第90話 タロウ、前乗りをする
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ぐっすり寝る予定が夕方に差し掛かった所で起きてしまい、昼寝程度の睡眠になってしまった。まぁ、それでも夜に移動…という事らしいから少しは寝れた事で夜の眠気もマシになるだろう。
「召喚 ピヨリ」
『ッピ!』
「ピヨリには今回、戦場へと飛んでもらって報告をお願いしたい」
『それだけでいいッピ?』
「うん。ピヨリも最近はより速く飛べるようになっただろ?だから連絡係を頼みたいんだ。魔力の繋がりがあるから遠くに居ても会話は出来るだろ?」
『任せるッピ!』
「じゃあ、よろしく頼むよ。敵の矢に撃ち落とされない用に高く飛んで気を付けるんだぞ~」
『分かったッピ!行ってくるッピ!』
よし、向こうの状況はこれで分かるな。アトラスには明日からは活躍してもらうとして…後、やる事って何かあったっけ?あぁ、緋鬼王達にも移動するように言いに行かないとな。
緋鬼王達を探して外に出た。カルミナはぐっすり眠っていたから起こさない様にこっそりとだ。
「…ここじゃないか。何処だろ?翡翠も居るとすると晴海さんと一緒かも知れないな」
俺はいつも式札を描いてる部屋や屋敷の中も少し回ってみたが見つけられなかった。と、すると…
「あぁ、やっぱりここに居ましたか」
「あ…タロウさんなのでして~」
『む、君は紅緋の主じゃないか。何用かな?』
「あぁ、緋鬼王と紅緋を探してたんだよ。もしかしたら晴海さんと居るかなと思ったけど…居ないみたいだね」
「二人は武器を選びに行っているのでして~。別に、使わないでも使ってもどっちでも良いらしいのでして~」
「まぁ、緋鬼王は普通に格闘でいいし…紅緋は魔法がありますからね。形的なものでしょうね」
『君も少し向こう…』
「翡翠、いいのでして~」
『ですが…』
「いいのでして~」
『そうですか…』
「晴海さん…どうかしたの?」
というか、どうしてここに居たのだろうか。ここは俺が晴海さんに式神の戦闘について教えて貰っている場所。つまり人が滅多に来ない裏手の方だ。
「タロウさんは…怖く無いのでして?」
「それは…」
晴海さんも覚悟は出来ている筈だ。だけど、それとこれとは別問題か。目の前で人が死ぬかもしれない、それが知ってる人かもしれない。俺達は守る為に戦う、怖くない理由なんて無い。戦いだもの、怖くて当たり前だ。怖くないのはよっぽどの戦闘狂くらいだろう。
「晴海さんの気持ちは分かる。俺だって怖いもの。でも、街には少ないけど知り合った桐華さんや桐華さんのお母さんも居るし…俺が戦わなかったせいでこの街の人達が傷付く方が、俺は怖いかな。晴海さんの方がそうなんじゃないかな?」
「そう…でして…私もそっちの方が嫌なのでして~」
「俺達には頼りになる式神もいるし、困ったら俺も助けに行く。晴海さんは一人じゃないよ。一緒に街の人を守ろう」
「はい…はいなのでして!」
『紅緋の主、晴海に力を与えてくれて感謝するよ』
「気にするな。翡翠の方が晴海の力になってるさ」
『それは当然よ!でも、元気にしてくれた事は私には出来なかった。礼を言う』
「はいよ。じゃ、俺は武器を見てる緋鬼王達の所に行ってくるよ。晴海さん、また晩御飯の時に」
「はいなのでして~」
晴海さんと別れて、武器の置いてある倉庫に向かった。安部家にも武器は一応置いてある。九重家の方が種類も数も多いけど、こっちにも使える武器はいくつかあったはずだ。
『妾はやっぱりこれじゃないと』
『我はコレを…。耐久性は高そうだな』
「二人共、武器は見付かったかい?」
『主、私はこの大剣を。耐久性がありそうですからね』
『妾はコレじゃ。金棒!ヒカリに初めて会った時に渡されてから使ってるゆえ…やっばりこれじゃないと落ち着かんえ』
鬼に…金棒ですか。そりゃ強くなるな…。
「二人も夜には移動になるから準備はしておいて、行く方向は別々だけどな。はいこれ」
『主、この袋は?』
「開けてみて」
『うおぉぉぉぉ!これは菓子じゃ!タロウ、やるではないか!くふふ、食べちゃおうかの~食べちゃおうかの~』
「今食べても後で食べてもいいぞ。いいけど、日保ちするのはゆっくり食べなね」
『主、感謝します。紅緋も主にちゃんと礼をしろ』
『感謝するぞえ!くふっ、返さぬからの?』
二人とは離れるから餞別として渡した。もし紅緋がやられた時は式札はあるからまた喚び出せるが…しばらくはお菓子無しの刑だな。
