第67話 タロウ、侍と出会う
2話目になります。前話の短いのがありますので、そちらもよろしくお願いします!
こっちを先に読んでも大丈夫なかんじです。
「ジパンヌ行きの方~居ませんか~これから乗り込みで出発致しますよ~」
「あ、はいはい!ツェーベル氏ですか?」
「あ、君達も、私の船に乗ってくれるんだね?チケットは持ってるかい?」
「あ、はい。これです」
「はいはい。お、冒険者の方だったんだね!最近は危ないから頼もしいよ!はい、これに乗る方の名前を書いてね」
「馬も乗せて貰えるんですよね?」
「大丈夫だよ。海賊や化け物が多いから危ないからオススメはしないけどね。ははは」
なんか、思ってたより若くて能天気というか…軽い感じだな。
「あの、こんな事聞くのも変なんですが…ジパンヌへは危険が伴うんですよね?なのにどうして?」
「うん、まぁ…僕の運が滅茶苦茶良い。その一言に尽きるかな?その証拠に僕がジパンヌへ行こうとすると必ず腕利きの冒険者が来てくれるんだ。…今みたいにね」
実力を見抜かれてるだと…どうして分かったんだ?目が肥えてるのか?
「どうして、実力者だと?」
「そんな刀をぶら下げてさ、実力者じゃなかったら笑い者だよ!あははっ!」
あ、そういう…商人って言ってたもんな。物の良し悪しは分かるか。
「前にもジパンヌへ行こうとした事が?」
「あるよ。少し前にね、その時はなんか変な人だったなぁ~。ござるござるって、うるさかったよ…」
俺とカルミナは無言で顔を合わせる。言葉を発さなくても目で言いたい事は伝えられる。
そう…ベリーさぁぁぁぁぁぁん!!?…だ。
「カルミナ、俺達は運が良いようだな」
「そうね、久しぶりに会いに行きましょう!」
「その反応…知り合いだったのかい?変な人だったけど実力は本物だったからな~。じゃあとりあえずコレ。」
「ん?金貨1枚…これは?」
「報酬だよ、報酬。君達が居て、ジパンヌに着く事は決まったようなもんだからね前払いってやつさ。」
なんと言うか…掴み所の無い感じだな。まぁ、貰うものは貰ったし仕事はしないとな。
「ありがとうございます。それで、他に乗る人は居るんですか?」
「あと1人居るよ。他に居なかったら僕と船乗りを除いて人は計3人だね。その人は先に船に乗ってるから今から案内して紹介するよ。」
その後少しだけ集客したが誰もここからジパンヌへ行く者は居らず俺達はツェーベル氏の船へとやって来た。
「おぉ…さすが商人の船。立派ですね」
「まぁ、僕は海路で生計を立ててるからね。荷物も多く積めるように。まぁ、大きい商会に属してる訳じゃないのにこの船の大きさは僕の唯一の自慢さ!」
「ツェーベル氏は何を取り扱っているのかしら?」
「僕はわりかし何でもやってるよ?港に行っては仕入れて他の街に運んでいく。そんな事してるから、これでも顔は広い方なんだよ?話はここまで!さ、船に乗ってくれ!馬達も落ちない様に気を付けて」
船の中へと入って行くと馬達を休ませる場所があった。そこにリリーとトリーを繋いで俺達は船上へと上がった。
「あー、いたいた。二人共、紹介するよ。この人がもう1人の乗船者のリクドウさん。所用でこっちに来てたらしいよ、ジパンヌへ帰る所なんだってさ。」
ジパンヌの出身か。刀と脇差しをぶら下げて、偉い人がお忍びで行くときの和装って感じで剣客っぽい。うん。厳つい侍だ!
「初めまして、タロウと言います。隣はカルミナです」
「今回の船旅でご一緒させて貰うわね。」
「これはご丁寧に。拙者、リクドウと申します。して…お主は刀をお使いに?」
「あ、はい。魔刀を1本と…あと、2本の刀を持っています。」
「異国の方で刀とは珍しいですな。しかも、その刀…なかなかの逸品と見える」
「はい。職人の方に良い仕事をしてもらいましたね。この刀は魔力を通しやす……ッ!?」
キィィィンッ!
