第84話 タロウ、将軍に会う
よろしくお願いします!
「お母さん、ただいま」
「あら?桐華、お仕事は?…それに、タロウさんにカルミナさんも…いらっしゃい」
「こんにちは」
「お邪魔します」
「早めに休憩を貰ったの。席は…端っこが空いてるわね」
俺達はテーブル席に座って、まだ朝食が腹の中に残っているからお抹茶だけ注文をした。
「早速だけど、資料を見せて貰っていい?」
「はいこれ。最近に目撃したという報告があった資料を持ってきたわ…あぁ、大丈夫よ。ギルドでは複数枚、同じ資料を用意してあるから気にしなくてもいいわ」
持ってきて貰った資料に目を通す。数日分だと言っていたが結構な数があるもんだな…。
・ゴブリンが山で繁殖していた。
・盗賊が廃墟に住み着き始めた。
・深夜に屋根の上を走る人影を見た。
・別の街から帰る途中の魔物の数が増えてる気がした。
「結構いろんな事が報告されてますね」
「えぇ、まあ。その情報を元にクエストを発注することもありますからね。別の場所へ向かった冒険者の方が帰りがけに何かを発見してくる事も多々ありますよ」
「なるほど…。んー、これでもないな…」
「何か探してる情報でもあるんですか?」
「ねぇ、桐華。ここの街以外の領地で食料や物資をかき集めてる…なんて情報は無いかしら?」
「まるで戦でも起こりそうな事案ですが…。えーっと、たしか…そうですね…。この街より西の方にある領地なんですが…徳川家、安倍家、九重家の初代がこの国を発展させる前から、この国に住んでたと言われてる一族の領地があるんですね…そこが確か、1年前くらいから各領地から物資を集めてるとか…でも、噂程度の話ですよ?」
「調査とかはしたんですか?」
「えぇ、資料によれば何度か冒険者を装って人を送り込んだそうなんですが…問題なしとされていましたね」
「そうですか…ちなみにそこの領地と1番偉い人の名前って分かりますか?」
「アヅチヌ領の織田史郭様ですね。実は…昔のジパンヌは戦が多かったらしくて…そのアヅチヌ領から攻めてくる事もあったとか…今は滅多に国内での争いもありませんけどね。ま、戦なんてしょっちゅう起きても困りますけどね」
アヅチヌ…織田…ま、まぁ。そんな地名もあるだろうし、そんな名字もたまにはあるだろうし。
「カルミナ、帰ったら六道さん達にも聞いてみようか」
「そうね、私達だけだと何にも分かんないしね」
「皆さん、お茶をお持ちしましたよ。サービスで羊羮も付けときますね」
「あ、すいません。ありがとうございます。じゃあ休憩したら帰ろうか」
「カルミナ、もう帰るんですか?」
「桐華だって、お仕事でしょ?心配しなくても機会があればまた来るわよ…でも、しばらくは来れないかも…恥ずかしくて」
「なら、タロウくんが私を呼びに来てくだされば!外でお茶でもしながらお話出来ますね!」
「まて、既に視線で殺されそうなのに桐華さんを呼びに行ったりしたらどうなる?桐華さんの列に並んでる人達に連れ去られるぞ、きっと」
「私とカルミナの為にそれくらい我慢しなさいよ!」
「へいへい…羊羮うまー」
羊羮とお茶を食して、ギルドの近くまで一緒に戻ったがそこで桐華さんとはお別れした。俺達は真っ直ぐ九重家まで帰って来た。
「ただいま戻りましたー」
「ただいま~」
「早かったでござるね。ギルドはどうだったでござるか?」
「「……//」」
「どうしたでござるか?何故か二人に天誅を下さねばならない気分になってきたでござるが…」
「い、いや、何でもないですよ!桐華さんに最近の目撃情報とか色々と教えて貰いましたよ?」
「なら、話を聞かせて欲しいでござる。お客様も来ているでござるからな」
「「お客様?」」
俺とカルミナはベリー先生について行って、六道さんの部屋へとやって来た。
「失礼するでござる。タロウ君とカルミナさんが戻って来たでござるよ!」
「失礼しま…」
「どうしたのタロウ…え!?」
「「誰…!?」」
「二人は初めてお会いするでござるけど、ジパンヌの将軍。徳川駿様でござる!」
「お初にお目にかかる。徳川家の当主、徳川駿である。先日は娘の麻津里が世話になったな」
俺とカルミナは急いで座ってから挨拶を返す。
「将軍様とは知らずご無礼を致しました。九重家と安倍家の門下生である、タロウと言います。隣はカルミナです」
「初めましてカルミナです」
「そう、堅くならずとも良い。ここに居るのは身内の様な者であるからな、話を聞けば…今回の件はタロウが発見した事だとか。余からも礼を言う」
「いえ、その…ありがとうございます」
「タロウ君の言いたい事は分かるでござるよ?何故に将軍様がここに居るのか…でござろう?」
それはそうだ。むしろそれしかない。忠晴さんも居るけどそっちは特に驚きも無いが、将軍様が居るのは流石に驚く。もう連れ出して来たのか?
