第146話 タロウ、月を思う
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「ふはははははっ!! 行け!!『闇戦士』達よ!!」
霧の中、視界が制限されている最中でも相手は俺の場所が分かって居るかの様に真っ直ぐ向かってくる。
一体一体はそれほど強くないのが救いだが……アクエスとダークレムの二人がデグア、サニーバを見付けてくれるまでは倒し続けなければならない。
だが、見付けたなら……その時は決着を付ける。油断をしている時に首を切り落とす……これが一番楽な倒し方に違いはない。
『カカカカカカカカ』
「そこっ! ……そこ! そこ!!」
前後左右、各方面から攻め込んで来る敵を屠りながら考える。
跳べばもしかすると、この霧を抜けられるかもしれないと。まずはサニーバと呼ばれていたこの霧を作り出した魔族を見付け、倒す予定だ。
補助系は当人が弱くても厄介な能力。先に潰すのが定石だろう。
「アイガル、足場を作ってくれ! 上に跳ぶぞ!」
『まーた、何か思い付いたのね? 良いわよ、私に任せなさい!』
俺のジャンプに合わせる形で氷の足場を作ってくれた。強度は心配無いが、滑らない様にだけ注意して空を駆ける。
地上から十メートルくらいだろうか、ようやく視界が開けた。
「ちっ……アクエス! ダークレム、戻って来い! 行くぞ!! 」
空から見たから分かった。俺を霧に閉じ込めた後に、奴等はどこかへと移動していた。
かなり広めに霧が広がっている。ちょうど、俺が居た場所が中央になっている。おそらく、霧の中に召喚した闇戦士を中央に走らせただけだろう。声だって恐らくは何かしらの仕掛けがある筈だ。
アクエスとダークレムがすぐに見付けられなかったのは、闇戦士以上の強い反応が無かった為に、霧の中を探し回る羽目になっていたからだな。ずいぶんとコケにしてくれたもんだ。
「光魔法『対魔の波状』……アクエスとダークレムはここの周辺を探して来てくれ。アイガルは俺と街の方に戻るぞ。逃げたのなら……とりあえずはそれでいい」
『分かったの!』
『……周辺って……その辺までで……良いよね……』
後手に回った結果、逃げられてしまった。倒す方法……ベリー流“必殺”の型もあったのにだ。悔しいが、魔物がまだ街へ向かっているし、やる事は多い。
まだ、兄様からの救援は無いし大丈夫だろう。
少しだけ残ったこのモヤモヤは、魔物を倒す事で晴らそうかな? 少しでも活躍しておかないと……このままだとカルミナに顔向け出来ないし。
◇◇◇◇◇
『ピッ! ピッ! ピッ!』
『起きて欲しいぞー?』
「うぅ……ちょっとダルいんだから突っつかないで……」
ピヨリに王都を囲む壁の上にまで連れて来られた訳だけど……これからどうしましょうか? ここからでも冒険者や騎士達が戦っているのがみえる。
「アトラス……何でこっちに戻って来たのか……ピヨリに聞いて……」
『ピッ! ピーピーピッ!』
『ふむふむだぞー! ピヨリはお腹が空いたって言ってるぞ?』
そうなのね……ここからグラウェル領まで飛ぶ気力が無かったから戻って来たと。
ピヨリだってただの乗り物じゃない。お腹が空くのは当然だし、それを責める気は無いけど……どうせなら、少しでもグラウェル領の方向に飛んでくれればとは思った。
「ご飯ね……とりあえず果物でも食べてて。アトラスもね。休憩したら動きましょうか」
私も果物を口に頬張りながら最低限の体力、魔力の回復に努める。戦場が少し遠いがよく見える。だから、魔物に倒される人達の姿も遠目に分かる。
早く行って加勢したい気持ちはあるのだが、私だって戦闘の直後なのだ。足を引っ張ったり、自分が殺られるなんて事になっては意味がない。今は少しでも回復するように休むしか私に出来ることは無いだろう。
「幹部……そこそこ強かったわね、やっぱり」
正直、私一人だったから範囲魔法を使って、力押しの戦法で勝てた様なものだ。一戦でこの疲れ具合……魔族が変身してからが本当に厄介だった。
あの魔族が街中に入ってしまっていた時の事を考えるとゾッとするけど、それは無かった未来だと思考から切り離す。
問題は、後何人の魔族幹部が居るかという話だ。幹部が二体同時に現れないとも限らない。
