第122話 タロウ、夜明け
よろしくお願いします!
森の中を進めば進むほど魔物の数が増えていき、私とミミンさんを中心に討伐しているが、カバーが間に合わずチルさんがかすり傷を負ってしまった。
「こ、これくらい平気です!」
「ダメよ!今すぐ治すから腕をだして」
私はミミンさんに任せて治療を優先させた。前にタロウが怪我は優先的に治す様に教えて貰ったからだ。何やら衛生面がどうたら言ってた気がする……とにかくタロウが言っていたから大事なのだろう。
「『癒しの光』」
「ほわぁ……す、凄いです!傷が……」
傷は綺麗に治ったわね。女の子ですもの、冒険者といえ傷は無い方がいいに決まっているわ。
「さ、油断せずに行きましょう。先手必勝よ! 」
「は、はい!」
木に印を付けながら歩き続けた。魔物を倒したら魔石を取って進み続けたけど、魔石が増えるばかりで思った程は進めていなかった。雨で歩きにくいのも要因の一つでしょうけど。
「こうなると、私達の隙間を抜けて行った魔物が多いのか少ないのか気になるさね」
「多分……少なくは無いかも知れないわね。私達が歩いている所でさえこんなに多いのだから」
少し離れた所にいる魔物を見付けたら魔法を当てて呼び寄せたりはしているのだけど、それも目で視える範囲だけなのよね。
「街の護りは安倍家と九重家の門下生達が参加してくれるわけだし、私達は元凶を……」
『カルミナ、居ました。他よりも魔力の多い集団の中で君臨するように佇んでいる者が』
シェリーフが見付けてくれたみたい。なら、急がないといけないわね。
「みんな、ごめんなさい。魔族を見付けたらから私は離脱するわ!」
「カルミナ、相手は魔族さね!どうやって見付けたかは分からないけど、ここは皆で行った方がいいさね!」
皆には悪いけど、私の魔法は威力が高く範囲が広い技が多いからミミン以外は邪魔になってしまうのよね。一応、身体強化で近接戦をするつもりではあるのだけど……それでも一対一の方がやり易い。
「大丈夫よ!今さらこんな魔物を操らないと攻められない魔族になんて負けないわっ!!皆は森の外に戻って、出てくる魔物の討伐をして頂戴?」
「カルミナ……心配だけど、あんたの瞳からは傲慢さや不安な感情は見えないさね。分かったよ……皆、迷わない様に森を出るよ!」
「「頑張ってカルミナさん」」
「が、頑張ってください」
「先に戻ってますね」
さて、行きましょうかね。私はシェリーフの案内する方に、先程までとは比べ物にならない速さで動き出した。雨で地面がぬかるんでいようと、修行で山を走っていたのだもの……簡単よ。
◇◇◇
森の中を突き進んで十数分程度、邪魔になりそうな大きい体躯の魔物以外は無視をしてきた。
『カルミナ、もうすぐですが……』
「その前にこいつ等を倒さないといけない訳ね……」
皇帝クラスまでとはいかないまでも王クラスではありそうな、小鬼、豚人、鬼人……それ以外にも擬態樹や合成獣までいる。
――が、何の問題も無いわね!
「行くわよシェリーフ!」
『お任せを』
私は1番森を熟知していて、魔物以外を傷付けない為にシェリーフに力を貸して貰う。
「切り刻め!『風の薄刃斬』!!」
撫でるかの様な風が吹いた。しかし、その風を感じた魔物が瞳に映すのは上空の森……それか地面の泥。シェリーフの魔法に抵抗出来る程の強度のある肉体を持った敵はこの中には居なかったのでしょう。
目の前に立っていた魔物が全て横たわり、その奥に悠然と木に背中を預けて立っている男が居た。魔族だろう。
「あなたが、今回の首謀者の一人って事でいいのかしら?」
『ただの小娘かと思えば中々にやるではないか。まずはここまで来たことを褒めてやろう。魔物程度とはいえ、こやつ等を倒すとは驚いたぞ?』
筋肉質で背も高く、人を見下している態度。青白い肌に角……魔族らしい魔族の格好をしている。
「聞こえなかったのかしら?……いえ、そもそも他に魔族らしい気配は無い様だしあなたが、首謀者なのでしょう」
『そうだ……しかし、魔物というモノは使えない。この私が動いた方が早いでは無いか?そうだな、まずは貴様の首を弄びながら他の者も狩るとするかな?くははははは……はっ!?』
「疾風迅雷!疾風怒濤!大いなる風の力をその身で体感せよ!!『風の無双連呀』」
『がぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……!!』
穿ち、抉り、切り刻み……飛ばし、落とし、叩き付ける。連続した攻撃が止まる頃には既に虫の息。最初は槍で倒そうかとも思ったけど、気が変わった。
「それにしても、まだギリギリで生きているのよね……ホント、生命力は凄まじいわね」
『カハッ……コヒュー……コヒュー……ぎ、ぎざま……』
まぁ、槍の練習なら帰り際に魔物で練習すればいいかしら?
