第139話 タロウ、カルミナを見送る
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ウイング兄様に連れられ、いつも使っているらしい客間へと通された。
最近は畳の生活に慣れていた分、少しだけ椅子とテーブルというのに新鮮味を覚える。
「さて、タロウのお土産話も聞きたい所だが……まずは、ルールトについて知ってる事を話しておこう」
「お願いします。あっ、そうだ兄様。僕とカルミナ、Sランク冒険者になりましたよ!」
「ぶふーーーっ!? 冗談でしょ、タロウ?」
話す前に……と、口に含んだばかりのお茶を吹き出した。ドッキリは成功したが、メイドさんの仕事を増やしてしまったな。
俺はウイング兄様に冒険者カードを見せる事で、嘘でも冗談でも無い事を証明した。
兄様は冒険者じゃないが、本物かどうか見分ける事くらいなら出来ると思う。でも、実の弟をそこまで疑わないで欲しいという気持ちもあるが……まぁ、信じられないというのは仕方の無い事ではあるな。
「東の島国で修行をしているとは聞いていたけど……。確かに昔から才能が豊かだと思っていたし、もしかしたらとも思っていたが……いやはや、言葉に出来ないね」
「まぁ、この五年間はベリー先生に鍛えて貰いましたから。学力は……まぁ、きっちり学んだ人には敵わないくらいですかね」
横道に逸れた話題もそこそこに、本題へと戻る。
今度こそ喉を湿らせる事が出来たウイング兄様は話をし始めた。
「現状……劣性では無い」
「ずいぶんと消極的な発言ですね……」
歯切れも悪く、本当に良くも悪くも無さそうだ。俺の返答で兄様も、自分で言った言葉に自嘲的な笑みを浮かべた。
「タロウのお陰で準備が出来ていたのに……戦力差で言えば、魔物や魔族達の方が上かもしれない。厄介なのが、躊躇いのなさと、昼夜問わずの攻撃だね」
「なるほど。その上、数も多いとなると……人族や他の種族もですけど、戦える人は一部ですものね」
冒険者になりたての者は、一般人と同じと考えて良いだろう。
俺達側は冒険者、騎士団、魔法師団……そのいずれかの職業に従事している者しか、まともに戦えない。魔物側にとって狩りと同じだと考えると、魔物全てが一応は戦える事になる。
前準備や知恵、チームでの戦いでなんとか劣性では無い状態にしているらしいが、このままだとじり貧というやつだろう。
「この五年の間に、魔族の進行を信じなかった貴族もいる。まぁ、準備もしなかった所は軒並み潰されてるよ……領民が不憫でならない。はぁ……」
もしかしたら、その潰された領主も一年目くらいは警戒していたのかもしれない。だが、年が経つにつれて油断というか、疑念が湧き出て来たのだろう。本当に魔族の進行などあるのか? と。
「王都は無事なのですよね? 僕としてはこの領地に住む人の方が優先ではありますけど……」
「王都の防衛が一番力が入っているよ。……駄目だよ、タロウ。王都があっての、我々なのだから」
「分かってます。優先順位の話ですよ」
兄様の持ち出した地図を机に広げ、より詳しく話を聞いていく。
王都を中心に描かれたルールトの地図上に、魔物の攻めてくる方向や、被害の大きい場所。戦力の分布。兄様が集めた情報が記載されていた。
「どうしても、情報に遅れが出てしまうのも難点かな? 下手すると、情報を届けに行く人、持ち帰る人が道半ばで倒れる可能性もある」
「なるほど。なら、あれが使えるかもな……」
兄様の話を聞いて、手助けの出来る方法を一つだけ思い付いた。
俺か、俺と魔力で繋がってるピヨリ以外の誰かがこの場に居る事が条件になら、情報が集められる。
「顕現せよ 『烏合』」
「この鳥は……どこから? いや、それよりどうするつもりだい、タロウ?」
俺は式札を使って、カラスを十数体呼び出した。
これなら空から情報が集められるし、迅速だ。俺が居ればほぼノータイムだし、居なくても、緋鬼王に俺から伝えれば良いだけである。
「兄様、このカラスを飛ばすとしたら何処へでしょうか? 王都に二体くらいで、後はバラけた方向に飛ばしましょうか?」
「う、うん。そんな事が出来るなんて……是非、お願いするよタロウ。報酬は全部が終わった後で良いかな?」
