第63話 タロウ、山頂へ
「転移したよ in 異世界」も更新しました!
よろしくお願いします!
「よし、日が暮れる前に街に戻ろうか。」
「そうね。明日は火山に登るんでしょ?」
「朝に買い物で…午前中のうちに登り始めたいかな。」
「アトラスも一緒に連れて行きましょう!許可を貰うのよー!」
そんな、明日の予定を話ながら街へと戻り宿へと向かっていた。
「明日は食料品の補充と…あ!投げナイフとか買ってない!ちょっと買いに行っていい?」
「ったく、仕方ないわね!店が終わる前に行きましょう。その代わり、晩御飯は頼んだわよ。」
ジーバス武具店へ向かい、投げナイフや針など魔法を付与して投擲できる武具を幾つか購入した。カルミナへスイーツの盛り合わせを奢る事になったが、しばらくは山登りで街に戻らないし、贅沢も良いかな。
◇◇◇
「登山道具よし、食料は…いまからで、あと、体調もよし!」
「タロウ、寝癖直しにもう少しかかりそう!」
「分かった。ちょっとリリーとトリーにエサをあげてくるよ。」
宿に併設されてる馬小屋に居るリリー、トリーにエサをあげて、宿の従業員の方に俺達が山に登ってる間のリリーとトリーの食事をお願いして、その分のエサを渡しておいた。
「よし、これで安心だな。」
「タロウ、お待たせ!行きましょう」
山頂までかかる時間が分からなかった為、とりあえずで食料を5日分纏めて買っておいた。アイテムボックスに入れて置けば問題ないしな。
「ゴーグルもマスクもよし、杖も持ったし準備万端だ」
「アトラスはいつ召喚するの?」
「山を登ってる途中でいいんじゃないか?一応、ハイドワーフだから騒ぎになっても困るしね」
「それもそうね!」
街を出て、1時間ほど小走りで火山の登山口までやって来たが…やっはり大きい。雲突き抜けてるんじゃないのあれ…。
「山頂は寒そうだな…。火魔法とか風魔法とかで上手く寒さを逃がさないとヤバそうだな。」
「でも、山頂には火の精霊が住んでいるんでしょ?暑くないの?」
あれ?そう言われて見るとそうかも知れない…。
「アクエス、どっちか分かるか?」
「シェリーフ、どうなのかしら?」
『行ったこと無いから分からないの』
『私も他の精霊の住んでる所までは踏み行ってないので分かりませんが…灼熱の火山の山頂にいる火の精霊フレイミアの周辺は暑いんじゃないでしょうか?』
「あ、火の精霊ってフレイミアっていう名前なんだ。」
「つまり、その時の気温に合わせて行動すればいいわけね。とりあえず山頂を目指して出発よ!」
◇◇◇
俺達が山を登り始めて2時間。思った程は進めていない。その理由が…
「タロウ!後ろからも来ているわよ!」
「任せろ、正面のはカルミナがやってくれ!」
「ギィルルルル!」
「ガルゥゥゥゥ!」
「妖刀『呪傷』。くらえ!」
「シェリーフ!お願い!」
『お任せを。』
山の序盤から聞いていた以上に魔物達に襲われている。最初はトドメまで刺していたが、敵が増えて来てからは呪傷で敵の足を斬りつけ動けなくして出血死を狙って動いていた。
「ちっ、狭い道だと厄介だな。カルミナ、上へ走って少し広いところまでいこう。アクエス後ろからの敵を止めてくれ!」
『分かったの。水よ!』
「上ね!分かったわ…シェリーフ!」
『吹き飛びなさい!』
シェリーフに道を切り開いてもらい、走って登っていくと少しずつ道幅が広くなってきた。
「はぁ…はぁ…。カルミナ、敵を撒いたみたいだ。少し休もう」
「え、えぇ…。そうね。いつもこんなに多いのかしら?」
「山の中腹辺りからならこのくらいも覚悟してたが…序盤からとは思ってなかった。」
「アトラスに聞いてみない?」
「そうだな、召喚 アトラス」
『あれ~ここは…山に登ってるのか~?』
「アトラス、聞きたいんだけどさ、ここってまだ前半の前半だよな?」
『そうだぞ~。あたしが住んでる所はもう少し上なんだぞ~』
「結構魔物に襲われてるんだが…こんなに出るものなのか?」
『ん~?そんな事は無いぞ~?この辺はいつも静かな方だぞ~?』
「さっきから鳥や狼に蛇の魔物に襲われてるんだけど…ほら、また来た。カルミナ!」
「えぇ!行くわよ」
そこに現れた魔物を倒しきると一旦落ち着けた。
「こんな感じなんだが…」
『う~ん。たぶん、精霊様が何かしているんだぞ~』
「火の精霊フレイミア?」
『そうだぞ~!フレイミア様は認めた者の前にしか現れないんだぞ~』
「ということは、これは一種の試験なのかしらね?」
ただでさえ、山登りがキツいというのに厄介な…。でも、切り抜け無いと会って貰えないんだろうな。
「何とか倒して進むしかないのか…。魔物が強くなっていく後半だとしんどくなりそうだな。」
「そうね。休憩と睡眠も気を付けないといけないわね。」
