第82話 タロウ、首を痛める
よろしくお願いします!
「待たせたわね!」
姫様達が城へと戻ってから30分程度経った頃、ようやく戻ってきた。服装は町娘の装いと思いきや冒険者風の格好になっている。
「姫様、くノ一の方は離れて護衛するとしても、お侍さんはどうしたんですか?」
「白永も離れて護衛してくれるらしいわよ!気が利くわよね。あと、この格好なのだから姫様は止めてくださいましね?」
そう…だな、街中で姫様は不味いか。それにしても、近くに来ないとはありがたいな。油断してる…それかバレて無いと思っているのか…でも、その方がこっちもボロが出ずに済むから助かるな。
「マツリ様…もダメですかね?何てお呼びすれば…」
「様さえ取ってくださればいいのよ?今日は許します。桃ちゃん達もね!」
「分かりました。では、マツリさんで」
「私もマツリさんと呼ばせて貰うわ!」
「マツリちゃん…不思議な感じですが、今日は楽しみましょうね!」
「うむ!では、出発なのよ!」
俺達は姫様を連れてお店が多く建ち並ぶ方へと遊びに出掛けた。
「街に出るのも久しぶりなのよ~」
「そうなんですね、マツリさんは普段は何をされているのですか?」
「私はお国の事には関わっていませんからね…城の自室で勉強したり、遊んだり…とても、とても退屈なのですよ?いつもはそうなのですが…運命のあの日です!暇潰しにと外の景色を見ていたんです!そしたらですよ…いつもと同じ風景にいつもと違う景色が見れたのは。あの光輝く魔法は退屈で仕方なかった私の心を照らしたんです。はぁ…もう1度だけでも…いえ、旦那様になって頂ければいつでも…ぽっ…」
ぽっ…って。何をしているか聞いただけでこの回答の量だ。迂闊に質問も出来なくなっているが…間が持つのだけはありがたいんだよな。
「その魔法を使う方が旅人でしたらどうするのですか?マツリさんはエドヌから離れるとしたら、それこそ政略結婚の時くらいに思えますが…」
「決まっていますわ。決まっているのですよ?エドヌに囚われている私を、旦那様が拐いに来て下さるに決まっているのですよ?そして、旦那様と一緒にエドヌから離れるのです。父上には旦那様が見付かったら出て行くと言ってありますのよ?」
どんな覚悟を持ってんだよ…。しかも拐うとか拐わないとか、聞いた事あるような話だし…
「マツリちゃん、出ていっちゃうの!?街の外は危険なのですよ?」
「桃ちゃん、違うのよ?私は出ていくんじゃなくて、拐われるのよ?確かに、私には戦う力は無いですが…私にも出来ることはあるのよ?」
実際に拐われそうな状況下にあるんだけどな…。マツリさんって直感というか、第六感的なのが強い…のかな?
「怖くないの?マツリちゃん。だって、どんな男の人か分からないんでしょ?」
「それは…全く怖くないって訳じゃないわよ?でも、怖い人があんな綺麗な魔法を使ったり、わざわざ文字で来ない事を伝えてくれる訳無いとも思うのよ?」
「それは、そうかもしれないけど…」
「心配無いわよ…私だってその殿方に奥様がいらっしゃったら諦めるつもりよ?一夫多妻じゃないものね"この国は"。…そうだ、タロウ様やカルミナ様のお国はどうなのですか?」
「うちは…」
「一応…一夫多妻です…けど…」
「まぁ!まぁ、まぁ、まぁ!良いではありませんか!その殿方を説得してお二人のお国に住んだらいいのですね!桃ちゃん、解決しましたわ!」
「あ、ハハハ…良かったですね…マツリちゃん…」
「タロウ!」
「いや、どうしろって言うんだよ…。こういう事はカルミナの担当だろ?」
カルミナの表情がぐぬぬ顔から、うぬぬ顔へと変わっていく。カルミナでも乗り切る策が思い付かないのかも知れない。
「お二人は仲がよろしいのですね?」
「ま、まぁ、はい!」
「こ、恋人なんだから…当然よ!」
「まぁ!それは素敵でございますね!お二人は九重家の門下生という事は…修行の旅ですよね。二人っきりで異国の地に…憧れますのよ~」
「そ、そうでしょ!ここまで大変だったんだから!タロウが色々やらかしてね!」
いや、間違ってないけど…カルミナもやらかしてるからな?
