第37話 タロウ、卒業生を見送る
よろしくお願いします!
もうすっかり寒い季節になった。相変わらずダンジョンに潜ったり、ベリーさんと訓練したりしている。今日は学園で1年生最後の試験の日だ。この試験で2年生の時のクラス別けがされるらしい。頑張ったものはAクラスに上がれるし、怠けた者は落ちるだろう。俺はもちろんBクラス狙いだ。
「シャリーさん行ってきますね」
「あいよ!今日は試験だろ?頑張んな」
寮を出て歩いていると後ろからクラスメイトに話しかけてられた。武道祭より前は貴族なのに冒険者を目指す変な奴としてあまり話しかけられなかったけど、代表になった後からは少しずつ話しかけてもらえるようになった。挨拶程度だけど。まぁ、まだまだ先は長いしゆっくりでいいと思ってる。
「タロウ君、おはよう。タロウ君は今日の試験でAクラスになっちゃうんだね。僕は頑張ってもまたBクラスかなぁ。…モグモグ」
「おはよう、レート。なら、次も同じだね。僕もBクラス狙いだから。」
このゆったりした話し方でゆったりした体型の男はレート=ミシラン。食料関係を扱ってる大商会の子だ。
「いいのかなぁ?代表選手がBクラスって…モグモグ」
「いいんだよ。Aクラスは授業が大変だし行きたくない…」
「変わってるなタロウ君は」
「ははは。変わってるのはレートだろ?朝の登校中からどんだけ食ってんだよ!」
「朝ごはん食べそびれちゃってね…モグモグ」
「そうか…話さなくていいから食べなよ。ほら水」
「ありがとうタロウ君。」
そのあとも食べるレートと一緒に教室まで行った。
「おはようタロウ。」
「おはようございますタロウさん」
「タロウおはよう。」
「3人ともおはよう。今日の試験はどう?」
「うーん、まだ魔法の威力が弱いから…それ以外なら問題ないわね」
「私はCに落ちないように頑張らないとです」
「私は普通。」
「じゃあ、みんなでまたBクラスになれるように頑張りますか。」
「話は変わるけど、タロウ、もうすぐ卒業する生徒会の先輩達へのプレゼント何か考えて来た?」
あー…まだ考えが纏まってない。もうすぐ、お世話になったローズ先輩、ゴリー先輩、ダダン先輩達5年生の卒業式が行われる。ローズ先輩は花嫁修業をするらしいし、ゴリー先輩は騎士団、ダダン先輩は魔法師団に入るそうだ。
「ダンジョンの素材をあげるか、街で掘り出し物を見つけてくるか…」
「私も同じ事を考えて来たわ…ゴリー先輩とダダン先輩には武器で、ローズ先輩には装飾品かしらってね」
「それじゃあ今日は街に行くか」
「そうね…あまり高いのは無理だけど良いものを見つけたいわ!」
寒くなって来て冒険者としてはお使いクエストを少し受けてるだけになっていた。討伐クエストは数が少ない上に強いモンスターばかりだし、採取クエストも危険な地域のものばかりになっているからだ。ダンジョンで手にいれた素材を売って、何とかお金を稼いでいる。
竜ダンジョンも一層ずつマッピングしているため、まだ8階層までしか行けてない。モンスターも段々強くなって来ているのも進行が遅れてる原因だ。
◇◇◇
「よし、全員来てるな。この後試験を行う。動きやすい服に着替えて運動場に集合だ。みんな、実力を出しきるように!以上だ。」
クラスメイト達も着替えに行ったり、そのまま集合場所へ向かったりと動き出した。俺もそのまま向かった1人だ。
試験は、魔法の正確さ、早さ、威力を測るものと、後は武術と学問の3つで入学式の後にやったものと同じだった。周りの様子を見ながら良すぎもせず、悪すぎもせず、ちょっと良いくらいに抑えた。これでBクラスにはなれるだろう。
「レート、お疲れ。どうだった?」
「あ、タロウ君。魔法の試験と学問はよかったけど、武術がダメだったよ…」
「そうか、来年もよろしくな」
「Bクラスって決めつけた!?」
俺の数少ない話せる人なんだから居ないと困るしな。
「タロウ!…とレート君、試験はどうだったかしら?」
「ぼちぼちだな」
「僕もです。」
「そう、ならまた同じクラスねきっと。それと今日はもう終わりみたいだし早く街へ行くわよ!」
「分かった。寮に戻って集合な」
「相変わらず仲良しだね。デートかい?」
「ち、ち、違うわよ!」
「そうだぞ、世話になった先輩達のプレゼントを買いに行くんだ。」
「2人で?」
「2人で」
「街に?」
「街に」
「デートじゃない?」
「…デートになるのか?カルミナ、これってデートになるのか?」
「し、知らない!私は先に戻るわ!急ぎなさいよ」
