第77話 タロウ、奥深さに気付く
今、書き終わりました…
よろしくお願いします!
「ご飯でござる!ご飯でござる!」
ノリノリでリズムを刻んでいるベリー先生の後に続き俺達も食堂までやってきた。
食堂には他の門下生の方達も居たので軽い会釈だけしておいた。
「桃、配膳を手伝って」
「お母さん、任せて」
「あ、じゃあ俺も手伝います」
「私も!」
「まぁ、ありがとう二人共。じゃあ…自分達の分と苺と桃の分もお願いね」
今日の晩御飯は切った豚肉を生姜や醤油、みりんの混ぜたタレをかけて焼いた物…つまり生姜焼きだ。匂いが食欲をそそり、疲れた体が腹の虫を使って悲鳴を上げ始めた。
「これは…何て料理なの?凄く美味しそう!」
「生姜焼きだよ。疲れた体にはちょうど良いかも!」
食堂に居た全員でいただきますをして、食べ始める。俺達より歳上の門下生達はお代わりをしたり、めちゃくちゃ食べていた。俺もお茶碗一杯だけご飯をお代わりしたけど。
◇◇◇
「ベリー先生、今日はありがとうございました。また明後日、よろしくお願いいたします」
「うむ!ランニングは欠かさずやるでござるよ!」
「タロウさん、カルミナさん、また明後日!」
「えぇ、またね」
俺達は九重家を後にして安倍家へと向かった。
「っあー!疲れたぁ」
「ホントね…私なんて、明日になったら命先生に魔力を使い尽くす様に言われるのよ?」
俺は式札の段階だから動く事は無いだろうけど…早めに完成したら忠晴さんに見せに行って、ついでにカルミナの様子でも見に行こうかな。
「刀の修行より、式神の方が案外早く終わりそうだし…と言ってもこっちも魔力調整があるんだけど…ま、早めに終わらせられたら俺も魔法の方を受けてみようかな。」
「ホントに早く終わりそうなの?式札ってもっと奥が深そうな気がするけど」
そうかな?…でも、そう言われればそんな気もするな…。明日聞いてみるか…
話をしている内に安倍家へと着いた。玄関で命さんが出迎えてくれて、忠晴さんに挨拶をした後にそれぞれの部屋へと案内して貰った。今日は疲れを取るために清潔魔法でサッパリして、早めに寝ることにした。
◇◇◇
朝、意識が覚醒していきゆっくりと体を動かそうとすると筋肉痛のせいだろうか、体が動かない。特に左手。左手どころか、左腕すら全く動かない。
「うう…ん…」
「カ~ル~ミ~ナ~!」
またである。俺の記憶が正しければカルミナと俺の部屋は、そう遠くないとはいえ別々であったはずだ。今回は最近の寒さのせいか、左手は太ももで挟み、腕に抱きついている形になっている。残念な事に…そこまで柔らかさはまだ無いみたいだ。いや、太ももは柔らかいんだがな。
「ほら、起きろカルミナ!」
「うぅ…ん…タロウ?おはよ…」
「おはよう。それはそれとして、腕!腕が挟まってるから!」
「うで…うで?…って!タロウまた!」
またって何だよ…こっちの台詞だっつーの。
「ほら、起きたらな走りに行くぞ~」
「な、な、なんでそんなに落ち着いてるのよ!わ、私の体触ったのに!」
「いや、ちゃんとドキドキしてるから。早く走りに行かないと危ない訳だから早く行こうぜ」
「ほ、ホントに?タロウもドキドキしてるの?」
「う、うん…」
「そ、そう…」
か、可愛いぃ。もじもじしながら紅く染まった頬と上目遣いでこっちを見てくる。
「カルミナ…」
「タロウ…」
少しずつカルミナとの距離が近付いていく。カルミナが瞳を閉じて待ち構えている。あと少し…あと少し…
『ん~~~~~~っちゅ!良い朝ですね、タロウ』
「ル、ルミナス!?」
「ちょ、ちょっと!いくら神様だからってそれは酷いんじゃないかしら!?」
『酷い…ですか?タロウとカルミナは何度かキスしてますよね?それ自体は別に構わないのですよ?ですが、それなら私としてくれても良いのではありませんか?本当なら…タロウから口付けをしてくれるのを待つ予定ではありましたが、それを待つ間にカルミナと何回もされては堪りません。今後おそらく、タロウの強さに惹かれて寄ってくる女も増える事でしょう。それは構いませんよ、私は度量が広いですからね、構わないですよ。タロウのする事には余り口は出さず、頼まれれば何時でも力を貸しましょう。ですから、たまにでいいのです。たまには私との時間を作ってくれてもいいのではないですか?タロウの肩に乗れるのでこの小さな姿をしていますが、タロウがお望みならば人のサイズにいつでもなりましょう。…考えたくは無いのですが、タロウはもしかして私の事を迷惑と思っているのですか?』
あ…あ…あ…ヤバい。これは非常にヤバい。最近は教会にも行ってないからハルミナ様モードを完全に忘れていた。
「お、思ってないよ!ルミナスには大事な場面でいつも助けて貰って、本当に助かってる!いつもありがとうルミナス!」
「タ、タロウ…今日1日はルミナスを肩に乗せたら?」
『カルミナ、それは良い提案ですね。えぇ、そうしましょう。大丈夫ですか?タロウ』
「う、うん。ごめんなルミナス…寂しい思いをさせて」
『良いのですよ。私を傍に感じてくれているなら…それでいいのです。さぁ、朝のランニングに行くのですよね?急ぎましょう』
ランニングに行く前の準備中も、ランニングの時も、ランニングを終わって朝ごはんを食べている時もルミナスは俺の肩に乗っていた。今日は…とことん甘やかすしかない…かな?