報酬なんて要らないのだが、これはきっと無事にこの戦いを乗り切ろうという兄様からの言葉だと思って、俺も冗談を交えて返した。『Sランク冒険者の報酬は高いですよ』っと。
俺はカラスを飛ばして、今度はこの領地の状況について教えて貰うことにした。
そうこう話している内に、部屋の扉が数回ノックされ……カルミナが入って来た。
「タロウ、話があるの」
◇◇◇
「うぅ……どうしようかしら?」
「どうしたんですか、カルミナさん?」
私は麻津里やアトラスにピヨリ、紅緋を連れて屋敷を案内していた。ただ、途中……
「皆、お腹すいたでしょ? 食堂へいらっしゃい」
と、タロウのお母様が言ったから一時中断となり、食堂へ来ていた。
美味しいお菓子を摘まみながら、私は考え事をしていた。
それは、このままタロウとこの領地に居るか、私だけ王都に行くかである。
タロウがどう考えているかは分からないけど、おそらくここに滞在しながら魔王が現れ次第その場に動くつもりだろう。でも、私はその前に両親に会っておきたいと思っていた。
「いや、ちょっと……王都に戻るか考えてたのよ。私だけ戻ったとしたらタロウが動く時に出遅れるでしょ? それで、どうしようかと」
「そういう事ですか。なら、悩む事はありません! すぐにでも王都に戻るべきです! 会いに行くのでしょ? ご両親に」
まさか、そこまで見透かされるとは思って無かった。麻津里は帰るのに賛成なのね。ここから王都までは……馬で5日程。まぁ、それは馬車で普通に進んだ場合だから、飛ばしたらもっと早く着くだろう。麻津里の言う通り、今すぐにでも動いた方が良いのかもしれないわね。
「ちょっと、タロウに話してみる」
「はいっ! ご両親を安心させに行ってあげてくださいね」
他の皆は麻津里とお義母様に見てもらって、私はタロウの居る、ウイングさんの部屋へと向かった。
部屋の前に着いて扉をノックしてから入ると、タロウとウイングさんが同時にこっちを見てて少し緊張する……。でも、大事な事だからちゃんと話しておかないと。
◇◇◇
「どうしたんだ、カルミナ?」
話があると言い出したカルミナが、まだ口ごもっている。相当言いづらい事なのだろうか?カルミナに関しては、たいていの事ならば許しちゃう自信はあるんだけど。
「その……えっとぉ」
「焦らなくて良いよ。何か急用があるから来たんだろ? どうしたの?」
出来るだけ優しい声色でそうカルミナに伝える。それが伝わったのかは分からないけど、少し俯きがちだった顔をあげて口を開いた。
「タロウ! ごめんなさい!わ……私、王都に戻ろうと思うのっ!」
「あ、うん。分かった……それで、いつ出発するの?」
あれ? 何か間違った事を言っただろうか?カルミナが固まっている。俺が馴れ馴れしく自国の王女に話しかけている事にウイング兄様が驚いて固まっているのは理解出来るが……。
何でカルミナが固まっているか、それを聞こうとしたその前に、口を開いたのは兄様だった。
「タロウ……理由を聞かないのかい? それに、一人で行かせようとしていないかい?」
『主の兄上様、僭越ながら私から言わせて貰うとするならば……主はカルミナ様の良き理解者であります。帰る理由、それを主に伝える時のカルミナ殿の心情。分かった上での了承なのです』
「ひ、緋鬼王! 少し照れ臭いからその辺でいいよっ! あと、兄様、心配はご無用ですよ。カルミナの事は良く知っています。一人で行動したとしてもその辺の人じゃ敵いませんよ」
おそらく、帰りたい理由は両親に会うためか、王都が心配か……あたりだろう。
ごめんなさいと言ったのは、きっと、離れてる分だけ動くのが遅くなるという事だろうし。
「いや、だとしても万が一……」
「兄様がそういうなら……カルミナ、ピヨリを連れていくと良い。馬よりも速いぞ! それなら何の心配も無いし、いつでも連絡が出来る……でも、何言ってるのかは理解出来ないんだよな?」
「えぇ……ピヨリを連れて行って良いなら、ついでにアトラスも良いかしら?」
カルミナの提案に俺は頷いて返答した。
兄様はまだ、もしもの事を考えている。領主として立派だけど、もう少しだけ俺達を信用して欲しい。実力をまだ見せてないから心配なのは分かるけども、いつまでも小さい子供じゃ無いし……。
そう……あの子達の様な。ん? 誰だあの子達は?
