第134話 タロウ、エドヌを出発
お待たせしました。久しぶりに少しだけ長い。風邪はもう、ほぼ、99%治りました!
よろしくお願いします!
翌朝、まず最初に向かったのは鍛治師のいる工房だ。ベリー先生がよくお世話になる工房らしく、ここに俺達の武器を預けて整備して貰う。ベリー先生曰く、代金は少し高いがその分、早くて丁寧らしい。幸いにも金には困っていないし、ここに任せる事にした。
「武器はベリーのは最後で良いんだな?なら明日までには坊主と嬢ちゃんのは出来上がるから、取りにくるといい。なんせ、全然仕事が無いからな。あっはっはっはっは!」
笑い事ではないと思うのだが……まぁ、お客としては早く出来るなら何でも良い。明日の朝にでもまた来るかね。
「では、お願いします。次、どこに行きます?」
「次はギルドに行くでござるよ!ちょっと用事もあるでござるからな」
用事……?まぁ、良いか。どうせ、カルミナが桐華さんに会っておきたいと言っていたから行く予定ではあったし。俺も、活動自体はそこまで熱心にしてはいなかったがギルド長や職員の方、知己の冒険者の方には会っておきたいしな。
「分かりました……麻津里はそのままの格好でいいんですか?せめて顔を隠しておかないと……騒ぎに発展しそうですが?」
「なら、私のローブを貸しておくわね!ちゃんとフードも被っておくのよ?」
「ありがとうございます、カルミナさん。お借りしますね!」
麻津里はこの国の姫だからな……。そんな人がギルドに現れたら騒ぎになること間違い無しだ。そうだ!念のために俺の偽装スキルでこっそり髪の色も変えておこう。
「じゃあ、行くでござるよ!くっふっふっふっふー……」
「あ、紅緋に近い笑い方……何か企んでますね?」
めちゃくちゃ動揺してみせたベリー先生だが、行かないという選択肢は無いし……何かあっても対応出来る様に、色々と想定しながらギルドへと向かった。
◇◇◇
「お前等、Sランクだから」
「「はぁ?」」
ギルド長の言葉に俺とカルミナが一斉にハモった。それも仕方ないだろう……ギルドに来て、ギルド長からの第一声がこれなのだか。
ベリー先生を横目でチラッと見てみると、してやったり顔をしている。なるほど、企んでいたのはこういう事か。
「まぁ、Sランクにして貰うのはありがたいんですが……何でですか?」
「そうよ、私達……別に魔物も何も倒して……まさか?」
カルミナも自分で言ってて気付いたみたいだな。俺もカルミナの言葉を聞いて気付いた。確かに俺達は強い魔物も何も倒してはいない。だが、そんなのよりも強力な化け物を越えたのだ。
そう考えると、Sランクというのも頷ける。
「昨日、ベリーの使いと言って九重家の者が来てだな……『Sランクの実力がある私を越えたんだから二人をSランクに』と、言伝てを送って来やがったんだ」
「それはまぁ……なんとも。ベリー先生、何でSランクにならないんですか?実力が足りないなんて事は無い筈なんですけど?」
「面倒だからでござる!」
それを弟子に押し付けますかね……はぁ。でも、せっかくのチャンスだし、何かと箔が付くのも確かだ。Sランクの冒険者ともなれば下級貴族くらいの権力はある。まぁ、俺もカルミナもそんな権力はいらないが、冒険者界隈で何かと楽になるだろう。その分、面倒事も増えそうだけど。
「とりあえず冒険者カードを貸せ。あと、お前等の二つ名の件だが……どうする?」
「……どうする?そういうのって、自然と付いたのが定着していくんじゃ無いんですか?」
若い冒険者なら自分で勝手に名乗ったりする事もあるが、基本的には周りが敬意や恐れを称してそう呼んだりする物である筈だ。
「なら、坊主の方は『バケモノ』、お嬢ちゃんの方は『子供の皮を被ったバケモノ』になるけど良いか?」
バケモノ……二つ名が化け物。カルミナに至っては二つ名っぽさも無い。俺達に付けられていた二つ名って……ただの悪口じゃないか。
「自分で決めます……」
「そう……だよな。とりあえず二つ名も記入はしておかないとちけいないから、またここに立ち寄ってくれ。その時に二つ名を記入して完成となる」
俺とカルミナは冒険者カードをギルド長に渡し、カルミナは桐華さんを探しに行き、俺は会話をした事のある冒険者の人達に挨拶をして回った。
麻津里は冒険者ギルドに興味津々なのか、あちこち見て回っていた。ベリー先生は何がそんなに嬉しいのか、俺に負けた事を嬉々として語っていた。まぁ、誰も信じないと思うけどね。
それにしても二つ名か……悩む所だ。
◇◇◇
