第68話 タロウ、ジパンヌを調べる
よろしくお願いします!
「なんか寝起きが最高だ…これが温泉と畳の力か?」
宿で目を覚ますと船旅の疲れが吹き飛んだ。カルミナも慣れない敷き布団のはずなのにぐっすり眠っているようだ。俺は部屋を出て温泉へと向かった。宿に泊まったら朝風呂は行っちゃうってもんだ。
部屋を出て温泉に向かうと宿の従業員とすれ違う。昨日も街中で思った事だが、この国で黒髪以外は目立って外の国から来たとすぐに分かる。俺達の国では黒髪が目立つからお互い様なんだけど。じろじろ見られるのはなんかね…
「あぁ~…朝風呂も気持ちいいな。体が目覚めるようだあ~」
「おや、この国以外の方で朝風呂とは珍しいですね」
体を洗い流してお湯につかると、先に入っていた他のお客さんに話しかけられた。たしかに、珍しさはあるかもしれないけどさ。
「たぶん、みんな知らないんじゃないですか?朝風呂の気持ちよさを…まぁ、僕もこれから毎日入るわけじゃないですけど」
「たしかに、外国の人は朝風呂という習慣は無いのかも知れないね。」
それから、温泉から出るまでおじさんと朝風呂トークを交わして部屋に戻った。カルミナを起こして朝食へと向かう。どうやら食堂があって、そこで食べる事になっているらしい。そこは同じ所だな。
「なんか…知らない料理ばっかりなんですけど?」
「まぁ、ミシラン商会のおかげで世界中で料理は発展してるとはいえ各国で食べる物は違うからなぁ。他の国じゃ、米も少ないしカルミナは何が食べたい気分?」
「朝は軽くでいいわよ。」
「なら、焼き鮭定食とかにするか?俺もそれにするかな。」
「それで良いわ。」
「じゃあ、注文してくるから先に座ってて」
「すいません、焼き鮭定食2つ」
「はいよ。外国の方だね…主食はお米にする?それともパンにするかい?」
「お米でお願いします!むしろ、米を楽しみにしてた所ありますし。」
「分かったよ。それと…この国に納豆っていうネバネバしてるご飯のお供があるんだけど外国の人は苦手らしくてね…どうする?」
「そうですね…今回はやめておきます。今度チャレンジさせてもらいますけど」
「あいよー。焼き鮭定食2つ注文入りましたー。納豆抜きでーす。…お代は2つで銀貨1枚だよ」
お金を渡してカルミナが取ってる席まで向かった。
「カルミナって米は食べた事あるっけ?」
「あるわよ!結構昔の話だけど」
「米かパンか聞かれて米って答えてさ、食べた事あるなら大丈夫だな」
「米は大丈夫だけど…この食器ってお箸ってやつよね?ちょっと難しいのよね…」
俺達の国だとナイフとフォークとスプーンだもんな。俺は大丈夫だけど…魚の骨くらいは取ってやるか。
「お待たせ致しました。焼き鮭定食です。」
「おぉ…朝食って感じだ」
「美味しそうね!じゃあさっそく…」
「まて、カルミナ。いただきますをしてからだ。他のお客さんもやってただろ?」
「そういえば、そんな声も聞こえてたわね…。いただきます!」
「まて、カルミナ」
「まだなにかあるの!?」
「魚の骨を取ってやるから少し待って」
「そういう事なら任せるわ……なんでそんなにお箸の扱いが上手いのよ?」
「小さい時に練習したんだよ…っと、はい、これで大丈夫だと思う」
「ありがとう、…んー、美味しいわ!」
あぁ、美味い。米が美味い、魚も美味いし味噌汁も美味い。これぞ朝食だな。今度は別のも食べてみよう…この国にいたら油断すると太りそうだな。
「「ご馳走様でした」」
「タロウ、この後はギルドに?」
「街をもっと見てみたいけど…ギルドに行ってみようか。」
◇◇◇
「こっちの国の建物は木製が多いのね」
「そうだな、塀とかは違うけど建物自体は木が使われてるみたいだな。」
「女の人のあの服は動きにくく無いのかしら?」
「あー、歩幅とか小さいし動きにくいのかもな。着てみたい?」
「機会があったらね。それにしても…私達、浮いてない?」
「カルミナ…こればっかりはしょうがない。黒髪の中に金髪は目立つからな。別の国から来たってバレバレだ」
この国の人とすれ違う旅にみんな、カルミナの金髪を見ている。他にも黒髪以外の人は居るがどうしても見ちゃうんだろうな。偽装で変えてもいいが、はぐれたら見付けにくくなりそうだしカルミナには我慢して貰うしかない。
「っと、話してる間に着いたな。どれどれ…エドヌのギルドへようこそ…」
「へぇー、ここはエドヌっていう地名だったのね。どうしたのタロウ?」
エドヌ…江戸ヌなのか?いや、きっと違うに決まっている。こういうのは深く考えない方がよかったりする。
