第36話 タロウ、力持ちを召喚する
よろしくお願いします!
ダンジョン2日目、少し眠いが朝練は欠かさずにする。素振りだ。とりあえず他のメンバーが起きてくるまで振ろうと考えて300を越えた辺りで起きてきた。
「おはよう…タロウ。…トイレってどこかしら?」
あー、トイレな。そうだよな。朝起きたらとりあえずトイレだよな。俺は無言で草むらを指差した。
「じょ、冗談よね?」
男なら今ので済ませる所だが女の子にはさすがに冗談だ。
「少し待ってくれ、土魔法で外から見えない様に壁で囲む…」
「そ、そう…野宿って大変ね…」
「紙はあるか?し終わったら壁ごと地面に戻すから心配しないでくれ…」
「助かるわ…」
ついでにキスカさんとハルベンデちゃんの分も作っておこう。
他の2人も起きてきてトイレを済まし、朝食を食べていた。
「アイテムボックスって便利ですね~、パンも出来立てみたいです」
「おいしい。」
「そうね、ダンジョンでも美味しい物は食べたいわよね!でも髪や肌がベタつくわね…」
「昨日1日歩き回りましたからね…タロウさんあまり近づかない様にお願いします。汗の臭いとか…」
「私は汗かいてない」
女の子に対して配慮が全然なってなかった。俺は清潔魔法を使えるし、カルミナも冒険者になったから覚えてるもんだと勝手に思ってたわ…
「……フレッシュ」
「あ、あれ?なんか汗を洗い流した後みたいなスッキリした気分になったわね?て言うか髪のベタベタも無くなって…タロウ…あんたね…」
「凄いです!こんな魔法もあるんですね」
「タロウさん。私は何も変わってない」
「え?汗かいてないんでしょ?」
「かいてない。かいてないけど私にも。」
見栄をはってただけだったのか。まだまだハルベンデちゃん検定は合格できないな。
「じゃ、スッキリしたところで、片付けて探索に行きますか」
「そうね、今日は中層くらいで素材を採取したら帰るわよ!ギルドでの換金が楽しみね」
「頑張ります!」
「スッキリするやつ私にも。」
清潔魔法をハルにもかけて俺達は素材を集めに出発した。
◇◇◇
「これもいいですね。あ、この葉っぱも薬になりますし…こっちはハーブですね。このダンジョンって凄いんですね。植物園みたいです。」
虫ダンジョンなんて呼ばれているが本来は植物の庭園って名前だし草や花に興味のある人なら間違いなくテンションの上がるダンジョンだろう。
この辺のモンスターは質より量といったぐあいで強くはないが数が多くなっていた。
キスカさんが植物の採取をしている傍らでカルミナとハルは戦っていた。
「もう、魔法で吹き飛ばしていいかしら!?」
「ダメだぞ。キスカさんが採取するんだから。」
「分かってるわよ!言ってみただけ」
「さすがに疲れる。」
大変そうだが頑張って欲しい。俺もキスカさんもデカイ虫は無理だし。
「そいつら倒したら少し休憩にしよう。」
「分かったわ」
「分かった。」
一段落ついて俺達は休憩していた。休憩中の見張りくらいは俺がする。3人にはふわふわなパンと蜂蜜と牛乳を渡して休んで貰っている。
「キスカさんの知識は凄いわね。わたしには見分けがつかないわ」
「そ、そんな事無いですよ?ダンジョンに連れてきて貰ってなかったら披露する機会も無かった知識です。今回は連れてきていただき、ありがとうございます。」
「骨ダンジョンも一緒に行く?」
「す、すいません。お化けは少し…」
「ちょっと周囲を見てくる。ルミナスを置いておくから、もう少し休憩してて」
3人にそう言って、俺はその場所を離れていく。向かう所は決まっている。遠くからこっちを見ている奴等の所だ。
ダンジョンで死体は時間が経つと消えてしまう。つまり人を殺しても証拠は残らない。だからああいった連中が出てしまう。
金を奪う者、殺しを楽しんでいる者。証拠が残らないのを良いことに人を襲う奴等は落ちぶれた冒険者に多いと聞く。
「殺すのは楽だがやりたいとは思わないな…。思ったより強かったらやるとしても、捕縛を優先しよう。」
来たな。