「タロウ!桐華を連れ出すのに成功したわ!まだお昼前だけど、桐華の家に行って甘い物でも食べましょ?」
「ま、まったく……いつも強引なんだから」
桐華さんも出会った頃より背も伸びて、受付嬢としての品格が出てきていた。だが、残念な事に……胸だけはどうしても成長しなかったみたいである。これはカルミナからの情報だけどな。
それが良かったのか、桐華さんのファンの冒険者達は今でもファンをしている。ロリっぽいから好きなのかと思っていたが……今の桐華さんも全然ストライクなんだな。どちらにしても危ない奴等である。
「抜け出して、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。ギルド長にもちゃんと言ってあるから。Sランク冒険者の秘密を探って来いって言われたけどね。懲りないギルド長ね」
本当だよ。秘密なんて無い。ただ、ベリー先生にボコボコにされたらみんな強くなれると思う。根性論だ。
「じゃあ、残りの二人も呼んで来るから外に居てくれ」
「分かったわ!」
俺はギルド内で彷徨いていた二人を捕まえて、次に行くことを伝え、ギルドを後にした。次に行くのは甘味処『すぱいす』だ。
◇◇
温かいお汁粉に熱めのお抹茶。この、冬に最高の和コンビである二つを注文して、席に着いた。ベリー先生だけはお団子と焙じ茶という渋めのチョイス……いや、他意は無い。
「Sランク昇進おめでとう。ここは私に奢らせて」
「おっ、早速Sランクの有用な所があったな。ご馳走になります」
「桐華、Sランクって何か大変な事とかあるわけ?」
確かにそれは気になる。ベリー先生は何を面倒がってSランクになるのを断ったのだろうか……。
「まぁ、戦力として期待されるのは当然として、場合によっては他国にまで呼ばれる事があるわね。自国から近い他の国にとんでもなく強い魔物が現れた時とかね。他には新しいダンジョンが発見された時に、真っ先に依頼が来るわ」
それからもSランクの大変さを桐華さんから色々と聞かされた。冒険者らしく、どこかの国に留まってなければいけないという事は無いが、面倒事は真っ先に振られるらしい。だが、その分特典は色々とある。Sランクというだけでどの国からも厚待遇を受けられたりだ。……正直それに関しては要らないんだがな。
「私からも聞くけど……二人共、いえ……そちらにいらっしゃる麻津里様もかしら?この地を離れるのでしょ?いつになるの?」
「あら、気付いておいででしたのね?」
麻津里がフードを取って姿を表す。桐華さん……どうして気付いたんだろ?観察眼が凄いな。
「そりゃ、最初は誰かと思ったけど……髪の色がおかしいもの。そこから二人のどっちかの魔法って考えて、隠す必要性のある人物を考えたら分かるわよ」
「なるほど……髪の色を変えるのはやり過ぎだったか。勉強になりますね」
「桐華、私達が出発するのは早くても明日。遅くても明後日ね。ギルドにも魔物の増幅の状況とか他国から来ているんじゃない?だから……早く行かないとって思ってるのよ」
とりあえずはルールト王国に帰る予定だ。他の国を救っても、自分達の産まれた国が無くなったんじゃ意味がない。だから、ルールトに帰り、そこからまた動き出す予定だ。
「動きが早いわね……流石は冒険者。ねぇ、またこの国には戻って来るんでしょ?」
「当然!まだ、食べてない和食もあるし!」
「そうね、ここは第二の故郷ですもの。絶対にまた来るわ!」
桐華さんは安心したのか、笑ってみせた。そのタイミングで注文した料理が届き、俺達はこの国の甘味を最後の一滴まで堪能しておいた。
店を出てからは、エドヌの名産やこの国特有のお土産を沢山買い込んでおく。麻津里がホームシックになったとしても大丈夫な様にと、後は、うちの家族やカルミナの家族への贈り物として。
お菓子や手拭いや箸や陶器、繊細な職人の技が施された物を買い漁った。お菓子は多目に……というか、金の許す限りは買っておく。アイテムボックスにしまっておけば日保ちを気にしなくていいからな。本当に助かる魔法だ。
「あと、何か買っておく物とかあるか?」
「そうね……あっ、戦いの時にローブの下に着る軽装を買わないと!私のボロボロになっちゃったのよ!」
おっと、それは俺もだった。ベリー先生と戦った時にかなり布がズタボロに切れてしまった。買い直しておかないとだな。
「あっ、それなら必要無いでござるよ!九重家がちゃんと贈らせて貰うでござるから」
「え!?良いんですか?」
「ありがたいわね」
