第69話 タロウ、安倍家を訪れる
よろしくお願いします!
「今日の朝食だけど、納豆食べてみる?」
「なっとー?それって、どんな食べ物なの?」
「お米の上に乗せて、米と一緒に食べる物だけど…結構好き嫌いが分かれるかな?ネバネバだし」
「美味しいの?」
「美味しいよ?食べ方というか、納豆に色々混ぜて味を少し変えたりアレンジも出来るし」
「…なんでそんなに詳しいのよ?」
「…き、昨日食堂のおばあちゃんに聞いたんだよ?」
「怪しいわね…でも、まぁいいわ。食べてみようかな?なっとーとやらを」
「すいません、卵焼き定食2つ。今日は納豆もお願いします!あと生卵も」
「あいよ、卵焼き定食2つー!生卵も2つで!お題は銅貨8枚だよ。」
お金を払い、席について待っていると料理が運ばれてきた。
「ん~!この卵焼き?美味しいじゃない!甘いのね!」
「美味い。この醤油ってのをかけると少しだけしょっぱくなってまた美味しいぞ?」
「ホントね!…それで、タロウ?この生卵は?」
「えっと、納豆と混ぜるんだ。俺はそうして食べるのが好きだからな。ここだけの話、生卵とお米を混ぜる卵かけご飯ってのも美味しい。飲むお酢ってのを掛けるともっと美味しくなる。」
「…だからなんでそんなに詳しいのよ!?」
「まぁ、それは置いといて…早速食べてみよか。カルミナには最初、納豆だけで食べてみるのをオススメするよ。この納豆は混ぜてあるからそのままお米に乗せて大丈夫っぽい」
「どれ…ホントにネバネバね。……うん…美味しい。美味しいじゃない!お米が進むわね!」
「おう…良かった。お箸についたネバネバは味噌汁で取れるから。」
納豆を気に入って貰えて良かった。なんとなく嬉しい気持ちになってくる。卵を混ぜた納豆も美味しそうに食べてるカルミナを見てるとただの朝食も何倍も美味しく感じられる。
「口がネバネバするわね…」
「後でうがいでもしようか…。そしたら今日は安倍さんの所の道場を見学しに行ってみよう!」
◇◇◇
「…広いな」
「…広いわね」
安倍家の道場を街の人に聞いたら、この道を真っ直ぐ行けば分かると言われて来てみたら…簡単に分かった。この広い敷地にある道場が安倍家のに違いない。
ズドン!ズドン!ズドン!
「な、なんの音かしら?地面に衝撃が鳴り響いた様な音だけど…」
「入ってみようか…勝手に入っていいか分かんないけど」
門の様な両開きになっている木製の扉の片側を開いて中を覗いて見ると中央に1人、その回りを取り囲む様に何人かが構えを取っている。
「式神"鬼童丸"。さぁ、どこからでもかかってきなさい」
「式神"赤鬼"。行け!」
「式神"青鬼"。吹き飛ばせ!」
「式神"黄鬼"。任せたぞ!」
「式神"緑鬼"。先生に一泡吹かせてやれ!」
「鬼童丸。いきなさい。」
『グオオオオオオ!!』
4体の鬼が中央の鬼に向かって仕掛けて行くが避けられ、殴られ、手に持つ棍棒で吹き飛ばされて最後に立っているのは中央の鬼だけとなった。
「鬼に戦わせているのか?それに式神って言ってたな」
「魔法…とは少し違うのかしら?召喚術に近い様な感じみたいだけど…」
式神と言えば陰陽師が使うってくらいしか知らないが…。陰陽師?安倍家の陰陽師?って、まさか物凄く有名なあれじゃないのか!?