「おいおい、ガキが1人で居やがるぜ」
「良くここまで来れましたねぇー」
「連れの奴とはぐれちゃったのかなー?」
白々しい奴等だな。こっちの様子を見てたのを見てたぞ。
「いえ、このレベルくらいなら1人で問題ないです。」
「言うじゃねーか!」
「じゃあ、貧乏で弱いおじさん達を助けて貰おうかなぁ」
「坊主、金を置いていけばそれでいいぞぉ」
人が俺の後ろからも出て来て、取り囲まれた。
「金?そんなの自分で稼げよ。冒険者なら。あ、弱いんでしたね。努力してください」
…なかなか攻撃してこないから煽っちゃった。いきなり捕縛なんてしたらこっちが悪くなるし必要な事だな。うん。
「なめんじゃねーぞ!クソガキがぁ!テメーら痛めつけろ!」
「死ねやぁ!」
「ウラァ!」
「氷縛り」
「くっ、いてぇ…」
「外せやこらぁ!」
「こいつただのガキじゃねーぞ」
上手く回避したやつらが果敢に攻めてくる
「氷柱」
男達の真後ろからぶつけて吹き飛ばす。残ってるのは大柄のリーダー風の男だけだった。
「クソが、使えねぇ奴らだ!」
「言っただろ?このレベル1人で問題ない。というか、動かなくていいレベルだ。冒険者なのに弱いんだなお前らは」
「死ねやクソガキ!」
剣を振りかぶっているが、剣筋は読めるし遅いな。努力を止めたらこうなってしまうんだろうか…
「俺は努力を続けるよ。あんたらみたいになりたくはない。」
俺は男の体に氷柱をぶつけた。全員動けなくしてロープで縛った。
「さすがに持ち運べないぞ…」
「ルミナス、聞こえる?」
『終わりましたかタロウ』
「あ、うん。捕縛したけどさすがに持ち運べ無くてね、どうしようかと。」
『なるほど。なら力持ちな魔物を召喚してみるのはどうでしょうか』
「そうか!そうだな、ありがとうルミナス」
『いえ、お役に立てて嬉しいです。もっと褒めて下さい』
「後でな。引き続き3人をよろしく。」
『わかりました。』
召喚か、注ぐ魔力の量を間違えない様にしないとな。力持ちだからやっぱり土属性の魔力かな?よし。やるか!
「頼むぞ頼むぞ!力持ち…来い! 召喚!」
地面が土色に光っている。
「おぉ…今回は良さそうだぞ!来い!来い!」
地面が土色に光っている。
「おい、そろそろ大丈夫だぞ。召喚されてくれ!」
光が少しずつ収まっていく。ようやくか…少し長かったけど大丈夫だろう。
「ん…なんだこのちっちゃいのは…」
「どこだ~ここは?あたしはご飯を食べてたのに~うむむ~」
パスを通さずに喋ったって事は知能の高い魔物のはずなんだけと…魔物なのか?人形の魔物?
「おまえか~あたしをこんなところに連れてきたのは~」
「あ、召喚させて貰いました。力持ちを召喚しようとしたんだけど…」
「何か重いものを持つのか~あたしは力持ちだぞ~」
腕に力こぶを作ろうとしているんだろうけど全然変化無いし、力があるようには見えないな…
「そうなの…?その辺の纏まってる人達持てるかな?」
「あたしに任せろ~…はい!」
おぉ!ホントに持ち上がったな。見た目の身長は1メートルくらいしか無いのにどこにそんな力があるんだろうか?魔物だからなのかな…
「ありがとう。そのまま運んで貰えるかな?たしかご飯の途中だったんだよね、後で食べ物分けてあげるね」
「ご飯あるのか~、速くあるくぞ~」
男達7人を持ち上げて運んでいる。500㎏くらいはあると思うんだけど、この子は凄いな。
そのまま皆が休憩している所に戻ってきた。
「タロウ何よそれ!」
「あぁ、ダンジョンの中で盗賊紛いのことしてる奴らだよ。捕まえたから運ぼうと思って力持ちを召喚したんだ。」
「か、可愛い子ですね…」
「ちっちゃいのに凄い。」
「とりあえずそいつらはその辺に置いといてくれ。カルミナお菓子か何かあるか?この子にあげたいんだけど。」
「あるわよ、ケーキとクッキーでいいかしら?」
「ありがとう。ほら、こっちがケーキでこっちがクッキーだよ」
「わ~美味しそうだな~……美味しいぞ~」
『タロウ。今パスが繋がりましたよ?』
え!?お菓子あげただけだぞ?
