第81話 タロウ、不穏な予感がする
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朝起きて ヨダレを拭いて ランニング
「いい川柳が思い浮かんだ。まぁ、どうでもいいか。ほら、寒いけど起きろカルミナ!」
「起きてる…起きてるわよぉ…」
「アクエス」
『どうかしたの?』
「ちょっと、この器に温かい水を用意してくれるか?」
『お任せなの!』
アクエスにぬるま湯を用意して貰って、それにタオルを浸けてよく絞り、カルミナへと渡す。
「これで顔拭けば少しは目覚めるだろ?ありがとうアクエス。はい、これお饅頭」
『構わないの!朝飯前なの!』
「ふぅ…じゃあ、今日も行きましょうか」
軽く準備体操をしてランニングを開始した。流石にこの時間に冒険者は居なかったが敷地を2周して、最後の1周しようとした時には空は薄暗いけど冒険者もちらほらと見掛けるくらいにはなった。
「みんな探しているわね…いったい何の用なのかしら?」
「ホント、それを書いてくれれば対処し易いんだけどな…」
「まぁ、私達には関係ない…という事よ」
「そうだな。城の方にも偽物達が溢れているんだろ?対応が大変そうだけど大丈夫なんかね?」
「自業自得ってやつよ。もっと…こっそり探し出せば簡単に見付けられた筈よ?まぁ、後をつけられてたらベリーさんが気付くでしょうけどね」
「そだな。かといって偽物が本物としてお金を貰ったとしたら何か納得もいかないけど」
「その時は名乗り出たらいいんじゃない?」
「それもそうだな。よし、ラストスパートダッシュだ!」
俺達はランニングを終えて朝食を頂き、修行の準備をし始めた。
「タロウ君、カルミナさん、桃、今日の山登りは中止にするでござる!」
「中止…ですか?」
「中止でござる。行こうかとも思ったでござるが、山を監視してる者が居るでござるからな…さすがに修行感覚で山を登ってたら怪しまれるでござるし」
「そう…ですか。じゃあ午後から何をするんですか?」
「せっかくでござるから、エドヌ城を見に行かぬでござるか?」
「え!?修行しなくていいんですか?」
「今日くらいは構わぬでござろう?まぁ、砂の入ったリュックや重りなんかは用意して仕込んで貰うでござるけど!」
「一応…そういう事するんですね。でも、楽しみですねエドヌ城」
「そうね、近くまで行ったこと無かったし…桃さんはあるの?」
「えぇ、まぁ…九重家の子供なので入った事もありますよ。あそこには麻津里様もいらっしゃいますしね」
「マツリ様?そういえば、徳川家って知らないな」
「そうね…桃さん、人だけでも教えて貰えるかしら?」
「いいですよ。将軍様が徳川駿様です。その正室であらせます、美輿様。その第一子で若様であらせます、天道様。そして、私や安部家の晴海ちゃんと同じ歳の麻津里様です。他には将軍様の弟様とか、美輿様の姉妹等を含めるともっといますね」
「ほぉ…ハヤシ様が俺達で言う所の国王的な感じ?」
「まぁ、そんな感じでござるよ!基本的にはルールト王国と同じ感じでござるよ…ルールト王国といえば…カルミナさんとタロウ君は…」
「わ、わー!カルミナ、桃さんとお昼を食べてくると伝えに行ってくれ」
「わ、分かったわ!任せて」
とりあえず桃さんを引き剥がし、俺はベリー先生と二人になる。
「カルミナがお姫様で俺が伯爵家の子供ってのは秘密ですよ!面倒臭い事にしかならないので!」
「分かったでござるよ。桃も気後れしてしまうでござるし、旅をしているでござるから…姫だと信じて貰えないとは思うでござるが…ちゃんと秘密にしておくでござる」
「お願いしますね。あ、ルミナスの本当の正体の事はカルミナも知っているので大丈夫ですよ」
「分かったでござる」
それからカルミナ達が戻ってきて、午前中の修行が始まった。素振りに受け流しに模擬戦だ。それをこなして、俺達はエドヌ城に向けて出発をする。もちろん、全身に重りの装備を着けてだが…
◇◇◇
「普通にキツいな、というか…重い」
「一歩一歩が重たいわね…」
「この状態でエドヌ城は遠すぎるよ、お姉ちゃん」
「頑張るでござるよ~。帰りはリュックを降ろしていいでござるから、行きくらいはキツくしておくでござる」
