第56話 タロウ、エルフの村に行く
よろしくお願いします!
「結構…ぐねぐね進むんですね…」
「えぇ、この辺りだけは複雑に森を調整していますからね。人じゃ辿り着けませんよ」
カルミナはキュールと仲良くなったのかずっと喋っている。
それからも曲がったり進んだり登ったり降りたり、30分以上はさ迷ってようやくエルフを達の住む場所に辿り着いた。
「ちょっとここで待っていて、村の長に話をしてくるから。」
セールさんが村に戻ってから村の中から視線が向けられている。あまり歓迎はされて無いのかな…?
そんな事を考えているとセールさんが村長さんを連れて戻って来た。
「まずはキュールを助けて貰ったこと感謝しよう。そちがタロウ、そっちがカルミナじゃな。うん…可愛らしい子よな。」
あ…まさか村からの視線もカルミナへ向けられていたのか?警戒もあるのだろうが興味の方があるのかもしれないな。
「タロウ…そちはまた少し違うよな。精霊達も縮まっておる。」
「こればっかりは、すいません…僕の事は気にしないでカルミナの所に来たいなら良いよと精霊達に言って貰ってもいいですか?…すいません。」
「ほっほっほ。そうじゃ、風の精霊様に会わせて貰っても構わんかの?」
「ええ、勿論良いわよ。シェリーフ!」
『ここは…エルフの村ですか。ここで風の子達が世話になってますね、感謝します。森の民よ。』
「お初にお目にかかります。ここの村の村長をしております。バイルと申します。」
『風のシェリーフです。今はカルミナに力を貸しています。』
すげぇ…エルフ達が皆頭を下げている。やはり上位精霊となると違うんだな。
「その子は特別という事ですね。分かりました…湖に居るアクエス様の所へ案内致しましょう。ですが、まずは村でおくつろぎ下さい」
『良かったですね、カルミナ』
「うん、ありがとうございます!」
シェリーフは村の中央でエルフ達に囲まれて、俺とカルミナは村長の家へとお邪魔させて貰った。
「エルフのお茶です。森で栽培されている物で香りも良いんじゃよ。」
「たしかに…人間界の高級品を越えるわね。香りも味も」
「うむ…。」
なるほど…ね。うん。分かる。美味いよ。美味いって事は分かる。
「ほっほっほ、それは良かった。人がこの村に来るのは何十年ぶりかの…我々も本当は知っておるんさね…。人族にもお前さん達のような心の優しい物が居ることは。」
「でも、エルフを誘拐する者が…」
「中にはおるの。…私みたいな年寄りはともかく、我々の容姿は人族から見たら美しいらしいからの。しかも長寿で若く美しい期間が長い。魔法にも長けておる。」
「美しいだけでも人に拐われる理由にはなるわよね…」
「我々は森と生きていくのが楽しいんでの。人の街で生きていく者は稀じゃ。ここの村の事はどうか内密に頼む。」
「頭をあげてください。僕達も精霊に力を貸して貰ってますから森と生きているエルフの皆さんが傷付くような事は致しません。」
「そうですよ!困った事があれば私達は力になるわ。何でも言って下さいね」
「ありがとう。それじゃあ人族の事教えて貰ってもいいかの?」
それから村長のバイルさんとお互いの住む世界の事について色々と話し合った。人間の行動時間とか生活についてとか。逆にエルフの生態についても教えて貰った。自給自足しているとか、野菜だけじゃなく肉も食べるとか…。
話し合っていると、いつの間にか日が暮れてしまって今から森に入ると危ないらしく今日は村に泊めて貰える事になった。家から出て村の様子を見てみるとシェリーフに話かけているエルフばかりだった。
「皆のもの、そろそろシェリーフ様を離さんか。今日は客人もおる。宴にするぞい。」
村長の一声でエルフ達が名残惜しくも動き出した。若く見えるエルフは料理の準備を、子供達は手伝いをし始めた。
「俺達も何か手伝った方が良いかな?」
「いや、私達のレベルだと足を引っ張るだけだわ。せめて果物とかデザートを提供させて貰いましょう。」
宴にお呼ばれして料理をご馳走になった。取れたての食材を料理の美味いエルフの方々が調理してくれてルールトの高級店よりも美味しい料理を食べさせて頂けた。俺達が提供したデザートや果物も人気があったのかすぐに無くなってしまった。
「まさか、デザートがこんなに人気出るとはな。全員分はさすがに無かったから食べられない人達が悔しがってたぞ?」
「そうね、今度は沢山買って差し入れに来ましょう。…そうだ、私この後バイルさんに精霊魔法について指導して貰うのよ。だから行ってくるわね!」
「おう、行ってらっしゃい。…俺はどうするかな?」
「タロウ暇なの?遊ぼう」
薄暗くなっているが子供達もまだ外で遊んでいていいようでキュールに誘われて村の子供達と遊ぶことにした。
「人間だ!」
「人間よ!」
「耳が短いわね」
「でも、物凄い魔力を感じるわ!」
「人間って凄いのね?」
「みんな、この人はタロウって名前なの!」
「いや、多分俺の魔力が多いだけだよ。一般的な人だったら魔力はエルフに及ばないさ。だから人族はパーティーを組んで皆で狩りをしたりするんだ。」
「タロウあれやって!私になるの!」
