第64話 タロウ、立ち上がる
視点がちょいちょい変わりますよ!
よろしくお願いします!
「魔王…だと…」
「あぁ、我が今の魔族の頂点だ。ふふ、意外か?こんな子供が…と」
「確かに驚いたね、もっと大人だと思っていたから」
「魔族は強さが全てだ。強ければ生まれも歳も関係ない。人族とは違ってな…我が魔王になったのはつい最近の事、加護を手にしてからだ。」
「加護のお陰って事か?」
「加護も我の一部に過ぎない。言っただろう、強ければ他に何もいらない。…だが、我もまだ発展途上。それ故に戦いに明け暮れている。タロウと言ったな…我を楽しませろよ?」
「召喚 ルミナス。アクエスとシェリーフは援護しろ!」
『竜の加護ですか…厄介ですね』
『分かったの!』
『分かりました』
「くくく、良いぞ、良いぞ。それじゃあ小手調べだ…『火竜の息吹』。」
「アクエス、力を!『水の盾』!」
ブォォォォッ!!と火炎がこちらへと向かってくる。水の盾で防いでいるが…ぐっ…なんて熱量だ!?
「ほぅ…この程度じゃビクともしないか?」
「くらえ、岩流星!」
「鋼竜"纏"『鋼の鎧』」
あれはさっきも見たやつだな…んな!?岩流星が直撃したのに傷一つ付いてないだと!?
「中々の威力だが…足りないな。こうか?『溶岩流星』」
仕返しのつもりか!?しかもアレンジ加えてやがる!
「ちっ!さすがは魔王、魔力の扱いはお手の物か?ルミナス!」
『いきます。多重結界 守護堅牢』
ルミナスの張った結界がミシミシ音を立てているが…なんとか耐えきった。
「呪傷より吸魔血でいくか…。クロマ、頼んだぞ!」
『俺に血か魔力を寄越しな!』
「なんだ?魔法はおしまいか?我はどちらでも構わんがな!!」
魔王へと迫り刀で斬りつけるがどうしても鎧に弾かれる。魔王の爪での攻撃を回避しながら、なんとか鎧で守られてない部分を斬ろうとするが全て防がれてしまう。
「…貴様もその程度か?ガッカリだな…」
「クロマ、俺の魔力を吸え。俺の魔法も吸わせる。近距離で魔王に放て!」
『了解だ!行くぜぇ~』
魔力をガンガン吸われ、その間も魔王からの攻撃を弾いたり、回避したりしながら刀身が水色になった所で距離を取った。
「クロマ、俺の魔法を吸え。岩流星、雷鳥、岩爆発、水の槍…」
使える魔法を可能な限りクロマに食べさせる。大食いというだけあって相当の魔法を口に入れた。
『そろそろ…限界だ。』
「刀に魔法を吸わせていったい何をする気だ、人間?」
「慌てるなよ、今から見せてやる!」
『いつでも準備は出来てる』
『シェリーフ、アクエス、私達で敵の動きを撹乱しますよ』
『分かりました』
『いくの!』
「ちっ、小賢しい奴等め。」
俺は魔王に刀身が届く距離まで近付き、魔王へ向けてクロマに食べさせた魔法を全て放つ。
「放て!クロマ、『混沌の砲撃』!!」
「な…がぁああああ!!?」
クロマに食べさせた魔法が混ざり、吐き出された。魔王に当たり、土煙が周囲に舞って吹き飛ばした魔王の姿を覆った。クロマを鞘に戻し辺りを警戒する…
『タロウ後ろです!』
「…っ!?ぐっあぁぁぁっ!?」
「ちっ、人間…この鎧を貫通させた事は褒めてやる…」
俺は魔王に後ろから殴られ地面を転がるように吹き飛ばされた。口の中に血の味が広がる…流石に倒しきる事は出来なかったか。
「ぐっ…いてぇ…ぺッ」
