第58話 タロウ、証拠を突きつける
よろしくお願いします!
「バイルさん、セールさん。契約は無事に終わりました。」
「それは良かった。アクエス様がこの地を離れるのは少し寂しく思うがのぉ。」
「タロウさん、カルミナさん。アクエス様とお話させて貰ってもいいですか?」
「あ、はい。じゃあ湖に戻りましょうか。水がない所には現れる事が出来ないらしくて。」
先ほどまで居た湖に戻り、アクエスに出て来て貰った。
「アクエス様、寂しくなりますが行ってらっしゃいませ。」
『?タロウに呼ばれない限りはここに居るの。ずっと居ない訳じゃないの』
「そうなのですか!?てっきり、この湖を離れてタロウさん達と何処かに旅立ってしまうものだと…」
「私もそう思ってたからの。それならば良かったのぉ。」
『私は水の在るところなら何処にでもいけるの。でも、この湖が1番いいの。シェリーフだって自分の森に居るはずなの。』
召喚する時って、みんな何処から来るのかと思ってたけどそれぞれ居たい所に居るんだな。こちらの都合で呼び出して申し訳ない。
「俺も初めて知ったよ。ならアクエスに聞けばいつでもエルフの村の様子が分かるかな。」
「我々もタロウ殿とカルミナちゃんが元気でやってるかが知れるのは良かったわい。それにしても契約はカルミナちゃんがするものだと思ってたのじゃが…」
「最初は私が契約して貰おうとしてたのよ?でもアクエスが森を助けてくれたのはタロウだからって!」
『タロウさんと契約するのは当然の帰結なの』
「次は頑張るのじゃよ、カルミナちゃん。」
「うん、次は火の精霊に会いに行くからそこで活躍してみせるわ!」
『村長バイル、それにセール。私はこの森、この湖を離れる事が増えるの。だから、森の管理は中位精霊達に任せる事にしたの。あなた達には迷惑をかける事になるけど手助けをしてあげて欲しいの。』
「承りました。今まで以上にエルフ達が一丸となって精霊様と手を取り合って森を守ってみせます。このバイル、村長として皆を守っていきますゆえ。」
『よろしく頼んだの。』
「という事でバイルさん。俺達は旅立つ事にします。」
「もう、行ってしまうのかえ?」
「タロウ…」
寂しそうに見るなカルミナ、今すぐって訳じゃないから安心してくれ。
「とりあえず、街の宿に置いてきた馬車を取りに行かないと行けないですし、他にもやることがありますから出発は明日になりそうですね。」
「リリーとトリーを忘れてたわ!宿も今日までじゃなかったかしら?」
「あぁ、だから今から俺は街まで行ってくるつもりだ。」
「タロウ殿にカルミナちゃん。今日も村に泊まってってくれんかの?お別れの宴を開かねばの。」
「おばあちゃん、3日も宴になっちゃうわよ?」
「今までそんな事は無かったが、そんな事があってもええじゃろうて、セール村に戻って準備をしてきてくれんか?」
「分かったわお母さん。」
「カルミナ、街へは俺が行ってくるから村でバイルさん達の手伝いをしてやってくれ」
「分かったわ!気をつけてねタロウ。あと、お菓子とかもね!ね!」
「分かったよ。あー…でも、リリーとトリーはこの辺りまで来れないかもしれないな…」
「たしかにね、狭い道も通るし…」
「宿を1日延長してくるか。カルミナ、買い物とかも済ませてくるから夕方くらいには戻ると思う」
「帰りは大丈夫?」
「アクエスが居るから大丈夫だよ。じゃあ行ってくる。バイルさん、今日もお世話になります」
「二人ならずっと居てくれても構わんのやが、そうもいかないからの…。気を付けて行ってくるんじゃよ」
バイルさんにカルミナを預け、午前中の内には街へと着けるように少し早めに走り出した。昨日村から走った時に通った道を見付けてからはすんなりと森の外へと出る事が出来た。
◇◇◇
街へ戻って来てから真っ先にリリーとトリーの元に向かった。
「リリー、トリー待たせてごめんな。お土産があるぞ」
俺はエルフの村で貰った果物をおやつ代わりに出してあげた。
「ヒヒィィン!」
「ヒヒブルルゥ」
『今まで食べた物で1番美味しいと言ってますね。』
「あ、ルミナス。ルミナスも食べるか?」
『いただきます。…たしかにこれは美味しいですね。お店に売っている物とは甘さも瑞々しさも桁が違いますね』
ルミナスもリリーもトリーも絶賛していた。俺からすると美味いって事は分かるが…上手くは説明は出来ない。バカ舌のせいだけど。
