第123話 タロウ、作業終了
お待たせしました!
よろしくお願いします!
太陽の暖かみを感じながら周りを見渡してみると、海上に残っていた最後の魔物を討伐し終わった所だった。つまり……一日掛かりでようやく魔物の群れを討伐しきったという事だ。
「終わった……わね」
「終わりましたね」
俺とマリカルさんが謎の感動に浸っているが、それは少しの時間だけですぐに怪我人の確認、素材の採取、壊れた場所の資料作成、遅れて魔物が来ないかを警戒。やる事はまだあって帰れない。
マリカルさんが人を割り振ってくれた事で、スムーズに作業へと入れたが……俺は一番大変な素材の採取をする事になった。
「量が量だよなぁ~」
アクエスとアイガルの合わせ技で沖合いに居た魔物の死体、陸に上がって来たから倒した魔物の死体……合わせれば山のように存在している。この数を捌かないといけないのかと思うと気が滅入ってしまう。
「ワニからは外皮と牙と肉。カメからは甲羅と血や内臓が取れるっと……うへぇ」
魔物を捌いた事が無い訳では無いが、慣れるまではまだ少し時間が掛かりそうだ。死んでいると分かっているのだが、今にも動き出しそうな気がするし……倒しておいて何だけど、可哀想に思えてくる。
それでも仕事の一環と割り切り、剥ぎ取り切り取り抉り取っていく。他の作業に振り分けられていた人も手が空いたらこちらを手伝ってくれて、作業は順調に進んでいった。
「これは薬の素材にもなるわね~おぉ!こちらは珍しい素材だわっ!!」
「マリカルさん……素材の吟味はギルドの人に任せるとして、剥ぎ取るのを手伝ってくださいよ」
さっきからこの人は素材を見ては一人で盛り上がっていた。こちらは手を血で汚しているというのに……この血を塗ってやろうかと邪心が芽生えそうだ。
「ふむ……私は力が無いのだが?」
「魔法で肉を冷凍させるとか……おっと、そのアイテムボックスにしまおうとしている物は返してくださいね?」
珍しい素材が欲しいのは分かるが、それもギルドに一度預けてから報酬の一部として配られる事になっている。勿体無いというか二度手間というか……貰っても良いと俺も思うが、規則である。
「ちぇ、見逃してくれても良いんじゃないかい?あと、私は氷魔法は使えないのだよタロウ君!」
「はぁ……。氷魔法が使えてたら見逃すのもアリだったんですがね、残念ですよ」
マリカルさんが火魔法は使えると言うので、素材を剥ぎ取った後の死体焼却をお願いしておいた。数が多いし、魔力が多い人の方が適任だしな。
「紅緋はどうする?先に帰るなら狛犬を出すぞ?」
『くくっ、妾はタロウが終わるのを待つぞ?式神ゆえな』
中々良いことを言ってくれるじゃないか――と、紅緋を召喚したての頃なら思ったであろうな。何て良い式神だろうと感動で心打たれただろう。
「……今日のお菓子は終わりだぞ」
『さっさと狛犬を出せんかえ!!妾は帰って晴海に菓子を貰うのでなっ!』
やっぱりなぁ。はぁ……さ、作業に戻ろうかな。紅緋は無視で構わないだろう。緋鬼王と違って自分の事ばっかりだからな……。
『聞いておるのかえ!?妾は帰るのじゃ!』
「ルミナス!紅緋を拘束してくれ!」
『えぇ、分かりましたよ』
逃げられる前に先手を打っておく。さて、紅緋にも手伝いをして貰いますかね。
『な、何故妾は拘束されたのかえ!?』
「くっくっく……。紅緋ちゃんよぉ、俺が触れて魔力を流したらどうなるか……分かるよね?」
式札に戻るだけだが、それだと紅緋は大好きな甘味も食べられないし、戦う事も出来ない。式神にとっての一番の脅しとなるだろう。
『くっ……何が目的じゃ!?』
