第131話 タロウ、いざ参らん
お待たせしました!
よろしくお願いします!
山頂で剣戟の音が鳴り響く。刀と刀のぶつかり合う音、刀を擦らせた時の甲高い音。とても激しい音が鳴り響く。
「はあああっ」
「まだまだでござるよっ!」
俺はベリー先生と斬り合っていた。そう――斬り合えているのだ。だが、どうしても攻めきれていない。ほら、今だって蹴りが来るのがスローで見える。
「ぐはっ……!!」
「さ、すぐに立つでござる!」
ベリー先生と斬り合う修行を始めてから一年と更に半年くらい。夏真っ盛りの暑い時期も関係無しに修行している。汗が止まらない……。
「身体強化ァ!!」
「消耗戦は卑怯でござるよ!身体強化っ!」
先程よりもより高速に、そして危険度を増してぶつかり合う。魔力量の多さでは俺の方に分があるのだが、いつもベリー先生が枯渇する前に倒されている。それに……ベリー先生の身体強化は無駄が無く、効率的だ。
◇◇◇
「うーん、流石に目で追いかけるのも大変ねぇ」
「ですね……時々、タロウさんが倒れて止まった瞬間なら分かるのですが……」
かなり高レベルの戦いが繰り広げられて居るのは分かる。私も負けない様に頑張らないと。
「じゃあ、今日はグレイプさんの予定が空いてるみたいだからぶっ飛ばしてくるわ!」
「あはは……頑張ってくださいね、カルミナさん」
最後にチラッとタロウの様子を見てから私は先に山を下りる事にした。桃さんにも言ったけど、今日は午後からグレイプさんの予定が空いてるから訓練をつけて貰う事になっていた。もちろん、やる事はタロウとベリー先生のやっている事と同じだけど。
グレイプさんとの訓練では切り傷より、打撲とかの方が多い。これは、まだグレイプさんに女の子と舐められているからだと思っている。怪我はちゃんと治ると魔法で回復している所を見せたのに……だから、そんな余裕が無くなるように攻めて攻めて攻めてやるつもりだ。
「軽い殺気程度じゃ足りないのよね……もっと本気で行かないと!」
私は身体強化を使い、山を駆け下りて行った。
◇◇
「おっ、来たなカルミナちゃんよ」
「お待たせしました。走ってきたので準備運動は要りません。早速やりましょう」
九重家のグレイプさんがいつも修行の為に使っている広目の庭にやって来た。ここまで走って来たから少し息切れしてるが、これくらいなら問題無く動ける。いつも万全な状態とは限らないのだから、これくらいは平気でいないといけないわよね。
「まぁ、落ち着けって……暑い中走ってきたんだろ?お茶くらい飲めよ」
「なら……いただきます」
冷たいお茶が身体の中を流れているのを感じる。どうやら自分が思っていた以上に、身体は熱を持っていたみたいね。
「うし、この時間は他に人も来ねぇから存分に暴れられるぞ!」
「今日こそ、やってやるわ!覚悟してよね!」
焦る訳では無いが、時間が勿体ないからすぐにでも始める。私は前から使っている愛用の白い槍『鬼骨』を構える。グレイプさんも鋭くも妖しく光っている刃が特徴の槍を構え、私とグレイプさんの間に緊張が走る。
「…………」
「…………」
グレイプさんの出方を、槍の構えや視線、足捌きから予測する……隙がない。予測すると、どうにも対処される映像が浮かび消えていく。これが他の人にも見えるとするならば、私がグレイプさんに全然勝ててないという証拠にもなるでしょう。だけど、それも今日この訓練から変えていこう。とりあえず……先手は貰うわ!
