第78話 タロウ、魔力が多くて助かる
よろしくお願いします!
「来い!紅緋!」
『妾を呼び出すとは中々のものよ…くっくっくっ』
お…このレベルからは意思の疎通も出来るようだ。赤鬼人、紅蓮丸は赤鬼の進化、またその進化のような感じでほぼ話すことは出来なかった。紅緋で俺の魔力の2割3割くらいを使うからな…結構強い式神だと思う。見た目は、2本の角の生えた子供っぽい女性で背は角の先端が俺の頭に来るくらいだからそれほど小さくもない…まぁ、それくらいですかね。
「忠晴さん…もしですよ、式札を2枚使って紅緋を2体出そうとしたらどうなるんですか?」
「当然の疑問だから答えがあるよ。タロウ君の魔力を使って呼び立てるならただ、移動するだけ。2体目が出てくる事は無い」
やるだけ無駄という事かな?移動と言っても俺の近くに呼び戻すだけになるわけだからな…。
「じゃあ、俺が呼び出した紅緋が居て…忠晴さんが更に呼び出したらどうなるんですか?」
「それも流れ的には考えるよね、だから見せてあげるよ。晴海、タロウ君の式札の模様を描いたものは持ってるかい?」
「ここにあるのでして~」
忠晴さんが俺の式札を見て10数秒で描き上げる。速い。
「タロウ君、コレが今使った式札だね?」
「あ、はい。何か細部が俺のより綺麗ですけどね」
「なかなか描きやすかったよ。じゃあ…見ててね?来い!紅緋」
忠晴さんの手元から魔力の込められた式札が放たれて光った。そこに現れたのは屈強な戦士のような鬼人だった。
『忠晴、我を呼び出すとは…戦か?』
「今日は、門下生の疑問に答えてるだけだ。悪いね」
『つまり、紅緋という概念を…という事か。そっちの女が紅緋であるか。面白い』
『妾にも屈強なイメージはあるからのぉ。その姿の可能性はあるのかえ』
「疑問は解消したかな?タロウ君」
「理解しました。俺と忠晴さんの…と言うか人それぞれでイメージは違うって事ですね」
「そう。そして、最初に出した者とパスが繋がれるから別のイメージを思い浮かべて喚ぼうとしても、何も現れない…という結果になるよ。だから式神を喚ぶ前に伝承を調べたりイメージトレーニングをする訳だ。…もう大丈夫だ、ありがとう紅緋」
『構わん』
「こっちもありがとう、紅緋」
『いや、妾はまだ還らぬぞ!』
えぇ…帰ってくれないと次の緋鬼王が…自分で描いた式札で喚びたいし…。
「いや、今日の所は還ってくれないか?」
『イヤじゃ、妾にもしたい事があるのじゃ!』
「忠晴さん、どうしたらいいんですか?これ…。忠晴さんの紅緋はこんな事しませんよね?」
「どうかな?私の紅緋も戦ってる最中は我が儘というか…自分のしたいようにする事が多いよ」
「そう…なんですか…。紅緋、何がしたいんだ?」
『妾は戦いたいのじゃ。あと、甘味を寄越すのじゃ!』
「ごめん、紅緋。まだ俺の修行が戦える段階じゃないんだよな…甘い物ならあるけど…」
『ぬぅ…それならば仕方ないのぉ。では、甘味を寄越すのじゃ』
「団子とケーキだったらどっちが良い?」
『どっちもじゃな。妾は甘味をたらふく食べるゆえ』
「欲張りな…ここは伝承通りだな」
『妾は妾のしたいようにするのじゃ、それが紅緋ゆえにの』
串に刺さったみたらし団子を渡すと1つ口に含み、口回りに付いたみたらしを色っぽく舐めとる。
『うまい、うまい。次はケーキとやらを寄越すのじゃ』
「はいよ。これ食べたら還ってくれよ?」
『戦う事があれば妾を喚ぶのじゃぞ?それを約束せい』
「分かった、早めに喚び出すよ」
『ケーキとやらも美味であったぞ!そち、名は?』
「タロウだ。よろしく頼むぞ紅緋」
『うむ、タロウよ…妾に任せておけ』
俺は紅緋の手に触れて魔力を流し、式札に戻す。中々に厄介そうな式神だったな…強さが判らないけど好戦的だからそこそこ強くはあるとは思うな。
「お疲れ様、タロウ君」
「いえ、最後のが残ってますんで」
「まさか、鬼王の位…火属性なら緋鬼王だね。それを喚ぶつもりかい?」
「えぇ、俺の魔力でおおよそ、紅蓮丸が1割、紅緋が3割なので5割くらいでいけると思いますし」
「紅緋が3割!?私でも5割近くは消費するのだが…タロウ君には本当に驚かされるよ」
「ふぅ…………来い!緋鬼王!」
俺は5割ちょっとの魔力…残りの魔力がほとんど無い状態になるまで魔力を込めた。前よりほんの少し性能が上がっている事に期待してだ。式札が光って式神へと変化する。
『主、呼び出して頂き感謝します』
「今度はちゃんと自分で描いたものだから」
「これが…タロウ君の緋鬼王か…強い力を感じるよ」
『主、この男は?』
「この方は俺に式神について教えてくれている先生の安倍忠晴さんだ」
『なるほど…貴方は安倍ひかり様の子孫ですね。貴方のお陰で主に出会えました。感謝します』
え!?安倍家の初代を知っているのか?