「ここまでやる人間がいるとはな…少し人族への認識を改める…か。魔族の幹部共でも厳しいやも知れんな…。くく、面白く思うぞ人間」
「くそ…ぐっ…まだだ…魔剣『絶剣』」
「新たな剣?くははっ…まだ立ち上がるか人間!ははは、やはり戦いとはそうでなくてはなぁ!!」
俺は絶剣に魔力を込めていく。アクエス、ルミナス、シェリーフにも魔力を借りる。切れ味のみを追及しているこの魔剣であいつをぶった斬る。あいつは…危険すぎる。
「こちらも今の全力を見せてやろう。火竜 鋼竜 風竜 岩竜 "纏"『四竜の腕」
魔王の右腕が竜の爪の様に鋭く伸びていく。魔王の準備は出来たみたいだ。こちらも魔力は込め終えた。絶剣の刀身が光輝く。
「行くぞ…魔王!」
「死ね、人間」
「タロウ流奥義 二の太刀 十斬り!!」
「全てを貫け…竜の力よ!」
「「はあああああああ!!!」」
◇◇◇
私がワイバーンの群れを倒して山の頂上に着いた時、ちょうどタロウと何者かが向かい合って構えていた。まるで今から決着をつけるみたいに。
私はタロウにも敵にも傷が有ることを知って、既にやりあっていた事に気付き、加勢するために走ろうとした。
『待ちなさいカルミナ』
「シェリーフ、タロウに加勢しないと!」
『今すぐ逃げなさい!あれは魔王。危険過ぎます!』
「魔王!?…いや、関係ないわ!敵が誰であろうとタロウが戦ってるなら、何もせず私だけ逃げるなんて事はしない!」
『ですが…』
「「はあああああああ!!!」」
タロウと魔王が走り出した。距離が縮まっていく…10m…5m…そしてお互いの武器が振り切られぶつかり合い、甲高い音を鳴り響かせ交差しながらすれ違う。
ゆっくりと…私には本当にゆっくりとタロウだけが地面へと倒れこんでいく。
「タロウーーーーーーーッ!!!」
私は叫んでタロウの所へと走り出した。シェリーフの引き留める声も聞こえないくらいに私の頭の中は早くタロウの元へ…と、それだけしか考えられなかった。
◇◇◇
「人間…タロウとか言ったか。なかなか面白い奴だ…くっ、痛むな。やはりまだ竜の加護を集め回らないと人族を滅ぼすには足りないか…」
我の加護を纏った腕を切り落とした人間。
すれ違う時に最大の威力を発揮する為、ギリギリまでタイミングを測っていた胆力はなかなかのモノだ。…今回は我の勝ちだが、こいつは何度も何度も立ち上がる。我の勘だがな…くはは、そうでなくては困るがな。
「女、貴様はこいつの仲間か?」
「タロウ!タロウ!!」
「ちっ、おい!精霊共。こいつは死んでない。目を覚ましたら伝えておけ。我の勝ちだと。今回を機に我は己を高める事にする。加護を集め、使いこなすまで表舞台には出てこない。何年掛かるかは分からんが…次、我が現れる時は人族の死を覚悟しておけ。ま、魔族の幹部達はどう動くかは知らんがな…。そう伝えておけ。」
『トドメは刺さないのですね?まぁ、そんな事はさせませんけど』
「あぁ、これは油断でも何でもない。我は常に強者を求めている。こいつは我と同じでまだ若い。全盛期にはもっと強くなっているはずだ。それをへし折る…それが楽しみなだけだ。我をガッカリさせるなよ」
我の腕も治さねばな…竜の加護もあと4つ、さて、参るか。
「羽よ…。くく、この場に来てよかったぞ。我もまだまだだと知れた。くふ…くくく、あーはっはっはっはっは!!」
