第86話 タロウ、親衛隊に絡まれる
よろしくお願いします!
ランニングを済ませ、朝食を頂き、今日もベリー先生との修行に入る。六道さんが対人戦の修行に変更って言ってたから修行メニューも変わるのかもしれない。
「さ、まずは素振り、その後は受け流しの練習でござるよ!」
「午前中は変わらないみたいね?」
「基礎でござるからな。午後の山登りからは変えるでござる。午後イチで身体強化の練習をしてその後は一対一。もしくは多対一の練習をするでござるよ」
「なるほど、わかりました」
「さ、早速始めるでござる!拙者はちょっとギルドに行ってくるでござるからな。素振りや受け流しを怠ることは無いようにするでござるよ!」
「分かりましたー」
とりあえず午前中は言われた通りの、いつものメニューをこなしていった。時間なんかもだいたいの感じでやっていたから受け流しの後にやる模擬戦の時間が少しだけ長くなってしまった。
「ベリー先生戻って来ないねぇ」
「何しに行ったのかしら?」
午前中の修行が終わり、昼御飯を食べてる時にそんな話をしていたら、午後イチにはベリー先生は戻って来ていた。
「ベリー先生、ギルド…何してたか知りませんけど、結構な時間掛かりましたね?混んでました?」
「混んでは無かったでござるよ。拙者はクエストを探してたでござる」
「クエスト?何か受けるんですか?」
「行けば分かるでござる!さ、準備するでござるよ」
「え!午後は身体強化じゃなかったの?お姉ちゃん!」
「それはあくまで予定でござるよ。いいクエストを見つけたでござるから予定変更でござる!」
何のクエストを見つけて来たのかは教えて貰えなかったが、俺達は装備を整え、ベリーさんの後ろを走りながら街を出発をした。進む方向に山があるから、目的地はあの山かもしれない…というか、山登りする流れなのか?
◇◇◇
「はぁ…はぁ…ベリー先生!どこまで…登るん…ですか?」
「もうすぐで見えてくる筈でござるよ?」
ちゃんとした目的地がある訳じゃ…無いのか。更に山道を進んで行くとちょっとした崖になっている場所に出た。
「居たでござるよ!」
ベリー先生に追いつき、居たと言って指を指す方向を見るとそこには…。
『『『『グギャギャギャ!』』』』
『『『『グギャギャギャ!』』』』
『『『『グギャギャギャ!』』』』
大量のゴブリン達がいた。崖の下一面にゴブリンっていうくらいにゴブリンがいる。地面が汚れた緑みたいになっている。うへぇ…気持ちわる…。
「これ…なんですか?ベリー先生…どういうこと?」
「驚いたでござろう?ギルドに行ったらゴブリン討伐のクエストが出ていたでござるから、先に来て道を魔法で塞いでおいたでござる。数だけは多いでござるからな…練習になると思うでござるよ!」
「ベリー先生…カルミナと桃さんの表情が青ざめていってますけど…?俺もこの数は少し気分的にちょっと…」
「なんででござるか!つべこべ言わずに行くでござるよ!まずはタロウ君から!」
「ちょ!あぶ…あぁあぁぁぁぁぁ!?」
「タ、タロウ!?ベリー先生、タロウ落ちちゃったじゃない!」
「タロウ君、魔法はダメでござるよ!剣のみで対処するでござる」
「くそったれぇぇぇぇ!!」
10分間くらい経っただろうか。その間、近くに居るゴブリンを斬って斬って斬りまくった。ひたすら気持ち悪いし疲れる。爽快感とか欠片も無い…。急にベリー先生が降りて来て、上まで連れ戻してくれた。
「はぁ…はぁ…キモい、キモいキモいキモい!!ゴブリンの声が耳に残ってるよ…」
「タロウ…大丈夫?」
「…次、カルミナの番だぞ?俺の心配は大丈夫だ…」
カルミナの表情が強張る。やはりあの中には行きたくないのだろうな。でも、まだまだゴブリンはいるし…行ってこいカルミナ。
「カルミナさん。時間が来たら連れ戻しに行くでござるから、頑張るでござる。…特に女の子は…気を付けるでござるよ…」
「いやぁ!行きたくない!!離して!ベリー先生!」
「じゃ、頑張るでござるよ!」
「うわぁぁぁぁ!来ないでぇぇぇぇ」
『グギャギャギャ!グギャギャギャ!』
『グギャギャギャ!』
『グギャギャギャ!』
うわぁ…俺が落ちた時以上に集まってきている。すぐにでも降りて殲滅したいけど…修行だし、カルミナもなんとか槍で対処してるから…ま、大丈夫かな?
