第70話 タロウ、九重家を訪ねる
よろしくお願いします!
安倍家を出発して九重家に向かう途中で俺はルミナスを呼んで式神の事について聞いてみた。
『式"神"となっていますが私達とはほぼ関係ないですね。式札に描かれている模様…魔方陣みたいなものがイメージと魔力で具現化しているのが式神ですので、私達とは在り方が違うのですよ』
「なるほど、初代の安倍さんが形態化した技術なのかな?だとすると凄いな、初代」
『昔にそんな能力を授かった者がいた気もしますね』
そんな話をしながら忠晴さんに書いて貰った地図通りに進み、これまた広い敷地のある屋敷に辿り着いた。
「こっちも広いわね」
「こんなに広いと、どこに何があったか忘れっちまうな。忠晴さんの所の建物もどれが何だかうろ覚えになってきてるし…」
「扉をノックしたら誰か出て来てくれるのかしら?」
「叩けば誰かしら出て来てくれるんじゃないの?すいませーん」
俺が扉を叩いて少しすると、扉の向こうから近付いてくる足音が聞こえてきた。
「はいはい、どちら様ですかー?」
扉を開けて、出迎えてくれたのは俺達より少し背の低い女の子だった。黒髪のショートヘアーで服装は胴着姿だ。ここの門下生かな?俺達より小さい子が居るとは思わなかったから驚きだ。
「すいません、九重さんの道場でいいんですよね?僕達門下生になりたくて来たんですけど…」
「そうなんですか?私が言うのも何ですが、九重家の修行は厳しいですよ?」
「それは聞いているわ。強くなりに来たのだもの、厳しいくらいでも物足りないわ」
「そう…ですか。では九重家の当主を呼んで来ますので少しお待ち下さい」
女の子が駆け足でどこかへと走っていった。
「しっかりした子ね。しかもあの子の手」
「剣…槍…やっぱり剣かな?とにかく素振りはずっとやって来てるって感じだったな」
あそこまで鍛練してる女の子は珍しい方じゃないだろうか。隣にもっと鍛えてる女の子がいるから新鮮味はないけど。
5分程たって、再び扉が開かれた。九重家の現当主と聞いていたから少し緊急したが、そこから出てきた男は俺達も知ってる男だった…。
「「リクドウさん!?」」
「くく、数日ぶりだな、タロウ殿、カルミナ殿!待っていたよ」
◇◇◇
俺とカルミナはリクドウさんとの再会に目を丸くさせていたら、ついて来いと言われ屋敷の中の一室に案内された。
「とりあえず座ってくれ。」
「は、はい。それにしても…」
まさか、船であったこのおじさんが九重家の当主だとはな…。
「驚いたか?改めて自己紹介をしようか。俺は九重家現当主、九重六道だ。職業は剣士兼師範…役職は将軍補佐だな。」
「剣の腕前だけでも相当な地位にあるとは思ってましたが…。そうだ、安倍家の忠晴さんから紹介状みたいな感じで手紙を添えて貰ったんです」
「ほう。忠晴の所にも行ってきたんか。どれ……。ふむ、なるほど…九重と安倍家で…たしかにそれだけの力はな…」
忠晴さんからの手紙を読みながら一人でぶつぶつと呟き始めた。手紙の内容は読んでないから知らないけど、恐らくは安倍家と九重家を交互に行くこと何かが書いてあるはずだ。
「二人共もうちの道場の門下生になるって事でいいんだな?」
「はい」
「そうよ」
「分かった。安倍家と同じように泊まる部屋も用意しておこう。」
「ありがとうございます、六道さん」
「よろしくお願いします!」
「うちの道場で教えている事の説明をしようか。なに、簡単な事だ。1つ、自分の扱う武器での修行だ。タロウ殿は刀、カルミナ殿は槍だな。素振りや基本的な型の練習、後は木剣とかでの打ち合いだ。2つ、基礎的な身体能力の強化だ。体力を付けたり、筋力や速さを鍛えたりな。3つ、魔力を使っての戦闘中に行う身体強化だ。これは繊細な魔力の調整が必要でな。一歩間違えると怪我に繋がる。自分の体でギリギリ循環出来る魔力を調整しながら戦う必要があるから覚えるのに時間がかかるだろう」
身体強化…たしか、学園に居た頃の三国武道祭で戦ったコフィン王国のコインっていうアホが使ってたな。アイツ、結構高度な事やってたんだな…。たしかに身体強化を使ってからのアイツの動きは全然違っていたな。