九重家からのプレゼントだとすると安物じゃない、良い物に違いない。これは期待が出来るな。なら、とりあえず買い物も終わりでいいかな。後は転移した後に考えよう。どこに着くかは分からないが、近くに何もないという事は無いだろうし。
「じゃあ、ギルドに戻るでござるか?二人共、そろそろ二つ名は決まったでござろう?」
「「う~ん……」」
自分で自分の二つ名を決めるって……中々に難しいというか、悩ましい。『万能』『七色魔術』『闇剣士』……何となく雰囲気で色々と思い浮かべるが、ピンと来るヤツがない。どうしたものかね……。
「カルミナは良いよな。『精霊術師』とか『戦姫』とか『精霊姫』とかさぁ~」
「タロウこそ。『神の遣い』とか『召喚師』とか『闇剣士』とか」
マジか……。闇剣士……カルミナもこの領域に入ってしまったか。せっかく被ったけど、闇剣士だけは無いわ。闇剣士だけは。うーん。でも、カルミナの選択肢からなら召喚師が無難かな?別に何でも良いわけだし、アトラスやピヨリにも戦って貰う事もあるしな。
「流石はカルミナだな!『召喚師』にするよ!」
「私も、『精霊姫』……気に入ったわ!」
「お互いの方がよく分かっていたのでござるな!では、行くでござるよ!」
さっきぶりに、ギルドへと舞い戻った。
◇◇◇
「ほら、これがSランクのカードだ。ええっと、『召喚“神”』と『精霊“鬼”』な。ほら……」
「「ほら……じゃなーいっ!!」」
なんだ、召喚神って!!いや、間違ってないけどっ!実際に神を召喚しちゃってるけど!普通に召喚師って言ったじゃん!?
それにカルミナも精霊鬼って……ぷぷ。確かにカルミナの槍はオーガの骨だけど……間違いなのに間違って無いのが何とも……。
「『召喚神』に『精霊鬼』でござるか~。中々に良い二つ名ではないでござるか!おめでとうでござるよ!」
「活躍すると……この二つ名が広まるのかぁ。文字で見ない限りは……大丈夫かな?」
「そうね……ギルドカードの二つ名の所は見せない方向でいきましょうか」
まさかの手違いにより、少し違った二つ名が付いてしまったけど……まぁ、将来は笑い話になると信じてここは流しておこう。気にし過ぎても、やってられないからな。
「じゃあ、私は仕事に戻るわね。明日、どこから出発するの?見送るわ」
「そうね……今日は安倍家に泊まると思うから、昼頃にそこからかしら?」
分かったと言った桐華さんは受付の仕事へと戻って行った。下手したら最後になるかも知れない。そんな事は俺もカルミナも桐華さんだって分かっているだろう。だからこそ、いつも通りに。次にまた会えると信じているからこそ普段通りに、俺達と桐華さんは別れた。
「絶対に戻ってくるわ……」
カルミナのそんな小さな声を聞きとった俺は、心の中で似たような事を呟いた。
◇◇
一通り街を散策し、ベリー先生も一緒に安倍家へとやって来た。まだ、夕方前にやって来た理由は緋鬼王や紅緋に順調に行けば、明日には出発すると伝える為だ。
『主!ベリー殿との試合、お疲れ様でした。主ならやってのけると信じておりました』
『くっふー!妾の主なら当然の事じゃな』
「ありがとう二人共。今日は二人に伝える事があってね。俺とカルミナと麻津里は、明日……エドヌを出発する。その時に俺の魔力で飛ぶから、魔力が回復するまでお前達は召喚出来ない。だから、準備が整い次第すぐにでも召喚するが……時と場合によってはもう少し遅れる。すまないがそういう事で、もう少しだけエドヌに居てくれ」
緋鬼王は頼りになる返事を、紅緋はお菓子を食い溜め……なんて不安になる返事をしてくれた。後は……忠晴さんに頼んで式札を沢山貰っておかないとな。
「タロウさんでして~」
「あっ、晴海さん。順調ですか?」
順調とは勿論、式札の修行の事だ。俺と晴海さんは式札に関しては良いライバル関係だったと言える。お互いに切磋琢磨して、頑張って来た中だ。
「はい~。タロウさんに、贈り物があるのでして~」
「贈り物ですか?なんだろう……気になりますね」
晴海さんは着物の袖から一つの長方形の箱を取り出した。
「これです~」
晴海さんが箱を開けて中を見せてくれた。中には一本の見るからに高級そうな筆があった。持つ部分は黒塗りで艶やか、筆の先端、毛の部分は白く美しい毛を使用している物だった。
「晴海さん!?これ、見るからに高そうなんだけど!?」
「えぇ、良い物ですから~」
のほほんと言っているが、子供のお小遣い何ヵ月分ってレベルじゃないだろう……これは果たして貰っても良いのだろうか?
