第124話 タロウ、そろそろ抱えれない
お待たせしました
よろしくお願いします!
街の中では、まだ警備人達が警戒状態を解いていないが……それを横目に、俺と紅緋は『すぱいす』へと辿り着いた。
「いらっしゃ……あら、タロウ君?たしか、冒険者の方達は……」
「えぇ、先程まで緊急クエストに。僕は海の方まで行ってたんですが、何とか終わったので先に帰って来たんですよ」
店に入ると、桐華さんのお母さんが出迎えてくれた。流石に緊急クエストの最中だし、お客さんはほとんど居なかったが……それでも何人かは優雅に甘味を食しているんだけど。
「紅緋ちゃんも一緒なのね。いらっしゃい」
『うむ!妾とタロウにお汁粉を頼むでな』
いつの間にこんなに親しげに話すようになったのかは謎だが……紅緋が注文をしてくれたので、俺達はテーブル席に座って待つことにした。
「紅緋、今更だけど……その角ってどのくらい硬いの?岩とか砕ける?」
『この角かえ?角は岩を砕くほど硬くはないぞ、せいぜい人や魔物を貫ける程度かの』
十分過ぎる気はするけど……見た感じはシンプルな角だけど、鬼の角だし強そうではあるな。ちょっと握ってみよう。
『ば、ばかものっ!今、掴もうとしたかえ!?』
「えっと……まさか、急所的な部分だった?」
ちょっと掴んで硬さを確認しようとしただけなのだが、掴む前に手を払われてしまった。しかも、珍しく焦っているし……気軽に触れて良い場所では無かったのかも知れない。
『鬼の角というのは……やっぱり内緒じゃ!……とにかく!気軽に触れてはいかぬっ!良いか!?』
「わ、分かったよ……ごめんね紅緋」
紅緋が内緒にするのなら後で書物でも漁るか……それにも載ってないのなら、最後の手段として緋鬼王にでも聞こうかな。ほらね?理由が分からないと、好奇心に負けて強引に掴むなんて事も考えられるしね。
『まったく……れでぃーに何て事をするのかえ。これは、お詫びが必要じゃな!』
「いや、待て紅緋。まだ触れてないからセーフだろ?」
それだとただの、お詫び損じゃないか……。どうせお詫びするのなら触らせて欲しいのだが。
『くっくっくー、お主の弱点は分かっておるぞ!……カルミナに角を触ろうとした事をバラされたくなければ、お団子を追加するのじゃ!』
紅緋……遂に主を脅してくるとは、だがこちらにも強力なカードはある。
「緋鬼王が今の紅緋を見たらどう思うかなー?翡翠も、今の紅緋を見て何を思うのかなー?」
『ぬぅ……いや!まだじゃ……マツリにも双葉にも晴海にも言い付ければ妾の勝ちじゃ!というか、団子くらい良いではないか!』
ヤバい……尚更、角に関して興味が出てきたな。確かに団子くらいは良いけどな。
「分かった分かった。お店でこれ以上うるさくするのも悪いし、お団子くらいは構わんぞ」
『くふぅー、完全勝利というものじゃな!』
紅緋が口元をニヤリと吊り上げ、勝利宣言をし終わったタイミングで注文していたお汁粉が届いた。お椀いっぱいに熱々なお汁粉、この季節には最高のおやつである。
つぶ餡、こし餡、どちらかを選べる様になっていて、基本的にはこし餡派の俺だが、お汁粉に関して言えばつぶ餡派である。
「紅緋はさ、つぶ餡とこし餡とじゃ……どっちが好き?」
『そういえば昔……ひかりも言っておったな。愚かな質問とはこの事じゃな。妾は、つぶ餡もこし餡も好きに決まっておろう!そこに優劣なんて無いぞえな!』
ま、確かに愚問だったかも知れないな。俺もこし餡をよく食べるがつぶ餡が嫌いって訳じゃないし。どっちも好きなのだからそこに更に優劣を付けようとするのは愚かだな。
「すいません、お団子の追加をお願いします。二人前で」
「えぇ、すぐに用意するわね!」
『美味しいのぉー美味しいのぉーくっふっふー』
紅緋が満足そうにお汁粉を食べているのを見てると、もっと食べさせてあげたい欲が湧いてくるが、際限なく食べそうだから余計な事を口走らない様にしなくては。……俺も温かい内に食べてしまおう。