「ほう…今のを受け止めるか。」
「急に刀を抜いて何のつもりだ?」
「反応もいい。戦闘への切り替えも速い。だが、相手を殺すという気持ちが弱いな。それに比べて…」
「次、変な真似したらその体…貫くわよ」
俺がリクドウの刀を受け止めて、カルミナが魔槍をいつでも発射出来る様に構えている。気配察知スキルのお陰でなんとか反する事が出来た。
「良い殺気だ。すまない。異国の者で刀を持つものと出会い少しだけ舞い上がって試したくなってしまった。敵意は無い。」
「カルミナ、大丈夫」
「そう。分かったわ」
「あのぉ…船上で物騒な事は止めて欲しいと言いますか…」
「む、すまない。」
「す、すいません。」
ツェーベル氏がやれやれと言って、船を出航させる為に船員達に指示を出しに行った。それからしばらくして船は出航した。
その間に俺達は矛を納めてとりあえず話をする事にした。
「改めて言うが申し訳無い。本当に敵意はないのだ。」
「今の太刀筋は素人のそれじゃないですし、寸の所で止めれたとは思いますが…試すにはちょっと本気過ぎません?」
「そうよ!だから私も槍を構えて」
「返す言葉も無い。それは悪いと思うが…止められるまでは予定通りだが、お嬢さんに槍を向けられるとはな。はっはっはっ。」
愉快なおじさんだけどこの人と船旅かぁ…ジパンヌってこんな人ばっかりじゃないといいんだけど。
◇◇◇
それから何事もなく時間ばかりが過ぎ去っていった。…とはならず、俺とカルミナはひたすら素振りをしていた。
「1、2、3…」
「1、2、3…」
「振りが遅くなっている。気を引き閉めろ!」
「「はい!」」
「1、2、3…」
「1、2、3…」
リクドウさんに稽古を付けて貰うようにお願いをしたのは意外な事にカルミナだった。カルミナが言わなかったら俺から言うつもりだったけどね。だって…暇なんだもん。
リクドウさんからは基礎の基礎をみっちり教える方向でお願いをしている。だから素振りを毎日している。構えが乱れたらすぐに教えてくれるのでどんどん形が整っていく。
「カルミナ殿、腰が上がってきておるもう少し落とせ!タロウ殿は刀身がぶれておるぞ!」
「「はい!」」
リクドウさんは刀だけじゃなく、他に槍、弓、柔術なんかも達者らしく、聞けばなんでも答えてくれるから最近は凄い人…師範とかそんなんじゃないかと思ってたりする。
日中はほぼトレーニングと食事をしていて、夜は疲れを取る為に早めに休むようにしている。船旅は意外と平気で吐き気が無かったのだけは助かっている。多分ルミナスの加護のお陰かな。
順調だった旅路だが、ジパンヌまで残り半分くらいとなった時に奴等が現れた…。
◇◇◇
朝起きるとドタドタと走り回っている足音が聞こえて来ている。
「ツェーベルさん、現れました!海賊です」
「あなたはリクドウさんを呼びに行きなさい!」
「わ、分かりました!」
寝ている部屋の外からそんな声が聞こえてきて、部屋がノックされた。
「タロウさん、カルミナさん起きてください。海賊です!」
「分かりました、すぐ支度して行きます!」
「先に上で待っていますから」
カルミナは寝ているからここは俺だけで行こう。近付かれる前に魔法で戦力を削ればカルミナが居なくても平気だろうしな。
俺はローブを羽織って看板へと向かった。
「お待たせしました!状況は?」
「タロウ殿、参られたか。して、カルミナ殿は?」
「あいつは朝弱いんです。」
「左様か…。賊はまだ少し離れておるが真っ直ぐこちらへと向かって来ておる。」
「ツェーベル氏、こういう場合ってどうするんですか?四の五の言わず倒しても?」
「構いませんよ。中には海賊の持つ宝を盗ろうとあえて待ち受ける者も居ますが、危険なので私の方針では倒す方向でやってます。」
「そうですか、なら魔法で倒してしまっても構わないですね。あ…リクドウさんがやりますか?」
「あそこまで離れていると拙者の間合いではござらん。タロウ殿はいけるのか?」
「えぇ、どちらかというと魔法の方が得意ではありますからね。広く見たいので、少し上に登って来ますね」
俺は少し高い所に登った。理由としては精霊が見えない人の前で会話をしたら変な目で見られるからだ。
「ほら、アクエス、水がいっぱいだぞ!ついでにルミナスとピヨリとアトラスも召喚しておくか!」
『凄くいいの!元から水がこんなにあるならどんなに技だって繰り出せるの!』
『地平線まで見えますね』
『青いッピ!』
『おお~いつもは山から見てたけど、今日は近いぞ~』
「皆、ここで適当に楽しんでてね。じゃあ、ちょっと片付けますか。仕事だからね。いくよ、アクエス 『大波』」
あ…やべ…いつもよりアクエスの力が…
