第120話 タロウ、力を発揮するが、少し油断する
明けましておめでとうございます!
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(´ω`)
海部隊のレベルの低さを知ってしまったが、いまさら何を言っても仕方ないと諦めて……俺は俺の出来る事をしよう。
「はぁ……夜まで掛かると大変だぞ?さて、どうするか」
冒険者達から少し離れ、少しだけ見晴らし良い小屋の屋根で思案する。ここからならよく見える。敵はどんどん増えて来ているように思えるし、警備隊の人達も陸に上がって来た魔物を討伐し始めた。
冒険者達も魔法で海上の敵を倒しているが……遅い。雷を海に落とすのが早い気もするが……魚に影響が出るのはよろしくない。ならやはり、水魔法や風魔法あたりかな?とりあえず決めた。一掃しよう。
「アクエス、アイガル、数なら数で。大技行くぞ」
『わかったの!』
『任せなさいよ!』
アクエスとアイガルにイメージを送る。アクエスの力で魔物を円形の水に閉じ込め、水を回転させながら海の上に浮かべる。そして、アイガルにはその閉じ込められた魔物を水ごと凍らせて貰い、凍死させる。
海という水をそのまま利用するから魔力は少なくて済むし、アイガルも水を凍らせるだけだから魔力の消費は少ない。凍らせても最後は水に戻る為、これなら環境にも優しいだろう。
「アクエス、アイガル、いけるよな?」
『勿論なの!海の上に沢山浮かべるから、後はアイガルに任せるの!』
『的が現れるのなら、それを凍らせれば良いだけだし簡単だわ!』
二人とも準備は出来たみたいだな。よし。
「水氷魔法『水牢氷結』!!」
目に見える範囲に大小の水に閉じ込められた魔物が浮き上がり、次の瞬間――全てが氷へと変化した。
一瞬の様にも思える現象に先程まで騒がしかった港に静寂が訪れた。こんな事を考えてる場合じゃないかもしれないが、沢山の氷が海の上で太陽の光を反射して綺麗に輝く光景は、幻想的で美しかった。
立ち直りは、警備隊の人達の方が早かった。目の前に敵が現れたという事もあるのだろうが、冒険者がやったという事で意識を切り替えられたのだろう。
だが、問題は魔法使い達の方だ。普段、魔法を使わない人達より今の魔法について理解力がある分、衝撃が凄いのだろうな。いつまでもボーッとして貰っても困るからここは、安倍家の名前を拝借しよう。
「マリカルさん。今の内に休憩を。休む時には休みましょう」
「あぁ……それよりタロウ、今の……魔法は?」
俺はマリカルさんの所に近寄ってまずはこの人から立ち直らせようと声をかけたが、思った以上に使えなくなってしまっている。
「安倍家」
「えっ……?安倍家?」
この国で暮らしているのなら知っている名前だ。これで無理矢理納得して頂く。
「言ってませんでしたが、俺は安倍家で修行させて貰っています。安倍家!凄いのは安倍家です!分かったら早く指示をっ!」
「そ、そうか。そうよね!凄いのは安倍家……でも、門下生でこのレベル凄すぎない?安倍家」
安倍家は凄い。なんなら九重家も凄い。強引だが納得して貰ったなら早く動いてもらおう。また、どのタイミングで敵が押し寄せるか分かったもんじゃ無いからな。
「あの氷はどうするんだい?」
「あー、そうですね……魔物の素材とかは必要ですし、引き寄せておきますよ」
アクエスにお願いして、水を操り陸にあげる。氷の中で魔物が氷漬けにされており、なんだか氷河期を題材にした博物館に来たかの様だ。素材も特に傷ついてはいないみたいだし……海の魔物の素材なら相場からしても良い値段で売れるだろう。
“す、すごい”
“まさか、安倍家の門下生たったなんてね”
“で、でも心強いですね!”