「普通に手伝って。そうしたら帰りにでも甘味処に寄っていこう。カルミナや他の皆には内緒でね?」
不安そうな紅緋の顔が一気に明るくなった。……堕ちたな。これでしばらくは大人しくお手伝いをしてくれるだろう。手伝いさえしてくれれば、甘味くらい報酬としてあげるのだ。紅緋は中々手伝いをしないから、いつもアトラスより報酬が少ない。
『て、て、手伝うのじゃ!早く片付けて行くのじゃ!』
「はいよ。ルミナス、離してあげて」
『分かりました。タロウ、私も手伝いますよ』
ルミナスと紅緋が手伝ってくれたお陰で、先ほどよりは効率が良くなったが……結局作業が終わったのは、お昼を少し過ぎた頃だった。
◇◇◇
森の中をシェリーフの案内で歩き、迷う事無く真っ直ぐ抜けると……森の外でも魔物と戦っているパーティーの姿があった。
「カルミナかい!?皆、カルミナが戻ってきたよっ!とりあえずあと、四匹蹴散らしな!」
「「「はいっ!」」」
私が手を出す前に片付けられてしまった……少し残念ね。でも、無事に森を抜けれて怪我も無いみたいなのは良かったわ。
「先に報告ね!魔族は倒したわ……でも、森の様子を察知すると、魔物がかなりの数集まってしまっているみたいなのよ」
「つまりは、これ以上は増えないけどまだまだ数は多いって事かい?」
ミミンさんの言った通りで間違いは無いと思うけど、シェリーフの探知で探った結果……魔物の塊がいくつもあるという話で、下手するとうかうか眠って要られない可能性もあるらしい。
これから夜になり暗くなる事を考えると、魔族よりも魔物群の方が骨が折れそうなのよね。
「えぇ、だから休憩も取れる時に取っておきましょう。幸い、私の魔力はまだまだあるわ。夜になってもここ周辺を明るくするのは任せておいて!」
「……助かるよ。私はともかく、他の子は暗視スキルをまだ持っていないみたいだしね」
私はサンライカと契約した恩恵の一つとして、光の調整が出来る様になった。それまでは暗い所での戦闘は難しかったし、明るいというだけで安心する事はよく理解しているつもりだ。
光に釣られて魔物が多く集まってしまう可能性は高いが……それは頑張って貰いましょうかね。勿論、私が誰よりも倒してタロウに褒めて貰う予定ではあるのだけど!
「では、休憩しながら作戦を練りましょう。皆、紅茶はお好きかしら?」
休憩も優雅に。冒険者とはいえ、女の子にティータイムは必須なのよ。
◇◇◇
サンライカの力を借りて、私達の上空に光の玉を作り出した。
「はぁ~これは凄いじゃない!これなら魔物に遅れを取られる事も無いさね!」
「凄いです!ここだけお昼みたいですね」
「「眩しいくらい」」
「で、です!凄いです!」
あんまり褒められると照れ臭いけど、これくらいの灯りなら一日どころかそれ以上は持たせられる。問題は、これからくる魔物の群れの方でしょうね。
作戦としては、まずは機動力を奪う事を中心に攻撃をする。トドメは後回しで、とりあえずは狩り続ける事を優先させる。
『カルミナ、第一陣がやって来ますよ』
「そう。……皆!もうすぐ魔物が来るわよ!」
皆の表情が引き締まったかは先頭にいるから分からないけど……ここからは戦い。死にたくないのなら必死に足掻いて貰わないと!
『カルミナ、来ましたよ!!』
シェリーフの声の後に、森の中から魔物がどんどん溢れだしてくる。ここは景気付けに一発いっておきますかねっ!
「『土石流』!『散雷』!」
……手応えはアリね!素材を傷付ける事になったけど、これだけの量を持ち帰っても買い叩かれるのが落ちだし……少しくらいは大丈夫なはず!!
