第57話タロウ、色々と手にいれる
よろしくお願いします!
誤字修正しました!
「…来たか。貴様…『狂犬』ビストだな?」
「あぁ、それで商品は部屋の中か?」
「首輪を今から付ける所だ。中に入ってくれ」
「へぇ、注文通りに数が揃ってるじゃねーか。…ちゃんと魔力を阻害する腕輪も付いているな。暴れられても困るからなぁ。」
「あぁ、捕まえる時から着けてある。これだけ集めるのに雇った冒険者が10人は捕まったけどな。金は?」
「おらよ。こんだけエルフが居れば簡単に取り返せる額だがな。」
「黒貨…5枚…たしかに。じゃあ奴隷と同じ首輪を着けていく。が、弱らせてあるからあまり首輪の力を使うなよ。」
1人、また1人とエルフに首輪が着けられていく。食事もロクに与えられず、弱りきったエルフ達の怯えた表情をビストは愉快そうに見ていた。
「……これで完了だ。連れていけ。」
「また頼むぜ?」
ビストがエルフ達を連れて行き、部屋を出ていった。
「偽装解除。…ふぅ、黒貨5枚って5000万だろ?やベーなエルフって!」
俺は気絶させた見張りの男に成り済まして取り引きを完遂させた 。どうして逃げないのかと思ったが、魔力を乱す闇属性の魔法が付与された腕輪が着けられていたからで、精霊魔法が使えない状態だったらしい。腕輪はルミナスに効果を消し去って貰って、首輪も偽装したただの首輪で奴隷に着けるものとは別物になっている。
「よし、後は街を出るまで尾行だな。ビストの野郎にはお灸を添えてやらないとな。」
俺はどこにでもいそうな子どもに偽装して、馬車にエルフを詰め込んだビストの尾行を開始した。ビストはすぐに街を出るわけじゃなく、色んな店で服や香水等の商品を買い漁っていた。
「そうだ、ついでにエルフ達にデザートとかお菓子を買っていこうかな。」
流石に黒貨を普通の店じゃ使えないから手持ちの金で支払いになるけど…まぁ、思わぬ所で黒貨5枚も手に入れたし安いもんだな。
ビストから離されない程度の距離を取りつつ、果物を使ったケーキやお菓子等を買い漁っていく。
「お、出口に向かって進んで行くな。エルフ達をどうやって隠すつもりだ?検査されたらバレるだろうに。」
ビストは普段貴族達が使う方の出入り口に向かっていく。
「これはこれはビストさん。お帰りですか?」
「ああ、いくらだ?」
「最近は何かと我々への検査も厳しくなってなっておりまして。大金貨1でお願いします。」
「ちっ、ぼったくり過ぎだろ…ほらよ。」
「またいらしてください。くくく。」
なーるほど。腐ってる奴はどこにでもいるんだな。アイツも後で突きだそう。さて、行くか…
◇◇◇
「よし、さっさとルールトまで戻るか。ったく、エルフ共の飯くらい用意しろってんだ。まぁいいか、お貴族様に売ればへへ…遊んで暮らせる金が手に入るからな。」
「立ち止まれ、ここから先は通行止めだぞ。誘拐犯ビスト」
「あん?…てめえは…あの時のガキじゃねーか…。俺が誘拐犯だと?なんの事か分からねぇな。ガキのお遊びに付き合ってる暇はねーんだ。通して貰うぜ」
「お前が黒貨なんて持ってるとは思えないな…どこぞの貴族にでも雇われたのか?」
「…知らねぇな。」
「そうか、これを見てもか?偽装」
「てめえはさっきの奴隷商の!?どういう事だ!?」
「黒貨5枚、ありがたく貰っておくよ。あとエルフの首輪、ちゃんと効果は確かめたか?」
「まさか…エルフ共、命令だアイツに魔法を放て!!」
「「……」」
「てめぇ…面倒なマネを。」
「黒貨は貰うしエルフは返して貰うぞ。ついでに馬車も食料も荷物も貰う!」
「ガキが調子乗ってんじゃねーぞ!ふっ…ビスト様も舐められたもんだな…女のガキが居ねーなら問題ねぇ。ここでぶっ殺す」
ビストが剣を抜いた。Bランクの『狂犬』ビストか。…よし。やってやる。…エルフ達がな!
