第61話 タロウ、正体を知る
よろしくお願いします!
翌朝、空模様を見てみると雲り空だった。日射しが強くない分移動はしやすそうでいい天気といっても良い感じだ。
「カルミナ、準備は…大丈夫そうだな。行こうか」
「朝ごはんは食べていくの?」
「あー、そうだな。せっかくだし食べていこうか、食料はあるけど節約出来る所はしときたいしね。」
宿の受付の所にいたおばちゃんに鍵を返して、リリーとトリーを後で取りに来ることを伝え、食堂で朝ごはんにした。外では村の人が畑仕事をしてたり、人が行き交っていたりしていた。よそ者の俺達に特に興味は無いみたいだ。
「じゃあ、リリーとトリーを連れてくるから宿の前で待っといて」
「分かったわ!」
リリーとトリーの元へ行き、朝食の代わりに果物を幾つか食べさせて戻ってきた。
「なんか…この少しの時間でカルミナが囲まれてるぞ」
「いやぁ、なんか可愛い子だべな」
「んだな、お嬢ちゃんどこから来たんだ?」
「な、なあ、もうどっか行っちまうのか!?」
何だ?男達がカルミナに話しかけてるな。興味無さそうだったじゃんかよ…。
「はーい、そこまでで終了でーす。皆さん散ってくださーい」
「な、なんだべ?おめぇは?」
「タロウ!遅いわよ、まったくもう!」
「いや、囲まれるなんて思わなくて。リリーとトリーにエサをあげてたら…な。」
「まぁ、いいわ!早く行きましょう?皆さんごめんなさいね、もう出発するので通してください」
「あ、ああ。」
「男連れだったべや」
「く、ちくしょう!」
何とか村を出発した俺達は南に向かい進んで行く。エルフ産の果物の効果は凄く、リリーとトリーがスピードを出してくれたお陰で今日で1日分以上の距離を進む事が出来た。
「カルミナ、あの少し高い丘陵を越えたら火山が見えるかもしれないぞ?」
「ホント!?ならだいぶ近付いて来たわね!」
「まぁ、それでもまだ何日もかかりそうだけどな。とりあえず今日は休んで明日に備えようか。」
「ダメよ、まだ今日の体術が終わってないわ!」
そ、そうだったな…。よし、今日も投げられますか…
投げられた後の動きの練習をしたが、今日は合格までは貰えなかった。体がいてぇ…
次の朝、丘陵を目指して出発をした。
「もう少しで越えられるな…あと少し、あと少し…」
「「おお~!!」」
丘陵からの景色を見た瞬間に、朝の眠気が全て吹き飛んだ感じがした。
「すげぇ!ホントに真っ赤な山だ!どうなってんだ?土が赤いのか!?」
「タロウ!さらに奥にはうっすらと海が見えるわよ!良い眺めね~」
「召喚 ピヨリ ルミナス アトラス アクエス」
『おっきな山だッピ!』
『良い景色ですね』
『あ、私の住んでる所だ~!』
『水は…奥に海があるの!凄いの!』
みんなそれぞれ感想は違うけど、一様に驚いてるみた…ん?
「アトラス、今なんて?」
『あの赤い山はあたしが住んでる所なんだぞ~』
「そうなの!?じゃああの山にはアトラスみたいな力持ちが多いのか?」
『そうだぞ~。よくドワーフ達が山にある石を取りにくるんだぞ~』
ドワーフ!?イメージ通りなら背丈は小さくて、力持ちでお酒大好きでモジャモジャな感じだけど…。
「アトラスはドワーフ族なのか?」
『少し違うぞ~。』
『タロウ。エルフにも村長のようにハイエルフがいる様にドワーフにもハイドワーフなる存在がいますよ。おそらくアトラスはそうなのでしょう』
マジか…バイル村長ってハイエルフだったのか…ハイエルフは何となく分かる。バイル村長がハイエルフだと言われても何となく理解も出来る。だが…ハイドワーフって全然わかんねーな。しかもアトラスがそうだと言われても、貫禄的なのも無いし…。
「アトラスはハイドワーフなのか?」
『そうだぞ~!だからあの山に住んでるんだぞ~。』
「普通のドワーフ達との違いって何があるの?」
『ん~、分かんないぞ~…。街から来るドワーフに石を取る許可を出してるだけなんだぞ~?』
アトラス自信もよく分かって居ないのか…。でも多分、少し偉い立場なんだろうな。あの辺りに住むドワーフ達の姫だったりしてな。まぁ、お菓子好きのアトラスがそんなわけないか。
とりあえず眺めを楽しんだ俺達は再出発をする事にした。ピヨリは空を飛び回って、ルミナスとアトラスとアクエスは荷台でお菓子を食べ始めた。
そこから8日たった日の昼前にようやく火山の麓から1番近くにある街まで辿り着いた。この8日間の内にアトラスにあの山について知ってる事を教えて貰った。どうやら武器になる石や素材がよく採掘されるため、鍛冶が盛んな事、魔物も火や土属性が多いこと。頂上には火の上位精霊が住んでいる事。アトラスが知らない事については仕方ないが、それでも1番知りたい精霊の場所を知っていただけありがたかった。