遠くで一瞬にして船が波に飲み込まれ沈んでいった。
『終わったの!う~ん、気持ちがいいの!!ちょっと戯れてくるの!』
「あ、うん。お疲れ様。いってらっしゃい」
俺はアクエスを見送り、何事も無かったようにツェーベル氏達の元へ戻ってきた。
「さ、修行でもしますかっと!」
「タロウ殿、流石に流せない事もあるぞ。」
「そ、そうですよ!今の波はなんですか!大嵐の時だってあんなデカイ波は起きませんよ!」
「魔法です。…それ以上でもそれ以下でもありません!海賊なんて居なかった。それでいいではありませんか!」
「そう言われてしまうとそうなのですが…」
「ツェーベルさん、大変です!!巨大海蛇が現れました。アイツに襲われたらもうおしまいです!早く逃げる準備を!」
「何ですって!?海賊に続いてですか!」
「タロウ殿は何とか出来ないか?」
「うーん、さっきは人だったから波でどうこう出来ましたけど…海の生き物ですともう少し近付いてからじゃないと」
「それもそうだな…。」
「騒がしいわね…私、まだ眠いんですけど…シェリーフ頼むわよ…吹き飛べ魔槍!!」
シュッ!っとした音がなったと思ったら、遠くからこちらへと迫って来ていた海獣の首が消し飛んだ。
「はい…おしまい。私はもう少し寝るからね。」
「「……」」
軽く手を上げて戻って行くカルミナを俺達は無言で見送る事しか出来なかった。
◇◇◇
「やはり、僕は運が良いですね。海賊も化け物も今回は居ないに等しいです!」
「タロウ殿もカルミナ殿も魔法が主体なのかな?」
「はい、一応はそうですね。俺もカルミナもまだ魔法の方が扱いは上手いですね」
「いや、刀の腕前も中々と思っていたが…魔法の方が得意とはね、驚いたよ。どうだい?私には娘が居てね、1人は20代なんだが下の子は歳も近いが?」
「リクドウさん!そういった話は私を通して頂けるかしら!?」
「お、カルミナ起きたか。」
「す、すまない。謝るから矛を納めてくれ…」
「カルミナ大丈夫だって、リクドウさんも会話を盛り上げる為の冗談だろうしさ」
「いや、ほん……こほん、そ、そうだとも!」
「カルミナも起きた事だし、今日のトレーニング始めますか」
「そういえば、タロウ殿とカルミナ殿は何をしにジパンヌへ?」
「それは…「和スイーツ」です!…って、違うだろカルミナ!リクドウさん、修行ですからね、修行!ジパンヌへ武者修行に赴く人が多いと聞きまして、俺は刀をカルミナは槍を鍛え直そうかと。あと、俺の師匠もジパンヌから来た人でしたから」
「なるほど、ジパンヌは色々な流派があるから自分にあった流派を選ぶと良い。基礎さえ出来ていればどの流派でも成長しやすかろう」
「リクドウさんはどんな流派なんですか?」
「私か?私は我流だよ。技は自分で生み出しておる。一応は他の流派も噛じってはいるがね」
「我流ですか。なんか憧れますね…二刀流とかやってみたいですけど…まだ筋力が足りませんし」
「二刀流も教えてる所もあるぞ。タロウ殿が言ったように筋力が必要だがね。さ、トレーニングを始めようか」
「「お願いします!」」
その後は海賊も出ることは無く、素振りしてご飯で素振りして、たまに釣りを楽しんでまた素振りをして、そんな事を繰り返して10日と少し。季節が変わり始め、肌寒さを感じるようになってきた頃にようやく船はジパンヌへと辿り着いた。
◇◇◇
「リクドウさん、ありがとうございました!」
「世話になったわね!」
「こちらも楽しかった。この国に居るなら会うこともあるだろうし、いつでも相談に乗る。では、またな」
リクドウさんは先に街中へと消えて行った。俺達はツェーベル氏にも挨拶をしに向かった。
「ツェーベル氏、ここまでありがとうございました」
「こちらこそ。縁があったらまたよろしく頼むよ」
ツェーベル氏と握手を交わし、ついに俺達はジパンヌの街へと踏み出した。まずはやる事をやらないとな。そう…
「カルミナ、甘味処を探すんだ!」
「待ってたわ!行くわよタロウ、和スイーツを求めに!私達の冒険はこれからよ!」
◇◇◇
「あんみつ…みたらし団子…お汁粉…抹茶パフェ…最高。」
俺達はギルドなんかには行かずに、団子に饅頭、カステラやパフェなどを食べ歩き1日を消費した。カルミナはこの日、久しぶりの甘いものを摂取してから、宿を取って寝る寸前までこれ以外の言葉を発する事は無かった。
宿では浴衣に着替えるとすぐに寝てしまったので俺は1人で温泉に入ってきた。久しぶりの温泉で癒されるて部屋に戻ると俺も眠気に襲われて、すぐに眠りについた。
誤字脱字がありましたら報告をお願いします!
評価や感想、レビューにブクマもお待ちしております!(´ω`)




