第80話 タロウ、指名手配?
よろしくお願いします!
お決まりのカルミナの布団潜り込みにも慣れてきた。今日の言い訳としては、俺の腕が心配だった…という事らしい。太もものお陰様で怪我をしていない左腕の調子は中々に良かった。
せっかく治ったと思っていた体は筋肉痛を再発し、尚且つ腕の痛みもあるというダブルパンチをくらいながらも今日も朝はランニングへと出掛けた。継続は力なりってね。
「カルミナは今日も魔力の上限を伸ばす訓練か?」
「多分…そうね。でも、伸びている実感があるからそれだけは嬉しいわね」
あの、晴海さん曰くとても不味い飲み物を飲まされているだけの効果はあるみたいで良かったな。
「あ、そうだ!カルミナの言う通りだったぞ」
「ん?何の話?」
「俺が式神の修行を早く終わらせるって言った時に、もっと何かがある的な事言ってただろ?本当にあったんだよ」
「やっぱり!間違ってなかったみたいで良かったわ!私の勘も捨てたもんじゃ無いわね!」
「あぁ、助かったよ。どうやらソレに気付かない限りは教えないらしくてさ、本当にありがとう」
「良いのよっ!」
「そう言えばカルミナ、模擬戦の時のお願いって何か決めたのか?」
「んー、まだよ。何でも聞いてくれるって話だから考えてるの!楽しみに…していてよね」
カルミナが悪い笑顔を見せてきた。いったい、何をさせられるのやら…そんな話をしながら今朝のランニングは終了した。
◇◇◇
「じゃあ、カルミナも頑張って」
「タロウもね」
朝食を頂いた後で俺はカルミナと別れいつもの部屋へと向かった。扉を開くといつもの様に晴海さんが居て、いつもとは違うのは晴太君がいる事だった。
「お前か、たしか…何て言ったか?」
「タロウだよ、タロウ」
「そうそう。それで?お前は何をしに来たんだ?」
「あー…いつもの様に式札と伝承を読みに来た」
「ふ~ん、という事は魔力はそれなりに有るみたいだな?ま、俺は既に戦闘訓練にまで入っているけどな!」
何だかなぁ…そういう年頃っていうのが分かるから冷静に対応出来るけど、普通に鼻に付く奴だな。
「じゃあ…何しに来たんだよ?」
「火属性は攻撃力が高いし使えるが…そろそろ他の属性も扱ってみようと思ってな。ここで今一度イメージを固めに来たって訳だ」
「風魔法も使えるのか?」
「まぁな…俺は火と風と雷属性だ。ま、凡人とは出来が違うからな!くははは」
3属性か…普通なら凄い筈なんだが…こいつが言うと全てがショボく聞こえてしまうな。不思議…でもないけど。晴海さんは部屋の端の方で黙々と本を読んでいて顔すら上げようとしない。そこも少し気になるな。
「へぇ…凄いなー」
「まぁ、お前も安倍家の門下生なら恥ずかしく無いように精進するんだな?」
「はいはい。それで、火属性は何が出せるんだ?参考までに知りたいんだけど」
「俺は既に鬼人の更に上の紅蓮丸まで操れるぜ!」
「紅蓮丸…」
「驚いて固まっているようだな…ま、お前は入ったばかりだからな。これから頑張りたまえ」
「紅緋は?忠晴先生に見せて貰ったけど?」
「紅緋は…魔力が殆ど持っていかれるくらい高位の式神だからもう少し魔力が増えるまでは喚ばない事にしている」
あー…これは…なんとも。
「そ、そうなんだ。じゃあ…俺も自分の事するから」
「お前も戦闘訓練まで上がってきたら相手してやるよ!…俺はイメージが固まったからそろそろお前らの先に行くぜ。ふはははは」
そう高笑いしながら晴太君は部屋から出て行った。晴太君が高笑いをしている時、いや…俺との会話中も晴海さんは笑いを堪えていたのか、小さく震えていた。
「私の兄ながら、酷いのでして~くふふっ」
「たしか、もう1人のお兄さん…の方は?まだ会った事は無いけど…」
「そちらは、優秀なのでして~。今は二十歳になるのですが、私の年齢の頃には、自分で気付かないと駄目な"アレ"についても、とっくに気付いていたのでして~」
「晴太君は自信家というか…ちょっと上から目線なのは、どうして?」
「単に父上が褒めて伸ばした結果なのでして~。もちろん、叱る時はちゃんと叱っていたのでして~」
「次男だから…とか、関係あるのか?分からないけど…まぁ、とりあえずこの話は隅に置いておくか」
俺は練習用の式札を取りだして、風の模様について考える事にした。次は陸と空の移動用の式神を出したいと思っているからだ。イメージは足の早い動物と鳥で固まってはいるから、後はそれぞれの式札を用意するだけなのだが…。
