第55話 タロウ、エルフ語が解る
よろしくお願いします!
夜明けと共に起床したが、街に入る門はまだ開いていなかった。夜の間に移動してきたのか、幾つかのグループも門が開くのを待っているみたいだ。
ちょっと挨拶がてらいつ開くか聞いてみるか。
「おはようございます。すいません、この街の門っていつ開くか分かりますか?」
「さぁな。だいたいの街はもう少し太陽が昇ったら開くだろうよ。」
見張りと火の番をしていたのか眠そうな男からの返答を聞いて自分の馬車まで戻って来た。リリーとトリーは既に起きているが大人しくしていた。
「結局この時間は素振りしかする事ないな。まぁ習慣だしいいんだけどさ」
それから門の開くまでの間は素振りをしていた。門がゆっくりと開かれると各グループも寝ている人を起こして、街へ入る準備をしていた。うちも起こさないとな。
「カルミナ~起きてるか~」
「すぅ~すぅ~」
「よし、起きてるな。門が開いたから街に入るぞ」
「何で分かったの!?」
簡単な事だ。単にヨダレが出ていないからである。一度、ヨダレを吹いてあげてる時に目を覚ましてから、なぜかたま~に、寝たフリをするようになっていた。
「秘密だ、秘密。ほら、寝癖を直して…行くぞ」
「分かったわ。今日は森まで行かないと行けないし急がないとね。」
簡単な荷物検査を受けて街へと入る。朝のこの街は、隣のポータル国の様に人でごった返している訳でも物を売っている商人で溢れている訳でもなく、静かで木々も多く、綺麗な街だった。
「なんか、この国の空気は澄んでいるわね。深呼吸すると体が目覚める感じがするわ」
「そうだな。まずはギルドと宿を探さないと…街の中央の方へ行ってみよう」
入り口付近には見当たらなかった為にとりあえず中央に向けてリリー、トリーを走らせた。
中央に着くと街の案内板が設置されていた…どうやら区画事に建物が別れているみたいで、ギルドは中央から東側、宿は西側に位置しているらしい。俺とカルミナは先に宿に行くと決めて、西側に移動した。
「こっちは宿にお店に娯楽施設の類いね。美味しそうな果物とか結構売ってるわね」
「種類はやっぱりポータルの方が豊富だけど新鮮さとか瑞々しさとかはこっちの方が良さそうだな。」
値段とサービス内容を比べて良さそうな宿を見付けて、そこに泊まる事にした。1泊一部屋銀貨3枚。料理は食べる時に1人銅貨5枚らしく、とりあえず3日分をお願いして部屋代を支払った。馬小屋も部屋代に含まれているらしく、エサは各自でしてくださいとの事だった。
「リリー、トリー行ってくるから、エサは置いとくけど食べすぎないようにね」
「ヒヒィィン!」
「ヒヒブルルゥ」
エサが少なくなっていたから、とりあえず数日分はある残りの全部を出しておいた。果物はあるが、ちゃんとエサを買っておかないとな
「宿とギルドは近くであって欲しいな…」
「冒険者にお金を使わせる為かしらね?飲食店が並んでいるわね。」
なるほど、宿までの帰り道に冒険者に一杯やっていこうとさせるつもりなのか…そう考えると良い配置なのかもしれない。
そこから20分程かけてギルドまでやってきた。人だかりが出来てるな…なんだろう
「すいません、何かあったんですか?」
「ああ!最近多いんだが、森に居るエルフを拐おうとする奴が捕まってるんだ。ふざけた奴らだぜ!」
誘拐犯が捕まったのか、どれどれ…うわぁ、ギルドの前なのにあんなにボロボロになるまで殴られているのか…。自業自得だけど痛そうだ…。
「どうやって捕まえたんですか?」
「エルフも隙を突かれない限りは暴れるさ、今回はたまたま森に入ってた冒険者グループが発見して捕まえたんだ。この街には森を巡回するクエストとかあるんだぜ。」
なるほど、エルフを捕まえる奴は計画して行動してる訳か…そりゃ、ボロボロになるまで殴られてもしょうがないな。
「エルフとの関係は拗れたりしないんですか?」
「それな…実は既に拗れてたりするんだよな。長生きしてるエルフは人嫌いが多いし、若いエルフは警戒心が少しは薄いが滅多に森から出ない。俺達が森に入るのは許されてるが…エルフの住んでる所は知らないし、自然を傷付けるとエルフに攻撃されたりもする。」
「キール先輩やミールが特別なのね。」
「そうっぽいな。先輩達以外を見ないわけだ。」