「3つ目の身体強化を使うための2つ目の基礎トレーニングなのかしら?」
「そうだ。だから体力作りは常にやっていく。毎朝、少し汗をかく程度でランニングをして貰えるとありがたい」
「分かりました、これからするようにします。カルミナ…朝は大丈夫か?」
「お、起こしてねタロウ!」
朝弱いもんな、カルミナ。
「3日あるが、1日の修行内容はあまり変わらん。午前中は基礎トレーニング。お昼過ぎから刀や槍、体術等の修行。夕方からは身体強化の為の練習となっておる。キツいぞ?」
「キツくないと修行になりません。弱音は…吐くこともあるかもしれませんが最後の最後まではやりきります!」
「そうね!六道さん、よろしくお願いします」
「覚悟は分かった。では、敷地を案内させようかね。ピーチ!」
「はい。ここに」
ピーチと呼ばれてやって来たのは先程扉で出迎えてくれた女の子だった。
「ピーチ、この二人は新しく門下生になるタロウ殿とカルミナ殿だ。歳も近そうだし仲良くな。タロウ殿、カルミナ殿、この子はピーチ。私の娘です。」
娘!?ていう事は…ベリーさんの妹か!?それでピーチなのか…キラキラしてるな…
「九重桃です。歳は半年くらい前に11になりました!よろしくお願いしますね」
「タロウです。僕とカルミナも11歳ですけど誕生日はまだですよ。よろしくお願いします」
「カルミナよ。ピーチさん…あなたベリーさんの妹さんなのね?と言うか、六道さんもベリーさんのお父さん…」
「おや?ベリーを知っているのですか?」
「お姉ちゃんの知り合いなのですか!?」
「えぇ、ルールト王国に居たときに知り合いまして…刀を教えてくれたのも特訓に付き合って貰ったりもしてました」
「強かったわよね…ベリーさん」
ベリーさんがAランク冒険になれた理由はここにあるんだろうな。ベリーさん…今頃何をしているんだろうか?
「おや?タロウ君にカルミナさんではござらぬか!久しいでござるな!」
「「何でいるの!?」」
「はっはっはー。相変わらず息ぴったりでござるな!」
「あと、語尾にござる付けてる人全然いねーじゃねーか!」
この街に来て色んな人とすれ違っているが、会話の中でござるなんて語尾が出てきたのを聞いたことがない。
「タロウ君とカルミナさんが街から居なくなってしまったでござろう?それで何だが妹に会いたくなって帰って来てたでござるよ!」
「お姉ちゃんがベタベタしてきて困ってた…二人のせいだった?」
「桃さんに迷惑かけたのはベリーさんだし、俺達が関係なくてもベタベタしてたと思うよ?」
「そうでござるよ!桃は可愛いでござるからな!」
「苺、タロウ殿とカルミナ殿がうちと安倍家の門下生となった。とりあえず、桃も連れてこの敷地を案内してあげなさい」
「分かったでござる!タロウ君、カルミナさん行くでござる!」
「タロウさん、カルミナさん行きましょう。まずは修行で使う場所から案内しますね。」
◇◇◇
今は庭を歩いている。先程まで一通り敷地を案内してもらっていた。型を練習する部屋や筋力を上げる為のジムの様な場所もあった。安倍家でも思った事だが、敷地の広さの割に門下生は多くないみたいだ。その分、ここに居る人はみんな鍛えぬかれて強そうな人ばかりだったが…。
「どうでござったか?」
「ここでなら強くなれそうですね」
「そうでござる!タロウ君、久しぶりに打ち合おうでござる!」
「今からですか?いえ、ありがたいですけど…」
「カルミナさんは槍でござったな?桃が薙刀を使うでござるから桃と打ち合うといいでござる!桃、打ち合う用に木刀を頼むでござる!」
「分かった!」
「桃さん、私も手伝うわよ」
「カルミナさん…ありがたとうございます!」
カルミナと桃さんが武器を取りにいった。
「タロウ君が毎日刀を振っていたか確かめるでござるからな?」
「お手柔らかにお願いしますよ?ルールはどうするんですか?有効打か負けを認めるかですか?」
「それでいいでござるよ…タロウ君、ローブは脱がなくて良いでござるか?」
「一応脱いでおきますか…」
ローブを脱いでアイテムボックスにしまう…刀もしまって…ん?