それからしばらくして…槍を振り回しまくって疲れきったたカルミナをベリーさんが引き上げた。
「いや…いや…もう、ゴブリンは…いや」
「お疲れ様、カルミナ」
とりあえずハグする体勢で背中をさすってあげた。
ゴブリンはようやく…最初の半分くらいにまで減ったように見える。仲間がやられたからであろう…こちらに向けて石を投げつけてくる。ゴブリンの筋力じゃ届かないけど。
「桃」
「い、いやよ!お姉ちゃん!私は嫌!」
「大丈夫よ…桃さん…。死ぬ気で振り回せば…ね」
「と、いう事でござる。危なくなったら助けに入るでござるから…まぁ、所詮はゴブリンでござる。一振一殺を心がけるでござるよ!」
『グギャギャギャ!』
『グギャギャギャ!』
「き、きゃわぁぁぁぁぁ!!」
桃さんも半ば自棄になった状態で薙刀を振り回している。意外と…魔物じゃなく、人と戦う戦場ではあのくらいの狂気が無いとやっていけないのかな。
◇◇◇
1人2回ずつ降りて、倒していったらゴブリンもようや全滅させる事が出来た。もう、ゴブリンはこりごりだな…。というか、いつの間にこんなに繁殖してやがったんだよ…。
「はい、お疲れ様でござるよ。じゃ、思ったより早かったでござるから帰って身体強化でもするでござるかね…」
「そっちの方が100倍はマシ…ですかね。カルミナ、桃さん、大丈夫?」
「ゆ、夢に出るわぁ…夢に出るわぁ…」
「私もです…」
俺達は街に戻って九重家ではなくて、ギルドに立ち寄った。ゴブリン討伐の報酬を貰うためだ。ギルドの中に入るといつもの光景が広がっていた。
「へへ、桐華ちゃん…こ、今度、食事でも…ど、どうかな?へへ…」
「おい、ぬ、抜け駆けするな!桐華ちゃん…俺と、どうかな?」
今日も今日とて桐華さんのツンとした表情とトゲのある口調にやられてしまっている大人達が列を作っていた。
「せっかくだから拙者達も桐華ちゃんの列に並ぶでござるよ!」
「そうですね。からかい…げふんげふん。せっかくですからね。カルミナ、桃さん、キツいなら座っててもいいよ。…というか、やはり視線が痛い」
「タロウ君とカルミナさん…見られてる様でござるが、何かしでかしたのでござるか?」
「えぇ、まぁ…少し…この前来たときに…はい…」
「タ、タロウ!私と桃さんは外で待ってるわね!い、行くわよ桃さん」
「え?あ、待ってください~。お姉ちゃん、外にいるね」
冒険者達からヤジが飛んでこないだけまだマシかな。
チラチラと視線が飛んで来る。ベリー先生が居るから…か、どうかは分からないが、直接絡んでくる奴は居なかった。順調に列は消費されていき俺とベリー先生の順番が回って来た。
「桐華ちゃん、クエスト達成してきたでござるよ」
「ベリーさん、お疲れ様です。魔石かゴブリンの一部は持ってきましたか?」
「これ、袋の中に指定された分の物は入っているでござるから」
「確認します。……はい。お疲れ様でした」
「ベリー先生、報酬は俺とカルミナと桃さんの3人で分けますからね!」
「あら?という事は…もしかしたら、タロウくん達がゴブリンを?」
「修行って言われてゴブリンの大群の討伐だよ…。よく、暗くなる前に帰ってこれたと思うね」
「それはお疲れ様。カルミナは?」
「えっと、ほら…外で待ってるよ」
「あぁ、なるほど…。タロウくんが外に行って、カルミナを中に連れて来なさいよ」
「次はな。とりあえず報酬をくださいな」
「えっと、たしか机の下に用意して…」
桐華さんが前屈みになる。首元にある服の隙間から肌着?キャミソール?的なのが見えてしまった。…今のままだと、胸の谷間なんて夢のまた夢であるが、成長と共に牛乳の効果が現れると…いいな?
まさか!?この列に並ぶ個性的な冒険者達はこれを狙って?ガードは堅い癖にこういう事は意外とユルいんだな。…冒険者達には悪いが危ないし、一応は友達だし教えてあげとくか。
「桐華さん」
「はい?なんですか?」
「胸元の服が緩くなって…見えてるよ?気を付けた方がいいよ?」
前屈みになっていた桐華さんが真っ直ぐ立ち上がり、胸元を押さえている。そうそう…そういう感じでしっかり…
パチィン!!