「ルミナス!準備はいいか!?」
『いつでもいいですよ。皆さんいいですね。』
「は、はい!」
「いつでも大丈夫です。」
「エルフ共、どうやって拘束を!?」
「みんな構えろ!打てーー!!」
「風よ!」
「水よ!」
「土よ!」
「光よ!」
「氷よ!」
「雷よ!」
「ぐあぁぁぁぁがぁぁぁがっあああああ!」
後方からのエルフの魔法でビストが吹き飛ばされる。威力は弱める様には言ってあるから死んではいないだろう。よし、これで一応は奪還完了だな。後はこいつを縛って突き出すだけだな。
「よし…みんな、帰ろう!エルフの村に!」
「「うん!」」
俺はピヨリを召喚してビストと門番の事、それにエルフの取り引きのリストを書いた紙をピヨリに持たせて街のギルドまで運んで貰うようにお願いした。
森の入り口近くまでは馬車で移動して、そこで馬は逃がして荷物はアイテムボックスにしまい、荷台は置いておいた。誰かが有効に使ってくれるだろう…きっと。
「森には冒険者も居るから見付からないようにしないと。」
「なら私達に任せて。どこからだって村に帰れるわ。」
エルフ達についていき、村まで案内して貰った。
「か、帰って来れた……」
「夢じゃ無いわよね…」
「お母さん…お母さーん!」
「おい、あれ、ルキスだ!サーナもターンも居るぞ!?帰って来たぞ!」
「サーナ?…サーナ!」
小さい子も多かったしお母さんやお父さん達が泣いてよろこんでいる。
「心配したよの?心配したんだから!」
「あのね、あのお兄さんが助けてくれたの。」
「タロウさん…ありがとうございます。ありがとうございます!」
「いえ、昨日バイルさんや子供達と約束したんです。エルフの力になるって。それに僕もちょっとしたお小遣いも手に入りましたしね。とりあえず街に居たエルフは連れ戻せました。」
「すぐ村長に…村長!村長!」
「騒がしいの…カルミナちゃんが起きてしまうわい。」
…は?まだ寝てるのか?嘘だろ?俺の置き手紙の意味が無いじゃねーか!
「村長!拐われた同胞が帰って来ました!タロウさんが連れ戻してくれたんです!」
「なんと!?おぉ…みな戻ったか…良かった。良かったの…。ありがとうタロウ…タロウ殿。」
「あ、はい。無事で何よりです。すいません、少し疲れたので休ませて貰いますね。」
「ありがとう!」
「タロウさん、ありがとうなの!」
「サーナを連れてきてくれてありがとう!」
「みんなと約束したからね。じゃ、僕は少し休むね」
俺は村長の家のカルミナが寝ている所まで行って、まだ夢の中にいるカルミナを叩き起こした。
「いつまで寝てるんだよ!」
「んえ~?昨日は遅くまで精霊魔法の練習をしていたのよ~?」
「寝ぼけてないで起きろ!まったく…もうお昼前だぞ?」
「うんん…そんなに寝ちゃったの…?おはようタロウ」
「はいはい、おそようおそよう。こりゃ、精霊の元に行くのは明日になりそうだな。」
「今日は行かないの?」
「あぁ、恐らく今日も宴になるし、カルミナも眠いんだろ?」
「宴って…何かあったの?」
「あぁ、実はな…」
俺はカルミナに朝方から今さっきの事までをざっくりと説明した。カルミナが眠ってる間に俺がどんだけ頑張ってたかを説明したけど黒貨5枚の所からカルミナが止まってる気がする。
「…という事なんだ。だから今日も宴になると思う。」
「黒貨…黒貨ってあの黒貨?」
「カルミナ?」
「ズルいじゃないの!!私も、私も連れてってよ!そうしたら私も黒貨を…ぐああああ」
あぁ…カルミナは王族なのに金に汚い部分があったんだよな。この金は何かに使う時まではしまっておくから安心しろ。…まぁ、面白いから使わない事は内緒にしておくが。
「あ、そうだ。お菓子とかケーキも買ってきたんだ。渡しに行くけどカルミナはどうする?もう動くか?」
