第72話 タロウ、お汁粉は甘い
よろしくお願いします!
「それで…タロウ?オーク皇帝はどうだったのかしら?」
皇帝達を討伐して、ベリーさんが倒したオーガ皇帝もアイテムボックスにしまってエドヌへと帰っている途中にカルミナがそんな事を聞いてきた。
「オーク皇帝か…オークって動きはそこまで速くなくて、パワーファイターだろ?最初はそう思って戦ってたら…さすが皇帝だよな、動きも速いしパワーはあるし…土魔法まで使って来たんだぜ?」
「それは厄介ね…」
「しかも脂肪で蹴りや殴りは通用しないし、あと近付くと臭くてさぁ~」
「うぇ~…。それでつまり、どうやって?」
「これだ…妖刀『呪傷』。つまり、ハグの力を借りての耐久戦。時間が掛かったのはその為かな。助かったよハグ」
『はぐはぐはぐ…どういたしまして…はぐはぐはぐ』
「なるほどね…」
「タロウ君、それはここに来る途中に使っていたのとは別の刀でござるな?」
「来る途中に使ってたのは『吸魔血』という妖刀で、戦いに使ったのはこの『呪傷』って妖刀です」
「その刀にはどんな能力があるでござるか?」
「『呪傷』は…簡単に言うと、傷口が回復しにくくて血が固まらないって感じの能力ですね。これでオーク皇帝の斧を回避して少しずつ削っていった…って感じです」
「回復の方法が無い相手には凶悪すぎる武器でござるな…」
「でも、斬っても傷が浅くしか付かないんで、その間に体当りとかで何度か吹き飛ばされましたけどね…最後は動きが止まって地面に膝をついた所を後ろからスパッとやりました」
簡単には説明したけど、本当はもっと泥臭い戦いだった。オーク皇帝の一撃は重く、俺のパワーじゃ耐えきれないと判断して回避、回避、そして攻撃。みたいな感じでなかなか攻めきれなかった。
「ベリーさんはどうでしたか?」
「拙者はいつも通りでござる。オーガは硬いでござるからな、タロウ君と似た感じでござるよ?足を攻撃して機動力を奪い、魔力で強化して首を断ち切る。それだけでござる」
オーガ皇帝相手によくそんな簡単に言えるものだ…やっぱりベリーさんって他のAランクとは別格なんじゃ…。
「さ、二人共。さっさと帰るでござるよ!スピードを上げるでござるから遅れないようにするでござる!」
「途中の敵はどうするんですか?」
「それぞれの担当があるでござるから、基本的には不干渉でござるよ。余計なトラブルを呼ぶでござるからな」
「なるほど、じゃあ目の前に現れた敵だけ倒せばいいですね」
「タロウ!早く帰って、私達が1番乗りするわよ!」
それから半日ほど掛けて…途中にゴブリンやオークとかを狩りながら、陽が傾いた頃に街へと帰ってこれた。
◇◇◇
「苺、タロウ殿にカルミナ殿。帰ったか」
「お三方共、ご無事で何よりです」
街中は人もあまり出歩いておらず、ギルドまで一直線に戻って来ると、そこには九重家当主の六道さんと、安倍家当主の忠晴さんがギルド長と机を囲み座っていた。
「それで?戦果はどうだった?」
ギルド長に聞かれ、俺は床に布を何枚か引いた。
「ゴブリン皇帝を討伐したわ」
カルミナがアイテムボックスから死体を取り出す。
「俺がオーク皇帝を、ベリーさんがオーガ皇帝ですね」
続けて布の上に死体を取り出すと、ギルドが慌ただしくなった。
「聞き間違えじゃなければ、お嬢ちゃんがゴブリン皇帝、坊主がオーク皇帝を討伐したって聞こえたんだが!?坊主達、本当はベリーの補助だろ!?」
「落ち着け、ギルド長。」
「そうですよ、苺さん、今の話は?」
「本当でござるよ?敵が三匹、こっちも三人。当然でござろう?父上、修行の一環として武器で倒すようにとちゃんと言っておきました」
「う、うむ。何はともあれ良くやった。後は他の担当の者達が帰ってくるまで休むといい」
「皇帝を倒したんだ、報酬も期待して大丈夫ですよ!ですよね、ギルド長」
「未だに信じられないが…苺の証言もあるし御当主達も疑っては無いようだしな。坊主にお嬢ちゃん。報酬に希望はあるか?」
そうだな…何が良いかな。無難に金にしとくか?