「……やっぱり、魔法使いは恐ろしいさね」
「遠距離なら魔法使いに分があるかも知れないけど……ベリー先生を見てたらね、遠距離も近距離も関係なく感じるわよ?」
遠くから魔法を放っても回避され、気が付いたら近接戦へと持ち込まれてしまうのよね。そしたら魔法に割く余裕も作れないし……自爆覚悟で距離を取るくらいしか今の私には出来ないし……。
「何体か抜けて来たわよ、ミミンさんっ!」
「あんたら、気を引き閉めな!先は長いよ」
――私達は夜通し戦った。最後の最後まで戦えたのは私とミミンさんだけで、他の皆は疲れ果ててしまったけど……よく頑張れてたと思う。ベリー先生に鍛えられている私でさえ、もう少し戦いが伸びていたら倒れていたかもしれない程だから。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……これは、はぁ……キツい……さね」
夜の暗闇が去って、太陽が登り始めた。私の光が照らす範囲さえも明るくなったし、魔法を解除して周りを見渡すと……血と死体。およそ、子供や戦いに慣れてない一般市民には見せられない惨状となっていた。血の海とはこういうのを言うのでしょうね。
「ミミンさん……も、休んでて良いわよ。とりあえず、まだ……息のある魔物は……私の魔法で何とかしておくわ」
「はぁ……なら、任せるさね」
豪快にもその場で大の字になったミミンさんに少し驚いて、慌てて近くで息のある魔物を探したが……運良く近くには居ない様だ。
「はぁ、良かった。じゃあ皆、息のある魔物にトドメをお願いね。魔力はまだあるけど……消費は抑えてね?」
『えぇ、カルミナも休んでください』
『うーん、私が手を出しちゃうと素材が燃えてしまうから……カルミナの警護にでもついていようかな』
『あい、分かった!でもその前に……荒れた地面を均してこよう。ボコボコしていると落ち着かなくてなっ』
『では、私の役割はこの死臭が漂う空間の浄化ですかね。それが適任でしょう。皆さん、ちゃんと動いてくださいね』
『アタシに任せておいて!シェリーフ、行こう!』
夜更かしなんてあんまりしないし、戦いの緊張から解放されたからかしら……なんだか眠たくなってきたわね。先に休んだ双子ちゃん、コランちゃん、チルちゃんが起きたら少しだけ眠らせて貰おうかしら。
消費を抑えてとお願いした筈なのに、魔力がどんどん減っていき……精霊の皆が満足して帰って来た頃には私の魔力は既に、修行で命先生にまだ行けると発破を掛けられる時くらいのギリギリさになっていた。体がダルい……。
「あ、あの~カルミナさん……ご、ごめんなさい!」
「ごめんなさい……って、どうしたの?チルちゃん」
チルちゃんは少しオドオドしている。きっと、真っ先に疲れ果ててしまったのを申し訳無く思っているのでしょうね。私の方が年下……だと思うから、余計にね。
「カルミナさんに、いっぱい助けて貰っちゃって……わ、私は冒険者になったばかりで迷惑ばかりで……」
「チルちゃん、私も最初は弱かったの。誰でもそう、最初から強い事なんてないのよ?私には目的があって、その為に強くなってるの。だからチルちゃんも、落ち込む暇があるならその槍を振るのをオススメするわ!」
チルちゃんも今日を生き抜いたのだし、明日はきっと今日より強くなれる筈だもの。諦めさえしなければ、きっと強くなれるわ。ま、時には運も必要だけど、それは言わなくて良いわよね。
「チルちゃん……あと、ゴメンね。少しだけ……眠たくて、ここにいる魔物は死んでるから新しく来た時にだけ起こして貰える?」
「う、うん!ゆっくり休んでね。少しでも魔物の素材は剥ぎ取っておくからっ」
そう言ってくれて助かるけど……見せて貰ったナイフじゃ切れ味が心配になる。
「チルちゃん、これ……貸すから、お願いね。ふぁ~~あぅ……お休みなさい」
「あ、ありがとう。お休みカルミナさん」
ローブの内側からナイフを一本貸し出して、そこで厳戒が訪れた。本当に危ないのなら精霊達が起こしてくれると踏んで、私は意識を落とすかのように眠りについた。
◇◇◇
港の警備兵の方々との挨拶もそこそこに、俺達は街へと帰還する事になった。最後には冒険者ギルドに集まれば良いし、他の部隊がまだ戻っていない可能性も考えて……俺と紅緋は足並みを揃えず、先に街へと帰ることにした。
『くふぅー、今日も肌寒いからなー妾はお汁粉にでもするかの?』
「良いかも。桐華さんの家にでも行ってみようか」
先に帰る理由としては、紅緋が早く帰らないと暴れそうだったからだ。
『狛犬よ、もっと急ぐのじゃ!』
流石に走る体力……というか気力は残っておらず、式札から狛犬を喚び出して乗せて貰った。ふかふかの毛皮が気持ち良い。風は魔法で避けているし、中々の快適具合だ。
「狛犬、無茶じゃない程度でいいからなぁ~」
それでも街までの距離を走り抜けた狛犬はめちゃくちゃ早かった。多分、馬より速いと思う……狛犬は楽しそうだから問題は何もないんだけどな。
狛犬を式札に戻して、俺達は甘味処へと足を進めた。
誤字脱字がありましたら報告お願いします!
(´ω`)