◇◇◇
「う…ん…ぐっ…」
「タロウ!?タロウ、聞こえる?生きてる!?生きてるわよね!?」
『カルミナ、落ち着きなさい。私とアクエスの契約は切れていないと言っているでしょう』
「でも…でも!」
『タロウは負けました。でも死んではいません。いいですね?』
「うん…。」
『目が覚めるまでそばにいてあげてください。でも、その前に土の精霊もやっと来ましたし、契約してきなさい。』
「分かったわ…」
私は火の精霊フレイミア、土の精霊ランディアと契約を交わした。魔王に対抗するためという事で二人とも快く力を貸してくれた。
『カルミナ、私はアトラスを連れてきます。それまでここを任せましたよ』
「お願いね、ルミナス」
ルミナスがタロウを運ぶためにアトラスを呼びに行って戻ってくる間、私はタロウの傍に居続けた。
「タロウ…私がもっと早く到着してれば…」
『カルミナ…それは…』
「分かってわ。ただ…気持ちの問題。」
『そう…ですか。私も力が及ばず悔しいです』
20分もかからない内にルミナスがアトラスを連れて戻ってきた。アトラスにタロウを運んで貰い、アトラス達の住む中腹の入り口にある場所へ戻ってきた。タロウをアトラスの家へ寝かせ、ルミナスが回復魔法をかけていたが目を覚ましたのは1日経った後だった。
◇◇◇
「う…うん…」
「タロウ?タロウ!?目が覚めたのね!?」
「ここは…」
「アトラスのお家よ!体は大丈夫?痛くない?」
「動かすと少し痛むかな…魔王は…?」
「魔王は…」
『伝言を預かってますよ。俺の勝ちだと。他に…』
「そう…か。魔王に負けたのか…俺は」
「タロウ…」
『負けたとはいえ、腕を切り落としたのですよ。魔族ならあの腕は治せるでしょうが、そこまで自信を無くすことはありませんよ』
「うん。…少し一人にしてくれるか?」
「…分かったわ。お腹すいたでしょ?ご飯の準備はしておくから」
「ありがとう」
俺はカルミナとルミナスに部屋から出て貰い、部屋に一人きりにして貰った。
「ベリーさん以外で初めて負けたな…。生かされたのか、俺は。」
魔王はまだ全盛期じゃなくこれから成長するらしい。今でさえ人間と戦えば被害が甚大なモノになるだろう。それを…確実に人族に勝つために力を付けようとしているのか。…俺は死なない様に力を付けてきた。だけど…魔王は更に強くなって確実に俺と戦う為にやってくるだろう。今のままじゃ、また負ける。そして、今度は…死ぬのだろう。
未来で起こりうる可能性を考えた。自分の今の現状も確認出来た。やりたい事、やらなければいけない事も分かった。
ならば…負けた事をくよくよしてる場合じゃないだろ、タロウ!
切り替えろ、守りたい人、守りたい物、その為に魔王よりも強くなれタロウ!!
「よし…もう大丈夫だ。これでも俺は出来る子なんだ。」
よし、よし…もう落ち着いた。
だからせめて、今だけ、心の中だけで叫ばせて欲しい…
うぉぉぉぉぉ!死んだかと思ったぁぁぁ良かったぁぁぁぁぁ生きてたよおおおおおおおおお!!!
…ふぅ。
◇◇◇
気持ちを吐き出し、スッキリしたら何だかお腹が空いてきた。
「よし、起きるか…なんだかいい匂いもするし」
俺は匂いに釣られて、部屋を後にする。カルミナがご飯の準備をするっていってたからな…カルミナがご飯の準備?