「別に悪いとは思わないわよ?これは殺す殺されるの戦いなのですから。あなたが、中級か下級魔族なのかは知らないけどその程度に負けていられないのよ」
既に虫の息。すぐに楽にしてあげた方が優しさよね。
「こういう時、何て言うのだったかしら……そう!冥土の土産に教えて上げるわ、ベリー先生の教えの一つを。会話をする敵は何かの準備をしていると思え。会話をする時は何かの準備をしろ。……魔法の準備をさせて貰ったわ、来世で覚えてたらいいわね。じゃ」
私は魔族の首を切り離し、火魔法で全部燃やしておいた。……そうだ、タロウに連絡しなきゃ!
「アトラス、タロウに終わった事を伝えておいて!後は残党狩りをするだけだって!」
『分かったぞ~。……向こうも終わったって言ってるぞ~?』
そう!流石はタロウね。なら私も早く森を出て、魔物を倒しきらないとね!
◇◇◇
休憩の終わった俺はまた前線に復帰というか、紅緋と一緒にワニやらカメやらを倒していた。
交代で休憩に入るマリカルさん曰く、夜になっても倒しきれない可能性があるとの事だ。まぁ、もう夕方なのになるというのに、まだ定期的に海上にも陸にも魔物が現れるからな。魔物が活発になり易いと言われる夜に減るとは思えない……。
「魔物の数じゃ陸部隊に行った人達の方が大変か……そもそも、夜に戦うって危険だよな」
『タロウよ、あっちで篝火の用意をしているぞ』
紅緋の指す方を見てみると、ここの警備に当たっていた人達が一定の間隔に置かれていた鉄製の篝籠に雨避けの布を火の邪魔にならない高さで設置して薪と油に火を点けていく。
「湿気で薪がやられてないといいけどな……」
『くふぅ~妾には夜も昼も変わらんゆえな!』
それを言うなら俺もスキルの恩恵で夜は平気だ。だな、冒険者の中にどれだけ夜に海上への攻撃が出来る人がいるのやら……。
それからも、斬っては少し待機、斬っては少し待機を繰り返した。敵自体は硬さは有るものの、さほど強くは無いから苦労も無いが……なんだろう、この……ただ時間だけが過ぎていく感覚。凄く勿体ない気がする。
「魔族も倒したし……もうそろそろ途切れてもいいと思うんだけどなぁ~。はぁ……どんだけの魔物をけしかけて来てるんだか」
『何とかならぬのかえ?少し退屈になって来たんじゃが……』
とは、言ってもなぁ……海の表面辺りを凍らせるのにも限度があるし、海流を操るのにも限度がな。でも、そろそろ素材も飽和しそうだし……何か考えないとな。
「……魔法に頼るしかないか」
『タロウ、私に良い案がありますよ』
どうやらルミナスは案が浮かんだらしい。
『この海との境目に雷属性の式札を張り、雷の結界を作りましょう。さすれば、雷の強さにもよりますが、上がる前に痺れ落ちるでしょう』
「なるほど、式札でか……」
俺がイメージしたのは有刺鉄線みたいな横に長く雷が流れているモノだ。その式札と俺の魔力量があれば夜の間も最低限の人数でやり過ごせるかもしれない。
「よし……ならさっそく手持ちの限り雷の式札を描かないと。紅緋!少し離れるから任せた!」
『退屈なのは変わらんが……なっ!任せておくと良いぞよ』
頼もしい紅緋の声を後にして、さっそく取りかかる。この港を一定の間隔でやるとしたら、篝火と同じ数は用意した方が良いだろうけど……残念な事に少し足りないな。足りないのは俺達の守る場所にして、警備兵の人達が居る所を優先していこう。
◇◇
「起動せよ!『通雷柵』」
「「「おぉ!!」」」
よし、バッチリ起動した。後は魔物が上がって来てくれると……
「ん?」