「門の所に居るお方。見学ですか?よろしければこちらまでお越しになってください。」
「は、はい。お邪魔します」
俺とカルミナは恐る恐る男の元へと向かってとりあえず自己紹介をした。
「初めまして、タロウと言います。今日は見学をさせて貰いに来ました」
「カルミナって言います」
「これはこれは、外国の方ですね。ようこそいらっしゃいました。私は安倍家の現当主、本名を安倍忠晴と申します。職業は陰陽師で、役職は将軍補佐となっております。」
「たしか、九重家と並んで将軍の下についているんですよね?」
「公的にはそうなってますが…。我らが祖先からの言い伝えで、立場を明確とするために順序は定めるが徳川、九重、安倍家に差はない。横並びで街を繁栄させよ…というものがあるんですよ」
「なるほど…最初の三家を頂点に発展してきたわけですね。」
「面白い事にそれぞれの家系で得意分野が分かれているのですよ。我が安倍家は魔法や召喚術。式神の使役ですね。九重家は刀や他の武器に体術。身体強化を得意としていますよ」
「家系で分かれてるって不思議よね。安倍家と九重家が結婚したらどうなるのかしら?」
「いい着眼点ですね。昔の資料にその結果があるのですが…男児は安倍家よりに、女児は九重家よりになったそうですよ。安倍家と九重家が結ばれた時だけこうなったそうですよ。私には息子と娘がおりますがどちらも安倍家の力を受け継いでおりますので」
昔に結婚してるんだ…。つまり今の安倍家と九重家って薄いが血が繋がってるのかな?
「そうなると、徳川家は何が得意なんですか?」
「普通気になるよね。ガッカリしないで欲しいんだけど徳川家は特に何かが得意な訳ではないんだ。ただカリスマ性で成り立ってるって所があるね。」
「それって…タロウ、どう思う?」
「俺か?そうだな。俺はそれでいいと思うぞ。上に立つ人間は責任を取る事と象徴となってくれるだけで十分だと思う。下手にワガママで掻き回されても面倒だしな…」
「ふふ。タロウ君は言うね。でもあんまり、外で言っちゃダメだよ?打ち首になるからね」
「おっと…気を付けます」
「それで、今日は見学だったね。一緒に視て回ろうか。陰陽師の説明もしてあげよう。」
「お願いします!」
「頼みますね!」
まずは敷地内の建物を案内して貰った。先程の入り口の近くにあったのは式神を使って戦闘するための広場らしい。他には精神鍛練の為の部屋。魔法の勉強部屋。風呂や門下生の部屋など多くの建物があった。
「敷地内はこのくらいだけど、山での修行の為の土地とかもあるから魔法の修行なら安倍家に来るといい。さ、次は修行の中身だね。」
「さっき見た式神について教えて欲しいのですが。」
「もちろんいいとも。さっきは鬼を見たね?あれも式神の1つで攻守に優れた式神だ。他には動物の式神とかが主だね。式神ってのは簡単に言うと召喚術に近い術だ。違いといえは、術の発動の速さ…発動の時に式札に魔力を込めればそれで式神は現れるよ。他には、同じ式札でも込める魔力の属性や魔力の量で違うモノが現れるという事かな。これは良い点で、悪い点もある。それは、術を発動する時に式札1枚1枚に魔力を込めないといけない事かな。強い式神を呼ぶにはそれ相応の魔力が必要になるから魔力が少ない者にはオススメは出来ないかな。」
そう言って、忠晴さんは1枚の式札を取りだし赤い鬼を発現させた。
「今は火の魔力を込めてみた。式札はこの赤い鬼の中にあって、鬼が倒されると中の式札も使えなくなるからそこは注意が必要だね。式札に戻す時は鬼に触れて、少し魔力を流せば…こんな感じで式札になる。次はこっちの式札。鬼の式札と形は同じだけど式札に描かれてる模様は違うでしょ?」
そう言って次に発現させた式神は犬の式神だった。
「もう1枚あるけど、こっちには魔力を多く込めてみるよ…。現れよ"狛犬"」
『ウウォン!!』
「おぉ…乗れそうなくらい大きくて頑丈そうですね」
「こっちの小さい方と比べ物にならないわね」
「実際に、速く移動したい時に使ったりするかな。これで魔力の込めた時の違いも分かったかな?この大きさにまでする為には、魔法…魔力の才能が必要になってくる。ここに修行に来た者は魔力を伸ばす修行から始める事になる」
