第144話 タロウ、ベリー先生の弟子だから
すいません、一週間も空いてしまって……
言い訳(本当にただの言い訳)は活動報告に書いてます(´ω`)
「『土双壁』!!」
地上に降りたって戦闘が開始された。不意討ちで壁を作り出し、挟み潰そうとしたけど、おそらくは無傷だろう。何となく分かる。
「この私相手に様子見の攻撃とは実に愉快だ。その余裕がいつまで続くか見物だな」
「遊びは終わりよ。無駄は削らないとね。風火魔法『爆炎乱舞』」
勿論、無駄は削るが全力を出す訳ではない。こいつで力を使いきる訳にはいかないのだから。こいつを倒してもまだ魔物が残っている。ペース配分を間違わないようにしないと。
だが、今の攻撃。火と風の切れ味を合わせた攻撃……穿ち、切り刻み、そして燃やす。魔物やモンスター程度ならこの技でも大抵は終わる。だが、目の前にはまだ魔族が無傷で立っていた。
それだけで相手が化け物だと判断できる。嫌みったらしい言動が鼻に付くが、強さは本物という事なのだろう。
「魔族相手でも今の威力なら倒せるだろう。中級程度なら……な。それが本気では無かろう? 闇魔法『影針』」
「光魔法『光盾』」
魔法戦ならただ長引くだけになるかもしれない。負けるとは思わないけど、時間が掛かりすぎるわね。なら、魔力は他に回した方が良いわね。
槍をアイテムボックスから取り出す。
それを見た魔族も意図が分かったのか、その身体と同じくらいありそうな長い大剣を取り出した。
見た目は細身であるのに、軽々しく大剣を持ち上げている。素の状態なら私より圧倒的に力が強いのだろう。
「槍ですか。ふむ、魔法師かと思いましたがそれを捨ててまで接近するのを選ぶなら……少し警戒しなければ、ですかね?」
「油断ならしてくれて構わないのよ? ハッ――!!」
身体強化もなれたものでゼロから瞬時に身体中に纏わす事も出来るようになった。これも修行の成果だ。
そのまま肉薄して、槍での一閃。不意を突いたお陰か、回避はされたが槍は掠った。
「っ……!!? あの距離を一瞬で詰めますか。これは、警戒どころじゃありませんね……第一形態変化。はぁぁっ――!!」
魔力が膨れ上がっていくのを感じて距離を取った。
魔族の形が……変化していく。人型から魔物のように、筋肉は盛り上がり、身体も倍近く大きくなっている。
しかも、第一形態と言っていたのを考えると……まだ変化が残っているかもしれない。それを出す余裕は与えない。
『槍エンチャント 風『風突き』』
槍の先端に風を集めて突きだす中距離攻撃。
魔族には届く距離には居た筈で、実際に当たった筈だ。だが……ダメージを負っている様子は無い。頑丈さも増えたみたいだ。
「面倒な……。槍エンチャント 土 『硬槍』」
相手の強度があがったならこちらの槍の硬さを高めておかないと折れるかもしれない。
「槍エンチャント 風 『烈槍』」
風の切れ味も加えておく。
「槍エンチャント 光 『対魔槍』」
魔族の闇魔法に対抗するための光魔法。
このぐらい強化しておけば後は私の問題。武器は整った。なら、実力で押しきる!!
「行くわよ、魔族。もう、止まってあげない。ベリー先生の弟子に敗北はあり得ないのよ!!」
私は力強く地面を蹴って、姿の変わった魔族へと斬りかかった。
◇◇◇
「ウイング兄様! 魔物が後方から来てますよ 」
「またかっ!! 冒険者達の回復を待ってやりたいが……」
おそらく遠くから魔物をこの街の方向へ誘導している奴がいる。今はそいつを烏の式神で探してはいるのだが、森の中にいるのか、全然見付からない。
魔物の来る方角、量がだいたい分かっているから先手は打てるのだが……このままだとじり貧だろう。とにかく量で攻められていると、冒険者達を交代させながらにしても限りがある。
俺が出ると言っても、元凶を叩けとウイング兄様に言われている以上、下手に動けない。
「旦那様、私が出ます!」
「麻津里はそうだな……冒険者達の救護に回ってくれ。それと、あのスキルで冒険者達の能力を上げてきて欲しい。戦闘に関しては紅緋だけじゃなく、緋鬼王にも出て貰うよ」
「分かりました、早速向かいますねっ!」
麻津里を見送った後に、緋鬼王へと指示を出す。増援中の魔物を出来る限り倒して欲しいと頼んで、方角だけ教えておく。後は上手くやってくれるだろう。
紅緋も今のところやられた感じはしないから、上手く立ち回っているのだろう。
「兄様、森の中まで探して居ますがそれっぽい影は見付かりませんよ?」
「そうか……。手薄になった本陣へと単身で乗り込むつもりなのか、自分が出なくても良いと考えているのか……」
単身で乗り込んで来てくれるなら、それはそれで助かるが……見付ける前に被害が出そうだな。
まだどこかで破壊活動が行われてる様子も報告も無いし、大丈夫だとは思うが……。魔物で疲弊した所にやって来られると冒険者達の心が折れかねない。