「タロウ君、その刀!絶対良い刀でござる!どうしたでござるか!?」
「あ、はい…職人さんに頑張って貰いました」
「私でもそんな刀は持ったこと無いでござるよ!?いいでござるなぁ…いいでござるなぁ…」
「う、うぜぇ…分かりましたよ。腰に挿して刀を抜くだけですよ?取らないでくださいね?」
「ありがたいでござる!…ほぁ~綺麗な刀身でござるなぁ…光をよく反射させてるでござるから…ほらタロウ君!背景と同化して刀身が見えにくくなってるでござろう?」
ベリーさんが刀身を横に寝かせて後ろにある白い塀と同化させて刀身を消した。
「す、凄いですね!ベリーさんのこういう所だけは尊敬しますよ!これなら長さが分かりにくいですね!」
「タロウ君…なかなか辛辣でござるな…はは」
ベリーさんが刀を返すそぶりを見せるが最後の最後で中々手を離さない。
「もう…十分…でしょ!」
「ち、違うでござる…刀の方が離さないでござる!」
くっ、子供みたいな事を…
「持ってきたわよ~」
「…って、お姉ちゃん何してるの!?」
「桃さん助けて!ベリーさんが俺の刀をはな…うわっ!」
「な、何でもないでござるよ桃!」
急に手を離すから後ろに倒れちゃったじゃないか…。
「本当なのお姉ちゃん?」
「本当でござる!あ、木刀はお姉ちゃんが持つでござるよ!」
もしかして、桃さんが弱点?ほうほう。これは覚えておこう。
「じゃ、タロウ君。少し離れた所に移動するでござる!長物は場所を使うでござるからな!」
「分かりました。よし!全力を出していくぞ!」
◇◇◇
「ここら辺で大丈夫でござるな!」
「お願いします、ベリーさん」
少し距離を開け、俺は木刀を正面に構えて気持ちを一旦リラックス状態に持っていく。心を落ち着け集中する。
「うん、いいでござるな!では、行くでござるよ!」
「はい!」
俺は足に力を溜めて…足元にあった石を蹴り飛ばした。それとほぼ同時にベリーさんに向けて走り出す
「剣筋はいいでござるな。振り下ろすスピードも前とは比べ物にならないでござるよ!」
ちっ、簡単に避けやがって
「はっ!」
俺の振り抜いた木刀をベリーさんが木刀で受けて一瞬膠着状態になる。…が、俺の方が押し返された。
「うんうん、パワーも上がってるでござるな。でも、力の入れるタイミング、抜くタイミングが甘いでござる」
「くっ…まだまだ!!」
フェイントを交ぜ、体術も組み合わせて何とか1本でも取ってやろうと奮闘するが、フェイントは見破られ、体術もあしらわれついに……
「うぐ…」
「まだまだ拙者の方が強いでござるな!あっはっはーでござる!」
喉元に木刀を添えられ、完全に俺の負けだな。
「参りました。相変わらずの強さでしたね」
「うんうん!タロウ君はその剣技に魔法もあるからBランク上位くらいの力はあるでござるな!」
「今の冒険者ランクはCランクですよ?まぁ、カルミナとのパーティーならBランク扱いになりますけどね。あんまりクエスト受けて無いんですよね実は…」
「そうでござったか。まぁ、ランクなんて上がっても良いこと無いでござるよ?無茶苦茶なクエストを押し付けられるのがオチでござる!」
Aランクが言うと重みがあるなぁ…。
「ベリーさん、カルミナ達の方に戻りますか」
「そうでござるな。どっちが勝ってるか気になるでござるな!」
「桃さんは薙刀ですよね。突くや叩くの槍に斬る事も加わってる武器…扱いが難しそうですね」
「我が妹はまだ11歳ながら、薙刀の基礎は出来ておるでござるよ!」
そんな話をしながら戻ってくると、そこには槍を桃さんの心臓に突きつけてるカルミナと、カルミナの首に薙刀を付けている桃さんの姿があった。
「これは…」
「引き分けでござるか?」
「やるわね。まぁ、私の本気はこんなものじゃないけど」
「カルミナさんこそ。まぁ、私も本気じゃないですが」
「「うふふふふふ」」
二人は笑っているが笑ってない。火花がバチバチと音を立ててぶつかっているのが見える。…って!フレイミアの演出かよ!完璧だけどさ!