「リリー、トリーまた明日迎えに来るよ、出発は明日にする予定だからね」
「ヒヒィィン!」
「ヒヒブルルゥ」
『分かったけど、そんな事よりリンゴちょうだい。って、言ってますね…私が』
ルミナスかよ!まぁ、ついでにリリーとトリーにも渡しとくか。エサも今日までの分が残ってるし、後で買いに行くからとりあえずは大丈夫か。
俺は宿の受付まで行って、1日延長する事を話して宿代を払った。よし、先に買い物に行っておくか…。
「あ…、手持ちじゃ足りないかもしれない…やっぱり、先にギルドに行こうかな」
『私は果物を食べに村へ戻ってますね。えぇ、大丈夫です。ちゃんとタロウの事は見てますよ』
何にも大丈夫じゃないが、どうしようも無いことだし気にせずギルドへと向かった。
ギルドに到着すると、昨日ここに運ばれてきたビストと門番が衛兵に連行されていく所に出くわした。
「あ、おじさん、もしかして…」
「ああ!アイツはエルフを運んでいたらしい、門番もグルで金を受け取っていたらしいぞ。昨日の朝に鳥がビストを運んで来てな、門番の男も呼び寄せてそれからギルドで取り調べをしたんだが…なかなか吐かないらしくて別の所に連れていかれるらしい」
ふーん、まだ自白していないのか。リストだけでも証拠になると思ったんだけどな。しかたない…
「ビスト!」
「な、て、テメーは!?お、おい!アイツだ!アイツがエルフを…」
「エルフを何だって?」
「ぐ……そ、そうだ!エルフはこのガキが拐ったんだ!」
おぉ~う…変なこと言ってくれるなよ。白い目で視られてるじゃねーか。
「あぁ、確かに!エルフを拐ったお前からなら拐ったと言っても間違いじゃないな!ちゃんと森に全員帰したぞ、残念だったなビスト。」
「う、嘘だ!本当はどっかに隠したんだろうが!」
「エルフを拐った事は否定しないんだな。召喚 ピヨリ」
「おい、あの鳥は昨日も見たぞ!」
「ビストを連れてきた鳥だな」
「あの少年の使い魔か?」
なんとなく証拠になるかと思ってピヨリを出したが…どうしようか?特に何の証明にもなってない。
「何を騒いでいるんだい?さっさと連れて行っちまいな!」
ギルドの中から白髪にローブ姿で杖を持ったどこか魔女を彷彿とさせる見た目の婆さんが出てきた。
「ギルド長、何やらこの少年が…少年の使い魔が昨日ビストを連れてきた鳥らしくてですね…」
「ほーう。それは話が進みそうだねぇ。少年名前は?」
「タロウです。Cランクです。」
「CランクがBランクのビストを捕まえられたのか?」
「アイツ相当ボロボロだったぞ?」
「俺あの子よりは年上だろうけどまだDランク…」
「静かにおし!タロウね…私はここのギルドの長をやっておるレーミルだ。詳しい話を聞かせた貰ってもいいかい?」
「えぇ、きっかけは森を散策中に子供のエルフを見付けまして…その後にエルフを拐ってる冒険者に遭遇したんで返り討ちにした事ですかね。」
「そういえば、あの鳥が2日くらい前に男達を連れて来てたな!」
「そうだそうだ、貼り紙がしてあったやつらだろ?この子がやったのか。」
「まぁ、それからそのエルフの子に最近よく拐われてるという話を聞きまして、使い魔にこの街の地下を探して貰ってこいつらの取引現場を見付けた訳です。」
「なるほどの…それで街の外まで泳がしてビストを捕まえエルフは逃がした…と」
「だいたいそうですね」
「エルフ達は協力してくれたのかい?エルフ語しか話さなかっただろうし、疑われただろ?」
「とりあえず、子供エルフの名前を出して無理やり信じて貰いましたね。さすがに、途中からエルフ語は止めてくれましたよ」
俺はほとんど省略した話でギルド長や街の人に事の成り行きを教えた。
「なるほど、ビスト、違いはないか?」
「ち、違う!」
往生際の悪い奴だ…
「うーん、ならビスト、あんたが何をしにこの街に来たのかちゃんと説明しな。」
「お、俺はただの観光だ。」
「来る時は一般用の入り口から来たね。それで、お前が一般用の門から出ていくのを見たやつはいないんだが?」
「お、おい門番代わりに説明しろ。」
「え、いや、その。こ、混んでたからです!ビストが金を払うからこっちの門から通せと!」
「ほぅ。それは本当かい?」
「あぁ、それで間違いねーぜ。」
「そうかい。この街にそんな事していい規則はないよ。門番、お前は賄賂を受け取ったとして、然るべき処罰を与える。」
「ひぃ!そ、そんな…」
「それで、荷物は何を?」
「食料とかだよ」