そう考えると、やはり俺も前線に出て魔物を減らし、操っている張本人に出張ってきて貰うのがベストだと思う。
この領地での戦いになっている以上、大将はウイング兄様だ。
だから、厳重に護る魔法を掛けておくし、式札も渡しておく。相手の強さにもよるが、兄様の話術も含めて考えると、数分は持ちこたえるだろう。数分あれば俺が駆けつけられる。
「兄様、やはり僕が前線へと行きましょう。規模の大きな魔法は得意分野ですし、今は冒険者達を鼓舞する必要もあるでしょう。それに……」
「脅威と思わせられれば、向こうから来るという算段か……。タロウは、魔族なら強い人間を野放しにしてはおかないと考える訳だね?」
俺は首を縦に振って返事を返す。ウイング兄様はしばらく悩んだ後に、一言『任せたよ』とだけ言った。
たぶん、強さとか状況とかを考えていたんじゃなくて、シンプルに……弟を戦場に向かわせる事に躊躇っていたのだろう。優しい兄様だ。他の家なら兄弟とて使えるものは使うだろうに、身内贔屓が凄い。
「勝利の宴の準備をしておいて兄様。夜には戻る」
俺は装備を整えて、ピヨリの代わりに風の式神『狛犬』を召喚し、戦場へ向けて走り出した。
◇◇
戦場まではそう遠くなく、狛犬のスピードで十分も掛からなかった。たぶん、身体強化でがむしゃらに走った方が速いが……流石に体力の無駄遣いになる。
それに、烏での索敵に気を向けないといけない事もあるしな。
「狛ちゃん、敵陣の奥まで行くよっ! そしたら、狛ちゃんは反転して魔物を狩りまくってくれ!」
『ガウッ!!』
冒険者達を追い越し、魔法で魔物を吹き飛ばして道を作る。
事情をしらない冒険者達は、遠くに行く俺を不思議そうに見送っている。今から敵を蹴散らすから許して欲しい。
途中、紅緋の姿も見えた気がするが、すぐに魔物の陰に隠れて見えなくなった。
「狛ちゃん、この辺で大丈夫! じゃあ……食い散らかせ!!」
『グルゥ……!!』
魔物と増援として次に来るだろう魔物の間で立ち止まり、魔法の発動準備だけしておく。
「アイガル、冷気で相手の動きを止めていくぞ」
『冷気で……ふーん。ま、任せなさいよね』
足の速い魔物から、土煙を巻き上げながらやって来る。
だが、ある場所を境に、その動きが少しずつ遅くなって……最後には止まる。止まって、倒れる。
「氷範囲魔法 『冷却の境界』」
『ま、魔物相手には強力過ぎる技かしらね?』
まだ、息はあるかもしれない。だが、寒さに耐性のある魔物以外は少しずつ命が削られて行くだろう。比較的に暖かいこの地域でこの寒さに耐えれる魔物は少ない。
まぁ、居ないことも無いんだけど。
「寒さに強いというよりは、鈍感なんだろう……なっ!!」
『ブキィィィィィィッ!!?』
耳を塞ぎたくなるような声に眉を潜めながら、俺の元にまで辿り着く魔物を斬っていく。だが、魔物も知恵はあるのか、段々と踏み込んで来なくなっていた。
それならそれで、好都合である。
「ダークレム、今日は働いて貰うぞ」
『うぅ……仕方ない……行ってくる』
フラフラと覇気の無いまま魔物の密集している場所へと飛んでいく。少し上空で立ち止まったダークレムは真下にいる魔物達に手を向けて魔法を発動させた。
『闇魔法 『重力と引力』』
引き合うちからで魔物をより密集させ、上からの圧力で潰す。
対軍向けの技だが、相手が一人の時も使える。その場合は地面に縫い付けて……まぁ、魔力を放って対抗されるかもしれないが、そうとう扱いが巧くないと無理だろう。
「うん……流石に子供には見せられない光景だな。でも、かなりスッキリしたな」
魔力量ゴリ押しでの魔法戦。相手が群れである程効果が現れる。
「あなたはたしか……どこかでみた事がありますね」
「サニーバ、下がっていろ。お前じゃ役にもたたん」
「……これでも上級魔族ではあるんですが。いえ、失礼しましたデグア様」
俺が潰した魔物達の更に奥から二人。一人は体格が緋鬼王にも負けないくらいで、長身の男。もう一人は長い白髪の女。
聴力と視力を少しだけ強化して確認したが……間違いなく魔族だろう。それにしても……。
「強いなぁ、男の方。五年前の魔王と同じくらいは強いんじゃないだろうか? あぁ、なら問題無いか――ベリー先生の弟子に敗北はあり得ないのだから」
女の方の歩みは止まって、こちらに歩いてくるのは男の方だけ。
俺も刀を準備して歩き出す。
お互いに一歩近付く度に殺気の濃さが増していく。一歩……また一歩。それが早歩きに変わって、ダッシュに変わる。
目標まで目測で十メートル。もう、いつでも斬りかかれる。
「身体強化――――疾ッ!!」
この戦いに偶然も奇跡も必要無い。ただ実力で勝つ。在るのは必然のみ。
「ベリー流 八の型 『蜂針』!!」
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