◇
「ご馳走さまでした~」
「お口に合ったなら何よりよ。またいらしてくださいね~」
店から出ると、温まった体に冬の寒さが襲いかかる。雪が降るほどでは無いが、寒いモノは寒い。
「紅緋、俺はギルドの方に行くけど……どうする?帰るか?」
『そうじゃの、妾が行っても仕方なかろうしな。帰ってるでな』
ギルドまで連れて行ったらそれはそれで騒ぎになるか……。
俺と紅緋は途中までは同じ方向だから一緒に歩き、別れ道で別々の方向に歩きだした。そこからギルドへと向かう途中……上空から何かが落ちてくる気配を感じて、跳び退いた。
俺が下がらなければ丁度よく腕を伸ばした辺りに落ちていたソレは、落ちる勢いのままに地面へと落下し、土煙を巻き上げた。
「あっぶねぇ……鳥の糞かと思ったら、鳥そのものだとは……。大丈夫か、ピヨリ?」
『痛いッピ~、受け止めて欲しかったッピ』
うぅ……む。それは申し訳ないが、ほら、やっぱり上空からの落下物は怖いし……な。
「ほら、おいで。……っとと、改めて思うけど、おっきくなったなぁ~ピヨリ」
『成長してるッピ!……ご主人に乗れなくなるのは少し悲しいッピ』
抱っこするのもギリギリになってしまっもんな……。頭や肩に乗せるのはもう無理だろうな……成長は嬉しいけどやっぱり、寂しさも少しだけ。
「いつかは俺を乗せてくれよ。……っと、そうだ。まずは、お帰りピヨリ!無事で良かったよ」
『絶対に乗せるッピ!ピヨリは少し前までギルドに居たッピ!』
ギルドに居たという事は……流石はベリー先生。俺よりも仕事の完遂が早かったのか。空部隊は魔物の数は一番少ないらしいがその分、厄介って話だったんだがな……。
「ピヨリも活躍出来たかい?」
『戦い方の勉強したッピ!いっぱい倒したッピ!』
ちゃんと出発前に期待していた事はやってくれたみたいだな。ピヨリは珍しい種らしいし、強くなる可能性を秘めてるから是非とも頑張って欲しい。でも、怪我はあまりして欲しく無いけどね。
「じゃあ、ギルドに行こうか」
『出発ッピ!』
◇◇◇◇
私が目を覚ました時には太陽が真上にあった。陽が登り始めた頃に眠りについたから……だいたい六時間くらいは眠ってしまったのね。
「おっ、カルミナ起きたかい?あまりにも上品に寝ているもんだからそのまま目を覚まさないのかと思ったさね!」
「戦場でその冗談は笑えないわよ……」
ミミンさんは私より先に起きてたのね。周りを見渡すと、寝る前よりは魔物が減っている……というか、素材を剥ぎ取られて燃やされたのだろう。……私も手伝わなきゃね。
「ふぅ……その前に喉乾いたわね。顔もベタベタだし……」
私はアイテムボックスから水袋を取り出して、喉を潤した後にそのまま頭から被った。
「冷たい……」
「はっはっは!それはそうさね!今は冬だよ!」
冬の野外で寝て、よく風邪を引かなかったと思うけど……おそらく、シェリーフかフレイミアあたりが温度調整してくれたのでしょう。私が水を被るなんて行動に出たのも周囲が寒く無かったせいだしね。
『目覚めたのですね、カルミナ。やれ……水滴は風で飛ばしましょう』
「ありがとう、シェリーフ。手伝いと言っても何をしようかな?魔力も少しは回復したし……魔物を燃やすのは私がやろうかな」
パーティーの皆は火魔法を使えないから、死体を纏めて油を垂らして……焚き火から火を移して燃やしているみたい。油も勿体ないから私がやった方が良いわよね。
ミミンさんに話を通して、素材を剥ぎ取った魔物は一ヶ所に集めて貰う事にして貰った。
最後に纏めて燃やすとしても、まずはこの量を捌かないといけないのよね。
「ミミンさん、素材ってどこまで取ってますか?流石に細かい所までやっていたら時間が掛かり過ぎると思うのですが……」
「とりあえずは、魔石は絶対さね。後は……なるべく武器の素材になる物を頼むよ!」
魔石と牙や爪や丈夫な骨かな?防具になりそうなのは今回は良いのかな……なら、こっそり回収しても問題無いよね?