「そのお話をお聞かせくださいまし!あ、あそこのお店にでも行きませんか?」
「そうね…いいわよ!桃さんもベリー先生もいいかしら?」
二人の了承も出て俺達はお店に入り、お汁粉を飲みながら思い出話や恋愛話に花を咲かせた。そのお陰もあってか、女の子達は親睦を深められたらしい。ちなみに俺とベリー先生はほとんど蚊帳の外だった。
思ったよりお喋りに熱中していたらしく、店を出た時にはだいぶ太陽が傾いていた。
「どうしますか?もうそろそろ城へ帰りますか?」
「もう少しで暗くなりそうだし、それでいいんじゃないの?」
「私はまだ、遊びたいですのよ?」
「マツリちゃん、あれ…」
「桃ちゃん、何です…の…、あれは占いというやつですわね!さ、早速行くのよ!」
「あ、走ると危ないよマツリちゃん!」
「占いかぁ…タロウ、私達も行きましょう?」
「分かった、けど、あれが終わったら帰宅だな」
俺達は道の端で机と椅子と水晶を用意している…胡散臭そうな占い師が居る所まで歩いていった。
「いらっしゃいませ。何を占いましょうか?」
顔は目元以外は隠してしまっているが、声は女性の物だな。
「私の未来の旦那様を占って欲しいのよ?」
「タロウ、どうする?相性占いでもして貰う?」
「今さら相性が悪い…とか無いし、必要は無いようにも思えるけどな」
「貴女の旦那様ですね。私が占いでは特定までは出来ませんがよろしいですか?」
「もちろんなのよ!」
「では…」
占い師がブツブツと何かを唱え始めた。雰囲気はあるが特に水晶が光ったりするわけでも無かった。
「見えます…見えてきました。ふむ、なるほど。ふーん。ふむふむ。」
「ど、どうなのかしら?」
「貴女の未来の旦那様ですが…既に出会われている、という結果がでましたね。それに、私に視える光景ではその旦那様なる人に貴女が背負われている光景です」
「本当ですの?うふふ…既に出会っている殿方…やはり、あの魔法使いの…ふふ…」
「マツリさん、どこか別世界に意識が飛んでいってないか?」
「次は私達もお願いするわ!」
「構いませんよ。何を占いましょうか?」
「わ、私達の今後よ」
「占いですので、断片的な物や、不確定な物になりますがよろしいですね?」
「お願いするわ!」
「では…」
先程と同じ様にブツブツと唱え出す。
「ふむふむ。あちゃー。おぉー。なるほどぉ…。分かりました」
「ど、どうなの?」
「そちらの殿方ですが…不思議な力のせいですかね、何も視れませんでした。不思議な事もあるものですね…」
くっ、加護のせいで占いも視て貰えないとは…というか、この人…まさか本物!?
「ですが、貴女の方なら。何と申し上げますか…断片的な情報が水晶に浮かぶだけなので…恐らくですが、幸せ。ですが、嫁問題が少々…と、いった結果がでましたね。私の経験からすると…貴女が1番でしょうが……きっと増えますよ、お嫁さん」
「タロウ!」
「いや、待て!占いだろ!?」
「う、浮気よ!」
「してないだろ!…まだ」
「あー!タロウには私が居れば良いじゃないのよ!」
「そうだけど、占いぐぁぁぁぁ首じめるなぁぁぁ」
「貴女は、寛容な心を持つことですね。隣の男性も貴女が1番だと思っている筈ですよ…きっと…今は…ね。信じてあげる事も大切です」
「あああああ!タロウゥゥゥゥ!!」
「だ、だ、大丈夫だっで、ずっどいぢばんだがらぁぁぁ揺らずなぁぁ」
「それって2番目は有り得るってことぉぉぉぉ!?」
「ぐぅええ~…」
「二人共、落ち着くでござるよ」
「そうだよ、お姉ちゃん私達も占ってもらいましょ?」
「では、お席にどうぞ。ふむふむ。あー、はいはい。あらー。分かりました」
「どうですか?」
「妹さんの方は、将来的に視て…普通ですね。なんと申しますか…普通です。お姉さんの方は…妥協をすれば…何とか、ギリギリのギリギリで…」
「普通…」
「ギリギリ…」
この人は本物なのかもしれない。ベリー先生がギリギリという事まで見抜けるなんて…凄い人も居たもんだな。
「では、そろそろ店じまいにさせて貰いますね。暗くなって参りましたので」
「ふぅ…ふぅ…あ、あの、1人おいくらですか?」
「いえ、趣味でやっているだけですからお金は要りませんよ。所詮は占いですからね…では」
占い師はそう言って裏路地の方へと消えていった。カルミナはそろそろ俺の首に添えている手を放した方がいいと思う。
「はぁ…はぁ…帰ろうか」
「タロウ、帰ったら話がありますからね!」
「うふふ」
「普通…」
「ギリギリ…」