「今日は三家で集まる理由を無理やり作って、将軍様に九重家までわざわざお越し頂いたでござる。将軍様の警護の者にも三家の当主が居るという事で外れて貰ったでござるよ」
「なるほど。それで、話はどこまで進んでるのですか?」
「昨日話し合った事は話してあるでござる。今後の動きについて話し合おうとしていたでござるよ」
「タロウ」
「あぁ、なら丁度良かったかもしれませんね」
「タロウ殿、何か分かったのですか?」
「先程、ギルドへ行って来まして…受付の桐華さんに色々な資料を見せて貰うと同時に噂を聞いて来ました。何やらアヅチヌ領が1年前くらいから物資を集めていた…という噂です。聞いたことがあるのでは無いですか?」
俺が聞いた事を伝えると三家の当主の顔に少し陰が射した様な気がした。やはり何かしらの事情があるのかもしれない。
「タロウ君、アヅチヌについてはどのくらい知っているのかな?」
「桐華さんに聞いた事以上は知りませんね。領主は織田史郭という人物で三家より前からこの国に住んでいて…昔は戦も多かったとか。その程度ですね」
「そうですか…。なら、その情報に付け加えなければいけませんね。確かに織田家は私達より前に住んで居たと言われてます。私達の先祖がこの地に来て繁栄させましたが…勿論、織田家の力も借りているのです。だから最初は三家では無く、四家だったのですよ」
「四家…ですか」
「そうです。元々は織田家がこのジパンヌを統治していまして、我々の先祖が繁栄させた形ですね。織田家が統治していたお陰で繁栄させるのにも時間はあまりかからなかったようです」
つまり、スポンジケーキが織田家でクリームや果物でデコレーションしたのが三家の初代って感じか。…あんまり上手く例えれなかったな。
「織田家は…離れて行ったのですか?」
「初代様の頃は上手く行ってたそうです。織田家の当主も繁栄する事自体には協力的だったと聞きます。ですが…代を重ねる毎にだんだんと問題が出てきまして…土地や権利等ですね、それで徐々に対立して溝が深まって…といった感じです」
「苺や葡萄が産まれる前、それこそ拙者達が子供の頃は戦もたまに起きていたのだ」
「そうでしたね。私達が大人になる頃には減ってきましたけど」
「余達の父上はそれはそれは忙しかったであろうな」
「話からして、織田家が今回の首謀者とみて取れるのですが…」
「織田家だとしたら…こちらの戦力も分かってる筈ですしあり得ますけど…。織田家の戦い方は搦め手もありますが、それは戦いの時だけでして、戦う前のこんな方法はらしく無いんですよ…そこが少し気になりますね」
「確かに…人質を取ったりするやり方はらしくない。猪突猛進、とりあえず突き進むのがあの家のやり方の筈だ。こんな手を考える輩が側に居るのか?」
「とりあえず、織田家の方の監視体制を強化する事。余からはそれだけだ。戦なれば民を守る為に最善を尽くせ…良いな」
「「はっ!」」
「六道は戦時に兵の指揮を取れ。忠晴は街の防衛の指揮と敵の動きを探ること。作戦立案は二人でせよ。後の事は任せる…が全ての責任については余に持ってこい」
「駿殿、後の事は任せておけ」
「家族の方も敵の動きに合わせて順に匿って行きますのでご安心を」
「頼むぞ。…タロウ、カルミナ、二人も巻き込んで申し訳無いが、手を貸して貰えないだろうか?恐らく…織田家との溝が埋まる事は先の未来にでも賭けるしかないのだろが…な」
「僕達は冒険者ですが…今は二家の門下生です。修行を途中で終わらせたく無いですし協力させて貰います」
「助かる。此度の戦で織田家の戦力を削いでおきたい。勿論、こちらの被害は最小限になるように…だ。時が来たら冒険者達にもクエストとして発注しよう。二人は六道か忠晴の指示に従ってくれ」
「分かりました」
「街は守って見せるわ!」
「では、話し合いはここまでで良いですかね」
「そうだな。苺、私と忠晴殿で駿殿を見送ってくる。帰ったら作戦を詰めていくぞ」
「分かったでござる」
将軍と六道さんと忠晴さんは部屋から出ていった。部屋にあった張り詰めた空気感も弛緩されて行き、ようやく肩の力が抜けていった。
「まさか、将軍様が居るとはなぁ」
「びっくりしたわね。でも、やっぱり上に立つ人の雰囲気はあるわね」
それから六道さんと忠晴さんが戻ってくるまでは将軍様の話をしていた。
◇◇◇
「苺、タロウ殿とカルミナ殿の修行は対人のモノに変えておきなさい」
「分かったでごさるよ」
「タロウ君、式神の修行もとりあえずは火属性の式神に限定して戦闘訓練をしようか。まぁ、私も忙しくなるから…その事は今夜にでも家に来た時に話そう」
「わかりました。そういえば…」
「どうしたでござるか?」