どこかで水に何かが落ちる音が聞こえ、そこから更に二回ほど同じ音が聞こえて来た。
『タロウ見よ、カメが浮いておるわっ!叫ぶ余裕も無く感電したのじゃろうてな!くくっ』
「もっと、奇声というか叫び声があると思っていたけど……雷の威力が強すぎたのかな?」
それでも予想以上の成果じゃないだろうか。これなら夜になっても戦えるだろうし、十分に休める。俺達冒険者の所だけ柵は無いけど、それは別に紅緋が居れば事足りるしな。
「タロウを同じBランクだと思いたく無いわね……」
「あっ、マリカルさん。休憩はもう大丈夫なのですか?ランクは高くても、うま味は少ないってベリー先生が言ってましたね」
だから、俺もBランク程度で十分だと思っている。
「君はあのベリーさんとも知り合いなのか……安倍家と九重家に繋がりがあるとか、凄すぎる……」
「は、ははは……。それはともかく、後は遠距離からの攻撃をちゃんと防いで耐えきれればこちらの圧勝ですよ」
ここまでやってから怪我人や死人を出したくは無い。圧勝しているなら圧勝のまま終わらせる努力をしないとな。
「じゃあ、タロウは休憩だ。私と君は交互で入る事にする。君のお陰で余裕も出来た訳だから任せておくれ」
「……分かりました。一旦休憩に入りますけど、何かあったら呼んでください」
まだ動ける体力はあるけど……もしかすると、魔力面で心配されたのかもしれないな。そっちも一応は余裕があるんだけど、休めるなら休んでおこう。
「紅緋、お菓子を渡しておくから、手が空いたら食べておくと良い」
『おぉ!そんなの今すぐ食べるに決まっておるであろう!はよう!』
急かす紅緋にお菓子を渡して、俺は安全な後方でルミナスやアクエス、アイガル、ダークラムと共にお菓子やお茶を飲みながら暗くなるまで休息を取った。
夜になっても篝火のおかげである程度の視界は確保されているが、やはり遠くの敵は分かりにくい。たまに水に何かが落ちる音が聞こえくるから、『通雷柵』の効果は絶大みたいだ。
さて、そろそろ交代して見張り兼討伐でもしますかね。
「マリカルさん」
「おっ、タロウ来たか……と、言ってもさほどする事は無いぞ?私達も警戒してるが、何やら攻撃が減ってきているようだし」
それは良かった。俺の暗視スキルで辺りを見渡す限り、柵もまだ大丈夫だし海上の敵も減っている様にみえる。
「ようやく、増えなくなったって所ですかね?後はこのまま減らせば……」
「うん!明日の朝には警備兵達に任せて帰還しても大丈夫になるだろう」
思い返せば、魔物の数が多いから緊急クエスト扱いだが……敵も全然強くは無かった。だから、早く帰れるのなら修行も再開できるし、良かった。
「じゃあ、朝までは気を抜かずに頑張りましょう」
「そうだな。タロウは眠たくなったらいつでも寝て大丈夫だからな?」
急な子供扱い……たしかに規則正しい生活を送っているし朝は早かったけど、戦場で一夜くらい起きておけない事は無い。前の世界ではむしろ、夜更かしばかりしていたモノだ。
「では、眠たくならない為に魔法の話でも聞かせてください。俺の知らない知識をマリカルさんは持ってそうですしね」
「ふむふむ、そうか、私の魔法の知識が気になるかね!良いでしょう、特別に話してあげる!まずは……」
それから夜通し、魔法の話を聞かされて……気付けば朝になっていた。
小鳥の鳴き声、海風の冷たさを全身で感じる。それに、いつの間にか降っていた雨も止んだみたいで、綺麗な朝の光が1日中寝なかった俺の瞳にはとても眩しく映った。
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