「門番、本当かい?」
「いえ…調べていません」
「賄賂に職務怠慢。追加で処罰さね。もし、嘘吐いてビストが有罪だった場合もっと処分は重くなる…奴隷として過ごす事になるかもしれないねぇ…それを踏まえて聞くがビストはエルフを誘拐していないんだね?」
「あ…あぁ、し……して……ま………す」
「お、おい!テメー何言ってやがんだ!?デタラメ吐くんじゃねーぞ!」
「してます!この男はエルフを誘拐してました!」
「よく言った。賄賂と職務怠慢は目を瞑ってやるよ…だが処罰は下りる。」
「ビスト、言い残す事はあるかい?」
「このガキだ!このガキがエルフを拐ってどっかに隠してるんだ!」
「そんな事した俺がエルフにエルフが育てた果物や食材を貰えると思うか?」
「タロウ!?それは本当かい?」
「えぇ、お礼にって沢山貰いましたね。ここのクエストの報酬が凄く高いんで今から持って行こうとしてた所なんですよ?」
「まじで持ってるのかよ!?」
「本物なのか?」
「あのクエストって大金貨何枚の報酬だ?」
「大金貨1枚以上だったはずだ。そのくらいエルフの食材は手に入らねぇ」
「見せて貰えるかい?」
「あ、はい。これです。さっき僕の馬に食べさせたら1番美味しいって行ってましたよ?」
「何てもったいない事を!とりあえず大金貨1枚を渡すからその果実を譲ってくれんか?」
「あ、はい。どうぞ。本物って分かるんですか?」
「冒険者やってた昔は、たまに食べていたからな。食えば分かるさね……!?こ、この味は!…懐かしい、間違いなく本物だよ!ほら、大金貨だよ」
「ありがとうございます。よし、とりあえずこれで資金は大丈夫だな。買い物に戻るか。」
「ちょ、ちょっとお待ち!」
「な、何ですか?大きな声だして?」
「いや、ビストはどうするんだい?」
「あ~、そうですね。色々と手に入りましたし、後は任せますが…さすがに無罪になったとしたら許せないんで俺が手を下して、エルフに街は犯人を無罪にした事を話しますかね」
「そ、それだけはやめておくれ!只でさえ関係が…」
「エルフの方達は言ってましたよ?エルフの食材を目的で森に入る者が多いと。昔は違ったと。昔を知ってるギルド長なら分かるのでは?」
「それは…そうかもしれないね。昔は森を荒らす魔物を狩って、お礼として果物とかを貰っていたんだがね。…そうさな、1回冒険者を集めて話し合いをしてみるとするさね。教えてくれて助かった。」
「いえ、このくらいの事なら」
「まだ、売ってもいいのがあるなら買い取るが?」
「あ、他の果物もいくつか買い取って下さい」
俺はギルド長に他の果物も売り付け大金貨10枚以上を手にいれた。ビストが有罪でも無罪でも構わないがそこはギルド長の判断に任せる事にした。早く買い物を済ませないとな。
「…やっぱりあるんだなミシラン商会。まぁ、ここが1番安心か。」
「いらっしゃいませ~」
俺はトレーダスで買い物をしたように肉や野菜とか主食になりそうな食べ物をまとめ買いしていく。驚いた事に馬のエサも取り扱っていたのでそれも補充しておく。子供が買う量じゃないからか、店員には驚かれたが気にせず金を払って、お菓子売り場に足を運んだ。
「アメはアトラスが食べるし…クッキーも休憩中にはいいし、カルミナは甘いものならなんでもいいか。後で街のケーキ屋さんとかに寄るか。」
ミシラン商会での買い物を終えて、宴で食べる分と個人的に食べる分のケーキを買いに昨日も尾行中に立ち寄った店に向かった。
ケーキを買いに訪れた店でふと思い付き、軽い感じで大金貨1枚でケーキのレシピ教えてくださいと頼んだ所、基本の作り方の書いてあるレシピと他に2、3種類のケーキのレシピを売って貰える事になった。
「ありがとうございます。あ、ここからここのケーキもください。」
「坊っちゃん…昨日も来てたけど…そんなに食べるの?」
「えぇ…今ちょっと、よく宴をする所にいまして…」
「うちの店からしたら嬉しいんだけどね。はいこれ、商品。」
「レシピありがとうございました。あまり、外に出ない人達なんで助かります」
「いや、いいんだよ…大金貨だもんね…凄いね、坊や。」
大金貨を払った俺にケーキ屋の店員さんは軽く引いていたが、これでエルフもケーキ作りが出来ると思えば安いものだ。
よし、村へと戻りますか!
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