「タロウ、なんか火山大きすぎて登れるか心配なんですけど…」
「確かにな。遠くから見て大きいんだもんな。近くからみたらなんかもう…って感じだな。」
「馬車じゃ山道はキツそうだし歩きかしらね…」
「だな。とりあえず宿を探そう。そのあとは国境を渡るときに言われたゴーグルとかを買いに行こうか」
宿を探しながらこの街を見て回ると、鍛冶師が居ない所が無いくらいに武器屋があったり工房が存在している。トンカチで叩いてる音がそこら中から聞こえてくる。なんだか掘り出し物がありそうでわくわくしてきた。
「カルミナ、掘り出し物でも探さないか?」
「それもいいわね、私はこの槍があるから今は必要ないけど…タロウの刀とかそろそろ変えてもいいかもね」
「よし、それなら宿にリリーとトリーを連れていったらギルドに行こうか。そこで店とか聞いて探しに行こう!」
「タロウ…なんだか年頃の男の子みたいね!」
ばっか、男の子は基本的に武器が好きなんだよ。しかもこれだけの店があってその中から自分の武器を見つけ出す…みたいなのに憧れるんだよ。
「確かに少しテンションは上がってる。そうだ!武器じゃなくても防具とかあるだろ?カルミナも一緒に新調しない?」
「防具か…そうね、そろそろ変えて良い頃合いかも!」
予定を決めながら見つけた宿屋にリリーとトリーを預ける。俺達もあの火山を考えると少し長めに滞在しそうだから2週間ほど宿を取ることにした。宿代を先払いして、俺達はギルドまでやってきた。
「この街は…なんか筋肉モリモリの人が多いな」
「それに、ドワーフの姿も他の所じゃ見ないくらいに居るわね」
「だな、イメージ通りに昼間でもお酒も呑んでるし…とりあえず受付でいろいろ聞いてみよう」
「すいません、火山に登りたいんですけど…」
「あの山は魔物も多いし険しい道のりが続きますので登山には向きませんよ?」
「頂上に行くつもりなんですが…」
「頂上に!?今すぐその考えは捨てなさい!危険すぎます!」
受付の人に怒鳴られた…。周りに居る人もチラッとこちらを見たが見慣れてる様な感じで特に気にしてる様子は無かった。
「危険って何故ですか?」
「あの山は3段階に分かれているんです。頂上付近の最も危険な区域。中腹の魔物が多いけど素材が取れる区域。山の入り口の危険が少ないけど素材もあまり無い区域。山の麓なら構いませんが、中腹からはハイドワーフが認めた方しか通してません。」
「「ハイドワーフ…」」
俺とカルミナは顔を見合わせた。聞き覚えがある単語だし、知り合いどころか仲間である。
「そうですよね、あまり聞きなれて無いですよね。ハイドワーフはあの山に居ると言われています。ドワーフ達より上の立場の方達でして、あの危険な山で暮らせる程の強さを持ってるとされています」
「ドワーフ達は山で暮らして居ないのですか?」
「えぇ、この街もドワーフが作ったと言われていまして、山では鍛冶がしにくいという理由から麓に街を作ったらしいですよ。それで、素材を採る時に山に登るとか。」
「ハイドワーフに認められるにはどうしたら良いんですか?」
「ハイドワーフは相手の力量を見抜けるんじゃないかと言われています。採掘については基本的には同じドワーフ族にしか許可は出ていませんね。通るだけならもしかしたら許可が出るかも知れませんが…それはハイドワーフに認められればって話です。」
「分かりました。あの、山に登る時にはゴーグルとか必要って聞いたんですけど、どこに買いに行ったらいいですかね?」
「それならギルドの向かいのお店に売ってありますよ。火山なので灰が凄い時があるんですよ。その為にゴーグルやマスクが必須ですね。それ以外にも登山用の靴や杖なんかも売ってありますよ」
「ありがとうございます。最後に、武器屋とか防具屋でオススメの店ってありますか?」
「そうですね…有名な店なら、『ターナル武器屋』、『ジーバス武具店』、『ビランガ防具店』、『キリマラ装飾店』とかでしょうか?」
「…地図ってあります?」
「お買い求めになるなら銀貨1枚ですよ。こちらをどうぞ」
「これなら買っておいていいかもな。銀貨1枚ですね…どうぞ」
「はい、確かに。今一度申し上げますが、頂上付近は危険なのでどうか近寄らない様にお願いしますね。中腹に登ったドワーフの方達から、山の上の方にはワイバーンが住んでる…なんて話がいくつも上がっていますので」