「カルミナ!?」
「タロウ…もう大丈夫なの…?」
「そんな事よりご飯は!?」
「お、落ち着いて、揺らさないで…危ないでしょ!?」
カルミナの肩を掴んで前後に揺すったら怒られてしまったが、こっちも食事で死にたくない訳で…
「何を心配しているのかは知らないけど、ご飯はアトラスのお母さんが作ってくれたやつよ」
「そ、そう。良かった…お腹すいてたんだ」
「何か面白くない反応ね!せっかく看病して傍にいてあげたのに…」
「カルミナ…ありがとう。もう大丈夫だから。カルミナ、お願いがある。」
「お願いって?」
「魔王と戦って分かった。俺1人で魔王を倒しきる…なんて言いきれないんだ、情けない事に。だから、カルミナにも力を借りたい。カルミナが居れば俺は強くいられると思うから。俺と一緒に強くなって欲しい。」
「ぷっ…ふふ、あはははは!」
「カ、カルミナ?」
「何を今さら改まって言ってるのかしらと思ってつい…ごめんね、タロウ。私はタロウに付いて行くと決めた時からどんな時も二人で戦い抜こうって決めてたのよ?タロウ…次は勝つわよ!」
「ありがとう、カルミナ」
「良いわよ、さ、ご飯にしましょ?」
それから俺の体の痛みが取れるまで2日間はアトラスの家で世話になった。代わりにお菓子が物凄く消費されてしまったけど。
◇◇◇
「じゃあ、お世話になりました。アトラス、またな」
「また、いつでも来るとええわい。」
『お菓子美味しかったぞ~』
俺とカルミナは朝の内に出発して、お昼前には山を降りる事が出来た。せっかくだし、街へと戻る前にやっておきたい事がある。
「カルミナ、精霊と契約したんだよな?ちょっと技を試してみようぜ!」
「この辺に人は…いないみたいね!なら、少しだけやっていきましょ」
「本当は前みたいに対戦形式がいいんだけど…今回は技の発動だけにして、思い付いた技をどんどん試していかない?」
「まだ疲れてるのね?ふふ、良いわよ…じゃあ、フレイミア行くわよ。『炎蛇』!」
「おぉ…操れるのか!?」
「えぇ、まだまだ序の口よ。フレイミア、アレを!」
『カルミナ…アレは…まぁ、いいか。制御は任せておくれ』
「何度倒れては甦る それは不死 それはは炎の化身 敵を葬り去るまで燃やしつくせ!『炎の不死鳥』」
『ぎゅあああああああああ!!』
ボォウ!!とカルミナが作り出した不死鳥が口から炎を吐き出すと、辺り一面が炎の海と化した。
「すげぇ…」
驚き過ぎると語彙力が無くなっても仕方ないと思う。だって…凄いんだもの…。シェリーフの鷲獅子もヤバイと思うがこれも…。
「どう?魔力は凄い消費するけど凄いでしょ?タロウが寝てる間に色々と考えたんだから!…ルミナスやシェリーフ、フレイミア、ランディア、アクエス、みんなにも協力して貰ったけどね」
「いや、正直驚いたよ。上位精霊の力は凄い。…竜の加護にも負けないと思うんだが…。そういえば手に模様が増えてるな」
「竜の加護も強いけど、精霊の加護も同じくらい強いの。魔王と戦ってる時はこっちは精霊それぞれで、向こうは4つの加護が1体に入ってたからどうしても突破出来なかったみたい。」
3本の矢的な話なのか?多くの加護が1つの器にあるから強いと。今のカルミナは加護が3つある。これを使いこなせる様になれば……おっと、ダメだ。この考えはカルミナが1人で戦うみたいになってしまう、でも…使いこなせれば最強に近いんじゃないだろうか?
「ふぅ…今の私じゃ、大技2回目は魔力が足りないわね。土の大技は次でいいかしら?」
「あぁ…その前に炎、消さないとな…」
「あわわわわ!ランディア、お願い」
『あい、分かった!それ!』
フレイミアは何と言うか…髪は赤くて長いけど男装の麗人って感じだった。ランディアは土属性なだけあって、職人っぽいな。構わん!…とか、言いそうだ。
「ありがとう、ランディア!」
『構わんぞ!いつでも呼ぶといい。』
うむ。やはり属性によって性格がイメージ通りで分かり易いな。…火は消されたが、目の前が焦土と化している…大丈夫かな、これ?とりあえずここから離れておこう。
「カルミナ、街へと戻ろうか。この焦土…怒られそうだし」
「そ、そうね…」
街へと戻る途中に気が付いた、俺達は魔王と会ったんだって。と言うことは…
「カルミナのお父さんに伝えた方が良くない!?」
「え、私のお父様に…そ、それって、まさか…えへへ//」
「どうした、カルミナ?まぁ、いいか。とりあえず魔王の事とか!まだ攻めて来ないけど幹部はどう動くか分からないとか、その辺の事をさ」
「な、なんだ…そっちか…」
そっちってどっち?他に何かあったのか?
「とりあえず報告だけはしておこうぜ。その後の動きは上の立場の人に任せておこう」
「私が書くわよ。はぁ~あ…街に戻ってからでいいわね…はぁ」
それから街の宿に戻って手紙を書くまでタメ息が多くなってた。なのに、手紙の後には何故かしてやったり顔をしていて何がなにやら俺には分からなかった。
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