「そうだ!タロウ、ランクを上げて貰いましょうよ!試験を受けないでランクがあがるなら楽じゃない!」
「確かに…そうだな!ギルド長、ランクを上げて貰えますか?」
「BランクをAランクにか…うーん…まぁ、皇帝クラスを倒したとはいえ…うーん」
「ギルド長違うでござるよ?」
「苺、違うって何がだ?」
「この二人、Cランクでござる!」
「「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」」
冒険者ギルドの中に居て、話を聞いていた人達の声が見事に重なった。
「どういう事だ!?Bランク以下は対象外にしただろ?」
「拙者もギルドカードを見させて貰ったでござるが、この二人…パーティーならBランクと認定されているでござる」
「くくっ、なるほど。それでBランクの所に集まった…と。こういう場合は普通、個人のランクだぞ?タロウ殿、カルミナ殿」
「ギルド長、Cランクが皇帝を倒したなんて話が広まったら無茶をしだす輩が現れないとも限りませんよ?」
「はぁ…しょうがねぇ。お前ら二人はBランク"だった"。ギルドカードを貸せ!報酬は素材の一部と金でいいな?」
「わ、分かりました」
「ついでにパーティーの場合はAランクにしといてよね!」
カルミナ…
「ちっ、皇帝倒せる奴に嫌われるとか得にならねぇからな…。厄介な奴等が現れたもんだぜ…まったく」
ギルド長にカードを預け、しばらくは戦闘の様子を六道さんと忠晴さんに話していた。その間に冒険者ギルドに居た人達からの視線やひそひそ話もあったが、特に害があるわけでも無いから無視をしていた。
「タロウさん、カルミナさん、ギルドカードを返却致します。さっさとご確認下さい」
持ってきてくれたのは受付の桐華さんだった。
「ありがとう。…Cの文字がBになって、パーティーのBがAになっただけだな」
「でも、冒険者になってから2年経たずにBランクって凄いんじゃないかしら?」
「二人共、凄いでござるよ!さ、甘いものでも食べに行くでござる!」
「私もついて行って良いですか?」
「え?桐華さん…仕事があるんじゃ?」
「はい、ギルド長がタロウ、カルミナの両名について調べておけと。だから、仕方なくご一緒していいですか?」
えぇ…それって俺達に気付かれない様に調べとけって指令なんじゃ…?ほら、ギルド長がこっち見てるし。
「桐華さん…もしかして嘘が苦手な人なんじゃ?」
「多分、そう。逆に言ってしまう事で俺達の懐に入り込もうとしているとか?」
もし、そうなら相当なやり手の可能性も出てくるな。
「まぁ、私も同じくらいの歳の友達も居ませんし…少しだけ楽しみです。さっさと行きませんか?」
「タロウ君、カルミナさん…どうするのでござるか?」
どうしようか…。桐華さん正直な上に言葉に刺があるから友達少ないんだろうな。まぁ、甘いものを食べに行くだけで見られて困る事も無いだろうし…
「俺は別に構わないですよ」
「私もよ」
「桐華さん、良かったでござるな」
「えぇ、やりました。カルミナさんと友達になれました」
「「……。」」
くっ…悲しい。カルミナの顔も少しひきつっている。少し嬉しそうな桐華さんを見てると強く否定も出来ないのだろう
「と、とりあえず行きましょうか。ベリーさんか、桐華さんのオススメの店とかあります?」
「そうね…。オススメがあれば嬉しいわ」
「なら、私の友達が出来たら行ってみたいと思っていたお店はどうですか?美味しい和菓子とお抹茶のお店ですが」
……。無表情なのに、目だけはキラキラしてらっしゃる。あと、あまり悲しい事も言わないで欲しい。俺もカルミナも放って置けなくなりそう…ていうか、カルミナは既になっているかもしれない。
「桐華さん、ぜひ行きましょう!桐華さんが行きたい所に全部行きましょう!」
「カルミナさん!!…なるほど、コレが友情…なるほど~…なるほどー…友情…」
チラチラ視線が飛んでくる。時間はこれからもある…段階は1つくらい飛ばしても時間が解決してくれるだろう…信じてる。
「ああ!俺達は親友だ!」
「は~。ちょっと気を許したからと言って、いい気にならないでくださいねタロウくん。…まぁ、私の友達に入れてあげても…」
あれ?何か思っていたのと…。あれ?何?もしかして、友達のカテゴリーに俺は入ってないのか?…でも今、"さん"から"くん"に変わった?
「お前の友達の居ない理由の一端を見た気がする…」
こいつはおそらく自分に優しい人か、自分の気に入った人に甘々何だろうな。その反動って訳じゃないけど…まさか!こいつの日々の努力を知ってる事が原因か!?
俺の決意を返せよな!
