第87話 タロウ、姫を探して
ふぅ…なんとかギリギリですね
よろしくお願いします!
修行を続けている。今日も九重家での修行を終えて安部家にやって来た。部屋で寛いでると窓を叩かれ、外を見てみると前に送りだしたピヨリとルミナスが帰って来たみたいだ。
「おかえり、二人共。ご苦労だったね」
『ただいまッピ!』
『タロウ!タロウ…寂しかったですか?寂しかったですよね。私も同じ気持ちですよ。タロウにお願いされましたからピヨリと一緒に行きましたが、その間に変わったことはありませんか?私は心配で心配で仕方ありませんでしたよ?でも、こうなったのも敵が攻めて来るからですよね?私とタロウを数日も引き離す原因の元は消し去らないといけないですよね。タロウ、あぁ、タロウ…愛してますよ』
『ご主人からの指示で飛び立って数時間でこうなってたッピ!』
マジかよ。数時間て…。送り出してからもう5日以上たってるぞ?よく耐えれたなピヨリは…。
「ルミナス、ピヨリ。状況はどうだった?」
『タロウ…タロウタロウ!ふふ。今日は一緒ですよ』
『飛び立って2日くらいは経った所に武装した集団が居たっピ!結構探し回ったから距離はもっと近い所に居るッピ!』
2日ってどれくらいだろうか?ピヨリなら1日に200㎞くらいは進むのかな?だとすると400㎞と仮定して歩きで武装もしてるから……1週間かからないくらいで来るか?あやふやな情報だな…でも、もう少し近付いて来れば忠晴さんが見付けるだろうし目安として明日…いや、今日の内に伝えてみよう。
「人の規模は分かる?」
『タロウ。ふふ…タロウの匂いですね。落ち着きますね』
『上からみても長蛇の列だったッピ!』
ふむ。かなりの人も投入しているのか…。このままだとエドヌが荒らされるな。せめて戦う場所はエドヌから離したい。明日、明後日にはこちらも兵を動かさないといけないな。
「ありがとうピヨリ、助かったよ。こんやはエルフ産の果物を食べて良いよ」
『やったッピ!早く出すッピ!早く出すッピ!』
ピヨリに果物を渡して、俺は姫様の傍に付いているアクエスに呼び掛ける。
「アクエス、状況は?何かあった?」
『特に動きは無いの。今はお風呂なの!』
「入浴中か。今さっきルミナスとピヨリが戻って来た。明日、明後日には動きがあると思う。よろしく頼むな」
『分かったの!あ、姫様の胸はそこまで大きくな…』
要らぬ…いや、全く要らない訳じゃ無いがプライバシーの問題があるからとりあえず静かにして貰った。
「忠晴さんの所に行ってくるけどルミナスとピヨリはどうする?」
『もちろんついていきますよ』
『このリンゴを食べてるッピ!』
『タロウ、カルミナはどうしたんですか?』
「あぁ、今お風呂に入ってる筈だよ」
「なるほど、なら今はタロウを独占出来るのですね。タロウ、早く報告をして来ましょう。そしてこの数日の事を教えてくださいね」
俺はルミナスを肩に乗せて忠晴さんの部屋に向かった。その間も髪の毛を引っ張られたり頬をつつかれたりしたが、好きな様にさせてあげた。
「忠晴さん、すいませんタロウです。ちょっと話したい事が出来ました」
「どうぞ、入ってください」
部屋に入ると紙に何かを書いている忠晴さんの姿があった。俺は正面に座り忠晴さんと向かい合う。
「それで…話と言うのは?」
「はい。僕の使い魔を飛ばしてたんですが…先程帰ってきまして、その報告を」
「何か分かったんですね?」
「はい。敵はエドヌに向けて進行中の様です。ピヨリ…鳥の使い魔ですが、この子に調べてくるようにお願いして飛ばしてから、帰ってきた時間を大雑把に計算すると…あと、1週間も掛からないくらいで敵の姿が見える筈です。しかも、数と言うか規模も割と大きいみたいです」
「1週間…ですか。いえ、こちらも兵を移動させなければ行けませんから5日居ないに徳川の者を匿わねばですね。タロウ君、ありがとうございます。驚きましたよ、まさか偵察を送っていたとは」
「出来る事をしたまでですよ。とりあえず、こちらも大規模の兵を動かす為にも何かの理由が必要ですね」
「そちらは私の方でしておきましょう。戦う場所はここから1日程度離れた場所にある平原にするつもりです。1週間ですか…出来ればもっと時間が欲しかったですが…しかたありませんね。今出来る事をやりきりましょう」
それから4日が経った。
明日には兵を動かして平原へと移動するらしい事が決まっていて、今日は徳川家の面々をエドヌに残る安部家へと匿う日となっていた。
兵を動かす理由としては災害級の魔物が現れた…という事になっている。実際はベリー先生が魔物を召喚しただけの話なんだが…。冒険者にもクエストを出して参加を募っていた。当日になって敵が攻めて来ても奴らは報酬を出すと言えば喜んで参加するだろうしな。
それで、兵を動かすに当たって話し合いをするために忠晴さんがエドヌ城に行き、連れて帰ってくるという流れになっていた。
「駿様、この後お家族で我が屋敷に参られませぬか?見せたい物もございますゆえ」
「ふむ。確か…この後は予定が無かったな。分かった、家族を連れて参ろう。誰か馬車を用意しろ。馬車のみで構わん。忠晴がいるのでな」
(ちっ、明々後日には援軍が来るというのに…まさか…!?)