「いいよ。……はい!」
「すごーい!」
「キュールが2人居る!」
「不思議!魔法なの?」
俺とキュールで回転してどちらが本物か当てるゲームをして子供達と遊んでいた。結構打ち解けられたとは思う。
「ねぇ、タロウ?外の世界は危ないの?」
「そうだな。ちゃんと力と知識を付けたら大丈夫だと思う。人がどういう理由でエルフを拐うのか、どんな方法で拐うのか。そういう知識も身に付けておかないと危険かな。」
「何でエルフは拐われるの?」
「そうだね…まず、人族の世界には悪い事した人に着ける首輪があるんだ。反抗すると体が痛くなるって首輪がね。」
「そんな物があるのか…」
「うん、それで人間からすればエルフの価値って高いんだ。まず見た目が良いだろ。魔法も得意で長寿だし。」
「えへへ見た目が良いって」
「うちのお母さんも魔法凄いんだよー」
「見た目が良くて魔法の腕もいい。人族は欲深い生き物だから、そんなエルフが欲しくなるんだよ。首輪を使って逃げられなくしてね。」
「私達はそれで狙われているの?」
「理不尽かもしれないけどエルフが拐われるのはそんな理由だ。人族には森にエルフが居る事は知られているが、この村の場所はバレて無い。だからちゃんと力と知識を付けるまで村の遠くには行っちゃいけないよ?」
「たしか、サーナも1人で森に入って帰って来なかったわよね」
「うん、平気って言ってたのにね…」
どうやら友達が拐われてしまっているらしい。いつの事かは分からないけど今いる子達だけでも拐われ無いでくれると良いな。
「拐われたらどうなっちゃうのかなぁ?」
「たぶん誰かに買われて…いや止めておこう。とりあえず幸せになる事はないと思うよ。だからちゃんと両親の言うことを聞くんだよ?僕も旅の中で拐われたエルフを見かけたらどうにかしてみるから。」
「よろしくねタロウさん!私達子供も本当はもっと居たの…」
「タロウは凄いなー、何でも知ってるの?」
「また、遊ぼうね?」
「みんなー、そろそろ帰るわよー」
どうやら片付けも終わり、今日は解散のようだ。俺は子供達と別れて村の中央に来ていた。
「シェリーフ、居るかー」
『居ますけど…何用ですか?』
「この場所って森の入り口からどのくらいの距離だ?」
『そうですね…直線で考えるとそう遠くはないですね。複雑な地形とかで偶々じゃ来れない様にはなっていますが。』
「今日、キュールが見られたからな…明日から人が増えそうだな。村の中央周りだけでも警戒して貰えないか?」
『カルミナがこの地に居る間だけですよ。本来はアクエスの領分なのですから』
「それもそうか、無理言って悪いな」
『いえ、エルフの事を考えての事なら特に言う事は無いですよ。では』
エルフを拐う奴を根絶やしとかは無理だろうし、責めてエルフ側の意識が変わってくれたらいいな。アクエスを湖から離す事になるからせめて出来る事はしてあげたいな。
「ルミナス。」
『森の近くにあるあの街の様子を調べれはいいのですね?』
「あ、うん。良く分かったね…。あと、地下とかどこかにエルフの子供達が隠されて無いかを調べて欲しい。」
『任せてください。』
うん。俺達に見られたあの冒険者はエルフを見ても動揺もなく獲物としか見てなかった。多分だが、エルフを拐いの常習犯のような気がする。
すぐに買い手がつくわけでも無いだろうし、まだ捕まってるだけのエルフがいる可能性もゼロではないと思いたい。じゃあ村長の家に戻るか。
村長の家にお邪魔させて貰って、カルミナは居なかったけど先に寝させて貰う事にした。
◇◇◇
「ほっほっほ。起きたかえ?」
「あ、おはようございます」
「昨日は子供達に外の事教えてくれたそうで…助かるよ。どうも村の大人達の言葉じゃ説得力に欠けておってな」
「いえ、少しでも注意してくれるようになるなら幸いです。」
「それじゃあ、カルミナちゃんが起きたらアクエス様の所に行こうかね。」
カルミナが起きるのを待つまで外に出ることにした。まだ人もそんなに出歩いて居ない時間なので素振りをし始めた。
『タロウ戻りました。』
「早かったな…ルミナス。」
『シェリーフの風で街まで運ばせました。それであの街ですがタロウが退治した冒険者が吊るされて居ましたね。』
あいつらちゃんと鉄拳制裁を受けたのか。
『それで、どうやらエルフと仲良く話してる人族の子供を見たとか言ったらしくその話題で持ちきりになっていました』
「俺とカルミナに焦点が当てられたか…。バレないといいけど。」
『問題はここからです。どうやらあの冒険者達は本当に地下にエルフを隠していたようです。侵入すると販売ルートや売る人のリストもありましたよ。これです。』
「どれどれ…!?これ、1番近い引き渡しの日が今日じゃないか!」
『荷物検査で引っ掛からない様な小細工もしているやもしれません。逃げられたら厄介ですよ。』
「そうだな。今日の取り引き相手と輸送の場所は……は!?『狂犬』ビストだとぉ!ソロのあいつがわざわざ隣国に来る理由はこれか!トレーダスの闇市にでも流すのか?」
こうしちゃいられない。子供達にエルフを見付けたら何とかするって言ったもんな。準備しないと!