「なんでもないよ、行こっか」
ギルドの中の造りは他の国のものと似ていた。外装はジパンヌならではのモノだったが、細部に違いはあるとはいえ内装はほとんど一緒と言っていい。
「なんか…男の人の割合が高いわね」
「そうだな…ルールト王国だとパーティーに1人か2人は居る事も珍しくないし、それかパーティー全員が女の人ってのもあるからな。文化の違いなのかもな。」
「ここでジパンヌについてもう1度調べておかない?」
「だな、国の歴史くらいは知っとかないと」
俺達は列の最後尾に並んで順番を待っていた。貼り出されているクエストを横目で見てみると、護衛系のクエストが多く見られる。その他には雑用系ばかりだ。
「タロウ、順番よ」
「あ、うん。」
「ようこそエドヌのギルドへ。他国の方ですよね?ギルドへはどのようなご用件でしょうか?」
「えっと、修行目的で来たのですが…この国のルールを調る為と、どこで修行すればいいのかと。」
「なるほど、そういう方はよくいらっしゃいますよ。私と同じくらい若そうなのに頑張るのね。それで、この国についてはどのくらいご存知ですか?」
「あー、将軍がいて、下に武士、商人、最後に農民っていう順に立場というか身分がある事と、米が美味いというくらいですかね。」
「なるほど、あまり知らないという事ですね。来る前に調べて来て欲しいものですが。まぁ後程、この国の資料をお持ちしますよ。修行目的という事ですが…宛てはあったりしますか?」
「一応…師匠がこの国の出身なので挨拶に行こうと思ってまして、そこからなんやかんやで上手く事を運べたらと」
「つまり、ほぼ無計画という事ですね。大丈夫なんですか?そんなんで…。では、道場で門下生を募っている所のリストとお持ちしますのでお待ち下さい。」
「タロウ…」
「何も言うなカルミナ。刺のある言葉を使う受付がいてもいいじゃないか。」
しばらく待つと1冊の本と束ねた紙を持って受付の人が戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらの本がこの国について分かる本です。こちらの紙が門下生を募っている道場のリストです。体験に行き、気に入った所で修行する事をオススメしますよ。本はここで読んで返却をお願いします。リストは持っていってしまって大丈夫ですので。パッと読んでサッと行って下さい。では、次の方どうぞ」
「ありがとうございました…。」
「おい、早くどけよ…。はぁはぁ、桐華ちゃん。いいクエストとか…あるかな…はぁはぁ。」
「猪狩りのクエストが出ていますね。受理しておくので早く行って下さい。気持ち悪いので早くお願いしますね。」
なかなかキツい事言うな…なんて思っていると、言われた男が喜びの顔と声を上げながらギルドを出て行った。受付に立ってから30秒も経っていない…。
俺が振り返ると桐華と呼ばれてた受付と目が合う。
「何か?」
「いえ、ずいぶん個性的な人に好かれ…人気あるんですね」
「殺しますよ?」
「すいません…」
ひえっ…俺は軽口が脅しになって返ってきたのが怖くなって、さっさとカルミナとギルド内にある椅子に座り、本を開いく事にした。どれどれ…。なるほど、エドヌがこの国の首都で他にいくつもの藩がある…と。へぇー、たまに内乱が起きるけどエドヌを守る武士達が将軍を守ってるから中々てっぺんは落とせないと。
「これは!?」
「どうしたのタロウ?」
「いや、昔にこの国を立ち上げた人達の事が書いてあったんだけど…」
「どれどれ…えっ!この国って米を作ってたらいつの間にか栄えていたの!?なにその歴史!どう発展していったのよ!?」
俺もビックリだ。徳川和哉。安倍ひかり。九重久明。この国を立ち上げた最初の3人とし名前が残っている。もしかしなくてもたぶん…転生者。ただ、米を作っていたら村が出来て、町が出来て、都市になっていったのだろう。転生者が3人だとするとチート能力で色々と出来たのかもしれない。
「面白い歴史だな。それに、徳川、安倍、九重か。」
「九重ってまさか?」
「たぶん、ベリーさんも関係あるんじゃないかな?別のページに書いてあるけど、九重は将軍に仕える武家の中でも安倍と並んで上の立場みたいだ。貴族でいうと侯爵くらいなのかな?」
「やっぱりベリーさんって凄い人だったのね…。」
「いや、忘れがちだけどカルミナは王女だからな?」
「あっ…いや、いいの。今の私はただの冒険者。」
「この国の歴史はもういいな。失礼な事あっても外国人ってことで許して貰えばいいしね。次はリストの方を見てみようか」