「取らないから安心しな。じゃ、俺はそろそろ晩御飯の前にカルミナを起こしに行くからまた後でな」
『はい、我が主』
『くっふっふ~じゃ!』
◇◇◇
「むにゃむにゃ…タロウ…むにゃむにゃ…」
「いや、そんなにヘタならやらなくていいぞ。起きてるなら準備してくれ」
「最近、タロウがヨダレを拭いてくれないから自分に袖で拭いちゃうじゃない!」
「いや、前はヨダレなんて出てない!って言い張ってたのにどうした急に…」
「拭いて拭いて拭いてよ!」
「はいはい。ほら、こっち向いて……ほら、これで綺麗だ」
「き、綺麗?私、キレイ?」
「あぁ、口元が…いや、なんでもない…。と、とにかく食堂に行こうか。」
「うん!」
寝起きのカルミナをなんと連れ出して食堂に行くと、ぎゅうぎゅうになるくらいに門下生で席が埋まっていた。みんな腹拵えしたら行かないとだもんな…そりゃ集まるか。
「タロウ君、カルミナちゃん、南に行く人はこっちの方よ」
「はい、命先生」
どうやら、行く方向で分かれていたらしい。つまりあそこの辺りにいる人達が一緒に戦うメンバーか。なるほど…なるほど…誰一人として知らないな…。やってる訓練が違うから仕方はないんだけどね。
「はい、南に行く安部家の門下生はこれで全員よ。では、ご飯を食べならがでいいので聞いてくださいね。戦いが始まれば、一応…指示は出しますが何かあれば皆さんの判断で行動して構いません。それは覚えといてくださいね。それで、南の私達の担当の場所に着いたらまずは野営の為のテント類の設営。その後に敵が攻めてきた時の為の罠の設置にとりかかります。…とりあえずはそんな流れですね。何か質問があればいつでも受け付けます…ただし戦の前までね」
「はい」
「なんだい?健太」
「その二人の扱いはどうなるんですかい?」
「あぁ、二人は私の下について貰う事になっている。タロウ君とカルミナちゃんだ。実力は問題ない…と、私が保証しよう。ただの子供じゃないよ、強くなろうとしている子達さ」
「強くなろうとしてる…ね。そういう奴は歓迎だ、よろしくな」
「よろしくお願いします!」
「します!」
初めて会う人達だったが、良かった。気に入らねぇ…とか言われたらどうしようかと思ったよ。北の方にいる緋鬼王を呼ぶところだった。
チラッと北と西のグループを見てみると、北は晴太くんも話に混ざって作戦会議をしていて、西は紅緋の可愛くも妖しい雰囲気に呑まれた女の門下生の人が餌付けをしていた。まぁ、邪魔になってないならいいさね。
「はい、皆さん注目してください」
各グループで作戦会議や親睦を深めてたりしたら忠晴さんから声が上がった。
「えー。この後、皆さんには移動して頂くわけですが…将軍、徳川駿様が労いのお言葉を下さるので静かに聞いてくださいね。では、お願いします」
「皆の者、今回の戦は織田家との昔にズレてしまった関係が悪化した事によるモノだ。まず、その謝罪をさせてくれ。すまなかった…。明日、明後日には戦場へと赴いたエドヌの兵と織田家の兵とで開戦されるだろう。皆には街の…力なき民をどうか守ってやって欲しい。余の首で収拾が付くのならばいくらでも差し出す覚悟はあるが、おそらく…余の首だけでは足りぬ所まで拗れてしまっておる。ここだけの話、敵は魔族と手を組んでいるという噂もある。敵は強大だ。だがしかし、余達のエドヌを守る気持ちはそれすらをも超えるほど強大だと信じておる!戦場へ行った者の帰る場所を皆で守ろう、次の世代の子達が不自由しないですむために守ろう。勝利の風はこの余の元に吹いている!!この戦…絶対に勝つぞ、者共!!」
「「「おぉ!!!」」」
前に聞いた。安部家は式神、九重は剣や身体強化。じゃあ、徳川は何が得意なのかと。…その時は徳川はただのカリスマ性で成り立っていると。
今になってその力の凄さが身に染みて分かった。将軍が激励の言葉を掛けるだけで士気が上がる。式神や剣じゃなく、言葉だけでこうも人の気持ちを揺さぶれるなんて…普通じゃない。カリスマ性、それだけじゃ無いとも思うが将軍って凄いと思った。
「では、皆さんそろそろ移動をして貰います。各指揮官に従って行動してください。明日の朝には着いて、罠の設置等をしておいてください。その次の日から開戦ですが、敵はいつ来るかも分かりませんので明日の夜から警戒をするように。以上です。解散!」
「南に行く者!食料やテント類は既に馬に積んで先行してある。自分の荷物だけ持ったら玄関付近に集合だ!夜の移動だから静かにするんだよ。近所迷惑にはならないように!では、10分以内に集合するように」
「「はい!」」