「ルミナス、案内をお願い出来るか?風魔法で街まで運ばせました駆け抜ける。カルミナへの書き置きを置いてくるから待っててくれ。」
俺はカルミナへ街に戻ること、精霊の契約は任せた事を殴り書きしてカルミナの枕元に置いてきた。
「行くぞルミナス。かっ飛ばすぜ!」
『追てきてください。』
ルミナスの後を追いかけて、道なき道を走っていく。途中の冒険者や魔物も無視してただ走り抜けた。
街へと着いたのは飛ばしたが30分くらいはかかってしまった。街では森に入ったとされる子供の話題が出ている為、猫に偽装した。
『こちらですタロウ。』
ルミナスも猫となり二人で街を駆け抜け、裏路地の人の居ない所で俺だけ元の姿に戻りルミナスの案内されるまま地下へと降りていく。少し道なりに進んで曲がり角に来たときに声が聞こえてきた。
「はぁ~あ。今日の客はあのビストか。アイツすぐにキレるから苦手なんだよなぁ。実行部隊の奴等もまた捕まったし…ツイてないな。」
扉の前に見張りが立っている。ルミナス曰く、あの扉の向こうにエルフが居て取り引きがされるみたいだ。まだビストが来ていないのはラッキーだったな。
「敵が1人なら問題ないな。雷魔法 弱電撃 圧縮、圧縮、圧縮。後はこれを氷で包んで…よし!これで完成、弱電撃内包アイスボール。」
割れやすい氷で包んで、破裂すると同時に弱電撃が炸裂するという仕組みだ。圧縮のお陰で掌サイズになるから投げやすくていい!って感じで思い付いた技だ。いくぞ…それ!!
「いっ、ぐあぁぁぁぁ!?」
バタッと倒れる音を聞いて俺は扉のまえまで走ってきた。扉の鍵を奪ってロープで手足と口を防いでやった。鍵を使い、扉を開けるとその先は牢獄のような作りになっていてエルフの子供から大人まで収用されていた。
「これは…」
森で暮らしていたエルフと違い、覇気というか生気も感じられないほどにやつれているエルフもいる。ロクに飯も与えられて無かったのだろう。
「この中でバイルさんを知ってる方は居ますか?」
ガタンとほとんどの牢屋から音が聞こえた。
「人間!どうしてその名を知っている!?まさか…村がバレたのか!?」
「違います。村は安全です。昨日、キュールを冒険者から助けてたらセールさんに案内されて村へ行きました。今は信じなくてもいいですが僕は皆さんを助けに来ました。」
「エルフ語が通じるだと!?しかも、キュールやセールの事も知っているのか…」
「信じていいのではないか?話だけだと不思議な事だらけだが。」
「僕がここまで急いで来たのは今日取り引きで隣の国まで皆さんが連れて行かれるという情報を聞いたからです。」
「話に違和感はあるけど…この人しかもういないと思うけど?」
「今日連れて行かれるなら賭けてもいいと思うわ。」
「帰りたいよぉ。」
「分かったわ。私達は君を信じる。嘘だったら自爆覚悟であなたに噛みつくわよ」
「それでいいです。それで作戦なんですが、流石にこの人数を馬車無しで連れ去るのは無理なんで……」
「…という流れでお願いします。僕の使い魔の猫を紛れさせるのでもしイレギュラーが起きたら使い魔に頼ってください。」
『に…にゃー。』
「作戦は分かりました。よろしくお願いします。」
猫ルミナスは保険で置いておくだけだ。さて、作戦通りに進むように準備でもしますか。
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