「失礼、緋鬼王。貴方は安倍家の初代安倍ひかりをご存知なので?」
『あぁ、本当に奇跡的なモノだが今の主の前に仕えたのが安倍ひかりだ。つまり、お二方共、この姿の我を思い浮かべたという事だ』
「つまり…たまたま?いや、それはまぁ良いとしても。記憶はあるんだな」
『えぇ、強い鬼ほど記憶はあると思ってください。ですが、この姿ではない我が居たとしたら、その我には主の記憶がございません。この姿だから…と思ってください』
なるほど。さっきで言うと、俺の喚んだ紅緋の記憶と忠晴さんの喚んだ紅緋の記憶は別物という事になるな。多分、根幹の紅緋としての記憶は同じなんだろうけど個別の姿の紅緋としての記憶は別物…みたいな。
「分かった。まぁ…1度お前を喚んだからな、死ぬまではよろしく頼むよ」
『は!この緋鬼王…主が天寿を全うするまで尽くす事を約束します』
◇◇◇
「今度こそお疲れ様、タロウ君。大丈夫かい?」
「はい…少し体がダルく感じますけど大丈夫です」
とりあえず火属性のイメージが固まっている式神は発現させる事が出来て良かった。これでコツは掴んだ…とは思うから他の属性もそのうちいけるだろう。
「凄いのでして~凄いのでして~」
「晴海、目指す目標が出来たんじゃないか?」
「はいなのでして~」
「今は晴海の方が先にいるだろうが…タロウ君の成長は思ったより速いぞ」
晴海さんの方が先…?あれ?同じペースぐらいだと思っていたけど違うのか?
「あの…先生、晴海さんはどこまで進んでいるのですか?」
「晴海かい?一応、魔力を9割程使うらしいけど水の鬼王は喚べるし、戦闘訓練も進んでいるよ」
おぉ…う。凄いじゃんか…。確か俺より1つ下のはずなのにな。
「タロウさんの水の式札のお陰で調子がいいのでして~」
「それは良かった。晴海さんって…もしかして凄い?」
「晴海はね、神童なんだ。もし、男の子だったら長男の吉晴じゃなく晴海を次期当主にしている程に」
「私に当主としての資質はないのでして~。吉晴兄様には敵わないのでして~」
「神童…」
「その呼ばれ方は嫌なのでして~…」
晴海さんが俯いてしまった。神童なんて格好いいと思うんだけど…嫌なんだ…。
期待に応えられなかった時に失望されるのは…たしかに辛いかもな
「ごめんよ、晴海さん」
「構わないのでして~」
「晴海さん、1人で神童を背負うのが嫌なら…俺も手伝うよ。すぐに追い付いてみせるから!そしたら俺も神童だろ?」
「ふふっ、タロウさんおかしいのでして~。でも、嬉しいのでして~。タロウさんに負けない様に頑張るのでして~ふふっ」
良かった、俯かせてしまったけど何とか笑顔を見せてくれたみたいだ。
「先生、ありがとうございました。流石に今日は何も出来そうにないので部屋に戻って式札の練習をしてきます」
「分かりました。今日は緋鬼王について新しい事もしれましたからね…」
「そう言えば先生も鬼王は喚べるのですよね?」
「えぇ、7割8割の魔力を消費するので滅多な事では喚ぶ事もありませんがね。タロウ君の緋鬼王とは違う姿ですよ」
「そうなんですか…先生の緋鬼王を見れる機会があればいいですが」
「そんな機会があるとすれば、徳川家に攻め込む為に集団でこの町に来た輩を排除する時くらいですね。」
「そ、それなら見ない方がいいかもですね…」
「無いならそれにこした事はありません。では、私もこれで…そうだ、タロウ君にはお小遣いを差し上げないとですね。緋鬼王についてまた新しい事をしれたので。では、先に失礼しますね」
「ありがとうございました」
晴海さんが言ってたお小遣い制度って本当にあったんだな…。これから部屋に戻って式札を描くか…そうだ!カルミナの様子でも見に行って見ようかな?
