第59話 タロウ、水の力を使う
よ、よろしくお願い…します…バタッ
「ん~、一定の距離を取って追って来てるな…3人のグループか?」
街中じゃ気付かなかったが、街を出てからは流石に気付いた。恐らく何かしらエルフへのヒントを得ようとして追ってきているのだろう。
「少しペースを落とすか…?いや、逆に上げて森を走り回るか?」
俺は駆け足から歩きに替えて、どうするかを考えた。追ってきてる理由を問い詰めるか、そのまま逃げ切るか…。問い詰めるにしてもある程度は追いかけられないといけないし…
「うん!とりあえず走るか!」
逃げ切れるならそれでいいし、追われるなら理由を問い詰めればいいし、どちらにせよ早く戻りたいから走ることにした。
◇◇◇
「2人は脱落したけど、1人はまだ残ってるな…結構スピード出したと思ったけど、振り切れなかった。Bランクは少なくてもありそうだな。」
1人だけ追いかけてくる奴がにどうしてそこまで追ってくるのか気になり、そろそろ問い詰めようと思って少し空いてる場所で待ってみる事にした。
「…」
「……」
「………おい!もう無理だから!バレてるから!出てこいよ」
ガサッと草が音を立てて男が出てきた。
「いつからだ?」
「街を出てから。残り2人も迷子になってないといいな。それで、追って来た理由は?」
「金で雇われた。」
そうか、何か、こう…母が病気でエルフが育ててる花が必要とか、昔エルフに助けられて…とかじゃなかったのか。偽装とか使ってさっさと逃げ切れば良かった。何か、ガッカリだよ。
「そう…ですか。戦うんですか?森を傷付けたくないんですが」
「お前がエルフの所まで俺を連れていけばそれでいい。」
口数少なく見た目もゴツいから強そうな感じ出てるけど…了承する訳にはいかない。
「エルフに会って何を?」
「場所さえ知れればいい。俺の役目はそれだけだ。」
「はぁ…水って何処にしまってたかな……あった。アクエス、出られるか」
『はい、ここに』
「何を1人で言っている?」
「あいつと、あと森に2人こいつの仲間が居るらしいけど、どうする?」
『仲間の2人は魔物の居る所まで誘導するの。エルフを脅かす者は排除なの。目の前の男も倒すの!私の力を使うの!』
「おい!誰と話している!?ふざけているのか?」
「水刺鞭…おぉ!」
俺は水で出来た鞭を作り出した。魔力の効率もいいし、アクエスのお陰で長さ調節も鞭の水を高速回転させる事も簡単にできる。これなら硬い鉄も切れるんじゃないか?やっぱり上位精霊は違うなぁ。
「やる気のようだな。」
「よし、次だな。圧縮 圧縮 圧縮 水の盾…いいな!手で持たなくても浮かせられるのもいいし、硬い、硬い。おぉ…水の質を柔らかくも粘着性を持たせる事出来るぞ!すげぇ…アクエスすげぇじゃん!鞭に粘着力持たせたら動かなくて済むなぁ…。鞭じゃなくて伸びる棒とかでもいいな。」
「おい、来ないなら行くぞ…火の玉!」
ジュッ…飛んで来た火の精霊を盾で防ぐ。おぉ…いい感じだ。
「ちっ!火の槍!」
「水の盾!」
水の盾を増やして槍を防ぐ。火の粉がえげつ無い…森で使うなよ…。でも、アクエスの力が解って来たな。
「ふん。少しは本気を出してもいいようだな。」
「水円檻。圧縮。」
「ちっ、こんなの簡単に…何!?」
円形の水の檻で相手を閉じ込めた。強度も増して逃げられ無いようにする。
「刺。刺。刺刺刺刺刺刺!!」
「ぐあああいてぇぇぇぇぇっ!」
円の内側に向けて鋭く尖らせた水を伸ばして男を突き刺す。死なないように足や腕をメインにだ。
「アクエス、相手の血って操れるのか?」
『液体だから可能だと思うの、他人の血ですから少し扱いにくいと思うの』
「そうか…今回はいいか。さて、こいつをどうしようか?とりあえず持ち物を漁らせて貰って……特に何も持ってないのか…。」
「召喚 ピヨリ…ごめんなピヨリこいつを森の外まで頼む。…そうだ、ピヨリもエルフの果物食べな、ほら。」