「身体強化っ!!」
「いきなり飛ばすかよっ!いいぜ、受けて立ってやろう!」
地面を片足で蹴る度に加速し、右や左にフェイントを入れながら距離を詰め、一振。
「甘い甘い。フェイントを入れるなら最後の最後まで騙す事を考えろ。決めにいこうとしてるのがそこでバレてるぞ」
「……ちっ、まだよっ!」
槍の特性である点での攻撃。つまり、単純な突きを強化した身体を使って連続で繰り出す。普通の人や魔物なら蜂の巣状態になってもおかしくない筈なのに……傷一つ無い。本当に槍を手にしたグレイプさんは強い。だからこそ、全力で攻めることが出来るのだけど。
「いいぜ、いいぜ!だが、単調だ。俺なら……こうする」
「くっ……」
突きの途中にタイミングをズラすかの様に、体当たりや、足元の砂を蹴り上げたりしてくる。砂は卑怯染みた事かもしれないけど、勝つためなら何でもやるのが普通なのだから正しいのはグレイプさんだ。
「槍の本分は突く事だ。敵との間合いを取って突く。それを極めな。そうすりゃ、槍が最強だって事が、ちっとは分かるだろうよ!」
「槍が最強なのは知ってるわよ!私が世界にそれを証明してみせるわ!」
その為にもまだまだ鍛えなきゃいけないわね。全てを貫く槍の力を最大限引き出せる様にしないと。
「言うじゃねーか!さ、続きだ!ぶっ倒れるまでやるぜ!?」
「上等よ!死ぬギリギリまでやらないと、タロウに顔向け出来ないもの!」
私が最強の槍使いになって、タロウが最強の刀使いになれば最強の夫婦として……い、いけない!集中よ!目の前の男に膝を地面に着かせるまでは、死ぬ気で鍛えなきゃだものね。
地面が軽く抉れる程に動き回りながら、私とグレイプさんは槍を交えていく。かすり傷や多少の打撲はすぐに治し、また死ぬ気で戦う。シンプルだが、実践的で一番効率が良いとタロウが言っていたし、頑張るだけだ。
「しねぇぇぇぇぇぇぇい!!」
「馬鹿!木や壁にに穴を開けるんじゃねぇ!!」
◇◇◇
「はいっ!お姉ちゃん、タロウさん、お水だよ」
「あ、あひはとうほはいまひゅ……ひゅう……はぁ……」
「さ、流石に拙者も最近のタロウ君の相手は疲れるでござるよ。以前よりだいぶ力も付いて脊も伸びたでござるからなぁ」
そりゃ、もう十四ですし。成長期だし、こんなに鍛えてるのですから力も付きますよ。今日も勝てなかったが……だが、手応えが全く無いという事では無かった。
「あれ……桃さん、カルミナは?」
「今日は葡萄兄様に時間があるみたいなので、そちらに行きましたよ」
なるほど。なら……今日も『手加減された』『勝てなかった』と半ギレ半泣きで帰ってくるかもな。甘い物……いや、かき氷でも作ってやるかね。というか、俺も食べたい。暑いし……。
「そうか……ありがとう桃さん。今から休憩としてかき氷でも作りますね?」
「拙者はイチゴのシロップを所望するでござる!」
「私はモモのシロップで!」
二人とも、自分の名前になってる味がお気に入りの様でかき氷を作る時はいつも同じ味だ。
「アイガル、冷たいの頼むね」
『し、仕方ないわね!こんなに暑いと本来は難しいのだけれど、私にかかれば簡単だから、やってあげるわっ!』
アイガル製の氷なら溶けにくいし、少しの魔力回復を狙えるという優れ物である。修行の合間に食べるのが効率的だ……他の人にとっては。
よく考えると、俺の魔力を使っているし、回復量より作る時の魔力の方が減る為、結果的にマイナスである。これは最近気付いた事だったりする。まぁ、美味しいから良いんだけど。
一頻り、かき氷で休憩をした後はまた再開させる。今度は単純な格闘技に絞っての戦いをする事にした。簡単に言えば、殴り合いだ。勿論、回避や防御もするが……投げ技絞め技反則技もアリだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁああ!折れた!折れた!折れた!」
「早く立ち上がらないと反対の腕も狙うでござるよ?」
いったい……痛い痛い。我慢我慢我慢我慢……いや、いったぁ!!
「綺麗に折ったでござるから、魔法でならすぐに治るでござるよ」
「うぐぐぐ…………治りました。くらえっ!!……ぎゃああ!!」
無理……骨の一本でも折れたら激痛で足が止まる。指とかならまだ我慢も出来るが……それ以外は厳しいな。頑丈にならないとな……。
「ほら、早く立つでござる。まだ死んでないでござるよ?なら、足掻かないと。足掻いて、もがかないと。タロウ君が自分で選んだ道でござろう?」
「そう……ですね。続き、お願いします」
俺が強くなりたいとベリー先生に師事を仰いだのだ。弱音を吐く余裕も無くなるくらいにやらないと。
「残り半年くらい、今日ここからは容赦しないよ。気絶しても起こして治してを繰り返すから……いいね?」
本気の顔と声だ。残り半年で一応の契約というか、最初に払った月謝の金額分となる。だからラストスパートには早い気もするが、こちらからお願いしたい所だ。
「よろしくお願いします。一日でも早く、貴女を倒したい。覚悟は……出来ました」
「……良い目付きでござる。では、最初に……気絶の感覚を味わうと良いでござる」
ベリー先生の言葉が終わるとほぼ同時に、俺は顎下からアッパーを貰い……ゆっくりと意識が闇の中へと沈んでいった。
意識が無くなる最後の一瞬に、『あっ、無理かも』と、思ったのは仕方ないだろう?
◇◇◇
苛烈を極める修行のラストスパートが始まった日から――半年ほど時間が流れた。
何度も何度も死にかけ、その前までの修行が基礎だったんだと思い知らされた。
今日はうっすらと雪が降る寒い日だ。
いつもの山の山頂で俺とベリー先生は二人で対峙している。装備を整え、腰には愛刀を携えて。
カルミナも今頃は、別の場所でグレイプさんと向き合っているか、既に戦っているだろうな。今日は――言わば、最終試験。今までの約五年の集大成を見せると共に師匠を越えるという事で鍛えて貰った事に対する恩返しをする日だ。
始まりの言葉は無い。お互いが向き合って、刀に手を添えて、いつでも始められる構えになっている。
だが、あえて……自分の中で始まりのタイミングの為に言葉を発するならこうだろう。
“いざ、尋常に――――勝負ッ!!”
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