第39話 タロウ、割高で肉を売る
よろしくお願いします。感想貰えて舞い上がる気持ちです(笑)
「カルミナ!朝だぞ」
「……」
返事がない…ただの寝坊娘のようだ。
「部屋に入るのもまずいしな…母様に頼むか」
俺は母様にお願いして、カルミナを待っていた。30分くらいは。
「待たせて悪いわね!目は覚めてたけど女の子は準備に時間がかかるのよ」
「分かったから、寝癖とヨダレを何とかしてこい」
「え!?嘘!」
「ヨダレは嘘だけど、寝癖はホントだ。どうする?帽子でごますか?」
「帽子貸して」
「はいよ。」
カルミナは意外と面倒くさがりだ。それはなんとなく分かってきている。
「ギルドに行くときはいいけど、ウイング兄様の結婚相手の前ではしゃんとしてくれよ」
「分かってるわよ!」
俺達は冒険者ギルドまでやってきた。中に入るとすでにギルド長が待っていてくれた。
「おぉ、来たかタロウ君。結構いい素材が沢山取れてギルドもウハウハだ」
「それは良かったです。肉はどれくらい取れました?」
「臭みの少ないすぐ調理できる所だけで200㎏近くはあるぞ?」
「それは、また大量ですね。兄様は喜びますが、コック長のスリムも悲鳴をあげますね」
「臭みのある部分はうちで買い取ってもいいか?肉屋に卸したい。」
「構いませんよ」
「じゃあ、今回の報酬だ。猪の素材と肉が大量に入ったからな。大金貨2枚と金貨2枚でどうだ?」
「え!?そんなに貰えるの!?タロウ!もう1回猪狩りましょう」
「待て、カルミナ。こういうのはまた素材が無くなってからじゃないと高く売れないぞ」
「タロウ君…すっかり冒険者だね」
「そういうことね!じゃあ休みでこっちに来たとき狩りましょう!」
こいつまさか、休みの度にうちに来るつもりじゃないよな?
でも、猪1匹で240万だもんな…狩りに来てもいいけど貴族の間で噂がたつぞ…
「ギルド長、さっきの金額でいいですよ。金貨は大銀貨にしてください。金貨は使いづらいので」
「分かった、ほら、大金貨2枚と大銀貨20枚だ」
「ありがと。カルミナほら、これが半分。街でお菓子でも買って帰ろう。」
「そうね。はぁ…お金が貯まっていくわ」
ん…?金が貯まる…?あ!俺、カルミナから初期装備のお金や、時々使ってた消耗品のお金返してもらって無いぞ!いっつも余裕無いとか言ってたから待ってたのに!あっぶない、お金を渡す前に気づいてよかった。
「カルミナ…ちゃんと貯金してるの?」
「当たり前じゃない!貯金は大切よ。」
「へぇ~じゃあ返済してもらおうかな?今までの分を」
「タ、タロウ?冗談でしょ?いったい、いくらタロウにツケてると思ってるの?この報酬飛ぶわよ?」
「毎度ありがとうございます!またのご利用を待ちしております!」
「タロウ!?変な事言って私の報酬しまわないで!ちょっと!え!?ホントに?」
「さ、カルミナ。お菓子でも買って帰ろうぜ。肉もスリムに渡しておきたいし。」
「わたしのお金~……うぅ…。」
◇◇◇
家に戻ると馬車が数台停まっていた。先にスノーク男爵家の方達が来たようだ。父様と兄様がカダル男爵とその奥様と娘さんを出迎えてる。あれが兄様のお嫁さんか。綺麗な人だな。
「カルミナ、俺達も挨拶に行こう」
「そうね。」
特に何も考えず、ただ当たり前の事をしたつもりだったが、当たり前じゃないやつが隣に居ることをすっかり忘れていた。
「スノーク家の方々、グラウェル家当主、リヨンが息子タロウでございます。」
「カルミナ=ルールトです。学園が休みの間、グラウェル家でお世話になってます。」
「ひ、姫様!?スノーク家当主、カダル=スノークでございます。隣が妻のクリム。その隣が娘のセルミナでございます。」
「妻のクリム=スノークでございます。お目にかかれて光栄でございます」
「む、娘のセルミナ=スノークと申します」
やっちまった…これが普通の反応だったな…。申し訳ない。
「頭をお上げください。主役はウイング様とセルミナ様でございます。私はタロウの友人としてここに居りますので気を使わないでくださいね。ご婚約誠におめでとうございます。」
「姫様からのお言葉ありがたき幸せにございます。」
「カダル。カルミナ様は気を使わないでと仰っておる。主役はうちのウイングとセルミナさんとも仰ってくださった。分かるな?」
