第88話 タロウ、迷う
タイトルもそろそろ雑になってきましたね
(´ω`)
よろしくお願いします!
「お姫様~無事ですか~?」
「タロウ…さん?」
「貴様は異国の…。まぁ…いい。ガキが1人来ようが関係無い。お前ら、やれ!」
ここは…暗殺者達の溜まり場か?…ん?魔族!?どうしてこんな所に!?
「しっ!」
足音の無い敵は厄介だな。…が、スピードもパワーもベリー先生以下だ。これなら見切れる!
襲いかかってくる敵を一振りで斬り伏せる。忍じゃない者も混ざっているな。ちっ、意外と数が多い。
「ただのガキかと思ったら中々の手練れか。魔族共、お前らも加勢しろ。1人は魔力の遮断の為に残しておけ」
『ぐらぁぁぁぁ!』
「遅い。弱い。邪魔だ」
今さらこの程度の魔族なら敵じゃない。四方八方からタイミングをずらして襲いかかってくる暗殺者達は厄介だが、隙を作りだしさえすれば、真正面から戦う上でそれほど強い敵じゃない。
対人戦闘をこなしてたお陰か、緊急事態からかは分からないが…人を…敵なら斬るのにも抵抗は少なくなっているな。
「きゃあ!」
8割くらいは斬り倒した筈だ。あと少しで倒しきれるという所で1番最悪な…姫様を本格的に人質として脅しをかけてこられた。
「手練れだとは予想外だ。ガキだと舐めてたのが仇となったな。だが、いくらお前が強くてもこの距離なら俺がこいつを殺す方が早い。…意味、分かるな?」
「タロウさん、私の事はいいですから!に、逃げて!」
「健気だねぇ~。でも逃げられる訳にも行かないんだわ。」
俺は武器をローブの中にしまうと見せ掛けてアイテムボックスに片付けた。取り上げられるのは勘弁だからな。
「お前にも人質としての価値は少しくらいあるだろ?事が上手く運んだら姫様と一緒に殺してやるからよぉ。でも、その前に…お前には制裁だ!残りの奴等でやれ!」
「おら!」
「ぐあっ…」
「タ、タロウさん!や、やめて!やめてください!」
「大丈夫…ですよ。姫様は大人しくしていてください」
「なに余裕かましてんだ!うぉら!」
そこからは殴る、蹴るを繰り返された。その度に姫様は悲鳴を上げ、俺は大丈夫と言い張る。これでいい。油断しろ。油断して油断して油断しろ。俺を殺す気じゃなかった事を後悔しろ。と、思うがそろそろ痛い。だが、視線は白永と言ってたか?侍から離さない。
「タロウ…さん、もう…もう…やめて」
「大丈夫…ですよ。こ、こんなの…姫様の恐怖に比べ…れば、マシな…方…です」
「ちっ、中々しぶとい野郎だ。ま、気絶しないならまだ殴れるなぁ!」
「がはっ…!」
そうだ。ナイフを姫様の首から離せ。もう少し…もう少しで魔法の気配を探知されるより俺が早く発動出来る。
「白殻様、まだ立ち上がるみたいですが…」
「いい根性してるよ。だが、満身創痍。適当に縛って…いや、殺して首でも送りつけた方が混乱するか?」
「や、やってみろよ…雑魚が…がはっ…お前らみたいなのに姫様は殺させやしないし…エドヌも奪わせない…」
来い。動け。動け動け動け!