「パラパラと見たけど何が何だか分からないわよ?名前で分かるのは九重と今さっき名前が出た安倍って所だけね。」
「そこも門下生集めてるのか?名前が知れてるから人もいっぱいいると思うんだけど…」
「ベリーさんの強さを考えれば、そうとう厳しい所か少数精鋭タイプなんじゃないかしら?」
「本を返すついでに聞いてみようか。」
「そうね。さっきの受付が1番並んでるけど捌けるのも速いのよね…」
俺達は桐華さんの列にならんだ。何故かここに並ぶと他の列に並んでる客から変な目で見られるが…まぁ、理由としてはあれだろう。
「桐華たん…僕にもいいクエストないかなぁ?はぁはぁ」
「ドブの掃除ね。貴方にはそれがお似合いよ。受理しておいたから行ってきなさい。次の方、どうぞ」
「桐華さん、く、クエスト達成したきたよ。」
「はい、確認します。…達成してますね、報酬をお持ちしますのでお待ち下さい。………こちらが報酬です。お小遣い程度ですが良かったですね。次の方…」
「ねぇ、タロウ…なんでみんな嬉しそうなのかしら?」
「カルミナ、桐華さんって黒髪のロングヘアーでちょっとキツめな雰囲気があるだろ?あ、なんか顔つきというか、目元とかはカルミナに似てる部分もあるな…。じゃなくて、この列に並ぶ人ってああいうタイプ…言葉が暴力的な人が好みなんじゃないかな?」
「大人がそれって大丈夫なのかしら……まさか、タロウも!?これからそうした方がいいのかしら…」
「落ち着けカルミナ!変な方向には行かなくてよろしい。今のままのカルミナで居てくれ」
「タロウ…!」
「んん、ん。次の方、どうぞ!」
「あ、はい。すいません。とりあえず本は返しますね。あと聞きたい事が。この九重と安倍って方がやってる道場も門下生を募集しているのですか?」
「していますね。理由としては来るもの拒まずって考えらしいです。それで門下生になって修行をする者も居るみたいですが…キツくて逃げたす人が後を絶たないらしいです。最初から入らなければいいのにと思いますが。」
やっぱり修行がキツいのか。来るもの拒まずなら行ってみるのもいいかな。
「分かりました、ありがとうございます。」
「別に仕事ですから、さっさと修行をしに行ってくださいね。」
鑑定…黒歴史。なるほどなるほど。
俺は桐華さんに聞こえるくらいの距離と声で伝えた。
「毎晩の牛乳に腕立て伏せ…努力家なんですね…Aカップ。では、また来ますね!これからですよ、これから!」
「ッ!?どこでそれを!ちょ、待ちなさい!」
俺はカルミナを連れてギルドから逃げ出した。桐華さんの驚く顔を見れただけキツい言葉の仕返しは成功かな。さて、まだお昼には早いしどうしようか…
「カルミナ、道場でも見て回るか?」
「さっきのリストに名前と住所が載ってあるから色々見に行きましょう!」
俺達は串団子を片手に人に道を尋ねながら道場巡りをしていった。どこの道場も基本は胴着姿で木刀や木槍での素振や、防具を着けての稽古をしていた。
道場の数は多く、素手での武術を教えている所や投げ技専門の道場など多岐に渡って存在していた。
「アンコが美味いなアンコが。」
「私はみたらし団子の方が好きよ」
お昼にはお蕎麦にカルミナが苦戦する姿を楽しんで今は3時のおやつタイムだ。これからの予定も話している。
「九重と安倍の道場は明日にして、観光でもしようか。なんか買いに行こうぜ」
「賛成よ!」
その日は夕方まで買い物を楽しんで宿に戻ってきた。俺は米に各種調味料、お菓子の類いを大量に買って、カルミナはカルミナでお菓子を買ったり綺麗な模様のハンカチや食器類を購入していた。
「ふぅ…たくさん買ったわ!欲しい物がどんどん出て来て…恐ろしい国ね!」
「ご飯やお菓子も美味しいし…恐ろしい国だな。そうだ、みんなにもお菓子を食べさせないとな。召喚」
『このお菓子は…お饅頭…美味しいですね』
『ピヨリはこのカステラってやつが好きッピ!』
『全部美味いぞ~』
『水飴…美味しいの!』
「私も!みんな、おいで!」
『カルミナ、このわたあめという物は素晴らしい物ですね。』
『私はこの団子という物が好きだな』
『うむ、私の好みはこの煎餅だ!…歯応えもあって実に美味しい』
せっかく買ったお菓子がこの人数のせいで…主にアトラスのせいだが消費されてしまった。毎回これだと食費より高くなってしまうから、みんなで食べるたまの贅沢か手伝いのご褒美としてあげることにしようかな。
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