「私も起きるわ。準備するから少し待ってて。」
「カルミナ」
「何よ?」
ちゃんとヨダレは拭いておかないとな。
「…これでよし。」
「ホントにヨダレ出てるのね…。毎日?」
「毎回だ。外で待っておくから準備して来てくれ。」
「う、嘘よ!そんなわけないじゃない?無いわよね?ちょっと答えなさいよ!」
それから外で少し待って、カルミナと一緒にエルフ達が集まってる場所へと向かった。
「おや、タロウ殿にカルミナちゃん。タロウ殿はお休みになられるのではなかったのかえ?」
「カルミナも起きましたしやっぱり起きてようかと。あと、昨日評判が良かったお菓子やケーキを仕入れて来ましたので。」
「何から何まですまないね…」
「したくてしただけですから…湖まで案内していただけるだけでこっちは助かってますし。」
「そうじゃ、代わりと言ってはなんだが私達が育ててる果物や食材、果物から作った飲み物なんかを持っていっておくれ。」
「バイルさん、よろしいんですか?人族からしたらエルフの作る作物って高価な品ばかりですけど。」
「前は、森を荒らす魔物から守ってくれる冒険者にお礼として渡していたから結構流通もしていたんじゃがな…。今ではそんな冒険者も減って、エルフ産の品を目的に森へ来る者ばかりになってしまって与えておらぬからの、だから高価になったのかもしれぬ。」
「そうだったんですね。頂けるならありがたく受け取らせて貰います。」
「なに、ケーキのお礼じゃよ。お互い様じゃ。それで湖にはいつ行くんかえ?」
「明日には行こうと思います。お願いできますか?」
「おばあちゃん明日は大丈夫?」
「タロウ殿とカルミナちゃんの為じゃ、いつでもかまわんよ。」
「ではよろしくお願いいたします」
その日は帰って来たエルフの同胞との再開として宴が開かれた。
宴の最中に連れて帰って来たエルフの両親や親しい人に何度も感謝され、野菜やお茶の葉っぱなどを沢山頂けた。カルミナは何もしてないのにケーキを食べていたから自重するように言い聞かせ、宴が終わるまで楽しい時間を過ごした。なんか短い間だけど村の一員になれたみたいで嬉しくなった。
◇◇◇
翌日はカルミナも朝からちゃんと起きて湖に行く準備をしていた。
「水の精霊かぁ…シェリーフが1番静かって言ってたわよね。」
「言ってたなたしか。よし、バイルさんに頼んでさっそく連れていって貰うか」
「行きましょう。バイルさんを呼んでくるから先に外で待ってて」
「分かった。」
先に外へ出たがそれほど待たずに二人とも出てきた。湖に行くのは俺とカルミナと村長のバイルさんとセールさんだ。なんとセールさんはバイルさんの娘だった。つまりキュールは孫。いっぱい感謝される訳だな。貰った果物の量も多かったし。
「それじゃ、行くかの。この村からそう離れては無いからすぐ着くだろうて。」
バイルさんの言う通り、途中魔物が出て時間は食ったが綺麗な湖まで辿り着いた。この湖は結構深そうだな。深く見えるくらい水が透き通っているわけだが。
「綺麗で落ち着く場所だな。動物も休憩してるみたいだし、周りには果物も沢山あるし。」
「ええ、ピクニックとか最高じゃないかしら。」
「では、私とセールは離れてるからの。頑張るのじゃよ、カルミナちゃん」
「おばあちゃんありがとう!」
バイルさんとセールさんは来た道をもどって見えなくなってしまった。後はカルミナ次第だな。
「水を司る精霊アクエス。姿を見せてちょうだい。」
『…ここにいるの』
「わ!…いつの間に俺の後ろに?」
「びっくりしたわね…完全に湖の中央辺りに出てくると思ってたわ。」
俺も同じ事思っていた。普通水の精霊と言ったらそうだよね。
『タロウさん…森のエルフ達救ってくれた。感謝するの』
