第85話 タロウ、式神戦闘の訓練をする
よろしくお願いします!
「おはようございます、晴海さん」
「おはようなのでして~」
朝のランニングを終えて、朝食の後にカルミナと別れて俺はまずいつもの式札制作部屋に来ていた。晴海さんは俺よりも先に部屋に居た。
「えっと…」
「父上から話は聞いているのでして~」
「そうですか、少し待ってくださいね。火属性の式札を量産しないと…」
「私も自分の式札を作っていたのでして~」
「何枚くらいあれば良さそうですか?」
「火属性なら、赤鬼、鬼人、紅蓮丸、紅緋、緋鬼王の5枚でして~、それに倒された時の為に2、3枚くらいは準備するのでして~」
「分かりました。じゃあ、今から描き上げるので少しだけ」
「はいなのでして~」
描き終わるのに15分ちょっとかかってしまったが、これでもペースは上がってきている。火属性に限っての話だけど。
「お待たせ致しました。準備できましたよ!」
「では、行くのでして~」
二人で部屋から出て戦闘訓練が行われている場所ではなく、前にも1度だけ来た屋敷の裏の方にある人が来そうにない場所までやって来た。人の来そうにない場所である。ここなら紅緋とかを出しても大丈夫そうだ。
「まずは赤鬼を使って戦闘とはどんなモノか教えていくのでして~」
「お願いします、晴海先生。」
「むふふ~少し照れるのでして~。まずは赤鬼を出すのでして~!」
「来い!赤鬼」
式札が光り、目の前には魔力の1割にも満たない赤鬼が現れる。晴海さんが出したのは青鬼だった。水属性だな。
「まずは説明をするのでして~。知能の高くなる紅蓮丸以上の式神は簡単な命令でも色々な状況に対応してくれるのでして~、勿論、術者…私達の命令を優先するのでして~。でも、赤鬼や鬼人クラスだと魔力を通じて命令した事しかしないのでして~。例えば、エドヌ城まで歩けと命令したら壁が有る無しに関わらず直線で真っ直ぐ歩くのでして~」
「なるほど。赤鬼や鬼人は簡単な命令なら聞いてくれるんですね。そっちの方が戦いにおいては良さそうじゃないですか?」
「腕に覚えのある者にと一般兵にも見境無く突っ込んでいくのでして~あと、たまに邪魔になるのでして~」
おぉう…全然使えないじゃないか…
「主に練習用でして~。それと、鬼人ならCランクに成り立ての冒険者よりは強いのでして~」
本当に練習用なんだな…赤鬼。俺は心の中で目の前に立ってる赤鬼の背中に向かって頑張っておくれと念じた。
『ぐぉぉぉ!』
「ちょ、赤鬼!?と、止まって!」
『ぐるぅぅぅ…』
「はぁ…止まった、良かった。びっくりしたぁ」
「タロウさん、何かを念じましたでして~?それが赤鬼に伝わったのでして~」
「ちょっと、赤鬼に頑張れって思っただけなんだけどな…赤鬼、ジャンプ!」
『ぐぅお!ぐぅお!ぐぅお!……ぐぅお!』
「ストップ赤鬼!良いぞ!」
何か楽しい。声とイメージで動くロボットを操っているみたいな気分になってくる。命令に忠実かつ最短で行動しようとする所とかいいよね。
「赤鬼!側転からのバク転からのバク宙!」
『ぐぉ!ぐぉっ!ぐぉぉぉ!』
「す…すげぇ!俺にも出来ない動きをイメージさえあればやってくれるのか。これは実験のしがいがあるな…」
「タロウさんには驚かされてばかりなのでして~。青鬼、行くのでして~」
『ぐぅぅぅおぉぉ!』
「赤鬼、迎撃!迎え撃て!」
『ぐぉっ!ぐぉっ!ぐぉっ!』
「ジャンプじゃない!あ、ヤバい雑念が…」
『ぐぉっ!ぐぉっ!ぐぉぉ…』
青鬼に殴られて赤鬼が吹き飛ばされる。
「ゴメン赤鬼!イメージが…くっ、ジャンプの印象が消えない!」
「知能の低い式神の難しい所はイメージに左右される事なのでして~」
戦闘中は色んな事を考えるから…意外と難しい…。