「パパァ?」
「お父様、そちらの方達は誰なのー?」
小さい男の子と、その子よりは成長している女の子が、カルミナの入って来た入り口から覗いていた。
パパと言っていた……兄様の子供だろうか?
「ミーク、サルミ、部屋にもどっ……紹介しておこうかね?」
兄様が手招きをしたことで部屋の中に入って来た二人組。
男の子の方が、ミーク君三歳。女の子の方が、サルミちゃん四歳らしい。
どちらも将来が楽しみな愛らしい容姿をしていた。流石は兄様とセルミナさんの子供だ。
「ミーク、サルミ! お父さんのお仕事の邪魔をしちゃ駄目でしょ!? もう寝ないと……っと、タロウさんにカルミナ様。失礼致しました」
「あ、いえ。挨拶だけさせてください。初めまして、僕は伯父になるのかな? タロウって言います。君達のパパの弟だよ。よろしくね」
「私はカルミナよ。えっと……そのうち親類になるのだわ! 二人とも、良い子のまま育つのよ!」
カルミナが半ばテンパりながら自己紹介し終わった所で、サルミちゃんとミーク君もきちんと挨拶をしてくれた。礼儀正しい子達だこと。
「ほら、二人とも行くわよ」
「パパァー」
「では、お休みなさいませ」
ミーク君は離れたく無いみたいだったけど、セルミナさんが連れて行った。次世代の子を見てしまうと、どうしても早く平和な環境を整えてやらないと……と考えてしまう。
焦りは禁物だと、何とか自分に言い聞かせて話に戻った。
「カルミナ、今から出立するのか? 暗いけど……それは大丈夫だったな」
「えぇ。それに、ピヨリが居るならすぐ帰って来れると思うわ。ただ、会って話せれば今は十分だから」
そうか……。そうと決まれば善は急げ。王様へのお土産を選定したり、アトラスやピヨリに説明したり、準備を整えて行く。
「カルミナ様、お手を煩わせて申し訳ありませんが……カルミナ様の兄君で我が友のネルド公へ、書簡をお願い出来ますでしょうか?」
「それは、構いませんが……封をしたりは致しませんのですか?」
ウイング兄様は、ただの雑談だから大丈夫と言って、手紙をカルミナへと渡した。兄様も王族に親友的な人居たんだな……。
カルミナは、手紙をアイテムボックスへとしまい、外に向かった。
星明かりが綺麗な夜空だが、空を飛ぶ魔物には気を付けて行ってきて欲しい。あと、お互いに連絡はマメにする約束だ。
「ピヨリ、お願いね! アトラスも頼むわよ」
背中にアトラスを背負ったカルミナが、ピヨリの背中に乗って、準備は完了した。
「じゃあカルミナ、行ってらっしゃい! 王様によろしくな……あと、何かあればその時の判断で動いてくれ」
「えぇ、魔物が来たら守り通すから王都の心配はいらないわ!」
頼もしい言葉と共にカルミナは王都に向けて出発した。そう遠くない日には違いないが、もしかしたら、次に会うのは魔王と戦う時かもしれないな……と、そんな予感がしていた。
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