「皆、気を抜くなよ!私の探知に敵は引っ掛かっている。水の中に潜んでいるからな!」
「「「はいっ!」」」
何とか士気も戻り、魔物への警戒も再開された。最初よりは肩の力も抜けて、良い状態の様にみえる。俺もこれでようやく、この周辺で近接戦への警戒が出来るな。
警備隊の戦っている陸に上がって来た魔物の見た目は、ワニや亀。だが、俺の知ってる姿より大きく……ペットとして飼うレベルをはるかに越えている。
「お、おい!上がって来たぞっ!」
「俺に任せてください」
ついに俺達の守護するテリトリーにも魔物が上がって来た。強靭な顎と鋭い牙に硬い体を持つワニ、それと亀も出てきた。亀も似たような物で、動きはワニほどじゃないがそこそこ速く動き、硬い体を持っている。
少し厄介かも知れない……妖刀を使うか。
妖刀『呪傷』と妖刀『吸魔血』。ハグとクロマ、闇の中位精霊の力を借りて狩るか。
「そうだ……ダークラム、敵の足止めをお願いしたいんだけど方法はあるか?」
『……無いことも……ない。闇の鎖で動きを封じれる……重くなる……』
……なるほど。イメージは出来た。敵が来る度にとりあえずの足止めをお願いしておこう。
「ハグ、クロマ、頼むぞ!身体強化を使っているから今日は二刀流だ」
『ハグハグハグ……任せて……ハグハグハグ』
『おうよ!さっさと血か魔力を俺に喰わせなっ!』
背中に張り付いたダークラムが動きを封じ、左手のハグが傷の治りを遅くして、右手のクロマは暴れまくる。それを俺が上手く操る事が出来れば、こんな奴等は敵じゃない。
「皆、行くぞっ!」
『いやぁ……そこまで頑張らなくても……いいんじゃないかなぁ……』
『ハグハグ……おー……ハグハグ』
『おっしゃあ!!血と魔力をよこせぇぇぇぇ!!』
背中と左手は静で、右手は煩いが……これも修行と思って行くか。
ワニを斬り亀を斬り、予想以上に現れる敵を削って削って削りまくった。他に近接戦闘が得意な冒険者は来ていないし、ここで魔力を使わせるのは勿体ないからな。
『おい……オイ!来タゼ来タゼ来タゼ来タゼェ!!』
少しずつ吸った血でクロマの腹が満たされたみたいで、刀身が紅に染まり始めクロマの気性も荒くなっていく。
「よしっ!喰い散らかせクロマっ!!」
『ウッシャアアアアアアアッッ!!』
他の人には刀身が伸びる様に見えているだろう。確かに伸びているが、実際はクロマの進む軌道をなぞっているだけである。
右へ左へ曲線を描きながら、少しずつ削っておいて動けなくした魔物を貫き倒していく。
“ま、魔剣?”
“あの子、とんでもないわよ!?”
正直、早く終わらせて帰りたい。報酬は楽しみだが、これならベリー先生やカルミナと修行している方がまだマシなレベルだからな。
「おい!タロウっ!防げっ!!」
「はっ……なっ、くそっ!!!頼むルミナス!」
衝撃で波がはげしく揺れ、木々も揺れ、冒険者は風で後ろへと転ぶ。砂煙が巻き起こった。
今のは海上からの攻撃。予想より弱い陸に上がる敵にも海上にいる敵にも油断していた俺をぶん殴るかのような一撃。いくら速い魔法とはいえ自分で防げないなんて……ダセェな俺。
◇◇
衝撃から立ち直ったのか、マリカルさんが俺の所に駆け寄って来てくれた。
「タロウ!大丈夫だったかい!?」
「えぇ、お恥ずかしながら油断していました。弱い魔物ばかりかと思っていたら……居ましたね強いのも」
目視で確認出来る範囲には居ない。海に潜っているのか、それとも遠くて見えていないだけなのか……ともかく、あの威力の攻撃を無差別に放たれたら崩れる事だけは分かった。
一発目からまだ攻撃は来ていないが、あの一発でこちらに警戒を緩めさせない……つまりおちおちと休憩も出来ない状態へと陥れてきた――だから、先に攻めてやろう。
至ってシンプルな答えを出した俺は、敵の探知から始める。