街の入り口があって、そこからずっと真っ直ぐに行けばエドヌ城に着く。九重家と安部家は徳川家に何かあった時にすぐに駆けつけられる様にそこまで離れた所に屋敷が在るわけではないが…街の治安もある為、エドヌ城に近すぎるという事もない。
「あぁ…凄い人だかりですね…」
エドヌ城を目指して歩き、近付くにつれて人が増えているとは思っていたが…
「予想以上でござるな。水魔法が得意な者が集まって…何やら演芸の様になっているでござる」
「そりゃ、人も集まりますよね…」
「もっと、近くまで行ってみましょうよ!お城を下から見上げてみたいわ!」
「そうだな、近付ける所までは行ってみよう。いいですか?先生」
「おい、あれ…九重家の苺様じゃないか?」
「ホントよ!?まさか、苺様が探し人なんじゃないかしら?」
「道を空けてやれ!」
「凄いですね…ベリー先生…」
「Aランクは嫌でも目立つでござるよ…」
噂があっという間に広がっていき、前方まで通っていける道が出来上がってしまった。有名人パワー恐ろしや…。
前方まで進むと、5人くらいが同時に台の上に立って水魔法を使っていた。左から2番目の男の魔法が1番大きいけど…山で使った魔法はあれに光魔法を使った演出をしている為に大きいだけでは足りない。
「ちっがーう!もっと、キラキラしてたのよ?」
「姫様はこう申しておる。貴様らは違うようだな、去れ!次の者、前に!」
1人の子供が判断し、隣のお侍さんが進行を務めている。
「あれがマツリ様?」
「そうですよ。綺麗な黒髪に白い肌。可愛いですよねー」
確かに、黒い髪が腰まで伸びていて前髪は真ん中で分けられているから、整った顔がハッキリと見える。
「ん?そこに居るのは桃ちゃんなの!おーい!」
「姫様が手振ってるぞ?」
「私達に気付いたんですかね?マツリ様~」
姫様がお侍さんに何かを耳打ちした後に、そのお侍さんがこちらへとやって来る。
「桃様でございますね。姫様がお呼びです。お連れ様方もどうぞ」
「近寄っても大丈夫なんですか?」
「はい。桃様の知り合いならば…と、姫様が申しておられます」
「そういう事でしたら、お言葉に甘えさせて頂きます」
今回は桃さんを先頭にして姫様の元へ向かった。その間にも挑戦者達は次々に失敗の烙印を押されていく。
「おはようございます、マツリ様」
「うむ!桃ちゃんは今日は何用で来たの?」
「観光…とは少し違いますけど、何やらイベント事が開かれていると…」
「そう!先日、私が城から外を眺めていたら、山の方で大きな水が光っていたのよ!それで、一昨日は文字が浮かんだのよ!?こうして、その魔法を使った者を探しているのだけど…なかなか…」
ヤバい…誰かが見てたとは思っていたが…まさか姫様だとは。冷や汗が…。
「そ、そうなんですね…凄い方も居るのですね」
「凄いのよ!凄くて凄くて凄いから…これはもう私の結婚相手にするしかないのよ!」
「「結婚相手!?」」
「皆様、申し訳ありません、姫様が先日からこの様子でして…政略結婚するくらいなら…と」
「桃ちゃんなら分かってくれるでしょ!分かってくれるわよね?」
「せ、政略結婚は嫌ですよね、ハハハ…」
「ちょっと…タロウどうすんのよ!?」
「どうする…って、姫様の熱気が冷めるのを待つしかないんじゃ…?」
「桃ちゃんにも見せたかったわね。あんなに綺麗な魔法を見せてくれるなんて…素敵な方。それで、そちらの方達は桃ちゃんのお知り合いなの?」
「あ、はい。九重家の門下生でタロウさんとカルミナさんですよ」
「は、初めまして」
「初めまして」
「異国の方なのね?どちらの国から来たのかしら?」
「あ、はい。ルールト王国からです…」
「そうなの…行ったことの無い国ね。あなた方も私の旦那様を見付けてくださいましね?」
「そ、その件なのですが…もし、その魔法を使っていた方が女性だったら…どうするんですか?」
「そ、そうですよマツリ様。女の方なら夫には…」
「そんな事は絶対に無いのよ?あるわけが…無いでしょ?」
「いや、万が一にも…」
「桃ちゃんは私に政略結婚をして欲しいの?して欲しいのね?酷いわ…桃ちゃん」
「ち、違いますよ。きっと男性です!姫様がときめいてらっしゃるのですから、きっと素敵な男性ですよ!」
桃さん!?…くっ、姫様の味方か!