◇◇◇
カルミナと桐華さんが一見楽しそうに話ながら俺とベリーさんの前を歩いているけど、俺には分かる。カルミナの顔の笑顔はスキル『愛想笑い』の力だ。最近見てなかったのにあれを使わせるとは…中々やるな。
「タロウ君は桐華ちゃんに嫌われてるでござるか?同じ歳でござろう?」
「そうなんですか?…どうなんでしょう…。ベリーさんは桐華さんの事を知ってるんですか?」
「まぁ、あの歳でギルドの受付になるくらいでござるからな。エドヌの冒険者なら程度の違いはあるとはいえ、皆知っているでござるよ。」
確かに、今までのギルドは若くて17くらいだったはずで…それなのに11か12?で受付になるというのは余程優秀なのだろう。それで何故、友達が居ないのか…。
「タロウくん、ベリーさん。ここです!」
「ここは…『甘味処すぱいす』。どっち!?」
「タロウ、どうしたの?どっちって…何?」
「いや、甘いのか…辛いのか…」
「タロウくん。甘味処なのよ?変な事言うのね?ぷぷぷ」
くっ、俺が悪いのか!?どう考えても店名だろうよ!
「このお店でござるか…」
ベリーさんが隣に居る俺がギリギリ聞き取れるくらいの声で呟いた。
「何か問題でもあるんですか?」
「いや、実はここ…桐華ちゃんの実家でもあるでござる…」
桐華さん…完全にやっちまってますな…。
カルミナ、桐華さんの後に続いて店内に入ると、座敷スペースとテーブル席があってお客様もまちまちだ。
「あら?桐華おかえり。今日は早かったのね」
「ただいまお母さん。と、友達連れて来た」
カシャン!と桐華さんのお母さんがお盆を落とした。驚き過ぎているのか固まっている
「お、お母さん?」
「ご、ごめんなさい。あり得ない事が起こったから…」
「お母さん、どういう意味かしら!?」
「可愛い女の子ね。それに男の子も。ベリーさんもいらっしゃい!」
「こっちがカルミナさん!あと、これはタロウくんよ。」
「うちの子をよろしくね。この子…昔から友達なんか居なくてね…。笑っちゃうわよね」
毒舌は遺伝なのですね…。俺達はテーブル席に案内して貰って、メニューを見せてもらう。
「どれにしようかしら~、タロウはどれにする?」
「う~ん。このお汁粉とお抹茶のセットにしようかな?」
「タロウくんにしては、中々いい選択ね。寒くなってくるこの時期から人気がでる商品よ」
「そうなの?なら…私もそれにしようかしら?」
「私は団子の盛り合わせでござる!」
「お母さん、お汁粉とお抹茶のセットを3つと団子の盛り合わせをお願い」
「あいよ~」
10分も経たずにお汁粉が届いた。甘くて白玉もモチモチで暖まる。桐華さんがオススメするだけはあるな。自宅だけど…。それにしても、ギルド長からの指示はこなしているのか?ただお汁粉を食っているだけだぞ。
「はぁ~、美味しかったわね」
「そうだな」
「うむ!またみんなで来るでござるよ!」
「皆さん、今日は来てくださってありがとうございました。まさか、本当に桐華に友達がね…」
「あ、でも桐華さん。ギルドじゃ長い列が出来る程の人気がありますよ?」
「殺すわよ」
間違ってないじゃん…。人気じゃんか、アレな人達に。
「そうなの?この子は恥ずかしがりやで、すぐツンケンするでしょ?それにいつもムスッとした顔してるし…心配なのよね」
「大丈夫ですよお母さん。私達も修行で忙しいけど、たまにはギルドに顔を出しますし」
「ありがとうカルミナさん」
「カルミナでいいわよ」
「ええ、私も桐華でいいかしら?」
「もちろんよ!」
「桐華」
「キッ!」
「ちょっと、お母さんどう育てたらこうなっちゃうんですか!」
「ふふ、照れ隠しよ。多分…きっとね」
いや、睨みが凄いけど…何かもう…カルミナに任せて俺だけ帰ってもいいかな…。
「カルミナ…後は任せていいかな…?」
「タロウ、桐華さんもツンケンしてるだけだから頑張って!」
「じゃあ、そろそろ行くでござるよ!次は拙者のオススメの店に行くでござる!」
次はベリーさんのオススメ、その次は桐華さんのオススメ…の順に何店舗も回っていった。流石は女の子。スイーツは別腹とはよく聞くが、いったいどれくらい入るのだろうか。
「食べたでござる~食べたでござる~」
「ふふ、カルミナにあーんしちゃいました。友達っていいですね」
「それで、桐華さん…ギルド長には何て報告するの?」
「はっ!…ありのまま報告しますよ。カルミナは高評価ですね。タロウくんは…及第点ですかね」
「まぁ、いいけどさ。もう夜だし、今日はこれで解散?」
「1度ギルドに寄ってみるでござるよ。進展がなければまた明日でござる」
俺達は4人纏まって、ギルドへと戻っていった。
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