「晴海さん」
「はいでして~?」
「晴海さんの時間が有るならさ、今からカルミナの様子でも見に行かない?どうやら命さんの修行が厳しいらしくてさ」
「母上は厳しいのでして~。私もついていくのでして~」
俺は晴海さんに魔法の修行をしているという敷地内の区画に案内して貰った。式神の修行よりは人の数も少ないみたいだけど、その分、集中して命さんにしごかれているみたいだな。
「カルミナ…カルミナ…お、居たぞ」
俺と晴海さんは少し離れた物陰から様子を伺っている。けして見付かったら面倒そうとかじゃなく、邪魔をしないためだ。
カルミナが言ってた通りにひたすら魔力を消費してるみたいだな…。魔力の変換効率が良いために、消費するにもそれ相応の魔法を使わないといけないからカルミナが魔法を放ってる先の地面は既にぼこぼこになっていた。
「凄いのでして~」
「そうだな…あ、倒れた。魔力が尽きたのかな?」
倒れたカルミナに命さんが近寄っていき、飲み物を渡している。なんだ…思ったより優しいじゃないか。
「あわわわわなのでして~」
「どうしたの?」
「あの、飲み物でして~」
「飲み物?命さんが渡してたやつ?優しいよね、準備してくれてるなんて」
「違うのでして~違うのでして~」
「違う?どういう事?」
「あれは、魔力を少しだけ回復するのでして~ほら、カルミナさんも起き上がったのでして~」
「あ、ホントだ。魔力を回復する作用があるなら良いことじゃ?」
本当に少しの様でまたカルミナが倒れてしまった。そこに命さんが飲み物を渡しに行く。
「あれが母上のやり方でして~魔力を伸ばす修行なのでして~あれは辛いのでして~…」
「確かに、倒れて飲んでまた倒れてを繰り返すのは辛いかもな…」
「その上、あの飲み物が物凄く不味いのでして~それが全然慣れなくて、地味にキツイのでして~」
「え、あれ不味いの?うぇー、それは大変だな…。もしかして俺の魔力量が少なかったら…」
「今頃、母上式の魔力量上昇トレーニングをしているのでして~」
カルミナの顔色が悪くなっている様な気もするが、命さんは笑顔のまま飲み物を渡している。時にはカルミナの口に無理やり流し込む事もあり、俺は自分の魔力の多さに感謝した。
「そろそろ…戻ろう」
「懸命なのでして~。見付かると面倒なのでして~」
俺と晴海さんは式札を描く部屋に戻ってきた。今日は魔力も使ったし、後は式札の練習に充てようと思っている。
魔力が増えてから、使いきった魔力が1日で回復しなくなった。前までは一晩寝たら回復していたが、今じゃ完全回復とはいかなくなった。九重家でも身体強化の為に魔力を使う予定だから出来るだけ回復に専念しないとな。
「でも、安倍家の方が魔力は使うからなぁ。九重家での修行では魔力を節約しないとな」
俺は独り言の様に呟いて、その日は暗くなるまで式札の練習に費やした。
◇◇◇
安倍家で晩御飯を頂き、忠晴さんからお小遣いを頂戴してから俺とカルミナは九重家に向けて移動していた。
「タロウ…疲れたよぉ…」
「お疲れ様だね、カルミナ」
カルミナが疲れている理由も知っているし、少しだけ同情しているから、九重家までは俺がカルミナを背負って移動していた。…くすぐったいから俺の首元に頭をくっ付けてグリグリするのは止めて欲しいかな。
「タロウの方はどうだったの?」
「晴海さんが俺よりだいぶ先に進んでて驚いたよ。でも、まぁ…順調かな」
お互いに今日の出来事を話ながら九重家へとやって来た。カルミナが足を交差させて俺を離さなかったが故に泊まる部屋まで運ぶ事になった。
「カルミナ、自分の部屋で寝るんだぞ」
「ここは仮の住まい。私の部屋ではないわ!」
「屁理屈はいりません!じゃ…明日も疲れるだろうし、まだ体も痛いから早めに寝るから。おやすみ」
「おやすみ、タロウ」
俺は自分の部屋に入り、体をほぐす為に手の届く範囲で少しだけマッサージをしてから眠りについた。
翌朝、やっぱりカルミナが俺の隣で寝ていたが何も驚くことは無く、冷静に起こしてランニングへと二人で向かった。慣れって怖いよな。太ももの感触は慣れないけど
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