「えっと、今魔力のパスが繋がったらしいんだけど何か変化はあるか?」
『分かんないぞ~』
あぁ…頭の中に響いてくるこの感じ、パスが通ってますね…
「また召喚することもあると思うけどいいかな?」
『また食べ物が欲しい~』
食べ物に釣られちゃったんだな…
「君の名前は何て言うのかな?」
『あたしは~アトラスだよ~』
「皆、悪いけどこいつらをギルドに突きだしたいから戻ろうと思うんだけどいいかな?」
「いいわよ!今回は初めてのダンジョンだし、十分楽しめたわ!」
「私も薬草の採取もできましたし」
「楽しめた。」
「ごめんね。また今度深くまでいこう。お願いね、アトラス」
『任せて~よいしょっと~』
アトラスに盗賊を背負って貰って俺達は真っ直ぐ地上を目指した。今回は素材も手に入ったし中層くらいなら楽々だという事も分かったし満足だな。
◇◇◇
真っ直ぐ帰って来たつもりが2時間近くかかってしまった。モンスターに囲まれたのが時間を食ってしまった。ギルドまで行く間に小さい子に背負わせてる姿が外聞的に悪かったので1人だけは背負った。1番軽そうな奴だけど…
「おーい、ギルド長、ダンジョンで襲われたから連れてきたぞ。引き取ってくれ」
「いきなり何だってんだ…おい何だよこのちっこいのは、えらい力持ちじゃねーの」
「こいつはアトラスだ。召喚したら出てきた」
「そうかよ、んで盗賊の類いか?…こいつらか」
「知っているのか?」
「まぁな、こいつらも一応冒険者をやっていたからな。最近見ないと思ってたらダンジョンでか…分かった。報酬が出ると思うから受付で受け取ってくれ」
「わかった。結構薬草も手に入ったから良い値段で買い取ってくれ」
「それは品質しだいだ。」
「うちのキスカさんが採取したから品質は高いぞ」
「ほう…そういうスキルか?それはこっちとしてもありがたいな。早速買い取り窓口でやってくれ」
「わかった。」
「キスカさん、自分で使う薬草ってもう分けてますか?」
「はい、その分はもういただいてますよ」
「じゃあ後は換金してお金を等分するから少し待っててね」
俺は買い取り窓口で素材を売り付けた。多分、少しだけ上乗せして貰えたと思う。合計で金貨2枚だ。4人で割って1人当たり大銀貨5枚、5万円くらいだ。ほとんど薬草だけでこの収入は多いからキスカさん様々だ。
「合計で金貨2枚、1人当たり大銀貨5枚だ。すごい成果だな。」
「そ、そんなに貰っていいんですか…?」
「そうよ!キスカさんの採取した素材のおかげでここまで稼げたんだからもっと喜びなさい。」
「嬉しい。」
「おーい、君達。盗賊の報酬出たからから取りに来て」
「あ、はい。」
「はい、金貨2枚出てるわよ。よかったね。」
「ありがとうございます。」
「盗賊の報酬が金貨2枚だから1人当たり金貨1枚だね…」
『それはすごいのか~あたしはわからないぞ~』
「結構稼いだからアトラスにもご飯食べさせてあげるね」
『やったぞ~お腹すいた~』
そうだよな、あんなに頑張って運んだんだもんな。美味しいもの食べさせてあげよう。
「良かったら、今からご飯に行かない?こんなに稼いだ記念と言うか初ダンジョン記念というか」
「いいわね、お腹すいたわ!」
「私も行きたいです」
「お腹すいた。」
全員の意見が一致したのでギルドを出ていつもの店に向かった。
『美味しい~もっと~もっと~』
アトラスが思った以上に食べてしまって今日の俺の収入がほとんど吹き飛んだが、これからの付き合いも考えると今日くらいは良いかもしれないな。
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