「やっぱり、流線型の何本かの線に1本だけ風っぽい…クルンっとした線を描くのがいいかな…。これを陸用にするとしたら、空用も考えないとな…」
午前中は風の模様を描くのに時間を費やした。でもその分ちゃんと描き上げる事が出来た。後はこれを…
「晴海さん、綺麗に手直しして貰えないかな?」
「分かったのでして~」
俺の雑な落書きの様な模様が晴海さんの手腕によって綺麗になっていく。俺の模様の原型はなんとかあるが…違いすぎてちょっと凹む…。
「描き上がったのでして~」
「おぉ…ありがとう!晴海さん」
後はこれを俺が練習して、自分でもこのレベルで描けるようにならないと。
「ちなみに私の分も取ってあるのでして~ふふふ、なのでして~」
「ちゃっかりてしるなぁ~…嘘だよ、描いて貰ってるんだからそれくらいは全然いいよ。そろそろお昼ご飯に行かない?」
「はいなのでして~」
晴海さんとお昼ご飯を食べに行って、そこでカルミナとも会ったがクタクタになっているみたいだったから…ソッとしておいた。
午後からは晴海さんに綺麗に描いて貰った式札2種類を綺麗に描けるように何度も練習をした。それに加え、火属性の式札ももっと速く描ききれる様に練習して今日の修行は終わりを迎え…ようとしていたのに。
「おい、晴海居るか?」
「なんでして~?」
晴太君が部屋の扉を開き、中に入ってくるなり晴海さんに声を掛けた。少し嫌そうな顔をしているな…
「風の式札の調子は中々に良かったのでな、気分がいいから今から火属性の式神で戦闘訓練をしてやる。来いよ」
「…私は式札の練習があるのでして~」
「うるさい!お前も火の式神は使えるだろ!?俺が練習に付き合ってやるって言ってんだ、妹のお前は大人しくついてこいよ!」
「おい、本人が乗る気じゃないんだから1人で練習しとけばいいだろ?」
「うるさいぞ素人が!戦闘で使えなきゃ意味無いのも分からないのか?」
「タロウさん、いいのでして…。分かったのでして~」
「ふん!最初からそうしてろっつーの」
「おや?晴太も居ましたか。タロウ君、晴海、今日の調子はどうだい?」
「あ、父上!今から晴海と火属性の式神で戦闘訓練をするところなのですよ!それを新しく門下生になったタロウ殿に見せてあげようと」
「そうか。では、私はタロウ君と観戦させて貰おうかな」
「はい!晴海も早く準備を」
相変わらずの猫被りだな…こいつだけが甘やかされている訳でも無さそうだし…不思議なもんだな。でも、戦闘を観られるのだけは感謝かな。
「晴海、鬼人での戦闘にしよう」
「…分かったのでして~」
二人が一定の距離を取って構えに入った。忠晴さんは晴太君と晴海さんの実力の差を判っているはずだ。晴太君に厳しく指導とかはしないんだろうか…。
「タロウ君、どっちが勝つと思うかな?」
「まぁ、今回は晴太君…ですかね。普通にやったら晴海さんでしょうけど…」
「これは私の失敗なんだけどね…晴太もあの年にしたら十分に凄いレベルではあるんですが……それよりも、晴海はもっと凄かった。本当は同じ分だけ褒めて伸ばしたかったんですけど…。どうしても晴海ばかりに力を入れしまってね。いつの間にか晴海は実力を隠して大人しく、晴太は力を求める様になってしまったよ。私と話す時は良い子だが…他の子と話す時は違うのも知ってはいるんだけどね…どうしたら良いのかよく分からなくなってきてね。」
晴太君は上手く取り繕えてるつもりなんだろうが、親ってちゃんと分かってるモノなんだな。
「厳しくしようと甘くしようと、安倍家という権力について間違った認識をしている限りは、晴太君は晴太君のままですよきっと。だから、間違ったら叱り、成功したら褒める。話したい事があるなら腹を割ってとことん話し合うのがいいんじゃないですかね?まぁ、それでも変わらない様なら他家に修行に行かせるとかオススメしますけど」
「なるほど、うん。参考にさせて貰うよ。ありがとうタロウ君」
「まぁ、個人的には厳しい所に修行に行かせて精神面を鍛えさせるのがいいと思いますよ、ホントに」
忠晴さんと話していたらいつの間にか晴太君と晴海さんの戦いが終わっていた。どうやら勝ったのは晴太君でこちらに走ってくる。
「どうでしたか、父上?」
「晴太、戦闘訓練が終わったらお互いに礼をして終わると教えた筈だ。今、してこなかったですよね。どういうつもり…ですか?」
「え、あ…はい…すいません」
「安倍家の子なら礼節を重んじりなさい。…ですが、式神の扱いは良かったですよ。頑張ってますね」