「じゃ、頑張ってねタロウ君。うちの商会の近くに美味しいデザートがあるって評判の店があるんだ、深い意味はないけど教えておくね。」
「要らぬ世話をありがとう、レート」
俺も着替えに寮に戻らないとな。
◇◇◇
「お待たせ、タロウ」
「…カルミナはお洒落だな」
「ふふん!そうでしょうそうでしょう…へへへ、さ、早速行きましょう」
街へやって来た。寒いのに露天は沢山ある。温かい食べ物を売っている所や毛皮などを売ってる所もある。
「色々あるな。武器とかなら分かるが装飾品は見た目重視だからなぁ…」
「装飾品は私に任せていいわ!同じ女性ですもの、大丈夫だわ」
「じゃあ、ローズ先輩へのプレゼントから選んでいこうか」
露天で売られている物をカルミナが見ていく。うーん、うーん、と唸っているから中々良いのが見付からないのだろう。さっきのやつとか綺麗に見えたんだけどカルミナ的にはナシなのかもな。
「迷うわね。ローズ先輩のイメージに合うのが中々無いわ」
「金属や宝石をお持ちいただければお好きな形に変えますよ~、どうですか~1回大銀貨5枚だよぉ~」
露天の端っこの方から若い男が宣伝している。金属の形を変えれるのか?魔法だろうか?宝石もいけるのか…なら。
「カルミナ、ちょっとあの男の所にいってみよう」
「…なんか怪しくない?渡した宝石とか盗んでるんじゃ…?大銀貨5枚って結構な値段だし、誰も寄り付いてないわよ」
そういわれると怪しく見えるけど…いや、悪い奴だったら捕まえればいいし。
「あの人だったらローズ先輩へのプレゼントに良いものを作ってくれそうだし行ってみない?」
「そこまで言うならいいけど」
俺達は少し警戒しながらも男の所にやってきた。
「金属や宝石をお持ちいただければ~、おや?いらっしゃい。」
「あの、宝石の形を変えられるんですか?」
「大きさは変えられないけど形は変えられるよ!大きさも変えたかったら同じ金属を複数用意して貰うけど。」
「では、お願いします。大銀貨5枚ですよね、どうぞ。」
「はい、たしかに。それでどれをどんな形に?」
俺はポケットから取り出すように手を入れて、アイテムボックスから宝石を取り出した。
「この赤い宝石2つで。形は薔薇のブローチ、出来ますか?」
「綺麗な宝石だね。うん、任せて」
男がブローチを両手で包み込み魔力を消費込めている。
…鑑定。
男のスキルに形状変化という物があった。このスキルのお陰でこの商売が出来ているのだろう。
時間にして、1分もかからずに想像してた通りの綺麗な薔薇の形をしたブローチが完成した。
「はい、どうぞ。どうかな?」
「凄い…ですね。どうして人が来ないか不思議なくらいです。」
「たしかに綺麗ね…これならローズ先輩にぴったりだわ!」
「どうして人が来ないんでしょうね…場所が悪いのかな?」
…いや、怪しいからだろうなやっぱり。ただ布を引いてその上に座っている男が金属やら宝石やら言ってたら怪しんで誰も来ないだろう。
「そうだ!この露天にあなたが作った作品を並べて置けば少しは良くなるんじゃないですか?今のままだと正直怪しすぎますし…」
「なるほど…でも僕、宝石が無いんだよね…お金は変えたくないし…」
「でしたら1つ、頼まれてくれませんか?宝石を幾つか譲りますんで。その代わりもう1つ作って欲しいんですけど」
「本当かい!?それならこちらからお願いしたいよ、それで次はどんな形に変えるんだい?」
「この黄色の宝石を、形は槍と王冠のあしらわれた腕輪かネックレスでこの子に似合うやつを」
「タ、タロウ!?」
「折角の機会だし、カルミナにも日頃の感謝として贈らせてもらうね。何か他の形の方が良かった?」
「そういうわけじゃないわ……そ、そうだ!私も持ってる宝石出すからタロウにも作ってください!形は私のが槍でタロウのが刀でお願いします。」
「そういうことなら…任せてください!良いものを作りますよ!」
さっきと同じように1分もかからずに完成した。
「あれ?これって…」
「くっついてるわよ?」
「はい、でも半分で離れるようになっているんですよ!リング型のペアルックってやつですね。あとは、ここに鎖を通せば…ほら!ネックレスの完成です」
おぉ…凄い。外れたりくっついたりする。面白いな、この露天はもっと繁盛すればいいな。
「はい、カルミナ。槍のほ…う?」
「ペアルック…へへ、ふへへ…ペアルック…」
「カルミナさーん?戻っておいで~」
「はっ!あなたいい仕事をするわね!もっと繁盛するようにこのネックレスを私達はずっと着けておくことにするわね!」
いや、ずっとはしなくていいんじゃないだろうか?