「そうだ、アトラス…俺達は中腹より先に立ち入って大丈夫なのか?」
『もちろんだぞ~。近づいたらあたしの家に案内するぞ~』
「アトラスの家か、興味があるな。お邪魔させて貰うよ」
山登りを再開すると定期的に魔物が現れる。狭い道だと数は少なく、広い道だと敵は増える。登れば登る程は強さも増すようで、普通に登るよりどうしても時間がかかってしまった。
普通なら日帰りで行けるらしい筈の中腹の入り口付近に付く頃には日が傾き空がオレンジ色に染まっていた。
『あたしの家はこっちだぞ~』
「待ってくれアトラス……ここがそうなのか?」
アトラスに案内されて茂みの中を少し進むと、木を組み立てて作られた小屋のようなサイズの家が幾つかあった。
『ドワーフ達が作ってくれたから頑丈なんだぞ~。右のがあたしの家で、真ん中が長老のじぃの家で、左のがあたしの両親の家なんだぞ~』
「ここで暮らしてるのはそれで全員?」
『そうだぞ~。ここはハイドワーフが住んでて、ドワーフは街で暮らしてるんだぞ~』
「そう…だったのか。長老とアトラスのご両親に挨拶してもいいか?」
『パパとママは今居ないから、じぃを紹介するぞ~。ついてきて~。』
アトラスの後ろをついて行き、長老の住んでいる小屋に案内された。
「おぉ、アトラスどうしたんじゃ……おや?客人かの?」
『じぃ~、連れてきた~』
「お邪魔させて貰います。タロウです」
「私はカルミナって言います」
「タロウ…じゃと?お主か…そうか、お主がアトラスを連れ出しておる者か!」
『この人がそうなんだぞ~』
あれ?もしかしてヤバい?連れ出してというか…結構召喚しちゃってるけど…怒られるのかなぁ?
「お主、さっさと出さんか!」
「は、はい!…えっと…何をでしょうか?」
「アメというモノに決まっておるじゃろうが!はようせい!」
「あ、はい。こ、これです。」
「ほぅ。コレがアメか…モゴモゴ…!?おぉ!甘いのぉ!」
『あたしにも~』
アトラスにも飴をあげると、長老と二人で舐める事に集中してしまい、会話が止まってしまった。まぁ…怒られないだけ助かったのかな…
「…うむ。中々に良い品じゃった。そうじゃ!お主にこれをやろう」
「これは…?」
「ハイドワーフに伝わるものでのぉ、このリングはハイドワーフが認めた者にしか渡しておらぬ品じゃ。これを持っていればドワーフ達に歓迎される事間違いなしじゃろう。」
こ、これってエルフの村で貰ったやつと同じやつなんじゃ…。飴あげただけだぞ?こんなに簡単に貰っていいのかよ!?
「これは、貰ってもいいんでしょうか?」
「そうじゃの…?なら、他のハイドワーフに会った時に美味しいお菓子を食べさせてあげる事を条件にするかの。ほれ、そっちのお嬢ちゃんにもあげるからのぉ。」
「そういう事でしたら…いいのかなぁ~それで。」
「良いんじゃないの?貰って困る物でもないし、むしろありがたいじゃない。」
「それも…そうだな。せっかく貰ったんだ、ちゃんとネックレスの鎖に通しておかないとな。」
「勿論よ!」
俺は一応の納得をして、それから本題のこの先に登って行く事、精霊に会ったら契約する事を長老に伝えた。長老は一言「アメを」とだけ言って他は何も言わなかった。たぶん許可は出たんだろう。アメを多く出すと目がキラキラしていたからな。
「ありがとうございました。アトラスはここにいるだろ?」
『ついて行くとここまで戻ってこないと行けなくなるんだぞ~。必要なら召喚して欲しいぞ~?』
「そうか、分かった!なら明日はここで一旦お別れだな。」
『うん~。今からあたしの家に案内するぞ~』
アトラスとはここで一旦お別れになるが、今日はアトラスの家に泊めて貰う事になっている。夜になってからご両親もやって来て、長老も含め、お菓子パーティーが開催されたのは言うまでもない。
◇◇◇
「はぁ…はぁ…くそ!どけぇ!」
「キュアアアアア!」
「キュアアアアア!」
「キュアアアアア!」
「ダメね!タロウ先に行って!ここは私が!」
「だが…」
「良いから早く!山頂まで急いで!」
「くっ、分かった!くたばるなよカルミナ!」
「安心しなさい!こんなやつらに負けはしないわ」
俺はカルミナを残し、山頂へと走り出した。灰や薄暗さで前が見にくいが急がなければならない…。
アトラスの家に泊まった翌日の早朝、まだ薄暗い時に事態が急展した。
◇◇◇
『タロウ、起きるの!』
『カルミナも起きてください!大変な事がおきました!』
「ん…?大変な事って…何だ?まだ外暗いんだけど…?」
『フレイミアからこの大陸にいる上位精霊に救援の要請が出されました』
『急ぐの!何かと戦って押されてるらしいの!』
はぁ?上位精霊が押されて助けを呼ぶ敵って何だよ…化け物か?