「そうよね?そうですわよね?さすが、桃ちゃん!良いこと言うわね!」
「でも、やはり名乗りでないのでは無いでしょうか?」
「名乗り出なくても良いのよ?きっと私達は巡り会う運命なの。だから…今は巡り会う時を少しでも早めて待っているのよ?」
め、巡りあっちゃってるぅぅぅぅ!ヤバいな…何がヤバいかというとこの感じは神ハルミナに通じる何かがある。性格的な…こう、尽くしすぎる的な…。
「カルミナ、どうする?」
「黙秘よ…タロウが、夫なんて…。わた、わた…私が最初なんだから!」
最初じゃなければ良いみたいに聞こえなくもないんだけど…。カルミナも少し状況についていけて無い感じだな。
「タロウ様、カルミナ様…何をコソコソとお話しているの?私もまぜて欲しいのですよ」
「い、いえ!何でも無いです!エドヌ城は荘厳だなぁ~って!」
「まぁ!嬉しいです!いつか、お二人の出身国にも行ってみたいですね」
「そ、それは嬉しいよな、カルミナ?」
「そうね、ぜひ…いらしてくださいね」
「ふ、二人共…そろそろここを離れるでござるか?」
「そ、そうね」
これ以上居たらいつボロが出るか分からないからな。
「桃」
「うん…。マツリ様、そろそろ私達は街を巡って来ますね。素敵な殿方が見付かると良いですね」
「あら…もう行ってしまうの?それは残念なのよ?…そうよ!とても良いこと思い付いたわ!」
良いことを思い付いた…。恐らく姫様にとって良いことであって、他の人達にとっての良いことじゃ無いんだろうな…知ってる。
「マツ、イチ」
「はっ」
「ここに」
驚いた。急に二人が姫様の背後から登場した。しかもあの格好って…
「忍者?女の人だからくノ一?」
「タロウ君、よく知っているでござるな」
「何よ、その忍者?ってやつは」
「あれだ、要人を密かに護衛したり、密書を届けたり…暗殺したり…何でも屋かな?」
「へぇ~。そんな職業もあるのねジパンヌって!」
「姫様!いけませぬぞ!」
「マツ、イチ、説得してなの!」
「ですが、姫様…。最近物騒な噂もありますし」
「です。」
「貴女方が護衛に付くのですから…しかも向こうには九重家の苺さんもいらっしゃるのよ?」
「ですが、姫様!街へ出掛けるなど…」
「なら、貴方もついてくればいいのよ?みんなで変装すればいいじゃない」
「姫様、我が儘は困りますぞ…」
「話が断片的に聞こえてくるけどさ…」
「姫様…まさかついてくる気?」
「お姉ちゃん…どうするの?」
「最近、怪しい輩の目撃情報があるでござる。徳川家を狙っているのか定かでは無いでござるが…。だから、あまり街には行かないで欲しいござるが…」
「マツリ様…我が儘姫として有名だもんね…」
「苺殿。すまない…貴女に指名依頼がある。護衛を…頼めないだろうか?」
「はぁ…厄介事の臭いがするでござるよ…」
「桃ちゃん、一緒に街へ行けるのよ!」
「良かったですね、マツリ様。ですが、探し人は良いのですか?」
「良いのよ?あそこに並んでる者の中には居ないのよ?あれは、最近この辺りを彷徨いている者への、こちらの戦力を見せるショーなのよ?」
まさか、そんな事を考えていたとは…この姫様、意外と頭が切れるのかもしれないのか?