「は、はい!ありがとうございます」
「さ、ちゃんと礼をしてきなさい。そしたら皆で夕食へと向かいましょう」
晴太君が戦っていた場所まで戻っていく。
「ひゅ~ですね。アメとムチのバランスがいいですね」
「前までなら、ただ褒めていただけでしょうが…これからは晴太に厳しくしていくつもりになりました。変わってくれるといいですが」
変わってくれればいいですけどね。まぁ、変わらなくてもせめて、上から目線くらいは辞めて欲しいかな。お、晴海さんも戻ってきたし、やっと晩御飯かな。
◇◇◇
「うぅ…今日もくたくたよ~」
「お疲れ様」
俺達は安倍家を後にして九重家に向かっていた。エドヌの街は一部を除くと早めに灯りも消えて暗くなる。その一部というのがいわゆる、夜の街だ。ここからでも明るいのが見てとれる。俺もいつか…ごくり。
「タ~ロ~ウ~!また、あっちの街ばかり見て!」
「い、いや明るいからだよ?ついね、つい…ハハハ」」
何とか誤魔化しきれて無いが誤魔化しておく。
「何か…今日は人通りが多いな。こんな時間なのに」
「そうね…何かあったのかしら?冒険者風の人達が多いみたいだけど」
いつもなら安倍家から九重家に来るまでに10組の人とすれ違うかどうかなのに、今日はそれよりはるかに多い人とすれ違っていた。
「何か…探している?キョロキョロしているみたいだけど」
「通り魔なんかじゃ無ければいいけど…早く九重家まで行きましょ?」
俺とカルミナは少し駆け足で九重家まで向かった。
「タロウ君、カルミナさん、大変でござる!」
九重家の敷地に入り、屋敷の玄関の扉を開けるとベリー先生が慌てた様子で出迎えてくれた。
「大変…って、やっぱり何かあったんですか?」
「とりあえず、この貼り紙を読むでござるよ!今日、ギルドに行ってみたらこんなのが置いてあったでござる!」
「どれどれ…」
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探しております!
最近、山の山頂付近で大きな水魔法を使っていた方を探しております。九重家のある方角の山のどこかです。
見つけた方には報償金もご用意させて頂きます。本人様が直接来られても問題ありません。
本物かどうかを確かめる為にも連れてこられた方には実際に水魔法で大きな玉を作って、本人であると証明して頂きます。
期限は定めませんが、出来るだけ早く探しだす事をお願い申し上げます。
場所 エドヌ城まで。
徳川家より
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「「………」」
「「ヤバい!!」」
「タロウ!これって!」
「いや、もう1度ちゃんと読み返そう………ほ、ほら…本人が直接来ても良いって書いてあるし、悪い事じゃ無いかもしれないぞ」
「でも、良い事とは限らないでしょ!だから、こうなったら…」
「「知らんぷり!!」」
「拙者も落ち着くまではそれがいいと思うでござるよ。冒険者はこの辺の山の捜索に入っているでござるし、エドヌ城の前には報償金目当てで偽物が沢山現れているでござるし」
「明日からの山登りはどうしますか?」
「それなら、私達も捜索に混じった感じで登るでござるが…山頂での魔法は無しでござるよ?」
「まぁ、流石に無理ですよね」
「て言うか、本当に誰かが見ていたのね…。そこが1番の驚きよ」
俺も半信半疑だったけど、やっぱり誰が見ていたのか。冒険者がうろついているけど…コソコソしてたら逆に怪しいから堂々と修行に集中して、山を登っていこう。
「自分の口からボロが出ないように気を付けるでござるよ。桃にもちゃんと言ってあるでござる」
「分かりました。明日も普通に修行です!」
「明日を乗り越えれば休みよ、タロウ!頑張りましょ」
そうか、ようやく3日ずつの修行をしたから休みが来るのか…。よし!何かやる気が出てきたぞ。
「じゃあ、さっさと寝て体力も気力も回復しないとな!」
「そうね!じゃあ、お休みなさい…ベリー先生」
「お休みでござる」
「さ、行きましょタロウ!」
どうやらカルミナは途中から布団に潜り込んで来るわけでは無く、今日からは寝る前に最初から一緒に来るみたいだ。ま…いいんだけどさ。
「お休みカルミナ」
「お休みタロウ」
最近は夜も朝もより寒くなってきたから風を引か無いように二人で布団にくるまって、眠りについた。
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