『土の精霊もこちらに向かってるでしょうが、私達の方がここに居る分早く助けに行けます』
『急ぐの!急ぐの!』
「分かった、分かった。とりあえず二人は先に向かってくれ。俺とカルミナも走っていく。カルミナ、目覚めたか?」
「う…ん。大丈夫…。」
『分かりました、私達は先に行きます。アクエス』
『急ぐの!』
俺とまだ寝ぼけているカルミナは荷物の準備や体操を終わらせて、走り出した。山の中腹に入ってる筈なのに昨日に比べるとずっと魔物の出現頻度が低い。俺達に魔物をけしかけていたフレイミアに余裕が無いんだろうな。
「これなら、すぐ山頂に行けそうね」
「体力との勝負だな。」
だいぶ山を登りあともうひと踏ん張りってところでやつらが現れた。
「キュアアアアア!」
「ワイバーン!?ちっ、こいつらは出てくるのか!面倒くさい!」
「どうするの!?倒して進む?」
「ダメだ、数匹ならまだしも、数が増えて来てる。羽とか目を攻撃して逃げながら進むぞ!」
「分かったわ!」
俺は妖刀『呪傷』で羽や胴体を斬って走り去る。カルミナも新しい魔槍で羽を貫通させたりしてる。斬って逃げていたがさすがにこの数に対処しきれなくなっていった。
カルミナがここで囮になると言いだした。最初は迷ったが俺は進む事にした。ワイバーンは魔物の中でも強いと言われているが、今のカルミナはワイバーンに負けるほど弱くない。それは俺が1番知っている。だから安心して走り出した。
◇◇◇
「はぁ…はぁ…着いた…ぞ…。みんなは…」
「はははははは!こんなものか精霊というのは!」
『フレイミア!…風よ!』
『水よ!』
「鋼竜"纏"『鋼の鎧』。」
『くっ、ダメージは無いですか。』
『あの鎧とっても堅いの…』
「くらえ!」
『くぅぅ…』
『きゃあああ!』
シェリーフ、アクエスがフレイミアを後ろに庇いながら少年と戦っていた。2対1なのに苦戦しているみたいだ…。
戦ってる相手は白い髪、青白い肌、真っ赤で鋭い瞳。鋭い歯で背丈は俺と変わらないくらいの少年である。
「まさか…魔族か!?シェリーフ!アクエス!」
『タロウさん逃げてください!こいつは…強い!』
『竜の加護を持ってるの!』
竜の加護だと?竜…ワイバーンなんかと比べ物にならないくらいの化け物だろ?そんなやつの加護を持ってるのか?
「ほう、人族が精霊と言葉を交わすか。面白いな。腕試しに来てみたが…竜の加護を持った我に3匹程度の精霊じゃ相手にならなくてな。人族、お前とも戦ってやろう」
「腕試しだと?」
「ああ、さらなる強さを求めてな。まだ加護も完全には掌握しきれてない。だから上位精霊がこの山の頂上に居ると聞いて来てみれば…呆気ないものだ。」
『タロウさん、こいつは少なくとも4つの加護を持っています。それに…』
『カルミナと同等くらいに竜に愛されてるの…』
「カルミナと同等?」
『そうです。…タロウさん、カルミナは?』
「ワイバーンの群れに捕まって、カルミナが引き受けてくれた。すぐに来るとは思う。」
『なら、カルミナと一緒に連れて逃げてください!』
「ふん。面白い獲物を逃がすと思うか?人族、名は?」
「タロウ。お前…さては魔族か?」
「魔族?少し違うな。」
「違う?」
『我が名はルウィン!魔族を統べる王、魔王である!!」
それが人族の敵である魔族の王との最初の邂逅だった。
誤字脱字がありましたら報告お願いします!
評価や感想、レビューにブクマもお待ちしております!(´ω`)