◇◇◇
「ごちそうさまでした。…いてて、ランニングもキツかったなぁ…明日までに治るといいけど」
「筋肉痛って回復薬で治るのかしら?」
「治ってくれるといいんだけどね」
「タロウ君、その肩のは…。まぁ、それは後ででもいいけど…。とりあえず今日の修行の事だけど、描いてる式札の模様の清書をしたかったら実際に使う式札をあげるから声をかけておくれ」
「先生!も、もうちゃんとした式札に描いても大丈夫なんですか?」
「イメージもちゃんと固まっている属性だけだけどね。模様自体は決まっているみたいだし…挑戦してみようか」
「は、はい!1度練習したら貰いに行きますね!」
朝食を食べ終え、これから修行を始めるという時に忠晴さんから清書の許可が出た。俺が最初にやる属性は決まっている。
俺は食堂を飛び出して、前に使った部屋に急いで向かった。部屋の扉を開くと既に晴海さんが座って本を読んでいた。都合が良い。
「晴海さんおはようございます!」
「タロウさん~おはようございますでして~…?その肩の可愛い妖精は何でして~?」
「あぁ、この妖精はルミナスって言いまして…僕の…守り神的なそんな感じのアレ的なアレです」
「可愛らしいのでして~。」
『それはどうも、ありがとうございます』
「は、話したのでして~!」
「ルミナスは意志疎通が出来るよ。いつも助けて貰ってるんだ」
『タロウだけなんですからね。お下げの少女、タロウへのアドバイスをしてあげてください』
「そうそう…晴海さん、早速で申し訳無いんですけど火属性の式札を清書したいんだ…ある程度は描けるんですけど、甘い所があったらコツを教えて貰えませんか?」
「もう清書の許可が出たのでして~?」
「イメージが固まってるやつだけですが…。だから、火属性なら本で色々読みましたし、大丈夫だと思うんです!」
「なるほどでして~。そういう事なら協力するのでして~」
一昨日、俺の魔法を元に晴海さんに描いて貰ったお手本を真似する様に火属性の模様を練習していった。
「ん~!このレベルでしたらイメージとさほど違いは無いのでして~」
「ふぅ…。結構時間はかかったけど、1枚1枚が同じレベルで安定してきたな」
「今後、火属性の式札は速さを磨くのでして~」
「1枚描くのにどれくらいの時間が目安ですか?」
「今のタロウさんが1枚描くのに掛かる時間の半分以下でして~」
マジか…俺が式札1枚を描くのにだいたい1分は掛かっている。慣れたらもう少しくらい速くは描けると思うが…半分以下か。
「何度も描くしか無いですね」
「でして~。感覚を忘れない内に早く父上に式札を取りに行くのでして~」
「い、行ってきます」
部屋から出て、戦闘訓練をしているであろう場所へと向かった。そこでは、門下生同士が式神のみで戦いを繰り広げていた。忠晴さんはそれを見渡しながら監督をしている。
「先生…今、大丈夫ですか?」
「清書を描けますか?タロウ君。あと、その妖精は…」
「はい、火属性なら赤鬼、赤鬼人、紅蓮丸、紅緋、緋鬼王のイメージも出来ています!この妖精はルミナスって言って、僕の守り神的なやつです」
「可愛らしいですね。それより、イメージ出来ているなら大丈夫ですね。清書用のちゃんとした式札を1枚渡しましょう。これをどうぞ……とりあえず描けたらまた知らせて頂いてもよろしいですか?折角なので使う時には立ち会いましょう」
「分かりました。すぐに描いて戻ってきますね!」
式札を手に持ち部屋へと戻ってくると晴海さんは居なかった。もしかしたら集中出来るように気を使ってくれたのかもしれない。ルミナスは肩に乗って居るけど基本は静かにしてくれているしな。さ、描きますか。
『タロウ、練習で描いてたよりも線が綺麗に描けてますね』
「そう?ありがとう、ルミナス。先生に見せに行こっか」
練習では1分程度。だが、清書ということでいつもより慎重になり、3倍くらいの時間が掛かったとは思うがなんとか描きあげる事が出来た。俺は忠晴さんに見せる為に再び部屋を飛び出した。
「先生!出来ましたよ!」
「見せて貰えますか?……うん。模様も良いですね。良く出来ています。もしよろしければ資料として残してもよろしいですか?」
「あ、はい!もちろんです!」