「分かりました!」
元気よく答えた物の……やはりこの数をを六人でやるのは大変よね。何か方法は……たしか、タロウが『単一作業で効率化』とか何とか……。
とりあえずは魔物を集めなきゃね。そしてから並べて、一気に魔石の採取と素材の採取。よし。
「ランディア、土人形を。散らばった魔物を集めて、並べてちょうだい。細かい作業は私達がやるから、お願いね」
『うむ!任せておくと良い。……質より量が良いだろうな。はっ!』
地面から葉っぱが生えるかの様に、土人形がポンポンと出来上がる。これなら集めるのを待つことにならなくていいかな。それよりも私達の作業の方が遅そうだしね。
「これで、最初は大丈夫。ミミンさん!今から魔物を並べるから担当を決めましょう。魔石担当や他の素材も担当を割り振って、それだけに集中するの」
「そういう事かい……いきなりこんな数の人形を作り出した時はどうするのかと思ったさね」
まさか、面倒になったから全部を潰し回るとでも思われたのかな……いえ、そんな事は流石に無いわよね。
「出来るだけ楽をしたいじゃない?タロウなら絶対にこうするわ!」
「ふーん?そのタロウって言うのはもしかして……コレかい?」
ミミンさんが小指を立てて見せてくる。たしか、恋人を示すやつだったわね。なら、私は顔を横に振らないといけないわね。
「それじゃなくて……コッチよ!」
「まぁ、その年でかい!?中々に甲斐性のある男さね」
私は首から下げているリングを見せてアピールをしておく。女性冒険者は少ないからこそ、より良い男を選ぶ傾向にある。つまり、タロウが知られると危ないのよね。
「タロウは私に夢中なのよ!まったく……困っちゃうわね~ホントに!もぅ~……ねっ!」
「そんな顔して言ったら、どっちが夢中なのかバレバレさね……」
おっと、危ない危ない……。話が脱線しちゃったわね。
「と、とにかく……効率よくいきましょう。夜までには終わらせたいですしね」
「そうさね、どれくらい掛かるかは分からないけど頑張るしかないさね!」
双子のサラさん、ミラさんは爪と牙の担当。コランさん、チルさんは魔石の担当。ミミンさんはその他の使えそうな素材を担当して、私はゴーレムの力を利用して硬い魔物の剥ぎ取りを担当する事となった。
作業を進めて行く内に、皆の動きも速くなってサクサクと進むようになっていった。これがタロウが言う効率ってヤツなのね……と、私自身も体感して感心していた。
「フレイミア、骨は溶かさない様に火力を調整してよ?」
『大丈夫さ、心配せずに任せておくと良いさ』
最初はゴーレムに魔物の使えそうな骨を採取して貰おうとしていたけど、フレイミアに魔物を焼却して貰っている時に閃いた。
――上手くやれば、途中で骨だけになるかも……と。
調整の感覚は、フレイミアに数体の魔物で試して貰った。その結果が、今から出る。
『行くよ』
魔物の山を包み込む大火が激しく燃えている。その熱量で周囲の温度が上がり、副産物だが私達にはありがたい。手が冷たくてしょうがなかったからね。
「フレイミア、大丈夫なの?ちょっと燃えすぎじゃ……」
『骨は他の部位よりは耐久力があるから心配ないさ。このくらいやらないと、どろどろの魔物肉を見ることになるよ?』
うっ……それは少し勘弁願いたいわね。そうよね、私がフレイミアを信じないでどうするのよ。
それから一分程は大火に包まれ、その火が収まった後には綺麗に骨と化した魔物の山が出来ていた。
◇◇
「フレイミア、これで最後よ!」
『ようやくだね、いくよ!』
夜。冬は陽が沈むのが早いから、本当はまだ夕刻かも知れないが辺りは暗くなっていた。結局、この時間まで終わらなかったのだ。魔物の数が多かったのもあるけど、ちょっと休憩を長く取りすぎたかも知れない。
「皆、お疲れさね……。今日はここで野宿をして、明日になったら街へと戻るとするよ!」
「「終わった……!」」
「た、大変だった」
「そうですね……貴重な経験でした」
今日も帰れないのね……ま、流石にこの暗さの中で私が先に帰るのは危険かしらね。ならせめてタロウに連絡をしておかないと。きっと心配しているに違いないもの。
「アトラス、タロウに帰るのは明日になるって伝えてくれるかしら?」
『んー!!今日のお菓子が足りないんだぞー……』
えっ!?たしか、私達が休憩している時にちゃんとお菓子はあげた筈よ!?……まさか、あれで足りないと言うの?
「で、でも……結構食べてたわよね?」
『うぅ……もっと!』
もっとって……それって何か違うんじゃ無いかしら?確かに、何だかお菓子をあげたくなる感じなのだけど……はっ!?まさか、タロウはこれに負けて甘やかしてるんじゃ?
「可愛く言っても駄目よ!女の子は我慢が大事なのよ?」
『むーーっ!』
あっ……ちょっと駄目かも知れない。頬を膨れさせて抗議するアトラスは愛嬌だらけで可愛いわね。
「アトラス、とりあえずタロウに伝えてくれるかしら?……そしたら一緒にお菓子を食べましょう?」
『うん!すぐに伝えるんだぞー』
可愛いは正義ってタロウが言ってたけど……今なら何となく理解する事が出来たわ……。
それから、アトラスも混ざって皆で晩御飯を取ることになった。料理は意外にもミミンさんが出来て……お世辞ではなく、美味しかった。
お腹一杯になった私達は、お喋りしながら夜を過ごして……ペアで交代しながら仮眠を取り、周囲の警戒と火の番をしていた。そしてようやく……ゆっくりと登った太陽が私達を照らしてくれた。
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(´ω`)