『……美味しいッピ!凄い美味しいッピ!運んでくるッピ!』
「頼むなピヨリ~。」
アクエスの案内の元、一応の為に少し遠回りをして村まで戻ってきた。日はすっかり傾き日暮れ前になってしまった。
「ただいま戻りました」
「お帰りタロウ!リリーとトリーはどうだった?」
「大人しくしてたよ。あと、ギルドではエルフの誘拐犯も捕まってたしな。…ミシラン商会で食材やお菓子も買って来たよ。」
「タロウ殿、帰って来たかえ。宴の準備万端じゃよ」
「ありがとうございます。今日もになりますけどケーキも買ってきました。あと、これをどうぞ」
「ん?何かのレシピのようじゃが…」
「ケーキ屋さんで貰ったレシピですよ、皆さん甘い物好きそうですし、僕たちは明日旅立ちますから良かったらと思って。」
「ありがとうタロウ殿。セールや、タロウ殿がケーキのレシピをくれたから、お礼に何か持ってきておくれ」
「まぁ!村の子供達も喜びますよ、ありがとうございますタロウさん。これをお持ちください。」
「この粒は…」
「はい、エルフの作る丸薬です。病気に効くんですよ」
「それは凄いですね!カルミナが病気になった時でも使うかな…」
俺は色んな耐性があるし、何より神様の加護のおかげか風邪もひいたことがない。
「あと、こちらも…」
「これは…またさっきの丸薬よりは細いですね。」
「えぇ、ちょっとお耳を……これは子供の出来にくいエルフに伝わる薬でして…ね?人族の方には必要無いかもしれませんが…ね?」
ね?…と言われましても…ね?まぁ、とりあえずもったいないですから貰っておきますけど…ね?
「タロウどうしたの?何貰ったのよ?」
「え?あ、ああ、薬だって!病気に良いみたい」
俺はアイテムボックスにちゃんとしまって丸薬の方だけ貰ったことを説明した。もうひとつの薬の方はまだ早いからな。
「タロウ遊ぶの!」
「タロウさん、私達と遊びましょう?」
「カルミナの姉ちゃんも遊ぼうぜ!」
キュールや村の子供達から遊びのお誘いを受けたので宴が始まるまではそれに応じる事にした。
日も暮れて来て、光の精霊達が村を照らし始めた時に宴が始まった。
「皆のもの。明日は我らの同胞を救ってくれたタロウ殿とカルミナちゃんが旅立つ日じゃ。とても残念だが笑って見送ってやろう。今日はそのための宴じゃ。タロウ殿とカルミナちゃんから一言よろしいかの?」
「分かりました。えっと、タロウです。まだ話せて無い方も居られますが僕達は明日旅立つつもりです。最初の目的は上位精霊アクエスとの契約でしたが、こうして村に入れて貰い、宴まで開いてくださった事ありがたく思います。皆さんの代わりに街でエルフが捕らえられていたら助け出す事を約束します!お世話になりました!」
「人族じゃ、精霊が見える人が少なくて大変だったけど、エルフ族の皆と精霊について話せたり、精霊魔法を教わったりできて本当に良かったわ!またいつか遊びに来るわね!その時はまたお世話になるわ!」
エルフ達から拍手やら歓声を受けて、この村を出るのが本当に残念に思える。
「村の皆にも了承は得たんじゃが、二人にコレを贈ろうと思う。受け取っておくれ」
「木製の緑で波の模様が入った指輪だな」
「おばあちゃん、これは?」
「この世界にはエルフが色んな場所で暮らしておる。伝承になるのじゃが元々は1つのばしょに居ったらしくての。各地に別れる時にエルフ達はこの模様が印された指輪を作ったそうじゃ。それがエルフの同胞の証とされておる。これを持っておけばエルフ達にいきなり攻撃される事もなかろうて」
「ありがとうございます!カルミナ、ペンダントみたいにリングを首から下げてるだろ?あれに通しておこう。」
「そうね!指輪は私達のパーティー名と相性いいし、ありがたいわね。」
最初の挨拶も終わり、宴が始まった。明日旅立つ事もあって、集まってくれた方達と別れの挨拶を交わした。エルフ達は長生きだし、俺達がくたばらなければまたいつか会える日が来るだろう。というか、会いに来よう。