「タロウさん、強めの魔力を赤鬼に込めるイメージ鬼に命令をするのでして~」
「…立て!青鬼を倒せ!」
『ぐぉ…ぐぉぉぉぉぉ!』
赤鬼が立ち上がり、青鬼へ向けて走り出した。
「これなら多少、別の事に思考を割いても大丈夫なのでして~」
「なるほど。…やっぱ、少しは考えてくれないと大変だな…」
「普通なら魔力の節約の為に赤鬼、青鬼なんかの練習をするのでして~…でも、タロウさんなら紅蓮丸クラスからでも良かったかも知れないのでして~」
「青鬼、戻るのでして~」
「赤鬼、戻って来い!」
よし、今度はちゃんと指示できたな。俺と晴海さんは式神に触れて式札に戻す。
「では、次ぎは紅蓮丸クラスをだすのでして~」
「分かりました」
俺は式札を準備して、しっかりイメージを浮かべ式札に魔力を流す。
「来い!紅蓮丸」
『…主か…まだ…名前…聞いてなかった…』
「そうだったな、タロウだ。よろしく頼むぞ」
紅蓮丸の姿は鬼人ほど大きくは無いが、がっしりとした体格をしていて髪は長く赤色で瞳も赤く火属性感のある姿だ。言葉は喋れるがそこまで流暢では無いみたいだ。まぁ、消費魔力が1割くらいだからしょうがないか。
『俺は…何…すればいい?』
「今から戦闘訓練をするが紅蓮丸の出来る事を教えて欲しい」
『俺…火…放てる。腰…剣…使う。拳…殴る』
「火放てるのか。どれくらいの威力だ?」
『み…せる。グオオオ!!』
紅蓮丸が片手の掌からバレーボールぐらいの炎を放出した。流石に紅蓮丸辺りからは戦闘能力も上がるみたいだな。
「ありがとう。これなら剣と拳の方も期待できそうだね」
『俺に…まか…せる』
「出るのでして~碧蓮丸~」
晴海さんが出したのは俺の赤鬼とは違い、がっしりとしている訳では無いが、細マッチョの技巧派みたいな雰囲気がある。出来る男って感じのイメージだな
「水属性は火属性ほどの力は無いでして~、代わりに知性は高めで魔法も上手いのでして~。手のかからない式神なのでして~」
『私 来た 主 何用?』
「今日は戦闘訓練なのでして~」
『承知 指示 伺う』
「とりあえず、任せるのでして~」
『承知 参る』
確かに晴海さんの出した碧蓮丸は単語単語だけど紅蓮丸より会話は出来ている。
「紅蓮丸も思うままに戦ってみてくれ。敵は魔法も使うみたいだからそこは気を付けて、自分の得意な事をやってくればいい」
『わか…った。いっ…て…くる!』
紅蓮丸が腰の剣を引き抜き、碧蓮丸に向かって走り斬りかかる。紅蓮丸のスピードは速かったが、碧蓮丸の動きの方が滑らかで寸の所で回避されてしまう。
『魔法 縛り』
『グオオオ…火ィ!』
碧蓮丸の水魔法での縛りを火力で振り切りまた突進していく。碧蓮丸が腰からナイフを取り出して紅蓮丸の攻撃を受けていく。紅蓮丸の攻撃を耐えられるくらいには碧蓮丸もパワーはある。
パワーや魔法の威力はこちらが上。スピードや知性、適応力は碧蓮丸の方が上って事だな。上手く長所を活かせば五分の戦いが出来るのだろうが…俺の式神戦闘の経験の少なさでイメージ力やその他諸々が足りておらず、少し押され気味だった。
『魔法 水針 連弾』
『グラァァァ!!グッ…アァ…』
「大丈夫か!?紅蓮丸、下がれ!」
繋がっている感覚のあるパスを意識して呼び掛けるとちゃんと下がって来てくれた。晴海さんも1度、碧蓮丸を下がらせていた。
『たか…じけない…』
「いや、俺の方も初めての戦闘訓練だからな。まだ上手くイメージ出来てなくてな、俺の方もゴメン紅蓮丸。これから頑張っていこうぜ」
『う…む』
「今日は戻ってくれ。また次の時に頼むな」
俺は紅蓮丸を式札に戻した。紅蓮丸には申し訳ない気持ちだが紅蓮丸クラスまではイメージ力が少なからず必要になるから今後も練習に付き合ってもらう予定だ。
