第89話 タロウ、担当が決まる
お待たせしました!
もう11月なんですね…早い…
(´・ω・`)
俺とカルミナと街に残る面々は、戦場へ行き指揮を執る六道さん、冒険者達を束ねるベリー先生を見送る為に、既に兵士達も整列している街の端まで来ていた。
そこには戦へと向かうために本当に多くの兵が集まっており、1万、2万を更に超えるくらいの数になっている。エドヌ周辺の味方の領主からも兵を募ったそうだ。
「……以上だ。皆、エドヌの為にその力、その命を燃やして欲しい。宿敵織田家を討ち取って参れ!」
「「「「おぉーーー!!!」」」」
今は激励の言葉を将軍様から伝えられていた。兵士は士気も高まり、冒険者も金が貰えるという話で盛り上がりを見せていた。声は、忠晴さんの式札によって拡張されている為、後ろの方であってもちゃんと聞こえているだろう。
「皆の者。今回の戦の総指揮官を務める九重六道だ。日頃の鍛練の成果をみせる時が来た!敵を殺す、その責任は全て俺が背負い込む。お前達はただ民の為に、家族の為に、友の為に、そして将軍の為にその剣を振ればよい!それでは出発だ!各小隊長に続いて進軍せよ!」
「「「はっ!!!」」」
俺達は六道さん、それに兵士の方々が遠くなるまでその背中を見送ってから街まで戻ってきた。俺達も街を守るという大切な役目を全うしないとな。
◇◇◇
「緋鬼王、紅緋」
『はっ、ここに』
『なんぞえ?』
「今日はもう戦闘訓練は無しだぞ。紅緋を出すのにも魔力が3割近く減るからな。そう何回も出せないし、魔力は温存しときたい」
『承知しました』
『そ、そんなに倒されてないわ!』
『ふっ、緋鬼王様にやられる貴様は滑稽だったぞ』
『お前こそ、いや、お前の方こそ晴海に迷惑かけすぎじゃ!』
『なんだと!』
『なにおう!』
紅緋と翡翠さんは相変わらずだな。緋鬼王も呆れてるぞ…。
「元気なのはいいけど、緋鬼王が怒るよ?明日からなら暴れてもいいから今日は大人しくな」
『主、我々の役目は?』
「とりあえず、緋鬼王には北の方の防衛を。混戦になった時に敵と味方を間違えないようにな。基本的にはお前に任せる」
『承知致しました』
『妾は?妾はどうするのかえ?』
「紅緋は西。1人で足りるか?足りないなら…」
『大丈夫!妾に任せい!敵は葬り去ってやるわ!』
「お前の場合は本当に敵と味方を間違えるなよ?」
『わ、分かっておる!』
「ならいいけど…。翡翠さんは東を晴海さんと担当して貰うことになると思いますが…それは忠晴さんの意向しだいですね」
『うむ。心得た!活躍してみせよう』
「それで俺は南をカルミナと守ってる。何かあったらすぐ駆け付ける様にはしておくから、皆頑張ってくれ。…と、言っても戦場からは離れてるから斥候とか小隊規模しか来ないだろうけどな」
『主、油断は…』
「分かってるよ。敵には魔族もいるし、もしかしたら一騎当千の強者が現れるかもしれない。俺らの目的は戦へ行った者の帰ってくる街を守る事だ。皆、力を貸してくれ」
『主の為に』
『妾に任せておけタロウ』
『晴海の式神としてこの地を守ろう』
「頑張るのでして~」
「ん!?晴海さん、いつの間に?」
「今来た所でして~、タロウさん父上がお呼びでして~」
「分かりました。ありがとうございます」
「将軍様やカルミナさんも既に待っているのでして~」
一応、人質の件は解決して、城の中にも敵の間者は居なくなったが念の為に戦が終わるまでは徳川家の面々も安部家に居る事となっていた。忠晴さんの役目は街中で徳川家を守る事だ。
「緋鬼王達は休んでていいぞ。喧嘩はするなよ?」
「翡翠も休んでて構わないのでして~、さ、タロウさん行きましょうなのでして~」
晴海さんと忠晴さんの部屋に向かった。
部屋には将軍様が居て、勿論忠晴さんも居てカルミナも居た。そして何故かマツリ様も…。
「タ…タロウさん!お待ちしておりましたよ!さぁ、座ってくださいまし」
「あ、あぁ…うん」
昨日…俺はマツリ様の問いを断った。
理由は、マツリ様の事を好きか嫌いかの判断が出来なかったからだ。ちゃんと好きだと言えないなら付き合うべきでは無いと考え、伝えた。そしたら…