占い師は短時間で俺達のメンタルを良くもわるくも壊したのだった…。
◇◇◇
「おい」
「あら、何でしょうか?今日の占いは終わりましたよ?」
「冗談は要らない。それで、魔族の姿に戻らなくても未来視は出来たのだろう?結果はどうだ?」
「お姫様は死に、街は燃え盛ってたわ。あなた達の作戦は成功する…と、上に伝えなさい。私達は他の所へ移動するけど下級魔族は何体か置いていくわ。好きに使いなさい」
「分かった。こちらは作戦通りに進める。これで本当に私達の雇い主がこの国を…徳川家から取り返せるんだな?」
「えぇ、大丈夫よ。それじゃあ行くわね」
占い師は男から離れて道を曲がる。そこには別の男が待っていた。
「デグア様、此度の作戦は失敗です。街の人間を何人か視ましたが…思ったより死ぬ者は少ない様です。ですが、少なからず混乱は起こるでしょう」
「…失敗か。まぁ、人族の国など幾らでもある。多少なれど混乱するのであればよい。」
「はい…。それと少し…いえ、何でもありません。次はどちらに参りますか?」
「そうだな、人族の国にあるダンジョンを少し弄ってやろう。行くぞサニーバ」
「はい、デグア様」
少しずつ、大陸中で魔族の動きが活発になり始めていた。
◇◇◇
「では、名残惜しいでございますがこの辺でお別れなのよ…」
「僕達もこの国に居ますし、また会う機会はありますよ」
「そうよ、またお話しましょうね」
「さようなら、マツリ様」
別れの挨拶をしていると、城の近くまで戻ってきたからかお侍さんも近寄ってきた。
「皆様、今日は姫様の我が儘にお付き合いくださりありがとうございました。ベリー殿、依頼料はギルドで受け取ってくだされ」
「分かったでござる」
「白永、次はいつ外に遊びに行けるのかしら?」
「姫様、今日だって特例なのですぞ!それを分かってくだされ…では、戻りますぞ」
「分かってるわよ…では、皆様…また」
姫様が門をくぐり、見えなくなるまで見送ると俺達も帰る事にした。出来れば今すぐ走って帰りたい所だが、ベリー先生が「くノ一につけられているでござる」…と言ったので、怪しまれ無い程度の速さで九重家まで帰って来た。
「父上、至話があるでござる」
「戻ってくるなり…何かあったのか?」
「ベリー先生、安部家の忠晴さんも呼んできた方がいいんじゃ無いですか?」
「そうでござるな…ちょっと呼んでくるでござるから、タロウ君とカルミナさんで話を先にしておいて貰えるでござるか?」
「分かりました。六道さん、桃さん、どこか話せる場所へ」
「え?お姉ちゃん…な、何かあったの?」
「それを今から話すでござるよ。すぐに忠晴さんを連れて参るでござる」
「なら、話もその時に一緒ででいいだろう。とりあえず私の部屋へ行っておく」
「分かったでござる」
ベリーさんは家を飛び出して安部家へと走っていった。
「桃、母さんにお茶とお茶請けの準備をして貰うように伝えてくれるか?タロウ殿とカルミナ殿はこちらへ」
「すぐに言ってきます!」
俺とカルミナは六道さんの部屋へ行き、座って待つ事にした。
「それほど急な話しかね?」
「急…というか、この国や街が大変な事になるかも知れない…という話です。今はまだ何も起こってはいませんが、何かが起きる準備は整えられていますね」
「なるほど。その事を知る者は誰が居るかね?」
「とりあえず、僕とカルミナとベリー先生です。桃さんには教えませんでした。」
「という事は…今日の修行中に何かに気付いたんだね?」
「はい。僕やカルミナでは事情が分からず、ベリー先生もルールト王国に居ましたからね…詳しい事は分からなかったみたいです。ですから、六道さんと忠晴さんに話して指示を仰ごうと」
「うむ…。とりあえず続きは忠晴殿が来てからにしよう」
「父上、母上が忠晴さんが来てからお茶を持ってきてくださるそうです」
「分かった。桃もそこに座って待ってなさい」
ベリーさんと忠晴さんが来たのはそれから10分後の事だった。忠晴さんが風呂に入ろうとしていた為に少し遅くなったそうだ。
変なタイミングでお呼び立てして申し訳無いが、緊急な会議なので我慢して貰おう。
「皆様、お茶をお持ちしましたよ」
「ありがとう一穂。後はこちらでやる。後で話すことがあると葡萄にも伝えておいてくれ」
「分かりました。では、忠晴さんもごゆっくり」
「はい、ありがとうございます」
「では、私が話を進めるでござる」
作戦会議の始まりだ。
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