「紅緋クラスを出すと魔力の残りが少なくなるので、少し休憩するのでして~」
「分かりました。ちょっと紅緋を出しますね、そしてから休憩の方が良さそうですし…」
「それもそうなのでして~。私もそうするのでして~」
「来い!紅緋」
「出るのでして~、翡翠」
『貴様…』
『貴女は…』
『『ぶっ殺してやる!』』
◇◇◇
ヤバい。ヤバいヤバい。晴海さんも固まってしまうくらいにはヤバい。
『長年の恨み!』
『ここで晴らす!』
『『ウォラァァァァァ!』』
俺は紅緋を出してどんな戦いをするのか戦闘スタイルを聞きたかっただけだ。晴海さんも翡翠を先に出しておいて、休憩に入り魔力を回復させようと思っていただけだ。…何故、既に戦ってるのだろうか?しかも、まさかの殴り合いだ。それに、紅緋は子供っぽい容姿で翡翠もどちらかといえば背も低いし子供っぽい。女同士だからと言って侮れない…それっぽさは無くなってるけど鬼だもん。
「お前ら、止まれ!荒らすな!秘密の訓練なんだぞ!?」
『タロウ、妾を止めてくれるな?この女とはちと、因縁があっての』
『それはこちらの台詞です。いつもいつも私の邪魔ばかりしてくれましたね。こうして機会を得られたのなら…あの頃の恨みを晴らさねば!』
くそ、伝承にそんな事書いてあったか!?というか、翡翠の声可愛い!紅緋もどちらかと言えば耳に残る様な声だが…いや、それは置いといて。昔の話だろ?もうそろそろ水に流しておいてくれよ!
「良いから二人共、落ち着けって!因縁があるのは分かったけど、式神として会った事があったりするだろ?何で解消してないんだよ?」
『タロウ、それは違う。妾達が初めて会ったのは式神になってからゆえな。しかも、それ以降は今日のこの日まで会ってはおらん』
『私とこいつは…この姿で安倍ひかり様の元に現れて以来、今日、久しぶりに顔を会わせました!つまり…あの時の恨みを晴らす機会は今しか無いのです!』
ひかり、また初代かよ。相当魔力があって、使える属性も多かったのだろうな…チート持ちだろうしな。
「二人共、ひかりさんの所に居たのか?」
『居たこともある…じゃがの』
『そういう事です』
なら、最終兵器が使えるな。俺もこれ出したら魔力も少なくなるし…休憩だな。
「来い!緋鬼王!」
特別強い光を放ち、現れる。俺の持つ最強の式神。力がハイドワーフのアトラスと同じくらいという事しか、まだ知らないけど。
『お呼びですか?主…ん?お前等は…』
『な…な、貴様は…』
『貴様?』
『いえ、緋鬼王様…お久しぶりにございます』
『緋鬼王…様。まさか、こうしてまた再会する事が出来るとは…』
『翡翠も久しぶりだな。それで、主。何用でしょう?』
俺は紅緋と翡翠を見る。顔が少し、青くなっていた。それに緋鬼王が背中を向けているから俺だけ見えてるが…二人して言わないでとポーズで懇願している。あぁ、分かってるよ。
「紅緋と翡翠が過去の因縁とか言って言う事をちっとも聞いてくれないんだ、助けてくれ緋鬼王」
緋鬼王がゆっくりと振り返る。
『『……!』』
そこには綺麗な土下座をしている鬼の姿があった。2体揃っても勝てないくらいの強さが緋鬼王にはあるみたいだな。
『貴様等、主にご迷惑をお掛けしたのだな。昔から何も変わっておらぬではないか!見た目と中身が同じ過ぎるぞ!』
『すいませんすいませんすいませんすいませんすいません』
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
やだ…紅緋のあんな姿見たくない…イメージが崩れかける…いや、子供っぽいイメージが強化されていく?…少し大人しくしてくれればと思っただけなんだけど、やり過ぎたかな?
