第145話 カルミナ、詠唱する
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魔族の右腕が宙を舞う。
肩まで引いた剣を最速で突き出す技の八の型。急所を狙ったがギリギリで回避行動を取られ……だが、腕を吹き飛ばせたのなら上出来だろう。
「くっ……これしきなら問題無い」
デグアが地に転がった自分の腕を掴み、肩口に押し当てる事数秒。見事に神経レベルで修復された。
魔族ならではなのか、種族なのか、デグアの特性なのか……どれにしても厄介な能力には違いない。
「新しい腕を生やす事が出来るのか出来ないのか……くっ付けるにしても回復魔法の魔力の消費は小さくない。削れたという事に関して言えば成功してる……かな?」
「闇召喚魔法『闇戦士』」
デグアと俺の間に数十の魔方陣が浮かび上がり、骸骨騎士、ゾンビ、死霊……夜に出会ったら発狂しそうなモンスター達が召喚されていく。
人と違い、恐怖心や痛みを感じない系統の敵は総じて厄介極まりない。躊躇いというものが無いからだ。一刺しじゃくたばらない。頭を切り離しても動くヤツもいる。
倒すなら、一気に葬り去るか、拘束しておくかの二択だ。今回は前者でいくつもりである。光の精霊サンライカが居れば浄化しやすかったが。
「仕方ない……自前でいくか! 刀エンチャント 光『黄泉送り』」
闇の魔法相手に闇精霊の宿った魔剣は使いづらい。だから刀そのものに光属性を付与する。これで対魔の刀へ変化する。魔族相手にも有効かもしれないな。
「はぁぁぁっ――光斬撃『光波』!!」
無数にも見える敵には無数の刃を。
召喚されたモンスター達に声を上げる暇すら与えず消していく。
多対一だって訓練でしていた。動き方は身に付いている。
敵を斬り倒しながら召喚主のデグアへと接近していく。結局はこいつの集中力を乱さないと、魔力の尽きない限りは際限無く召喚してくるだろう。魔族相手に体力勝負は敵わないだろうし、先手必勝がベストだ。
「ふむ……こいつはここで殺しておくべきだ。サニーバ! 戦闘を援護せよ!!」
「はいっ! 闇魔法『|幻影の霧』」
うっすらとした霧が周囲一体を包み隠す。見えるのは半径二メートルくらいだろうか?
敵味方の位置を把握出来るスキルでもなければこんな技を使いはしないだろう。
「味方が居なくて良かったよ…………すぅ……はぁ~」
深呼吸をして気持ちを引き締める。
今必要なのは目じゃない。殺気を捉える第六感と聴覚だけでいい。
舐めてくれるなよ、魔族。視界を奪ったからといってパニックになるほど柔じゃない。あらゆる事を想定した訓練も行ってきている。目を閉じて神経を集中させる。
右後ろ、左、左前……右。
『カカカカカカカカ……カ……!!』
「静かにしていろ」
骨を鳴らすかのように嗤う骸骨騎士を葬る、刀風で霧が少しでも晴れるなら、一気に風魔法で吹き飛ばせたのだが……どうやらこの霧も一部に過ぎないのだろう。これも術者をどうにかしないといけないタイプか。
「アイガル、氷の膜を地面に薄く張ってくれ。足音を大きくさせる」
『分かったわ! 仕方ないわね』
「ダークレム、アクエスはデグアとサニーバの位置の特定を」
『分かった……』
『任せてなの!』
二人に任せておけば後はこちらに集中出来る。魔族幹部? そんなのはどうでも良い。ベリー先生を越えれた俺が手こずっていれば、それほどベリー先生に傷が付く。
さて、殺そうか、捕らえようか。
◇◇◇
「ば け も の……めっ!!」
「グハハハハッ、怖いか、怖いか。我を恐れよ、人間。矮小な体躯しかもたぬ脆い生き物よ」
変身してからというもの、性格が変わったかのように魔物の一面が強くなっている様になっているみたいだ。
変わったのは内面だけじゃない。硬い皮膚に、太い手足、速さも増している。一撃でも当たれば、いくら魔力で底上げしているとしても骨を砕かれるだろう。元々の力量に嫌になる……けど、それを埋める為に技を研いできた。
「せっ……はっ! うらぁぁっ!!」
「ちょこまかとハエの様に煩わしい……ガァァアアアア!!」
槍の攻撃で傷は付くものの、時間が経てば塞がっていく。
魔族の回復力も恐ろしい。決める時は一撃で回復する間も与えてはいけない。大技となればやはり魔法が一番だろう。
――あぁ、何故私はこんな相手に時間を掛けているのかしら?