「私の事を嫌いでは無いのですね?」
「それは、そうですね…」
「カルミナさんも正妻じゃなければ大丈夫なのですね?」
「まぁ、それは…その…ギリギリ…」
「つまり…必要なのはお互いを知る時間って訳ですね?」
「そうなりますかね…」
「なら、付き合える可能性が無い訳では無い訳ですね?」
「うん…へ?あっ…え?」
「カルミナさん…私は遠慮は致しませんよ?我が儘姫ですからね!タロウさんお覚悟です!」
…なんて事になってしまった。断った筈が…いつの間にか小さな質問に答えていたら保留扱いになっていた。カルミナも今は平然としているが昨日のあの後はちょっとだけ騒いでいた。
「タロウ、今から街の防衛についての話が忠晴からある」
「分かりました」
「タロウ君、最初に言っておきます。分かってるとは思いますが…街の防衛と言えど、全てを防ぎきる、敵の侵入を許さないというのは不可能です」
「それは、そうですね。魔族が魔力を遮断する技術を持っているみたいですし…どの方角から攻めてくるのかも分かりませんからね」
「えぇ、ですが、何もしない訳ではありません。私が侵入者を探知します。魔力を探知するものではなく、結界のようなモノで…です。その為の式札は既に設置してきましたからね。ですから、タロウ君とカルミナさんは街の外で防衛を担当している兵と共に迫り来る敵を排除してください」
「分かりました。緋鬼王を北へ、紅緋は西に配置する予定ですけど…それで大丈夫ですか?」
「はい。それでいいですよ。私がここで駿様を御守りします。街の建物なんかは復興出来ますが、駿様は駿様しか居りませんからね。街に住む住民の皆様には申し訳無いですが…優先順位は付けさせて貰います」
「街の中も兵や門下生の方々が巡回するんですよね?」
「えぇ、その予定ですから騒ぎがあればすぐに駆けつけられますし、明日までには街の人も道場や避難所に匿える予定となっていますよ」
それなら安心かな…。とりあえず俺は南に来る敵を通さない事だけを考えておこう。
「南を指揮する人って誰…ですかね?」
「あぁ…それはね…私の妻が担当する事になってるよ。」
「み、命先生が!?」
「カルミナ、何かあるのか?」
「いえ、命先生って見た目は普通の綺麗な人だけど…心に鬼が住んでいるわねあれは。修行の時の容赦の無さったら凄いのよ…。あぁ、絶対にコキ使われるわ…」
「気を付けろよ?壁に耳あり日記はダイアリーって言葉があるくらいだし…」
「ね…タロウ私を騙そうとしてない?そんな言葉本当にあるの?」
「ありますよ。私は教え子の事をちゃんと日記につけていますからね。そう…例えば心に鬼が住んでいる、なんて言われた事もね?」
扉を開いて入って来たのは命さんだ。何てタイミングなんだ…カルミナ、やっちまったな。
「い、いやですね…命先生。これは先生の凄さをた、例えただけでして…ハハハ」
「カルミナちゃん。防衛ではその力を十分に…いえ、十二分に使って貰いますからね?」
「は、はい…」
「タロウくん?」
「は、はい!何でしょうか!?」
「タロウ君の実力も把握しておきたいから、この後で私と別の部屋へ行くわよ。カルミナちゃんも一緒に行くわよね?」
「ひゃ、ひゃい!お供します!」
命さんは晴海さんの様におっとり系かと思ってたが、魔力を伸ばす練習といい…これはカルミナの発言も嘘じゃなさそうだな…。
「と、言うわけだから二人は命の指示に従ってくれ。北と東と西と南にはそれぞれ私の式神を飛ばして、戦局を見る様にはしておきます…もしもの時は二人に移動もして貰いますから」
「はい。分かりました」
「では、話は以上です。この後は命の所に行って、打ち合わせをしてください。晴海は私とここで打ち合わせです。麻津里様もここに居てくださいませ」
「はい」
「分かりました」
「分かったのでして~」
「分かりましたわ…」
ちなみに晴太くんはここに呼ばれてない。けど、防衛には参加するみたいで北に行くらしい。うちの緋鬼王には迷惑をかけないで欲しいな。
俺とカルミナは命さんの後を追って別の部屋に入った。実力を把握するってどうするんだろ?