「そうしたら式札を使える様になるのですか?」
「いや、その次は式札の模様を覚えるのと描けるようになる練習かな。式札は消耗品だからね、これが出来ないと式札が切れた時に補充ができないからさ」
「なるほど、ここまでが基礎って事ですね?」
「そうなるね。そして、次の段階としては書庫にある鬼や動物の絵姿や伝承について書いてある本でのイメージトレーニングですね、式札に魔力を込めるだけでは足りませんから。それが十分に出来たらようやく式札を使っての練習です。魔力量の調整の練習となりますが…人それぞれの感覚がありますから、どのくらいの魔力量で自分の発現させたい式神が出るかを覚えて貰います。」
「た、大変そうね…」
「そうだな…魔力量には自信があるけどそこから調整となると大変そうだな」
「最初の方の練習で挫折される方も少なくはありませんよ。式神を状況に合わせて自在に出せる様になったら戦闘訓練に移ります。式神の戦闘にもやり方が幾つかありますからね。以上が説明となります。細かい部分は成長度合いに応じて教えていく形になりますね」
「ありがとうございました。ここは式神以外も教えているんですよね?」
「えぇ、普通の魔法については私の妻が担当しています。正直そっちの方が大変な気がしますけどね…ははは」
式神か…。防御用や移動用の式神とか、戦場が広いとか敵に囲まれた時に手数が増えるのは助かるな。索敵なんかにも使えそうだ。
「カルミナはどうする?」
「私にはみんながいるし…やっぱり魔法の方を伸ばしていきたいわ」
「俺は陰陽師にも興味あるし、式神について学んでみようと思う。あー、でも刀もやらないといけないしなぁ…」
「タロウ君は魔力量に自信があるのかな?」
「えぇ、他の人よりは多いと思いますけど…」
「なら試しにこの式札に魔力を込めてくれるかい?鬼の式札だから何か鬼を想像ながらね」
「どのくらい込めればいいのですか?」
「そうだね…段階的に見ていこうか。1割2割くらいから始めてくれるかい?」
「分かりました。……こい!式神!」
『グオオオオオオオオ!』
鍛え抜かれた様な肉体に鋭い角。大剣を持つこの姿には見覚えがある…。
「「こ、こいつは!!」」
「二人とも驚いてるようだが…私の方が驚いてるんだよ?鬼人を出現させるとはね…」
「タロウ!こいつは森で戦った強化種の鬼人じゃない!何てものをだしてんのよ!」
「鬼って言うから!鬼って言うからつい!」
「式神の鬼は能力が高ければ高いほど人型に近づくんだけど…2割程度の魔力でこの鬼人か。」
「ヤバい!ヤバいわよタロウ!」
「倒すぞ、今度こそ無傷でな!」
「これなら、魔力を伸ばす訓練は飛ばして、札を覚える事と描く事から始めてもよさそうだね」
「動かないわよ、タロウ!」
「警戒を怠るなよ!隙が出来るのを待ってるのかも」
「二人共、これは式神ですから!式神ですからね!?落ち着いてくだされ!」
そ、そうだった。こいつは俺が呼び出した式神だったな。ついあの時の記憶がフラッシュバックして…危ない危ない。
「落ち着いたようですね…。とりあえずタロウ君の魔力の多さは分かりました。正直、私以上かもしれませんね。刀の修行があるとの事ですので、安倍家の門下生になると言うなら、3日ずつと言うのはどうでしょうか?1日ずつ交代で刀、式神、刀、式神…7日目は休息日。勝手に決めるようで悪いですが…どうですか?」
「カルミナはどうだ?」
「そうね、いいんじゃないかしら?何かしら急用があったらそこは融通を利かせて欲しいけどね。」
「えぇ、そこは融通を利かせますよ」
「それじゃあ…よろしくお願いいたします、忠晴さん!」
「お世話になります!」
「えぇ、お二人を安倍家の門下生として迎え入れます。近い内に他の門下生や私の家族を紹介しよう。お二人は宿をどうしますか?こちらに住んで貰っても構いませんが…」
「これから九重家にも行ってみようと思います。可能ならどちらにも泊めて貰って、宿代と移動時間が節約出来ればと。」
「なるほど…こちらの修行が終わったら九重家に泊まりに、刀の修行が終われば安倍家に帰ってくるという事ですね。」