その日の午後、忠晴さんが連れてきた人物の中にマツリ姫の姿だけが無かった。
◇◇◇
しばらく時間が経ちましたが、麻津里様が見つかったという報告が来ませんね…。
「あぁ、あなた様。麻津里が…麻津里が…」
「落ち着きなさい、美輿。今、安部家の方々が捜索に出ている。私達は信じて待つしかあるまい」
「部屋には置き手紙で遊びに行きます…か。六道さんこれはやはり…」
「あぁ、麻津里様じゃねーな。拐われたか…。麻津里様に付いていた敵の間者がこちらが気付いてる事に気付いたのだろうな。忠晴、捜索は?」
「手を広げておりますが…どこかに監禁されてるとなると時間がかかりますし、まだ見付かっていませんね。おそらく…こう言っては申し訳無いですが、人質にされるでしょうから…お命は奪われて無いと思います」
それから数時間。ただただ時間が長く感じられた。美輿様は心労で疲れて、今はお眠りになられた。私の式神も探しているが…まだ見つからない。これは私の失態でした。一刻も早く見付けて助け出さないと、麻津里様がより危険な目に合われてしまわれる。
「六道さん、やはり私も捜索に…」
「ダメだ。俺はもう戦の為に動き出さねばならん。殿をお守りするのがお前の役目だ。今回の麻津里様の件はお前の責任じゃない。敵も計画を練っている。それに、麻津里様を助け出す為に向かった者が居るのだから安心せい」
「そう…ですね。彼等を信じて待つしか…」
「あぁ、我らの1番新しい門下生の才能ある若者を…な」
それから少しして、麻津里様を背負われた若者が1人…汚れた姿で帰還した。
その時の麻津里様の喜びの表情は一段と輝いていらっしゃったのは忘れる事はないでしょうね。
◇◇◇
午後になって忠晴さんが帰って来たが顔色が悪い。どうしたんだろ?
「あれ?タロウ…マツリ姫は?」
「え?…あ、あれ?居ない!?」
俺とカルミナ、そして晴海さんは部屋に集められて忠晴さんか、話を聞かされた。
ベリー先生と桃さんは別の事…街の人に魔物が出たと伝え回っている。全く警戒をしないのも万が一の時に危ないからだ。既に話は広まっている頃かな?
これで兵が集められるのも出発するのも怪しまれないし、不安も少ないだろう。そんな訳でベリー先生と桃さんはここに居ない。
「居なくなったですか…」
「すぐに探しに行かないと!」
「父上、どうするのでして~?」
「晴海、式神に捜索にをさせる。お前もそれに加わりなさい。タロウ君とカルミナさんは…」
「探しに行くわよ!タロウ」
「あぁ、別々の方向に探しに行こう」
俺はアクエスからの返事が無い事に少し焦っていた。アクエスが何も出来ない状況になってる可能性があるからだ…くそ、いったいどうなってんだ!?