「そしてなにより、エルフは賢いから俺達の言葉は理解できてるし話せるらしいんだが、エルフ達の間で使っている言葉…俺達はエルフ語って言っているが…森ではそれを使っているから会話も出来ないよ。」
はぁ…仲悪いじゃんよ…やりづらいな。エルフの協力は無理そうだな。シェリーフは居るけど目的地までは自力で行きたいよなやっぱ。
どうやら誘拐犯への体罰は終わったみたいだ。冒険者だったらしいがカードは回収され、盗賊として突き出されるみたいだ。集まっていた冒険者も次第に解散していき、通常営業へと戻った。
おじさんのおかげで情報は集まったけどついでに受けれるクエストが無いか確認するためにギルドの中に入る事にした。
「何かいいクエストあるかな?」
「お金も少なくなってきたし…ここら辺で少し稼いでおきたいわね。」
俺ら2人だとBランクのクエストが受けられるから報酬も期待できる。
「どれどれ、高額報酬のは…『エルフ語が解る人募集!』『森のエルフと話して貰える人募集!』『エルフが作った果物の採取』『森の巡回』…エルフ関連が多いな。」
「しかも、厄介な物が多そうだし…森で何かの素材を取って売った方が良さそうね。」
俺には言語理解というスキルがある。多分、エルフ語も分かるだろう。でもこのクエストを見る限り、橋渡し扱いだし、面倒な事になるのは見え見えだから報酬が良くても受けない事にした。
「そうだな、カルミナの槍もそろそろ慣れてきた頃だろ?森で狩りをした方がいいかもな。行こうか」
「ええ、私に任せときなさい!」
◇◇◇
街から2時間と少し、走ったり歩いたりしながらようやく森の入り口まで着いた。他にも森へ入っていく冒険者の姿も見える。よし、俺も行くか。
「最初は普通に進んで行こうか。精霊も姿を出してくれないしね」
「そうね、やっぱり森の奥に行かないとダメかしら…」
俺達は森へと入っていく。森の中は上から太陽の光が射し込んで動物の鳴き声と綺麗な花もあって、傷付けるとエルフが怒る理由も分かる気がする。
「いい森ね~」
「エルフ達がいる森はやっぱり違うな…」
森の中は幾つか別れ道があって、冒険者が作ったのか奥に進む道が分かるようになっていた。その道をどんどん奥に進むと魔物との戦闘の音が聞こえてくる。どうやらこの辺りから魔物も現れるみたいだ。奥に奥にどんどん進むと立て札もなくなり、別れ道を感で進んで行くことにした。
「拓けた場所に出たな…少し休憩するか」
「そうね…精霊も見かけないし、休みましょう」
カルミナと果物を食べながら休憩をしていた。うーんアイテムボックスのお陰でトレーダスで果物も種々と買ったけど新鮮さが残ってるな。
「……(じー)」
「……」
「……」
「……(じーー)」
「カルミナさぁ…ベリーさんを初めとしてキール先輩もそうだけど見つめられるの止めてよね。」
「いや、無茶言わないでよ!そこで見てる人、出てきなさい」
葉っぱがガサッと揺れてエルフの小さい子がこちらを見ている。
「エルフの子か…なんだ?果物でも欲しいのかな?」
「うーん、そうかもね。えっと、あんたこれ欲しいの?」
「~~~?(くれるの?)」
「ん?これがエルフ語なのかしら?良く分からないけど…はいこれ」
「~~~!(ありがとう。ムグムグ……おいしー!)」
「それは良かったけど…お母さんとかお父さんは?」
「~~~…(お父さんは居ないの…お母さんも忙しい。)」
「タロウ…言葉が解るの?」
「んー、まぁ一応。ルミナスの加護のお陰かな。」
「この子は何て?」
「お父さんは居なくて、お母さんは忙しいらしい。危ないよな。」
「そうよ、私達だから良かったけど…エルフを拐おうと考えてる人も居るのよ。気を付けないとダメよ?」
「~~~(でも、お姉さんやお兄さんからは悪い感じしないの)」
「そういう加護があるからだと思う。だから不用意に人に近づいちゃダメだよ?」
「~~~?(分かったの、お兄さん達何してるの?)」
「ちょっと、湖にいる水の精霊アクエスに会いに来たんだ。」
「~~~!(アクエス様を知っているの?湖の場所はエルフしか知らないの!)」
「そうなのか、どうりで湖の存在は知ってても場所が分からない訳だな。」
「~~~…(湖には綺麗な花や美味しい果物があるの!あ、これは内緒だった…)」
「湖の近くに美味しい果物?」
「何なのタロウ?」