「タロウ、絶妙にセコいわね!」
言うな、カルミナ…。クエストを受けれるのが7日の内の1日しか無いんだぞ、節約だ節約。
「たくましい事じゃないですか。九重家の場所は知っているのかい?」
「いえ、でも、街の人に聞いたらすぐ分かると思いますよ?ここもそうでしたし」
「なら、軽く地図を描こうか。あと、宿泊の件も一言手紙に書いて来るから少し待っていてくれ」
「わざわざすいません、助かります」
忠晴さんが屋敷に戻った隙に試したい事をやってしまおう。
「鬼人を戻して…っと。」
「タロウ、何してるの?」
「いや、さっきより魔力を込めたらどうなるかってね」
「イメージとか属性はどうするの?」
そうだな…イメージは何かこう、角生えた美少女を…男でもいいけど。うん、今回は男にするか、シュッとした男をイメージして属性はどうするかな…。鬼だから火とか土とかか?試しだから火でいいか。
「よし、イケる気がする。イメージも固まった。属性も大丈夫。行くぞ……来い!式神!」
目の前が一瞬光り、目の前に片膝立ちをして頭をさげている男が現れた。
『式神"緋鬼王"主を守るため参上しました。』
「お、おう。…とりあえず立ち上がってくれ」
『承知』
目の前には180㎝はありそうで俺達と似た肌に赤い髪に赤い目をしてオデコの中央から1本の角が出ている美男子が立っていた。爪は鋭く、袴とは少し違うが似たような服を着ている。
ちっ…美少女を出そうとしていたせいか、シュッとして格好いい男が出てしまったぜ。
「お前は強いのか?」
『主に頂いた魔力以上の働きをお約束しましょう』
「力に自信は?」
『もちろんあります』
ほぅ。そこまで言うなら試してやろうじゃないか。
「召喚 アトラス」
『んあ~?どうしたんだ~?』
「アトラス、腕相撲は知ってるよな?こいつ、緋鬼王って言うんだけどちょっと勝負してみてくれ」
『分かったぞ~』
『主、この子は強いのですか?』
「戦闘能力はそこまで高くないけどうちで1番の力持ちだぞ?」
『そうですか。なら、本気でいきます』
『勝負だぞ~』
「カルミナ、台を土魔法で作ってくれ。頑丈なやつをな。二人ともヤバそうだし」
「分かったわ……ランディア、お願い」
『おうよ!…これくらいでいいかい?』
「ありがとうランディア!さ、二人とも準備はいいな。いくぞ……よ~い……始め!!」
『ぬん!』
『うお~』
おぉ、動かないな。始まりの位置からほぼほぼ変わりない。
『や…ります…ね』
『うぬ~』
ここまででも十分に緋鬼王の力は分かったが、起爆剤を投入してみようかな。
「アトラス勝ったら串団子」
『!うぬ~!!』
『なっ!?ぐぅ……く…』
「勝者アトラス!!…はい、串団子」
『やったぞ~串団子~!』
「緋鬼王、どうだ?アトラスは強いだろ?」
『えぇ、まさかあんな力が残っていたとは…完敗です』
「お前には戦闘能力や他の力もあるだろ?純粋な力も分かったし…強いな緋鬼王は」
『!?…お褒め頂き光栄です主。必要ならいつでもお呼びください』
「お前は俺の魔力の半分近く持っていくからなぁ~、たまにだぞ?」
『それで十分でございます』
「じゃ、またな緋鬼王」
『はい』
緋鬼王に触れて魔力を流し、式札に戻した。アトラスぐらいのパワフルで暴れまわったら恐ろしいな。何かの時に使うとしよう。今さらだが、普通に言葉を話していたのも気になるな…。
「タロウ、忠晴さんが戻ってきたわよ?」
「危なかったな。カルミナ、内緒だぞ?」
「はいはい、タロウはたまにやらかすものね。慣れっこよ!」
「待たせたかな?これが地図でこれが手紙ね。手紙は九重家の方に渡せばいいと思うよ」
「ありがとうございます。これからお世話になります。」
「うん。修行の開始はいつでもいいから準備が出来たらいつでも来てくれ」
俺達は忠晴さんに見送られ、安倍家を後にした。今度は自分で作った式札で緋鬼王を呼び出してやりたいな。その為に今の魔力量を覚えておかないと!
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