「ベリーさん…」
「桃は負けず嫌いでござる…カルミナさんと同じタイプでござるな。つまり、二人共可愛いでござる!」
カルミナの槍の錬度もそう低いモノじゃないんだけど…桃さんも凄いんだな。今度、対戦してもらおうかな。
◇◇◇
「父上、案内してきたでござる!あと、タロウ君もカルミナさんも桃と同じ所から修行をして大丈夫でござるよ!」
「うむ、分かった。ベリー、暇なら3人の修行はお前に任せる。他の門下生は私と葡萄でみる。」
「分かったでござる。みんな、厳しく行くでござるからな」
「「「お願いします!」」」
「それで、いつから始めるでござるか?」
「今日は宿に戻って…次の日は安倍家に行くので、明後日からですかね?急用とかでズレない限りは」
「タロウ君は安倍家にも行くでござるか?」
「えぇ、1日交代でお邪魔させて貰います。」
「タロウ君…月謝は大丈夫でござるか?」
月謝!?え、あ…そうか。タダで教えを受けられる筈もないか。忠晴さんも六道さんも言わなかったから完全に失念していた。
「月謝…月謝ですね。えっと、おいくらですか?」
「うちも安倍家も月々に1人大銀貨5枚でござる。」
月々5万。まぁ、この二家ならこのくらいなのかな。俺とカルミナで安倍家と九重家にに10万と10万で…金貨2枚か。
1年で金貨24枚、5年くらい居たら金貨120枚。つまり、大金貨12…黒貨1枚と大金貨2枚。1200万円…か。
「えっと…タロウ、いくらになるの!?」
「5年いたら安倍家と九重家に二人で大金貨12枚だな。」
「タロウ殿は算術が得意なので?ですが、お二人とも月の半分の値段で大丈夫ですよ。」
3日ずつだったな…。なら二人で600万くらいかな?5年居るとも限らないし手持ちで何とかなるが…クエストもちょくちょく受けておかないとな…
「タロウ…お金足りるの?」
「ああ、とりあえず手持ちで大丈夫そう。でもクエストも受けておかないとお小遣いがね」
「足りるならそれでいいわ!」
「タロウ君もカルミナさんもお金持ちでござるなぁ~」
「まぁ、ちょっと稼いだ時がありましてね。そうだ!これ、美味しい果物ですが…」
「これはこれは、ありがとうタロウ殿。今日はどうするのかね?ご飯でも食べて行くかい?」
「いえ、今日はもう宿に戻ろうと思います。今日はお世話になりました」
「そうか…二人共、もう九重家の門下生だ。困った事があればいつでも頼りなさい」
「そうでござるよ!」
「これからよろしくお願いしますね」
「では、お邪魔しました。タロウ、帰るわよ!」
「そうだな、お邪魔しました。」
ベリーさんと桃さんに玄関まで見送って貰い、俺達は九重家を後にした。宿に戻る前に安倍家に立ち寄り、エルフ産の果物のお裾分けをしてから戻ってきた。明日からランニングも始めないといけないし、修行も始まるという事でその日は早めに寝ることにした。
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