「これは私の作戦なのでして~。タロウさんが申し訳無く思って~いつか恩返しに来てくれる事を願って、贈らせて貰うのでして~」
「なる……ほど。確かにこれは、何かお返ししないといけないですね。色んな国の特産品をいくつも集めて……またここに来ますよ。この筆、大事に使わせていただきますね!」
それから少し、晴海さんと最後の修行をすることにした。麻津里は双葉さんに会いに行き、カルミナは命さんに会いに行った。ベリー先生は緋鬼王と蒼鬼王とバトルしている。みんな思い思いに行動して、その日は過ぎていった。
◇◇◇
翌朝、ベリー先生が朝一で工房から武器を持って来てくれたお陰で昼まで時間が出来た。武器と一緒に軽装をプレゼントして貰ったが、やはり良い素材で出来た高級品だった……。流石、九重家である。
「さ、最後に一回だけ打ち合おうでござる!」
「「はい!」」
俺とカルミナ、交代交代でベリー先生と打ち合った。この五年、本当にお世話になった。時に厳しく、時に優しく。この人が居たからここまで強くたれた。
「先生!何か願い事があるなら今の内に言っておいてくださいね!先生にはお世話になったので出来る限りの恩返しはしますよ!」
「言ったでござるな!では……“生きてまた会えたその時は、拙者を嫁に貰って欲しいでござる”……隙あり!!」
俺は一瞬の隙を突かれて、蹴り飛ばされた。だが……今の不意討ちは卑怯じゃ無いですかねぇ?
「ぐぅ……いてて。ベリー先生……今のは」
「言葉通りの意味でござる。魔王を倒したら平和になるでござろう?そしたら、拙者からルールト王国へまた行くでござるよ。そして……でござる」
うっ……恥ずかしそうなベリー先生が新鮮で眩しい……。冗談では……無いんだよな?えっと、この場合……何て言えば?
俺はそっとカルミナの方を向く。カルミナもまた、何とも言えない表情を浮かべていた。このままじゃ結婚出来ない先生を憐れんでいるのか、それとも他の感情が渦巻いているのか……特に何も言わないが、表情がコロコロと変わっている。そして、俺を見てくる。
「ベリー先生。小指を」
「小指でござるか?」
そういえば、この国でやってる人って見たこと無いな。約束する時の作法の一つ、指切りだ。
「指切り拳万、嘘吐いたら針千本のーます。“先生、ルールト王国で待ってます”……ゆびきった!」
俺はカルミナに聞こえない小さな声で先生に伝える。いや、もう……今日から先生では無いな。ちゃんと卒業しないと。
「ベリーさん、また会う日まで」
「は、はい……」
「うぬぬぬぬぬぬぬぬ……」
カルミナの恨めしそうな声が聞こえて来るが……はぁ、後で何とかしないと。何とかなるかなぁ……。
それからお昼頃。色んな人が見送りに集まってくれた。徳川家の方達も見送りに……ていうか、麻津里を連れていく挨拶をしてなかった……うん。男としては最悪だが、一度このまま逃げよう。そして、また今度ちゃんと挨拶に伺おう。今度だ今度。
「気を付けていってらっしゃい!」
「達者でな」
「また、おいでよカルミナ、タロウくん!」
「タロウ君、絶対でござるからな!約束でござるからな!」
「タロウさん、カルミナさん……一緒に修行出来て良かったですぅ……」
「ついでに私の事もお嫁に貰って欲しいのでして~」
「この国でSランクになったんだ!この国に定住しねーか?」
時々、不穏な言葉が聞こえて来るが……総じて暖かい言葉が送られた。名残惜しいが……そろそろ、行くか。
「ルミナス、お願い。カルミナ、麻津里……行こう。世界を救いに」
「えぇ、私達の世界を滅ぼさせたりしないわ!」
「参りましょう!」
俺達は手を繋ぎ……転移魔法によって、エドヌからどこか分からない場所まで飛び立った。
おそらく、1番長いであろう修行編も終わりです!長ったぁ……
次回からは第5章。人族と魔族の戦いが激しくなっていく感じ!
懐かしのキャラとか出せたら良いなぁ。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)




