が少ないから暇潰しには丁度良かった。
「命先生!敵が1人引き返してます。こちらの存在に気付いたみたいです。他の2人は残ってるみたいですけど」
「う~ん。斥候かな?それで後ろの隊に知らせに行ったと…。迂回されても面倒ね。足の速い者数人で追い掛けなさい!」
「はっ!」
「カルミナちゃん、その調子で頼むわね」
「はい、任せてください」
「タロウ君も…その、助かってるわよ?」
「いや、ホント…出来ること少なくてすいません…」
俺が出来る…というか得意のは多対一とか一対一で、多対多だと味方を巻き込む魔法も使いづらいし1人2人くらいなら他の人で十分だから、ホントに乱戦になって、剣で倒す事になるまで出番が無いだろうな。
「はぁ…え?俺って意外と使い勝手が悪いのか?銃じゃなくて大砲みたいな…。銃?そういえば銃なんて見たこと無いけどあるのかな?ルールトでもあって大砲くらいだったし…え?もしかして作ったら売れるかな?…あ、やっぱり止めよう。銃のせいで暴君がさらに暴れだしたりしたら大変だし…。武器は現状維持でいいな。魔法があるわけだしね……。」
「タロウ…暇なのかしら?さっきから独り言しか言ってないわね…」
「…俺のエクストラスキルをもっと上手く使わないとなぁ~。読む者、自由の象徴を特になぁ。簡単に言ってしまえば、鑑定と偽装スキルなんだけど…もっと何かが出来るはずって確信めいたものはあるんだけど…ん~わからん…。鑑定は読み取る事を深く考えて、偽装は何をどう偽るかを考えてみるか。時間はあるからな…俺だけ。そうだ…そろそろ少しずつ転移魔法の練習でも始めようかな?失敗のリスクがデカいからルミナスに任せっぱなしだけど」
「タ、タロウ?大丈夫?」
「ん?カルミナ、何がだ?どうかしたか?」
「いや、タロウの独り言が多くて…少し心配で」
「え?マジか…。ゴメン、少し無意識だったかも。召喚 アトラス」
『おぉ~ここはどこなんだ~?』
「アトラス、ここは街の南の方から出た所だ。敵が来たらやっつけるんだけど…まだ俺の出番は無いみたいだからさ、お菓子食べながら話さない?」
『お菓子~!早くするのだ~』
「タロウ、出来れば人の目に入らない所でね?命先生に見つかったら怒られるわよ?」
「大丈夫だ。アトラスとこうするのは日課だとか言っておけばきっと多分大丈夫。ダメだったら一緒に怒られてくれ」
「嫌よ!ホントに怖いんだからね…って!隣でお茶会を開かないでよ!」
「アトラス~、カルミナは索敵してて凄いんだぞ~」
『そうなのか~?それは凄いんだな~』
「くっ、卑怯な…」
俺は地面に布を敷いて、アトラスと座り込んでお茶会という名の俺の独り言対策をし始めた。
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(´ω`)