「ああ、湖の場所はエルフしか知らないらしいんだ。そして、クエストにも出てたエルフが作った果物って奴がそこにあるらしい。あのクエストは高額の報酬だっただろ?」
「まさか…」
「ああ、可能性としては無くは無いと思う。場所を吐かないとしても普通に闇市かなんかで売りに出せばエルフには高額が付くだろうし。」
「~~~(エルフの同胞、たまに居なくなる…)」
「ごめん、それは人間のせいだと思う。居なくなったのは君みたいな小さなエルフだろ?」
「~~~(うん…)」
「気を付けてくれ。人には見つから無いようにね。」
「おいおいおいおい!居やがったぜ、エルフがよぉ!!」
「ガキも居やがるな、どうする?捕まえるか?」
「そうだな、一応捕まえておくか。」
おいおい、何てタイミングで出てきやがる。
「あんた達、何者よ?」
「俺らはただの冒険者さ。ちょっとエルフに用があるからさ、その子を渡してくれない?もう何日も探しててよぉ」
どうする?こいつらはエルフを拐いに来たんだよな。よし。
「カルミナ、その子と一緒に動かないでくれ。偽装で背景と同化させる。その間に俺がアイツらを引き付けて倒してくる。君も少し大人しくしていてくれな。」
「分かったわ。」
「~~~(分かったの…)」
「何ごちゃごちゃ言ってやがんだ?おい、お前達…」
「光魔法 目眩まし!」
「ぐぅおお」
「なんだ…くそ」
「ユニークスキル 自由の象徴」
「くそガキが、やってくれたな…」
「おい、居ねーぞ!!」
「あっちにエルフが逃げて行くぞ!追え!」
よし、俺の姿はちゃんとさっきのエルフの子に見えている様だな。全員来てるしやるか!
◇◇◇
「お帰りタロウ!」
「~~~!(私がいるの!)」
「ああ、解除っと。さっきの奴らはヒモで纏めてピヨリに森の入り口まで運んで貰ったよ。エルフ拐いって貼り紙を付けてね。」
「~~~!!(キュール!!)」
「~~~!(お母さん!)」
「~~~!(人には近づいちゃダメと言ったでしょ!…この子達からは何だか悪い気配はしないですけど。)」
「~~~!(ごめんなさい…でも、悪い人から助けて貰ったの!)」
「タロウ、あれ何て言ってるの…?」
「なんか、お母さんの方が人に近づいちゃダメって言ってて、あの子キュールちゃんって言うらしいけど助けて貰ったって。」
「~~~!(キュール、お母さんと早く帰りましょ?)」
「~~~!(まだお礼言ってないの)」
「~~~!(適当に手振っときなさい)」
「~~~!(えー、タロウとお喋りしたいよ)」
「~~~!(エルフ語が解るわけないでしょ!)」
「~~~?(解るのよ?)」
「あ、すいません。一応解ります。はい。」
「~~~!(えぇーーーー!)」
「~~~!(お母さんおもしろ~い!)」
「~~~!(すいません、取り乱しました。まさかエルフ語が解る人が居るとは思わず)」
「あ、いえ、まぁ加護のお陰の様なモノですし…。僕、タロウって言います。こっちはカルミナです。」
「~~~!(お二人とも何故か可愛らしく感じますね。私はキュールの母でセールと言います。)」
「カルミナは精霊魔法を使えますからね。精霊との相性はエルフ並みに良いですよ。」
「~~~!(と言うことは、湖に用があって来たのですね)」
「はい。アクエス様に力を貸して貰いたく」
「解んないわね…。シェリーフ!」
『話は分かっています。カルミナ額を…ちゅ』
「こ、この感じはアクエス様と同格…!?」
「あ、聞こえる!聞こえるわよタロウ!ありがとねシェリーフ」
『いえいえ、ではまた用があったら呼んでください』
「お姉さんもエルフ語解るの?すごーい!」
「シェリーフ様…たしか、風の精霊様ですよね。」
「そうよ。迷いの森で契約して貰えたの。私は弱いから精霊様に力を貸して貰ってるのよ…それでここに来たって訳よ。」
セールさんは驚いた様な顔を見せて、すぐ何かを考え込んだ。キュールは嬉しいのか、カルミナとお喋りをしている。
「…解りました。あなた方を私達の村へと案内します。ですが、村の事は内緒でお願いします。精霊と契約されてる方だから信用します。」
「解ってます。ですが先ほどここに冒険者が来ましたんでしばらくこの辺りには近づかない方がいいでしょう。」
「分かりました。では参りましょうか。」
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