ベリー先生より強いかしら? タロウより強いかしら? いえ、いくら姿が恐ろしいモノに変わったとしても、恐怖は感じない。
「タロウが隣に居ないからこんなに時間が掛かるのだわ……やれやれ、早く帰らなきゃね。タロウも寂しがってる頃でしょうし」
「何を言っていやがる人間め……あぁ、煩わしい。お前を殺してさっさと国を破壊してやろう……『最終形態』!!」
魔族の姿が更に変わっていく。より大きく、より太く。もう、見上げなければいけない程に変わっていく。
だが、この時間的猶予は有効に使わせて貰おう。久しぶりに詠唱がちゃんと出来そうね。
「みんな、行くわよ――『火で焼き、風で裂き、土で抉り、雷で貫き、光で照す。不浄を許さず安寧を求め、その力は正しき者の為に在る。降れ、降れ、はるか上空よりきたるその力を知って土へと還るが良い。契約せし五精霊の力をその身に受けよ!』」
『天降り注ぐ原初の光線』
魔族の変身が終わり、禍々しい形、雰囲気……訓練している兵士や冒険者でも逃げ出してしまうかもしれない。
だが、私は退かない。退く理由が無い。私は、はるか上空を指差して微笑んだ。
「さよなら、魔族。私のとっておきよ」
「グルラァァァァ…………ガッ――――ガァァアアアッ!!」
天高い空から火、風、土、雷、光が目に見える光となって降下し、巨大化した魔族を貫いた。
貫かれた場所からは燃えたり、切り裂かれたり、潰されたり、痺れ上がったり、浄化されていったり。
その光は一度に五光線。それが何度も何度も……魔力が切れるのが先か、耐久力が勝つかの戦い。だが、始めの一撃で勝負は決まっていたと言っても良かった。
『カルミナ、まだ油断は出来ませんよ?』
「分かってるわ。魔族の生命力はとてつもないもの……これで逆転負けなんてしたら、タロウに笑われちゃうわ」
地面に縫い付けられる様に地に伏せている魔族。よくよくみれば、体の外側が地味に回復している気もする。ここまでくると凄いとしか言いようが無い。
こんなのが、王都に入って暴れていたら、街の機能が終わっていたかもしれない。それだけは良かった。
「サンライカ、アイツの力を抑えるわよ」
『えぇ、ちゃんと狙ってやるのですよ。それで戦いは終わりです』
サンライカの光の力を借りて、魔族の体に光の剣を突き刺す。ダメージを与える為ではなく、魔封印の刃……みたいな感じだ。瀕死でも無い限りは使えない技だけど。
「カハッ……!!」
魔族の巨体がどんどん小さく、小さくなっていき、最初の形へと戻っていく。
槍を手に近付いていく。修行したというのに、実は魔力はけっこう減っていたりする。最初から負けるとは思っていなかった。が、思ったより苦戦した。倒せたけど、苦戦……魔王を相手にする前に、躓く訳にはいかなかったのに。
「私はまだ伸びなければならない。あなたはその礎となる。さよなら……魔族」
首を切り払い、心臓を突き刺し、フレイミアの火で焼き付くし、光魔法で浄化した。魔力はほぼ尽きてしまったが、これで街を守れただろう。
「ピヨリ、運んでちょうだい……」
『ピッ!』
なんか、タロウの居るグラウェル領じゃなくて王都に戻っている気がするけど……まぁ、良いわ。
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あれですね、タロウとカルミナが離れてる状況に慣れてなくて、中々筆が進まないのかもですね(´ω`)
ずっと一緒だったから……。