「他国の人間が首を突っ込むんじゃねーよ!余計な損害出しやがって!…ちっ、トドメくらい俺が刺してやる」
ナイフを離す一瞬を見逃すな…。3…2…1…
「アクエーーーース!!」
『はいなの!』
「ちっ、なんだ!?水…」
「身体強化…部分強化 足。目を閉じるなよ…死んでるぞ」
「がぁ!」
「ぐぅお!?」
「かはっ!」
「ちぃ、なんだ!?なんだ、なんだ!?水に刃が…」
身体強化の力で油断していた周囲の者から蹴り飛ばした。姫様も水の守りで包まれて、残るはアイツだけだ。
「舐めるな!気配遮断!黒煙!」
薄暗い倉庫がさらに黒い煙で闇に支配される。
「舐めてるのは…そっ…ちだろ?…鑑定」
視界を遮ろうと位置は分かる。煙だって魔法でどうとでもなるが敵の動に合わせるのは難易度が高いな。撹乱のつもりか動き回ってるしな…。だが、無意味だ。
「とっ…」
「そこだぁぁ!!」
「がはぁっ!?な…なん…で…」
悪いけど…これでもチート持ちなんだ。俺を倒したかったらベリー先生でも連れてくるんだな…。何であの人に勝てないんだろ…。
「風よ」
周囲の煙を外へと逃がして倉庫の中を綺麗にした。姫様も…ちゃんと無事だな。良かった。姫様が無傷ならとりあえず目標達成だな。
「アクエス、ありがとう。」
『痛いの?』
「まぁ…あれだけ殴られたからね。でも、土魔法や風魔法をクッションにして少しはダメージを軽減してたんだぜ」
『器用なの!』
「ははっ。ありがとう。アクエスは治癒とか出来たりする?」
『晴れを引かせるくらいなの…』
「ちょっと、お願い出来る?ルミナスに頼むとまた長くなるからさ…」
『分かったの!お姫様の守りは解いていいの?』
「あ、そうだね。もう、大丈夫だよ」
水の魔法が解かれていくと同時に声も聞こえて来る。防音の設定もあったのかな?アクエスとの会話が聞かれてなくて良かった。独り言が凄い人とか思われたく無いしな。
「タロウさん、タロウ…さん。わ、私のせいで…ご、ごめんなさい…」
「少しショックな光景を見せてしまいましたかね?…でも、ほら。僕は大丈夫ですよ。姫様は大丈夫ですか?」
「う…ひっく…うぇ…うぇぇぇぇぇぇぇん!怖かったよぉぉぉぉ。ひっ…タロウさん…あひがほぉ。怖かったよぉぉぉ…」
「もう、大丈夫ですからね。大丈夫ですから。」
それからしばらく姫様は泣いた。俺はそれを隣で慰める…のは最初だけで、まだ気絶してるだけで生きてる者達を1ヶ所に纏めて縛っておいた。
「こいつらはとりあえず置いておくか…。姫様。もう、気分は落ち着かれましたか?」
「うん…みっともない所を見せてしまいましたね…。出来れば忘れてくださいまし…」
「いや、良く我慢していた方だと思いますよ?」
「それにしても…タロウさんはお強いんですね…知りませんでしたわ…」
「ま、まぁ。それは…一応あのベリー先生に鍛えて貰っていますからね!」
マツリ姫の頬が少しずつ朱に染まっていっている気がする。
「特にあの"水魔法"なんて…」
落ち着け…落ち着け。水魔法なんて誰でも使えるから…な。
「姫様…帰りましょうか…。徳川家の皆さんも安部家に居ますので」
「はい。よっ…あれ?んん!…ふぅ…ごめんなさい…、どうやら腰が抜けてしまったみたいで…」
「あ、お手をどうぞ。大丈夫ですか?」
「あ、あれ?不思議ですね…もう、大丈夫な筈なのに…足が…震えて…」
「少し休憩されますか?」
「出来れば早く…父上と母上と兄上に…会いたいのですが…」
「でしたら…」
「申し訳ありませんが!"背負って"いただけますか?」
「あ…え…。別の方法でも…」
「すいません…怖いので"背負って"いただけますか?いただけますね?姫の我が儘だと思って…どうか頼まれてくれますか?」
「あ、はい!では、どうぞ…」
「ありがとうございます、タロウさん…いえ、旦那様…ぽっ…」
ヤバい…この姫様、占いの方に合わせに行ってやがる…。
「ふふっ、タロウさんが助けに来てくれた時から…思ったんです。このお方があの魔法使い様だったらって…。今度はあの綺麗な水魔法も見せてくださいましね?」
「ハハハー、ヤダナーヒメサマッテバー…」
無理か…無理だな。
まぁ、うやむやしてしまおう。この件は未来の自分に解決させるとして、今は帰ろう…。
「姫様、姫様は目立ちますので僕のローブでも着ててくださいね」
「わ、暖かいですね…ふふ。旦那様も暖かいです」
「そ、そうですか。では帰りましょうか」
「はい!あ、知ってますか?女の子が拐われてしまったら…その…危険な目にあった…なんて風に見られて、どこの家にも嫁に貰って貰えないのですよ?」
えぇ…。どうしろと?貰えと?嫁に貰えと?助けてカルミナーーー!!俺は内心でカルミナに助けを求めた。というか、アクエスにカルミナの所へと行って貰おう。姫様も見付かった事だしな。
◇◇◇
あの倉庫から安部家まで姫様を背負ってくるのはちょっとキツいかなとも思ったがそんな事は無かった。体もまだ痛いのに、不思議と疲れてないし力も湧いてくる。何だろ?