いくら苦しくても怖くても……戦う理由がちゃんとあるからこそ、私は立ち向かえている。
「魔王の居場所も突き止めないとね……」
修行をしに行った魔王。竜の加護を取り終えた魔王は、それはそれは強くなっているに違いない。五年前はまったく歯が立たなかった。でも、今は強くなったタロウと、強くなった私がいる。
どんなに強大な壁が立ちはだかっても、タロウとなら、壊して進んで行けると思っている。うん、帰ろう……やっぱりタロウが居ないとダメみたいだもの。
「ピヨリ、気絶覚悟の魔法を最後に使うから私を落とさない様に飛ぶのよ? アトラスも、私を掴んでてね。じゃ、グラウェル領に帰るわよー!」
『ピィーーッ!』
『オーーだぞ!』
ご飯を食べ終えて元気になったピヨリの背中に乗って、戦場の近くまで飛んで行く。
ここで敵を殲滅する魔法を使っても良いが、まだまだ数が多いし……それよりも今は必要な魔法がある。
「受け取ると良いわ! 光魔法『継続回復』…………ぁぅ……もう……むりね」
サンライカに魔物以外の人族にだけ魔法が当たる様に調整してもらい、自動的に傷が癒えていく回復魔法の高難易度魔法を繰り出した。
どれくらい効果が持つのかは分からないから、とりあえず後は頑張って欲しい。私はもう……意識が……無くなりそうだもの。
「キスカ……ハル……また、来る……」
気だるさが体を蝕んでいき、私はそれに耐えきれなくなって……意識を手放した。
――次に目に映ったのは満天の星空。明るかった太陽は沈み、夜になっていた。
◇◇
『ピッ!』
「何? また、お腹空いたの?」
『心配しているみたいだぞー? でも、お腹も空いたぞ!』
そうだったの……。すっかりご飯のイメージがついていたとはいえ、少し申し訳無いわね。ピヨリを撫でて謝っておく。綺麗な毛並みはフカフカで気持ちがいい。
アトラスも、休憩中によくピヨリを枕や布団の代わりにして寝ていた。
「今、ご飯を出すわ……ふぅ、疲れが残っているからまた果物になっちゃうけどごめんなさいね。お腹空いたら自分で取って来なさい」
今が夜の何時かは分からないけど、この時間に美味しい動物が居ないのを知っているのか、ピヨリは伏せの状態で果物を食べ始めた。
果汁を飛ばすアトラスの口や手を拭いて……何で私がお世話をしているのかは余り考えない様にしながら、やる事をやっていく。
星明かりでも十分に動ける。だが、食べ終わると何もする気になれず、仰向けになって空を眺めていた。
「今日の星は綺麗ね……」
タロウなら星についても何か知っているかもしれない。別に綺麗ならそれで良いとも思ってしまうけど、何か面白い話でもあるならば聞きたい……そんな気分だった。
「アトラス、タロウに星が綺麗よって教えてあげて?」
『……ふむふむだぞー。“カルミナ、月が綺麗だね”だって言ってるぞー?』
確かに……星よりも輝いているあの月は綺麗だ。タロウもあの月を見ているのだと思うと、離れているのに近くに居るのだと思える。
「アトラス、タロウに『この景色をゆっくり見れる様にしましょう』って言っておいて。早く、怯えて暮らす人達を……私達のこれからを救わなきゃね」
星を見ていると何だか眠たくなってきて、ピヨリの羽を毛布の代わりにして私達は眠りについた。
◇◇
「カルミナ、意味分かって無いだろうなぁ……でも、そうだよな。早くこの綺麗な星空を楽しむ余裕のある世界にしなくちゃな」
気合いが入る。
死なせたく無い人がいる。死に対する恐怖はたしかにある。でも、死ぬ気で鍛えてきた。死ねない理由もある。だから、死の間際でも諦めない。
俺が死んでも他の誰かが魔王を倒すかも知れない。それか、魔王が世界を壊すかもしれない。
どちらもさせない。俺が倒して俺が救う。誰かに強制された訳じゃない。だけど、俺がやる。
ただ俺が、転生した意味を求めているだけなのは自覚がある。
だけど……だからこそ、やり遂げたいと強く思う。歴史に名を残してやりたいと思う。
「ふふっ、あの月の名前をタロウにするのも面白いかもしれないな」
二日後にカルミナが帰ってくるまで、そんな事をぐるぐると考えていた。
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