「あの、命さん。外とかで実力を測るんじゃ…?」
「魔力量さえ知れればそれでいいわ。カルミナちゃんから実力は聞いてますもの。いっつも凄い凄い…ってね」
「そ、そんなにいつも言ってませんよ!」
「はいはい…それでタロウ君には今からコレに魔力を込めて貰うわ」
「これは…式札?これに込めたら変化でも現れるんですか?」
「まぁね、込める魔力の多さで色が変化するわよ。目安程度にしかならないけど。あぁ、込めるのは1割程度で大丈夫よ。それで分かる様になってるからそれ以上は込めなくていいわ」
1割か。およそ紅蓮丸を出すぐらいの魔力量だな…。よし。
「私は水色まで行ったわよ!この調べ方はね、安部家の最初の修行をこなした人…つまりそこそこ魔力量が多い人でも黄色か緑なのよ!」
「それを越えればそこそこよりは使える人って訳ね。そういえば最近、自分の魔力量って気にして無かったな…どれどれ」
カルミナも順調に魔力を伸ばしているんだな。多分、修行を始める前だったら黄色か緑だった筈だしな。カルミナの魔力が増えたら、魔法で俺がカルミナに勝てる事は無くなるかも知れない…。
「黄色……緑色……水色……青色…」
「くっ、やっぱりタロウにはあっさり抜かれるのね…」
「うーん。この時点でも普通に魔力量は多いのよね。聞いていた通り、魔法の才能が凄いのね」
意外と簡単に変わるんだな。少しずつ込めてるから実はまだ1割の半分も込めていない。
「………橙色…………赤色…」
1割にはあと少しだな。紅蓮丸を出す時はもう少し込めるし…
「私に並んですぐに越えていくのね…カルミナちゃんはタロウ君と一緒に居て落ち込んだりしないの?赤色なんて忠晴さんと同じレベルよ?」
「落ち込まないですよ、むしろ自慢です。私のタロウは凄いのよ!…って。負けたくないとは思いますけどね…。後、タロウは忠晴先生と同じじゃないですよ」
「……灰色……黒色…黒色…黒色…?変わらなくなりましたね。でもこの辺が1割って所ですね」
「なるほど…これは…凄いわね。私は初めて見たわよ?黒色なんて才能だけで到達できるレベルを越えているわ…」
それに関しては神ハルミナ様のお陰だからな。感謝してるよ、ホントに。
「まぁ、無いよりは全然いいわね。多少、酷使しても平気ですもの」
なるほど…カルミナに向けられてる時は全然なんとも思わなかったが…いざ、自分に向けて容赦の無い言葉を向けられると恐ろしく感じるな。
「は、はは…お手柔らかにお願いします…」
「タロウ君の得意な魔法は何かな?」
「そうですね。水魔法と氷魔法ですね。土魔法もたまに使ったりしますけど」
「ふむ…防衛に向いてる属性ですね。違ったらとっこ…んん、前に出てもらう所でしたが、良かったですね」
良かった。それは本当に良かった。防衛に向いている属性だけを話しといて…。こんなところで命拾いした気がする。
「え、えぇ。一応…式神を北と西に送ってますのでそっちの戦力も大丈夫だと思いますよ。防衛って初めてなので、実は何をすればいいのかもよく分からないんですよね…」
「簡単よ。来るもの拒み去るもの追いかけ回す。そして生き残る。これだけ覚えておけばいいわ。戦場では何が起こるかなんて予想は出来ても確実な事なんて誰にも分からないわ。守る事と生き残る事だけを考えてればいいのよ。今回の戦の規模は確かに大きい。人も死ぬ。だからこそ…難しい事は考えなくていいわ。」
「タロウ、私達は私達の出来ることをすればいいのよ。いつも通りよ、いつも通り」
「そうだな。ありがとうカルミナ、頑張ろうぜ」
「今日の夜には南に向けて動き出すから今の内に睡眠も取っておいてね。明日からは準備に入って、明後日からは警戒を常にする事になるわ。寝る時間も少なくなるわよ」
「…分かりました。では、これで失礼しますね」
「命先生、夜にまた来ます」
「私も南に集まる予定の門下生や兵士達に指示を出さないとだし…夕御飯の時にでもまた集まって下さいね」
カルミナは一足先に部屋に戻った。俺はというと、しばらく街中にも帰ってこないだろうという事で買い出しに来ていた。今日までは何とか店も開いているみたいで新鮮さが売りの食材は安めに取引されていた。
食事は各場所毎に誰かしらが何かしらを作る事になっているみたいだから必要はない。つまり俺が買いに来たのはお菓子類だ。カルミナも食べるし、アトラスはもっと食べる。勿論、俺も大好きだから食べる…買い込んでおかないとな…。エルフ産の果物は特別な時くらいじゃないと勿体なくて食べれないし…。
俺は何とかまだ営業しているお店を回ってお菓子を買い込み、アイテムボックスに収納した。さ、俺も帰って武器のメンテナンスと睡眠でも取りますか。
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