「凄いね、マツリ様。そんな事まで考えていたのですね!」
「違うのよ?私は旦那様を探してるのよ?それに父上達が色々と加えたのよ?」
あ、そうなんだ。
俺達が話して居ると、くノ一の二人とお侍さんが話している。変装や護衛の配置の相談でもしているのかも知れないな。忍者のスキルって気になるな…俺も1回くらいは黒装束を着てみたい。
「ちょっと見せて貰うか…鑑定。……ヒェ~」
「ちょ、どうしたのよタロウ?急に変な声をだして」
俺の鑑定もいつの間にか強化されていて、相手のステータスで出身地や職業、その他詳しい事が見れる様になっていた。俺が見た3人のステータスには、忍者なんて書いてなく、暗殺者。そして、徳川家の手の者では無い、別の所から送られてきている暗殺者…という事が分かってしまった。
「地位の高い所にいるって大変だな…」
「それはそうよ、色々な責任やら問題が付きまとってくるんですもの」
それにしても…なぜまだ姫様は死んでいない?あの距離感からすると数日、数ヶ月前に世話役になった訳ではなさそうだし…。という事はかなり前から計画されている?何かが…起きる?
「では、私は着替えてくるからな!桃ちゃん、待っててね」
「はい、お待ちしておりますよ」
姫様が他の3人を連れて城へと戻って行く。このメンバーには知らせておくか?…いや、カルミナはスキルで表情を誤魔化せるが桃さんは無理そうかな?
「ベリー先生、少し…」
「どうしたでござるか?」
「桃さんは顔に出そうなのでベリー先生とカルミナにだけ言っておきたい事が…」
「分かったでござる。桃、カルミナさん、リュックも重りは外して良いでござるよ。修行は一旦終わりでござる。桃、みんなに飲み物を買ってきてあげて欲しいでござる」
「分かったよお姉ちゃん」
「カルミナ、ちょっと」
「どうしたのよタロウ?」
桃さんが離れた隙にベリー先生、カルミナを集めて鑑定で見たことを伝えた。
「ふむ。他の所から来てる暗殺者。どこか分かるでござるか?」
「イガヌという所の暗殺者らしいですが…どこの街の人物が雇ってるかは分かりませんね」
「イガヌ…暗殺者も忍者もほぼ変わらぬでござるな。暗殺者の方が忍者より殺しに特化しているだけでござる。たしかに姫様はまだ生きておられる。タロウ君、礼をいうでござるよ」
「いえ、でも分からない事だらけですね…」
「どこかがエドヌに攻めてくるって事よね?人と人で争いが起こるのかしら?平和な国だと思っていたけど…」
「それはしょうがない…よ。全員が幸せなんてほぼあり得ない話だ。さて、どうしますか?」
「とりあえず今日、明日で姫様が死ぬ事も無さそうでござるからな。…恐らく、攻めて来た時に人質として利用するのでござろう。それまでに何とかしないといけないでござる。帰ったら父上とも話すでござるよ」
「皆さん、飲み物を買ってきましたよ!」
「じゃあ、顔には出さない様にするでござるよ」
「分かりました」
俺達は飲み物を飲みながら、着替えに行った姫様達を待っていた。
何かは起こる。それは間違いないだろう。俺とカルミナはよそ者だが、エドヌの街が壊されるのを黙って見ておくつもりはない。人を斬る事になっても戦いに身を投じるだろう。
「魔王や魔族は動き出してる…人と人が争ってる場合じゃないというのに…」
俺の呟きは街の喧騒の中に消えていった。
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