カルミナがダメになってしまったんで、鑑定を使ってゴリー先輩の籠手とダダン先輩のローブは俺が良いものを見つけた。多分、気に入ってもらえるはずだ。
「カルミナ、レートが教えてくれたデザートの美味い店があるから少し休もう」
「へへへ~ペアルックですって…」
ダメだこりゃ。折角レートに教えて貰ったからその店で幾つかデザートをお持ち帰りにした。レートに1つと俺とカルミナの分は2つずつだ。
◇◇◇
数日たって、今日は先輩達の卒業式だ。
壇上では生徒会長のローズ先輩が卒業生代表の挨拶をしている。
そこで、次の生徒会長は同じ生徒会で4年生のミレナさんという人にローズ先輩からの指名があった。ちなみに次の風紀委員長はニーナ姉様だ。
卒業式も無事に終わり、生徒会室に集まってるらしいのでお邪魔させて貰うことにした。
「すいません、1年Bクラスのタロウです」
「同じくカルミナです。」
「あらあら、どうぞお入り下さいな。オーホッホッホ」
「失礼します。先輩方、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとうございますタロウ君にカルミナさん。」
「感謝する」
「ありがとね。武道祭も楽しかったよ」
「卒業の記念品に僕とカルミナで先輩達に贈り物を用意してありますので受け取ってください」
俺はアイテムボックスから箱に詰めたプレゼントをそれぞれ先輩達に渡した。
「あら!なんて素敵なブローチでしょう。綺麗ね…ありがとうタロウ君、カルミナさん」
「頑丈な籠手だな、これなら俺の技にも耐えられそうだ。良いものをありがとう、感謝する」
「僕のローブより断然良いものだ…高かったんじゃないかい?ありがとうね」
「いえ、掘り出し物を見つけてきただけですから。あと、これを…使える様になるかどうかは分かりませんがアイテムボックスの習得方法です。では、先輩方、ご卒業おめでとうございます」
ほぼ渡し逃げをして、俺とカルミナは生徒会室をでた。
明日は終業式で1ヶ月近く休みになる。俺と姉様は実家に帰る予定だ。カルミナは家がここだから多分、残って訓練でもしてるんだろうな。
「じゃあタロウ、私は少しお父様に話があるからここで失礼するわね!」
「ん?分かったまた明日な」
◇◇◇
「全員揃っているな、1年生での最後のホームルームだ。休みの間、自分の家に帰る者、残る者、色々いると思うが全員無事でまた会える事に期待する。以上だ。帰ってよし!」
相変わらずの短さに感謝しながら、俺は姉様が迎えに来るのを待つことにした。」
「タロウさんも領地へ帰るのですよね?途中までご一緒しませんか?」
そういえばキスカさんの家ははうちよりも少し先のところだったな。
「そうですね、途中うちの領地にでも泊まっていきますか?」
「いいんですか!?お願いします!」
「タロウちゃん、お待たせ。さ、帰りましょうか」
「あ、姉様。キスカさんも一緒でいいですか?うちに泊まって貰おうと思いまして。」
「辺境伯家は私達の家よりも遠いものね。分かったわ行きましょう。もうお父様が迎いに寄越した馬車が来てると思うから」
「そうよ。急ぎなさいタロウ!時間は有限なのよ?」
「そうですね、行きましょ…なんでカルミナが居るんだ?」
「な、何よ!居ちゃいけないっていうの!?」
「いや、お前の家、あのでっかいとこだろうが!」
「違うわ、休みの間、私の家はグラウェル寮よ!昨日お父様に許可は貰ってきたわ。グラウェル伯の家ならいいって!」
マジかよ…そんなあっさりしてていいのか?王女だろう?一応。いくら休みの間に暇になるからって普通ついてこないぞ、そんな行動力は求めてない。
「あら?いいじゃないタロウちゃん。王女様が我が領地に来てくださるのよ?話題になるわ」
「そう…ですね。じゃあ、カルミナには家から金を持ってきて貰って使わせましょう」
「それは無理よ!そういうのに使うお金は無いもの。私のお小遣いしかないわね。」
くっ、使えないじゃないか…
「まぁ、もう話を通してあるならいいか。では、帰りましょう。」
俺と姉様はカルミナとキスカさんを連れて領地に向けて出発した。
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