父様からの一言で、スノーク家の面々は立ち上がった。あーあ、裾が汚れてるな。俺はそっと、清潔魔法をかけておいた。
「父様!討伐した猪の肉を貰って来ましたのでスリムに渡に行きますね。あと、街でお菓子を買ってきたので母様に渡しておきます。」
「分かった。ありがとうタロウ」
「では、お先に屋敷に戻らせていただきます。」
「では、私も。」
「リヨンさん、良くできた息子さんですね。5歳の時から賢い子だとは思っていましたが…」
「手のかからない子だがね…もう少しはワガママを言ってくれてもいいんだが。それでは私達も行きましょうか。ウイング、案内して差し上げろ、私はカリナの所に行ってからすぐに行く。」
「分かりました。では、こちらにどうぞ。」
◇◇◇
「スリム!猪の肉だぞ!200㎏はある。」
「坊っちゃん、そんな量どうしろって言うんですか!」
「今日の晩御飯と兄様の結婚式の肉料理として出してくれ。」
「それはいいですけど…それでも余りますって」
そうだよな…どうするかな。アイテムボックスに入れて置けば日保ちの問題は無視できるとして、売るか?…アトラスの食事分に少し取っておくとしても余るしな。
「タロウ、余ったお肉は売りましょ?お金にするのよ!」
「王女が金に頓着するなよな」
「冒険者はお金がかかるのよ!」
「分かった分かった。余ったお肉は売るからそんな必死になるなよ」
その晩は狩ってきた猪のお肉がメインの食事だった。味も歯応えも高水準の品質でみんな喜んでくれていた。これなら数日後にある結婚式に来てくれる人にも満足していただけるだろう。
ついにやってきた兄様とセルミナさんの結婚式の日。母様の兄でもあるホーネス=キャンドル伯爵一家、キスカさんのリーガル辺境伯一家など、我が家と関わりのある貴族の方々が集まってくださった。カルミナの事で驚かせてしまったのは本当に申し訳ない。
さすがに、我が家と王家のわりかし強い繋がりに気づかぬ貴族は居らず、男爵家の様な下級貴族以外の上級貴族でも父様やカルミナへ媚びている貴族は多かった。
教会から神父さんを派遣してもらい、我が家の敷地内で式を挙げて、そのまま披露宴へと移った。
「お集まりの皆様、今日はお忙しい所を私、ウイング=グラウェルとセルミナ=グラウェルの式に参加くださり誠にありがとうございます。立派な父の後を継ぎ、この領地を守り、王国の為になるよう一層励んでいくつもりでごさまいます。まだまだ未熟者ではございますがどうか温かく見守ってください。さて、今日は我が弟、タロウと王女で在らせられますカルミナ様が私達の披露宴の為に巨大猪の肉を取ってきてくれました。皆様、ぜひご賞味ください。」
兄様の挨拶も終わり、披露宴という名の貴族達の情報交換会が始まった。一応、代表選手になっている俺の元に将来性を見込んでか自分の娘を紹介する貴族もいたが、冒険者になる事を伝えたらあっさりと引き下がった。けしてカルミナが睨んでたからではないと思う。
「タロウさん、カルミナ様!」
「あ、キスカさん。やっと挨拶回りが終わったんですねお疲れ様」
「私達もいい感じに終わったとこよ」
「タイミング良かったですね。あと、この猪のお肉が美味しいってお父様も他の方もみんな言ってましたよ?」
「なら良かった。じゃんじゃん食べてってよね」
「食べ過ぎちゃダメよ?」
「「はぁ?」」
「少しでも余らそうとするなよ!」
「しょ、しょうがないじゃないのよ!」
「タロウさん?カルミナ様?」
「ごめんねキスカさん、カルミナがお金にがめつくて…」
「キスカさん、冒険者にはお金がかかるのよ?それは知っているわね?」
「は、はい…あ、そうだ!お父様がこのお肉を買い取りたいって…余ってるようでしたらどうでしょうか?」
お…意外とイケる?…いけるぞ!貴族なら高値で買い取ってくれる。なんせ王女が狩ってきたというプレミア付だ。
「カルミナ…」
「えぇ、やるわよ…」
「2人共悪い顔してますよ?」
まだまだ、肉は余っている。冷凍させるサービスもつけて…1㎏で大銀貨2…いや5はいけるな。
「カルミナ、1㎏あたり大銀貨5枚のぼったくり値段だ。冷凍するサービスもつける。しかも王女の手渡しだ。これなら少し安いまであるだろ?」
「いい値段ね…まだ100㎏以上は残ってるはずだし…ね。」
「俺は1㎏単位で肉を仕分けて冷凍させるから、キスカさんと2人で宣伝と売ることを父様と兄様に伝えといてくれ。」