「桐華さんに見せて貰った資料ですけど…魔物の目撃情報がやけに多かったと思いまして。偶然とか重複してたりとかもあるかも知れないですけど…ダメですね、何でも関連付けようとして。」
「一応は覚えておこう。私と忠晴は作戦を考えてくる、今日はこれにて解散だ」
「タロウ君、カルミナさん、ではまた今晩に」
俺とカルミナとベリー先生は部屋を後にして食堂へと向かった。お昼を軽めに頂いて午後は各自で時間を潰していた。
九重家にある与えられた自室で俺はボーッとしていた。
「召喚 ピヨリ、ルミナス、アトラス、アクエス」
みんなを召喚して、今度戦いがあることを教えておいた。ルミナスとアクエスは戦闘時に頼りになるし、ピヨリも最近はすくすくと育っていて空からの攻撃や人を1人くらいなら運べる様になっている。アトラスもその力は助けになる。
「今は落ち着いて居るけど、徳川家の人の近くには敵がいる。タイミングを間違えれば首が飛んでしまうからな。まずは正確な情報が必要になってくる。ピヨリとルミナスで西の方に飛んで、敵の様子を見に行って欲しい。織田家もそう遠くない場所で準備をしていると思う。違ったらゴメンだけど」
『分かったッピ!』
『タロウ、カルミナも自分以外の女を認める決意をしてましたね。これで心置き無く…いえ、何でもありません。ピヨリ、背中に乗せて貰いますよ』
「た、頼んだよ…二人共…う、うん。気を付けてね」
『タロウさん、私はどうしたらいいの?』
『お菓子はあるのかぁ?』
「アクエスにはエドヌ城にいるマツリ様。黒髪のお姫様だ。その子の様子を見守ってあげて欲しい。近くに居るくノ一と白永という侍は敵だけど、アクエスなら精霊だし見えないからな。」
『分かったの!』
「もし、姫様が危なそうだったらすぐに教えてくれ。頼んだぞ」
『あたしはどうするんだぁ?』
「アトラスの出番はまだ先になるかな。力が必要になったら頼らせて貰うよ。…そうだ!今日は二人でお菓子でも食べに行こうか」
『やったぁ!お菓子だぞ~。』
「人通りも多いし、肩車してあげるから行こうか」
アトラスと二人で街をぶらつきながら、アトラスの気になるお菓子を二人で食べたりして気持ちをリフレッシュさせた。アトラスの喜んでる姿とか見てたら何だか癒されたし、明日からも頑張れそうな気分になった。
◇◇◇
アトラスと街へ行っていた事が普通にバレた。カルミナに…。だからって、どうという訳じゃないのに何故か責められて、今日は街でご飯を食べてから安倍家へ行く事になってしまった。
街を歩いて食事処を探していたら丼専門のお店があって、人も多かったから少し並んだがその店に決めて、俺はカツ丼をカルミナは親子丼を食べた。丼の種類も多く、また来る予定だけ立てて安倍家に行くことにした。
「こんばんはー」
俺とカルミナはもう、慣れた感じで玄関から入り忠晴さんの部屋へと向かった。
「忠晴さん、タロウですが。」
「どうぞ、入ってください。…お待ちしてましたよ。どうぞ、お座りください」
「あ、はい。ありがとうございます」
「明日からの修行についてお伝えしておこうと思いまして。午前中にもお伝えした通り、タロウ君には火属性の式神での戦闘訓練をして貰います。戦が終わればまた、元の修行に戻って貰いますがね。それで、タロウ君の戦闘訓練の相手ですが…空いていれば私も顔を出しますが、六道さんとの話し合いもありますから晴海に任せたいと思います。よろしいですか?」
「はい、大丈夫ですが…場所は他の方と同じ場所でいいんですか?まだ入りたてなので反感があったりとか…晴太君とか…晴太君とか…あと、晴太君ですね」
「息子をあまり嫌ってあげないで欲しいのですが…では、この前緋鬼王を出したあの場所なら滅多に人も来ませんし、場所もそれなりに広いので使ってください」
「分かりました」
「先生、私はどうすればいいのかしら?」
「カルミナさんの事は妻に任せますが…いつ何があるか分かりませんので魔力を少し回復したら動けるくらいの消耗でお願いしますね。使う技の威力調整なんかをして貰えると助かります。妻には私からも伝えておきますね」
「分かりました!」
「話は以上です。二人には国内の問題でご迷惑をお掛けしますが…よろしくお願いします。では、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
俺とカルミナも部屋に戻り明日からの修行に備えて寝ることにした。…が、隣にカルミナがいるのはいつも通りの筈なのに、いつもより少し緊張して中々寝付けなかった。
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