「協力、ありがとうございます。では、早速…と行きたい所ですが、他の場所へ移動しましょうか。ここは戦闘訓練で危ないですからね」
先生の後ろを追いかけて他の人が使っていない場所へと移動したら、まさかの晴海さんが座っていた。
「あれ?晴海さん、ここに居たのですか?」
「父上ならここに連れてくると思ったのでして~」
「そう言えば、晴海が初めて式神を出したのもここでしたね」
「そうなのでして~」
「じゃあ、タロウ君。赤鬼から出してごらん。ほんのちょっとの魔力でいいから」
「分かりました…来い!赤鬼!」
式札に魔力を込めて手から放すと少しだけ光を放ってイメージした通りの他の門下生もよく使う最も下のランクの鬼、赤鬼が現れた。
「よし!とりあえずは成功ですね」
「おめでとうございます、タロウ君。ですが、式神とはまだまだ深いですから頑張ってください」
俺は赤鬼に魔力を流し、式札に戻す。話の流れでカルミナが疑問に思ってた事を聞いてみようかな?
「先生、少しいいですか?」
「質問ですか?いいですよ?」
「式札って、本当に式神を出す為だけのモノなのですか?」
「…どうしてそう思うんだい?」
「カルミナが考えるきっかけをくれたんですよ…式札はもっと奥が深いんじゃないかって言うものですから。それで考えてみたんです。式札から"何か"を出現させる時、必要なのは模様とイメージと魔力…。これって模様はイメージの補完って教えて貰いましたけど、本当は"正式に決まった模様"ってのがあるんじゃないかって思えて来たんです」
『タロウ、男と…少女までも少し驚いた表情をしていますね。どうやら当たりのようですよ』
「あぁ、驚いたよ。こんなに驚いたのは晴海がタロウ君と同じ事を言った日以来だ。答えを返そう。タロウ君、君の考えは正解だ。式札の使い道は式神を喚ぶ事、それに間違いは無いがそれだけじゃ無い。でも、それはまだ秘密だよ。」
「ど、どうしてですか!?」
「ちゃんと教える。けど、まずは式神をちゃんと修めて欲しいと思ってね。晴海にもそれで納得して貰っている。」
「二兎追うものは…ってやつですか」
「そう、タロウくんはうちと九重家で既に二兎を追っているだろ?だからとりあえずは式神という兎を捕まえてからその先へと進んで貰いたい」
カルミナが疑問に思わなかったら…もしかしたら、ずっと気付け無かったかもしれないな。修行を続けて式神をちゃんと戦闘訓練でも使いこなせる様になればその先も教えて貰えるらしいから頑張らないと…。カルミナに、早めに式札の修行を終わらせて魔法の修行をするなんて言ったが…どうやらまだまだスタートラインに立ったばっかりの様だ。
「分かりました。よろしくお願いします!」
「頑張っていきましょう。ちなみにですが…この事実に自力で気付け無い者には式神以上の事は教えない…という事になっておりますので晴太や他の…まだこの事を知らない門下生には秘密にお願いしますね」
「タロウさんは気付くの早かったのでして~まだ2日目なのでして~」
「まぁ、カルミナのお陰で考える事が出来た…それが良かったかな」
「いや、しかし本当に驚いたのですよ?どういう事をお考えになられたのですか?」
考え…か。前に居た世界のその道で有名な人は、札で何かを封印したり、札を攻撃に使ったりと色々してた…という逸話や伝承があったから、それを思い出したに過ぎないんだよな…。
「ま、まぁ…アレですよ。初代はどういう使い方をしていたんだろうって考えてたら、式札で鬼とかを召喚するより、もっと別の使い道をしたんじゃないか…って考えがよぎりまして…。いや、もちろん鬼とかを召喚する能力だったと言われればそれまでなんですけど…」
「やはり初代…つまり最初の式札の原点を考えたのでして~?私と同じでして~」
晴海さんは自力で考えついたんだよな?俺なんかよりよっぽどすごいじゃないか。
「なるほど…後は晴太が気付いてくれればいいのですがね…。ま、これは置いといて、タロウ君、続きをしましょうか」
「はい!」
よし、午前中の内に火属性はクリアしてやるぞ!
誤字脱字がありましたら報告お願いします!
評価や感想、レビューにブクマもお待ちしております!
(´ω`)