「姫様、着きましたよ。もう歩けますか?」
「も…もう少しだけ。父上達の所まででいいですので…」
姫様を連れて忠晴さんの部屋まで向かった。部屋の扉を開けると、驚いた表情の駿様と忠晴さんに、当然だなという様な顔をした六道さんが居た。
「ただいま戻りました、姫様に怪我もありません。少し怖かったのか、腰が抜けた様なので背負ってきました」
「麻津里…無事でなによりだ。タロウ、礼を言う」
「タロウ殿、姫様をよく守ってれたな」
「タロウ君、怪我は、大丈夫ですか?」
「ほら、マツリ様、降りてください。いや、今さら怖いも何も無いでしょう!ちょ…降りろ!」
「怖かったですぅ。だん…タロウさんが来てくれなかったら私…私…」
「今、そんな演技する必要無いでしょう!外堀を埋めようとしないでください!」
「麻津里、タロウは怪我をしている様だ。いつまでも背中に居たらキツいだろう。降りなさい」
「はい、父上…。母上は?」
「隣の部屋で寝ています。行ってその顔を見せてあげなさい」
「はい。では…だん…タロウさん。また後で」
やっと姫様から解放された俺は伝えないといけない事がある為、その部屋に座らせて貰った。
「えっと…」
「タロウ!タロウ、大丈夫なの!?」
「あ、カルミナ。俺は大丈夫だし、姫様も無事だ。カルミナも少し聞いてくれ」
「何かあったの?」
「この襲撃…というか、おそらく織田家が攻めてくる事も魔族が関わってると思われます」
「魔族が!?タロウ…それ、本当なの?」
「あぁ、姫様を探知出来ない様に魔力を遮断していたのも魔族だ。下級だったけどな」
「なるほど、どうりで見つからない訳ですね…。それにしても魔族ですか…」
「織田が魔族に唆されたのか?」
「その可能性もあります。というか、高いでしょうね…。あ、海の近くの倉庫に何人か気絶させた奴を縛って来たんで後で聞いてみるのが良いかもしれません」
「殿、如何いたしますか?」
「タロウの捕まえた者から話を聞くとする。だが、もう戦は避けられないだろう。予定に変更はない。人質の件は無視しても良くなったがな」
「はっ、では、この六道…戦の準備の為、失礼いたします」
「うむ。気を付けて行って参れ」
「では、私はタロウ君の捕まえた者を調べて参ります」
「頼んだぞ、忠晴」
六道さんと忠晴さんが部屋から出てそれぞれのやる事をしに行った。さて、俺はどうするかな…。まさか、魔族がこんなに早く動いてるとは思わなかった。もともと動いてた可能性もあるけど、それはどっちでもいいな。
「さて、タロウには何か褒美を与えんとな…」
「い、いえ…。そんな…」
「お礼の品だと思って気軽に受け取って欲しい。何か欲しいものはあるか?」
「と、言われましても…すぐには思い付かないですね…」
「そうか。用意できる物なら何でも良い。決まったらいつでも知らせてくれ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「明日は兵が街を出る。タロウはその怪我じゃ…街の防衛に回って貰った方がいいかな」
「それは助かりますね。防衛なら来る敵に反撃できますが戦場なら進んで命を取りに行かないといけないですからね…。ジパンヌの人の命を奪うのは少し荷が重いと思っていたところです。まぁ、姫様を助ける為に暗殺者は何人か斬りましたけど…」
「重荷を背負わせてすまぬ。だが、もう少し付き合ってくれ。織田家さえ黙らせる事が出来たらまた、平和な国に戻るだろう」
「そうですね。早く修行に戻らないと…魔族が動き出してる事をもっと重く受け止めないとですし」
「そう…であるな。エドヌ…いや、ジパンヌの兵も鍛え直さねばな。タロウ、ご苦労だった。ゆっくり休むと良い」
「はい。では、失礼します」
「タロウ、私も行くわ。怪我の治療をしてあげる」
◇◇◇
安部家にある部屋に戻って来てカルミナに治療をして貰っている。と、言っても上半身に回復薬をかけて貰って包帯でぐるぐるにしているだけだが。
「タロウさん失礼します…怪我の…きゃあ!」