「へ、変態!タロウくんの馬鹿!何見てんのよ!」
「い、痛い…。いや、俺は親切で…」
「タロウ君~ダメでござるなぁ~。女心という物が全く分かってないでござる」
「おい!テメェ、桐華ちゃんに何したんだ!?」
「そうだ!ビンタされてたぞ!何かしたに違いない」
「おら!お前、表に出ろやぁ!」
「いえ、皆さん…落ち着いてください。私は大丈夫ですから…」
「お前ら!こんな健気な桐華ちゃんに何かしたこの野郎を許しておけねぇよなぁ!」
「そうだ!そうだ!」
「年下だからって許してやれねぇ事もあんだぞ坊主!」
「いや、僕は今…親切で…」
「こいつ!シラを切ろうとしてやがるな!おい!表じゃなくてギルドの訓練場に連れて行け!桐華ちゃんを…桐華ちゃん親衛隊を怒らせたらどうなるか、目に物を見せてやれ!」
「「「おう!」」」
「ベリー先生…」
「いい感じに多対一でござるな!タロウ君、いつだって修行を忘れない心…凄いでござる!」
違う!助けろよ!ベリー先生が一声かければ散っていく奴等だろ?あ、持ち上げられた。運ばれる!?もう…なんか、このギルド嫌い…。
俺は隣に併設されている冒険者に成り立ての人や訓練したい人が使っている訓練場に連れられて来た。心配になった桐華さんも来てくれたみたいだけど、親衛隊?の人たちが自分達の応援と思っているのか気持ち悪いくらいに高揚している。
「今からお前には勉強をして貰うぜぇ?桐華ちゃんの親衛隊である俺等を怒らせたらどうなるかっていう勉強をな!!」
「いや、本当に勘違いなんですよ。僕と桐華さん友達ですしね?軽めのスキンシップ的な…ね?」
「嘘をつくな!桐華ちゃんの友達はお前と一緒にいる女の方だろ!お前はそれにくっついて、桐華ちゃんとお話するおこぼれを貰おうとしているだけだ!」
「そうだ!そうだ!」
「いくら歳が近そうだからって馴れ馴れしいぞ!」
なんで俺、おっちゃん達の前に立ってボロクソ言われてんだろ?そろそろ桐華さんが止めに入ってくれても良くない?この際だから、私の為に争わないで…なんて言っても怒らないよ?
「桐華ちゃん、桐華ちゃんの友達はこいつと一緒にいる女ですよね?」
「え?まぁ、カルミナは友達よ?ふん、当たり前じゃない」
嬉しそうだな。周りから見ても友達だと分かるのが相当嬉しいみたいだな。
「な、桐華さん。俺達は親友だもんな?」
「し、親友だなんて!…ま、まだ早いのよ!順序を守りなさいよね!ふんっ」
「こいつは違うらしいぞ!やっぱりただの馴れ馴れしい奴だ!お前ら!準備は出来てるか?」
「「「おう!」」」
「あ、いや、まぁ…親友はまだ早いけど…ともだ…」
「行くぞお前ら!!」
「タロウ君、木刀だからおもいっきりやっていいでござるよぉ~修行を申し込んで来たのは向こうでござるからな」
そういう事なら遠慮しなくていいな。九重家でやって来た事も含めて剣技だけで相手してやる。ゴブリンよりは働いてくれよ?
「行きます!」
壮絶な戦いだった。……なんて事は無かった。個人個人はゴブリンより強いのは分かりきってた事だから…それは別にいい。いいのだが、まさか連携も無しにそれぞれで突っ込んで来るとは思わなかった。こちらにとってはありがたいけど…せめてもう少し歯ごたえがあっても良いような気がする。
「く、くそ…つえぇぞ…このガキ。Cランクの俺達が勝てない…だと?」
「立ち上がれ、俺!桐華ちゃんの為に!!」
「そうだ…俺も桐華ちゃんの為に…」
「ベリー先生。せめて連携を取るように言って貰えますか?」
「いや、無理でござろう。そいつら、内心では自分こそ桐華ちゃんの隣に相応しいとか思ってるでござるよ?協力とか無理でござる」
「「「ギクッ…」」」
何だこいつら…。結局は自分本意な奴等じゃないか…。悪いとまでは言わないがダメダメだな。親衛隊としては失格と言ってもいい。
「遅いわよ、タロウ?こんな所でいったい何をや…」
「お前達みたいなのに桐華さんは渡さないからな!!」
「…てるの…かしら…ね?タロウ!!」
「カ、カルミナ!?」
「今の台詞どういう事!?」
「あ、違う!誤解するなよ。落ち着け、ホントに落ち着いてくれ。とりあえず俺も落ち着くからカルミナも落ち着け?」
「タロウくん…わ、渡さないだなんて…と、友達の域を越えているんじゃ…しかも、カルミナが居るっていうのに…?ダ、ダメよ…でも…」
「桐華!あなたまで何を言っているの!?」
「い、いえ、何でも無いですよ。ちょっとだけドキッとしましたというか…分かってます!カルミナさんとタロウくんがお似合いという事は分かってますから」
「というか、何よこの状況。タロウ、説明して!」
「タロウ君なら出口に向かってるでごさよ?」
俺は逃げる事にした。この状況からも、カルミナからもとりあえずは落ち着くまで。…このギルドにはしばらく来ないようにしよう。
今日の身体強化の修行は無しになって、夜になって安部家の方に移動した。九重家でも一応顔は会わせたが人前では何も聞かずに、安部家に移ってから今日の報酬を持って来てくれた時に問い詰められた。
事情を1つ1つ話して、渡さないと言う台詞も友達として…と伝えてなんとかギリギリで納得して貰えた。女の子を増やしても良いとカルミナが言ってはいたが、そう簡単には割り切れないみたいだ。俺も気を付けないと。
その日は二人で朝まで……睡眠をしっかりと取った。
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