「あ、はい。助ける事が出来て良かったです」
『森の事なら解る。解るけど森から出られたら私はここを離れられないからどうしようも出来無かったの。エルフと契約はしないからなの』
「水の精霊アクエス、あなたにお願いがある。私に…カルミナ=ルールトに力を貸して欲しい。」
『私はこの地を離れられないの』
「それって…ハルミナ様にそう言われたからよね?」
『そうなの』
「アクエス、それなら大丈夫だぞ。カルミナが風の精霊のシェリーフと契約する時に…って、説明が大変だな。召喚 ルミナス!」
『タロウ、詠唱はしないのですか?アクエス、久しぶりですね』
「ハルミナ様。…タロウさんからする懐かしい感覚はハルミナ様のモノだったのですね。契約ですか?」
『妖精の姿の時はルミナスです。そう呼びなさい。タロウに召喚されてから一緒にいます。あなたは昔から聡明でしたね。もう言いたい事は理解しているでしょう。』
『はい。この地はエルフと中位精霊達に任せます。ルミナス様とご一緒出来て嬉しいです。』
「アクエス、力を貸してくれるのね。ありがとう!」
『カルミナ…残念なの…ちゅ。私が力を貸すのはタロウさんの方なの。』
「「えぇ~~~~~!!?」」
あ、何だこの感覚は…水について理解していくような力が入ってくるような…不思議な感覚だな。
『タロウさんがエルフを救ってくれたの。なら、力を貸すのはタロウさんなの』
『タロウと繋がってる私にもアクエスの水という概念が入って来ますね。タロウ、どうですか?』
「何か、水系に関しては強化された感じだ。手にカルミナと同じ模様が浮かんでるな…」
『アクエス、あなたはやはり聡明ですね。タロウが喜んでいるのが何よりの証拠です』
『お礼の気持ちなの、これから協力するの』
「ありがとうアクエス!これからよろしく頼むな!」
「ちょっと、ちょっと!何か、納得いかないんですけどぉぉぉ!!確かに、エルフを助けたのもタロウだし私は寝てただけだけど…でもでも!!」
「落ち着けカルミナ。次の精霊の時に頑張ればいいさ。まさか俺も契約出来るとは思わなかったし…今回はまぁ、譲ってくれ。」
「うぬぬぬぬ……はぁ、そうね…。今回私は何もしてないものね。まだシェリーフも使いこなしてる途中だし、次の精霊の時は頑張るわ。」
「あ、契約出来るなら氷の精霊も譲って欲しいかなーなんて。」
「あー、タロウ氷の魔法を良く使うものね…分かったわ!」
「ありがとうカルミナ」
「いいのよ。本来なら私が頑張らないといけないのにタロウに助けて貰っているもの。」
『タロウ、私は戻りますね』
『タロウさん、私を呼びたい時は水場か…無いときは水を用意するの。』
「分かった」
「何か、落ち着いた感じがハルベンデさんを思い出すわね」
「たしかに、雰囲気は似てるかもな。」
「水の精霊にも力を貸して貰えたけど、次はどこに行くの?」
「次は南西の…トレーダスからは南にある真っ赤な山の灼熱の火山に行こうと思う。」
「火の精霊ね。火山か…装備を考えないといけないわね」
「それは近くに行きながら考えよう」
「それもそうね。頑張るわよ!」
まさか、俺も精霊と契約出来るとは思っていなかった。これは嬉しい誤算だな。カルミナの為の旅なのに申し訳ないが、戦力が上がったのは素直に嬉しく思う。カルミナも最初は不満がありそうだったが理由を聞いて、それで納得して落ち着いた所を見ると、カルミナも少しずつ大人っぽくなっているのだと感心させられた。
俺とカルミナで今後の行動について大雑把に決めると、少し離れた所に居るであろうバイルさんとセールさんを呼びに行った。
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