「すまないが、お願いするよ…」
俺とカルミナは安部家を出発して別々の方向に走りだした。
「アクエス!アクエス!」
『タロウ、こっちなの!』
アクエスへ繋がった。…というか隣に姿を表した。
「アクエス、返事の出来ない状況だったのか?」
『魔力が…結界?か、何かで遮られてたの!でも、お姫様の場所まではついていったから分かるの!』
敵も用心して、運ぶときに魔力を探知させない工夫を施してたのか…。これじゃ、式神でも見付けられないかも知れないな。安部家を警戒して…か。
「マツリ姫の様子は?」
『目隠しとロープで縛られて口も布を噛ませられてたの。そのまま箱に入れられて運び出されてたの!』
今のところ外傷は無いか。でも、急がないと…人質にする予定だろが、我が儘姫が大人しくしているとは考えられない。
「案内してくれ!」
『こっちなの!』
俺は自分の装備を整えながらアクエスの後ろを走ってついていった。
辿り着いた先は海の付近ある倉庫の内の1つだった。
「ここか…」
『タロウ、気を付けるの。敵は1人じゃないの』
「分かった。アクエス、力を貸してくれ。合図をだしたら魔法でマツリ姫の安全を確保してくれ」
『それでいいの?』
「あぁ、それが最優先だ」
『分かったの!』
「行くぞ」
俺は倉庫の中へと入っていった。
◇◇◇
「ちっ、どうしてこうなった」
「白永様…」
「その名はもうよい!」
「は、白殻様。この人質がいればまだ作戦は終わっていません」
「分かっておる。…あと3日と掛からないというのに…。しかも魔物が現れただと!?あの魔族め…騙してはおらんだろうな…」
「戦場は街から離れた場所となるでしょう。如何にいたしますか?」
「とりあえず待機だ」
声は聞こえている。私は何処かへと運ばれた。目は塞がれてるし、口も塞がれてる。何で?何で?どうして?怖いよ…。
「むー!んん!むむー!」
「ちっ、おい、口と目だけでも外してやれ」
「んは、白永!どういうつもりですか!?」
「悪いな。お前には人質になってもらう」
目隠しが外されて、薄暗い倉庫の奥の壁に座っている事が分かった。そして、私の付き人…それに世話をしてくれたくノ一の二人もいる…。
「人質…?い、いったい何をしようと言うのですか!外してください!」
「徳川家との決着をつける。それだけだ。まぁ、お前は十分に役にたって貰った後、きっちり殺してやるよ。楽しみにしてな」
殺される?どういう事?分からない…分からないよ…。
「ひっ…い、いや!だ、誰か!誰か居ませんか!?」
「無駄だ。ここには魔力を遮断している奴がいる。下級とはいえ魔族もなかなか便利だな」
「ま、魔族…。あなた達はそこまでして!」
「この国で王を気取っているお前らには何も言う権利は無い!織田家…そして、そこに仕える我らイガヌの礎となれ」
「お前にはエドヌが、徳川が安部が九重が…滅んでいく所を特等席で見せてやるよ。くく、くはっ…くははははははは!」
そんな…。私は素敵な旦那様と結婚して…それなのにエドヌが滅ぶ…なん…。同じジパンヌに住む者なのに…。魔族と手を組んでまで…どうしてこんな酷い事を…。
「う、嘘…よ。そ、そんな事…。あな…た達の…計画は失敗するのよ!」
「ちっ、説明はしてやった。少し静かにしてろ。じゃなきゃここにいる魔族や男達に酷い目に合わされるぞ?おっと、姫はそれがご希望かな?」
や、やだ。それだけは絶対に…。
「い、いや!け、穢らわしいわ!」
「お前ら、穢らわしいだとよ!」
「くはっ!生意気なお嬢様だな?」
「こんな子供じゃ興奮も出来ねぇよ」
「まぁ、たまにはいいかもしれねぇぞ?くはははは!」
卑下た笑みを浮かべた男達が…近くにいる。いや、怖いよ。怖い怖い怖い怖い…。
「い、いやよ!誰か!誰か!」
「おい、静かにしてろ。……っち、おい、誰かやっちまえ」
「じゃあ、俺からいくぜぇ。お嬢ちゃんには悪いけどなぁ」
1人の男が私のすぐ目の前にまでやって来る。醜い。怖い。何で?助けて。旦那様…。いや、こんな所で…うぅ…。
「いや…いや…いやぁ!」
「へへっ、どれど……れ?」
「おい!どうした!?…死んで……誰だ!」
「その子から離れろ下衆野郎共!」
あぁ、光が反射して見えないけれど…その声は…。
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