「分かったわ。キスカさんはまずお父様にお肉の件を伝えて、そしたら私の所に来てちょうだい。」
「私も手伝うんですか!?わ、分かりました…」
俺達は即座な行動を開始した。俺はひたすら肉の冷凍とそれをカルミナ達に持っていく係。カルミナが手渡しと挨拶。キスカさんはお金を受けとる係だ。
冷凍のサービスが良かったのか、10㎏分以上買っていく貴族も居て、売る予定だった手持ちの肉のほとんどが完売した。
「臨時収入だわ、うふふ」
「カルミナ…。そうだ、キスカさん合計でいくらになった?」
「えぇっと、金貨が40枚と大銀貨が200枚だから、合計で金貨60枚…大金貨にすると6枚分も…です…」
あわわわわ…大金貨が1枚だいたい100万円だから…600万…
「タ、タロウ…少し稼ぎすぎちゃったわね…」
「そ、そうだな。でもサービスつけてるし…貴族からだからセーフだセーフ…」
「キスカさん手伝いの報酬なんだけど…」
「わ、私は要らないですよ!ただお金を受け取っていただけなので!本当に大丈夫です。」
「そ、そうか。じゃあ、カルミナと俺で大金貨2枚ずつで後は兄様に祝儀として渡そう。それでいい?カルミナ」
「そうね。分散しましょう。何をとは言わないけど分散した方がいい気がするのよ」
そうだな。貴族から割高で売ってしまった申し訳なさが今になって押し寄せて来たから兄様にも分けてあげよう。
大金を手にしてしまったが披露宴も無事に終わり、夕方になる頃にはスノーク家以外の貴族達は帰って行った。明日になるとスノーク家もセルミナさんを残して帰るみたいだ。俺は兄様に売上金を祝儀として渡し、披露宴の片付けの手伝いに逃げてきた。
「タロウ、お兄さんはどうだった?」
「額が額なだけに驚いてたよ…まぁ、押し付けて逃げてきたけど。」
「そう。渡せたならいいわ。それはそうと…ここに居るのもあと数日ね学園まで行くのにも数日かかるからあと3日という所かしら?」
…なんだと?嘘だろ!?全然休んでないぞ!クソ!こんな所で手伝いなんてしてる場合じゃない!
思い出せ…フリーターだったあの頃の自分を!金になること以外の労働を嫌った自分を!あと3日、全力で休んでやる!!
…朝のトレーニングはするけど…
「タロウ、狩りに行きましょう?」
「……」
「タロウ、街に行きましょう?」
「…」
「タロウ、家の外に出ない?明日には戻るのよ?」
「」
俺はこの3日間屋敷から出なかった。食事の時以外は部屋に居て、ピヨリ達と遊んでいた。そして学園に戻る日が来てしまった。
「タロウちゃん、ニーナちゃん行かないで~」
「タロウ、ニーナ、しっかりな!カルミナ様もタロウの事よろしくお願いします。」
母様は相変わらず寂しいようだ。でもセルミナさんも来てくれたし大丈夫だと思いたい。
「行ってきますね、お父様、お母様」
「行ってきます。父様、母様」
「タロウの面倒は私がみるから安心してください!……イタッ!」
俺は無言でカルミナにデコピンをしてから、馬車に乗り込んだ。久しぶりの我が家はやっぱり最高だった。
「タロウの家は最高ね。とても楽しい休みだったわ。」
「だろ?我が家は最高なんだぞ、父様も母様も兄様も優しいし、街の人間も楽しく暮らしているし。」
「ほんとね、私も将来はここで暮らすのもいいかも」
「!!…カルミナ様?タロウはお姉ちゃんのモノですよ?」
「あら?私はただ暮らしたいと言っただけですわよ?」
「そ、そうね。なら勝手に街にでも暮らすといいわ、私はタロウちゃんと屋敷で暮らすから。」
「ぐぬぬ…ニーナ先輩は嫁ぎに他家へと行くことになるのではないですか?」
「くっ…そうかもしれないけど、街で暮らすとカルミナ様には関係の無いことですね」
(俺は知っている。この後俺に飛び火して責められる事を…。だから俺は…)
「タロウは私と暮らすのよね!?」
「タロウちゃんはお姉ちゃんのですよね!?」
「…………zzz。」
「カルミナ様、言ってることが変わってるじゃないですか!」
「あ、いえ…その。今のは間違えたといいますか…間違えて…ない…といいましゅか…ぷしゅ~//」
将来の事は将来の自分に任せようと考えてしまうのはまだフリーター時代の産物かもしれないな。
転移物を書きました。よろしくお願いします!
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