「二人共、因縁って何があったの?」
『『それは…』』
『主、ただの子供の喧嘩ですよ。ひかり様が用意したお菓子を巡っての争いに始まり、似たような事で毎度争う。ひかり様は楽しんでいらっしゃいましたが…子供なのは見た目だけにして欲しいと私はずっと思っていましたね。鬼としての誇りが無さすぎる』
くっ、そんな事で殴り合いの喧嘩をするのは少し迷惑が過ぎるな。本人達にとっては大切なのかもしれないけど…お菓子か…アトラスみたいな奴等だな。
「二人共、今の時代ならお菓子は簡単に手に入るし用意するから争わない事!…晴海さん、それでいいかな?」
「いいのでして~面白いモノも見られましたので~」
『タロウがちゃんと、妾のお菓子を用意してくれるなら…構わん。争いもせぬ』
『晴海、よろしくお願いしますね』
『お互い、仕える主の役に立てるようにする事。主はひかり様の様に優しいお方。甘えるならそれ相応の力を貸すのだぞ紅緋』
『わ、分かっておる!妾もタダでお菓子は貰わん』
『翡翠』
『わ、私もです。晴海の役に立ってみせます』
『よし。主、これでよいですか?』
「助かったよ緋鬼王。…もうすぐ戦があるかもしれない。その時の為にお前達にも訓練をしておいて貰いたい。体を動かすのも久しぶりだろ?バレない程度で体を動かしてくれ」
『かしこまりました』
「あ、紅緋と緋鬼王。戦いでは、お前らには特に指示は出さない方がいいだろ?好きに暴れて構わないが敵味方は間違えないでくれよ?」
『私は主の傍に控えさせて貰います。言って貰えればすぐに敵を殲滅して来ましょう』
『妾は暴れるゆえな。くふ、楽しみじゃの。翡翠、続きじゃ。今度は訓練としての』
『あぁ、私も晴海の役に立つために感覚を取り戻しておかねばなるまい。いくぞ!』
その日は紅緋と翡翠の戦いを観戦したり、緋鬼王にやられて式札が破れたりを繰り返して1日が終わった。
式札を使えば、紅緋や緋鬼王が安部家に居て俺が九重家に居たとしても呼び出せる為、九重家で俺の修行がある時は晴海さんに紅緋と緋鬼王は任せる事にした。式札が壊されたら何となく分かるし、その時は余ってる式札でまた召喚して安部家に行かせればいい話だから不都合は特に無い。魔力と式札の消費と式神に移動して貰う手間くらいだ。
「紅緋と翡翠は大丈夫だけど、緋鬼王が本気だしたら式札ごと壊れるから注意な」
『御意に』
『タロウ、頑張ってくるのじゃぞ!』
「タロウさん、また明後日なのでして~」
『お菓子は期待してます』
俺はクタクタのカルミナを連れて九重家までやって来た。
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