エルフの中でも年を重ねてる方のカルミナへの接し方が田舎の祖父母のようで、あれやこれやと何かをあげているのが見れた。カルミナも喜んでいるみたいでほんとに良かったと思う。
「タロウ明日村を出ていくの?」
「えー?遊ぼうよ!」
「ごめんな、俺達にもやりたい事ややらなくちゃいけない事があるんだ。いつかまたこの村に来るからさ。」
「約束するの!」
「タロウさん、私も!」
「俺とも約束だ!」
「あぁ、約束だ。それまで人に捕まっちゃダメだからな?」
「分かったの!」
「うん!」
「もちろんだぜ!」
「ほら、みんなケーキとかもっと食べてきな。僕はもう少し色んな所を回ってくるから」
「タロウは子供達に人気ね」
「お、解放されたのか?カルミナこそ年配の方に大人気じゃないか」
「嬉しい事にね。果物やらなんやら貰っちゃったわ!」
「美味しいからありがたいよな。…それで明日からの事だけど、火山の場所って地図でみても結構遠いっぽいから忙しくなりそうだ。」
「へぇ、どのくらい遠いの?」
「ここから南西…南南西かな?進んで海の近くまで行くことになるから…2週間以上はかかると思う」
「食料は大丈夫なの?」
「街から街に移動して行くから大丈夫だと思うよ。泊まる事や天気の事を考えると20日以上かもしれない。」
「街でクエストをするとなったらもっとかかりそうね。…わかったわ!頑張って行きましょう!強くもならないといけないし、修行もするわよ!」
「そうだ、アクエスの力を試してみたんだけど…凄いな上位精霊って。魔剣より良いかもしれない」
「タロウの魔剣みたいに切れ味を良くするとか以外なら精霊の方が良いかもしれないわね。」
「出来るだけ早く他の精霊にも力を貸して貰わないとな。魔族が本格的に動き出す前に死なないように力を付けないと」
「そうね。その為に旅に出たんですもの!明日は朝一番に街へ行って、リリーとトリーを連れて出発ましょう」
二人で明日の事を話し合い、その後は眠たくなるまで宴を楽しませて貰った。
◇◇◇
翌朝、いつもと同じ感じでカルミナを起こしてから村長のバイルさんやセールさん、キュールちゃんに出発の挨拶をした。
「また来るんじゃよ、出来れば私が生きてる間にの」
「おばあちゃん長生きしてよね!」
「また、お邪魔させて貰います」
「じゃあねなの、タロウ、カルミナ!」
「本当にありがとうございました、村を代表して感謝の気持ちを伝えさせて貰います」
「では、さようなら!」
「ばいばい!」
ゆっくりと歩くと名残惜しくなるし、俺とカルミナは走って去っていく事にした。カルミナも寂しそうだけど街へ着く前にはちゃんと気持ちを切り替えられた様だ。
「すいません、リリーとトリーがお世話になりました」
「大人しくしてたから問題ないわよ。またうちの宿を利用してくださいね。」
街の宿屋に寄って、リリー、トリーを回収したし、すぐに出発しようとしたが、何故かギルド長のレーミルが待っていた。
「タロウ、ビストは有罪として奴隷落ちしたよ。とりあえず冒険者と話し合って誘拐犯を冒険者達で見付けだす事にしたさね。…そっちの子はパーティーメンバーかい?」
「あぁ、もし、あの森のエルフが傷付けられたら、俺達は街を敵にしても戦うつもりだ。とりあえず今は旅の途中だし離れるけど、いざとなったら飛んで帰ってくる。ギルド長、あの森を守ってやってください。」
「あぁ、任せておきな。」
ギルド長とも挨拶を交わし、今度こそ本当に街を出て出発をした。目的地は南の海付近にある真っ赤な火山。まずは国境付近の村まで行かないとな。
「そうだ!新技が出来たらその日の終わりにでも試していきましょう?」
「そうだな、刀にアクエスの力を込めたり試したい事はまだまだあるしな。…とりあえず飴でも舐めながら進みますか!」
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