「カルミナ、荷物は?忘れてない?」
「大丈夫よ。鬼骨…槍はアイテムボックスだし、ローブは寒いから着ていくしね」
「確かに夜は冷えるからな…何か温かい飲み物でも準備してくれ行こうか」
「そうね。手が凍えて槍をしっかり握れないなんて事になったら冗談では済まないものね」
アイテムボックスで保温が出来るからな…やっぱりあれがいいだろうな。
「味噌汁は…っと、おし、残りがあるな。これを貰っていこう…いいかな?いいよね…多分」
俺は味噌汁を火に掛けて十分温まった所で持っていた容器に移し替える。これで夜中の寒い時や朝方も温まれるな。
「よし、そろそろ玄関に行ってようか」
「そうね。タロウにも見せてあげるわ。タロウは式神ばかりしてた様に私も魔法を色々とやってたのよ!出来ることも増えたんだから」
「楽しみにしてるよ。カルミナにはもう、魔法では勝てないかもね」
「ふふん!負けないんだから!」
「あの!タロウさん!」
呼ばれた気がして振り替えると見送りに来てくれたのかマツリ様が居た。
「マツリ様、どうしました?たしか…今日から街の巡回をする桃さんと夜は一緒の筈では?」
「も、もう…マツリでいいですのに…。桃ちゃんは部屋で待ってて貰ってますよ」
流石に人の耳がある場所では遠慮願いたい…というか、無い場所でも恐れ多い。
「マツリ様?何の用なのかしら?」
「タロウさんとカルミナさんにこれを…」
「これは…御守りですね」
「はい。二人が無事に帰って来るように…と思いまして」
「あら?マツリ様的には私は帰って来ない方がいいんじゃないかしら?」
「いえ、それではダメなんですよ。私はカルミナさんでは無いのです。カルミナさんが隣に居ないとタロウさんにとってはきっとダメなんです。悔しいですけど…それが事実ですから。ですが、いつか私も少しくらいそう思って貰えるようにはなりたいですね」
「カルミナ、意地悪な事言っても無駄っぽいぞ。マツリ様が1番を狙ってないのは分かっただろ?いや、俺が言うのも何か変な感じするけど」
「そう…ね。やりづらいわ!もっと、私の方が!…なんて来てくれれば楽なのに…。何て言うんだったかしら?エドヌナデシコ?御淑やかで献身的だなんて…ま、まだ認めた訳じゃ無いんだからね!でも、この御守りはありがたく貰っておいてあげる!」
「うん。大事にするね、ありがとうマツリ様」
「は、はい。タロウさんに喜んで頂けて私も嬉しいです…あ、あの!」
「ん?どうした?」
「行ってしまわれる前に…少しだけ…その…あ、頭をでしゅね…にゃでて…ほしゅ…ぅぅ…」
「お安いご用だよ」
「あ……ふふっ…。ありがとうございます!タロウさん」
「タ~ロ~ウ~」
「い、いや…少ないけど御守りのお礼としてだって!」
「他意は?」
「サラサラした黒髪を撫でてみたかった…はっ!?」
「くぅぬぅうぬうぬぬぬぬぬ!タロウ、私の髪もサラサラしてるでしょ!」
「まぁ、知ってるけど?」
「まぁまぁ、カルミナさん。集合の時間が来てしまいますよ?」
「あ、ホントだ!じゃ、マツリ様。行ってきますね。マツリ様も気を付けてください。桃さんにもよろしく伝えてください」
「行ってくるわ。桃さんと一緒に無事でいるのよ!」
「はい。お二人共、御武運を」
玄関に集合した後、東西南北それぞれに分かれて進み始めた。俺は暗視スキルがあるから全然平気だが、カルミナは俺のローブを握って歩いていた。数時間歩いて街を出て、そこさら更に陽が登るまで歩いてエドヌから遠ざかった。
敵は恐らく見渡しのいい平原の方では無く、森の方から来ることが予想されるから罠はそちらに設置する事になった。罠といっても簡単な動きを封じる類いの物だから設置もさほど時間は掛からなかった。
罠を設置するとそこからエドヌの方へ下がり距離を取った。今度はそこに自陣を作り上げる。主にテントの設置だ。
「はい、カルミナお味噌汁」
「ありがとう。ふぅ…温まるわねぇ…。とりあえずやる事はだいたい終わったかしら?」
「そうだね。細かい事は他の門下生の人達や兵士の方達がやってくれるみたいだし…。ふぁ~あ…。俺達は先に睡眠でもとってようか」
「そうね、今日の夜から警戒はし始めるみたいだし…少し寝ておきましょうか」
明日には六道さんやベリー先生達の戦いも始まるだろう。まぁ、ベリー先生達なら生きて帰ってくるか…。その時に戦場での話を聞かせて貰うとするか。
そう思いながら俺は睡眠をとった。
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(´ω`)