「あ、姫様」
「ちょっと、きゃあとか言いながらも指の隙間から見ているわよ?瞬きもしてないわよ?」
「すいません、いま治療中で包帯を巻いてたんですよ」
「そ、そうでしたか。いきなり入って申し訳ありませんでした。それで…もう痛くないです?」
「えぇ、大丈夫ですよ。明日には普段通りに動けそうです。これでも鍛えてますからね。」
「はい。包帯も、これで大丈夫よ」
「ありがとうカルミナ」
「まったく無茶をして…ま、いつもの事かしらね」
「羨ましいです…」
「ん?どうかしたのかしら?姫様」
「カルミナ様には謝らないといけない事が…」
お、これはヤバい。姫様、このタイミングはヤバい。せめて俺の怪我が完治してからにして欲しい。カルミナが叩いてきたりしたらどうしよ…。
「タロウさんを……タロウさんを危険な目に合わせてしまい、申し訳ありませんでした!」
「そっちぃぃぃ!?」
「タロウ、そっちって何よ?」
「あ、いや、ナンデモナイ」
「姫様、お気になさらないでください。確かにタロウが傷付いて帰って来た時は驚きましたが…ちゃんと姫様を守れたなら、私から言うことはありません。私はタロウが誇らしいですよ」
「そう…ですか。タロウさんが殴られたり蹴られたり…"私の為に"傷付いてしまった事が申し訳なくて…」
「いえ、タロウにとってそれは"特別な"事ではありませんからね」
「「……」」
「タロウさんが駆け付けてくれなかったら、私はどうなってた事か…不謹慎ですが、あの時はまるで…物語の"囚われの姫"のようでした」
「何も無くて本当に良かったですね。物語だと"悲恋の姫"だったりしますわよね?」
「「……」」
「姫様?何か申したい事でもあるのですか?無いならタロウは疲れていますので寝させてあげて欲しいんですけど?」
「いいのですか?言ってしまえば後に引けませんよ?引きませんよ?」
「正妻の座とお姫様属性はもう埋まってるのよ!」
「うぐぐ…ですが、タイプが違いますわ!」
「ふん、どう足掻いても私には勝てないわよ?戦いでもタロウの隣に立てないでしょ?」
「確かに私は隣には立てません…が、後ろに居るなら役に立てるんです!」
「はい?それってどういう意味です?」
「ほー。結構いいエクストラスキルだな」
「タロウさん!?何故、それを?」
「タロウ、どういう事?」
「王族…じゃないか、将軍か。将軍家に出るエクストラスキルがあるみたいだ。スキル名『我が前に立つものよ』で、効果は…このスキルを持ってる人が後ろに居る時に前に居る味方の力が湧いてくるみたいだ。いつもより力が出たり速く動けたりだな」
これか。このユニークスキルのお陰で倉庫から運んで来る時に疲れが出なかったのか。
「何故…知ってるかはこの際いいです!カルミナさん、どうですか?これなら私も…」
「姫様、貴女はこの国を出るつもりなのかしら?」
「覚悟はあります。泥で汚れる覚悟もあります。タロウさん!私の…気持ちを…受け入れて貰えません…か?」
俺にそんな甲斐性なんてあるのか?愛情が100あるとして、カルミナが80、姫様が20だとしてそれで姫様を幸せにしてると言えるのか?愛情が100しか無い俺に…恋人が2人なんて無理じゃないのか?
「タロウ!」
「な、なんだよカルミナ?」
「女の子の告白に余計な事は考えなくていいの!み、認める訳じゃないけど、気持ちには気持ちで返さないと…ダメよ?」
気持ちか。俺が姫様をどう思ってるか…だよな。黒髪は見てると落ち着くし、まだ子供っぽい顔も成長すればきっと美人になるだろう。正直、我が儘な性格はどうかとも思うけどその欠点くらいなら許容範囲内だし。少し重そうな精神面もまぁ、大丈夫だ。俺には耐性があるからな。
つまり……俺は姫様が嫌いでは無い。かといって、好きだと言えるほど姫様を知らない。これで好きだと言ってしまえばカルミナに申し訳無いな。
「俺の答えは………」
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