ワイバーンか…確かに危険な魔物だな。竜は別格としても、ワイバーンもBランク後半のAに届きそうなくらいの強さだった筈だ。空を飛び回り鋭い爪や牙での攻撃。中にはワイバーンにしては珍しく火を吹く個体も居るとか…。何より厄介なのは、ワイバーンが群れで行動するという点だな。一体見つけたら他に少なくても四体は居ると言われている。
「ワイバーンか…」
「防具くらいは変えた方がいいかもね」
「そうだな…向かいの店で買い物した後に、さっそくビランガ防具店に行ってみるか。では、ありがとうございました」
「お気をつけてくださいね?」
受付のお姉さんには悪いが頂上には行く予定だ。まずは装備をちゃんとしないといけないけどさ。
ギルドの向かいの店に入ると、目の前に登山セットなるものが売られていた。ゴーグルにマスクと杖にロープなどが纏めてある。これは2つ買っておこう。靴は…履き慣れた今のでいいとして、汚れも清潔魔法で十分だし…他はとりあえずいいな。
「すいません、これください」
「はいよ。銀貨4枚ね。お兄さん達火山に登るの?」
「えぇ、その予定ですが」
「気をつけなよ?最近、小規模な噴火が起きてるんだ。害はほとんど無いんだけど一応ね」
「そうなんですね、知りませんでした。ありがとうございます」
「いいよ、いいよ。じゃあ丁度。気を付けてね」
店を出て、地図を頼りにビランガ防具店の近くまでやって来た。有名と言われてるだけあって、人が集まってるし、従業員の数も他より多いみたいだ。
「カルミナは何買う?」
「そうね、軽装で良いんだけど…魔法耐性や頑丈な素材のローブが欲しいわね。タロウは?」
「軽くて頑丈なやつがあればいいな。籠手とか…針や投げナイフをしまえる内ポケットが沢山あるローブとかね。武器も買いたいから値段と相談だけどね」
「黒貨…」
「……。せっかくだし、カルミナのローブも良いやつにしておこうか」
「やったあ!鍛冶が盛んな街だもの!ここで装備を揃えるのがお得よ!」
それもそうだな。ケチってる場合じゃないか。
「お二人さんいらっしゃい、どんな品が欲しいんだい?」
「とりあえず二人とも軽装の新調と魔法と物理耐性があって、内側には仕込み用のポケットがついたローブが欲しいですね。」
「軽装とポケットはいいとしても…耐性のあるローブは高くなりますよ?」
「構いませんよ、防具を疎かに出来ませんからね」
「中々見所があるじゃないか坊や」
「店長!」
「後はあたしが話を聞くから任せておきな」
「分かりました。では」
「店長のビリーガだ。それでどんな耐性を付けたいんだい?」
「まずは物理耐性はお願いしたいですね。頑丈な素材で作られた物がいいです。魔法耐性は多ければありがたいですね。とりあえず防熱防寒防水は付けて欲しいです。」
「なるほど、それくらいなら大丈夫よ。色はどうする?あと軽装も買うんだったね。希望はあるかい?」
「俺は明るい茶色みたいな色が良いですね。軽装の方はとりあえず軽さと動き易さを重点的にお願いします。あ、あと籠手とかも欲しいですね。」
「私は白かしらね、槍も白いし」
ビリーガさんはメモを取りながら話を進めてくれて、欲しい物の要望を纏めてくれた。
「だいたい分かったわ。つまりほとんどお任せってわけね。良いわよ、そっちの方が楽だもの。でも時間は貰うわよ?」
「どのくらい掛かりそうですか?」
「魔法耐性を付けるのに時間がかかるのよね…他にも仕事があるし、早くても1週間って感じかしら?」
1週間か…登山には間に合いそうに無いけどそれは仕方ないか。
「分かりました。値段ってどれくらいになりそうですか?」
「そうねぇ…いくつ魔法耐性付けるかによって変わってくるのよね…。坊や達いくら出せるの?」
「2人で黒貨1枚」
「黒貨…?あはは、面白い坊やだ。黒貨なんて持ってるやつが珍しいよ!」
「そ、そうですか…とりあえず大金貨なら全然払えますんで」
「そ、そうかい?それなら耐性も色々と付けられるってもんだ。期待してていいよ!」
「お願いしますね。1週間くらいたったらまた来ますんで」
そうか、黒貨って中々使う場面ないな…魔剣でも買い漁って大金貨に両替しようかな…
「次は?タロウの刀?」
「見に行って見てもいいか?」
「もちろんよ!今日は火山に登らないんでしょ?なら準備に費やしましょ!」
「なら、次はターナル武器屋に行ってみよう!」
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