「海ならアクエスの独壇場だ。頼むぞアクエス、魔力の大きい者や魔物……いや魔族だと思われる奴が居たら教えてくれ。片っ端から片付けよう」
『わかったの!』
アクエスから送られてくる情報は多かった。特に魔物の数と魚の数。まだまだかなりの敵が潜んでいる事が分かった。この魔物の全てがこちらへと向かっているとしたら負けるだろう。
普段は水の中で生きているだけの魔物だ。今回は何者かに操られたというか、誘導されて攻めていると思って良いだろうな。じゃなきゃ、急に纏まって人間を攻めだすとは考えられない。船を襲う事はあるかもしれないが、それとこれとは別問題だろう。
『特に大きな魔力は二つあるの。でも片方は水中の深くに居るから成長した魔物と判断するの』
「なら、もう一つの方だろう。遠いか?」
遠いと出向かわなくてはいけないし、戦う場所が魔物に囲まれた海上になると少し厳しい。下から魔物に飲み込まれるとか怖すぎるしな。
『遠くはないの!多分、海に潜ってるの』
「なるほど。なら……アクエスそいつを捕まえるぞ」
俺はアクエスの力を借りてそいつの位置を特定し、水流を操って海上へと突き上げ姿を捉えた。魔物とは違う雰囲気で、恐らく魔族だろう。しかし、抵抗されてまた水中へと逃げられてしまった。
「見た感じ、完全な魚類じゃなく手足もある人型だったな……魔法も使えて知能もあるとすれば、今回の騒動を起こした奴と確定しても良さそうだ」
『タロウ。騒動が海だけでは無いことを思い出すのですよ』
そうだった……ルミナスの言う通り、他に陸部隊と空部隊がある。と、考えるならば、それぞれに魔族がいると仮定して……。ピヨリとアトラスを通じてベリー先生とカルミナに伝えないと。ピヨリの場合はベリー先生の使い魔を通せば伝わるかな?
俺は魔力のパスを通してピヨリとアトラスに情報を流し、二人に伝わる様にしておいた。向こうからの報せが無いし、まだ魔族とは遭遇していないのだろう。
「マリカルさん、マリカルさん!」
「な、何かなタロウ?私はキミにリーダーを任せてもいいのだが……」
そんな役目は人望のある人がやってれば良い。面倒だからではけして無い。
「マリカルさんには言いますが、魔族と思われる影を捉えました。お昼の休憩は今の内に取って、魔物の対処に備えて下さい。俺は勝手に動いて悪いですが……討伐に専念させて欲しいのです」
「ま、魔族だと……!?」
俺も、前の戦で魔族を倒したし……もう他の所へと行っていると思っていたから意外だと少し驚いている。
「えぇ。優先的に奴を狩った方が良いと判断しますが……陸に上がって来る敵の備えが少し疎かに……いや、待てよ?」
「どうかしたの?」
魔力は使うが……喚べば良いじゃないか。魔力の消費は避けたいからアイツを喚ぶが、十分過ぎるだろう。
「いえ、解決しただけです。今から喚ぶのをここに待機させますので、陸に来た魔物はそいつに任せてください。――来い、紅緋!!」
『くくっ、血の臭いが広がっておるのよな!さ、妾の役目を言うてみるがよいぞ!』
久しぶりの戦闘だからすげぇ気合いが入ってるな……。悪いことじゃないし良いんだけど。
俺は紅緋に状況を説明して、ワニや亀を討伐するようにお願いした。俺は魔族とどうやって戦うか考えないといけないし、ここでの戦闘は任せよう。
『妾に良い考えがあるぞえ?』
「良い考え?」
紅緋が自信ありげに話し出した。
『海に居る奴を引き上げる方法と言えばこれじゃろ?これ?』
手に持っている大剣を正面に構え、溜めに溜めて上にあげた……そうか、納得がいった。
それは良いとしても、問題は竿とエサだが……うーん。
「どうする?氷……は硬いけどしなりが無くて折れそうだし、闇はイメージしづらい。水は……まてよ、粘着力を増したアクエスの水なら捕らえられるか?」
アクエス頼りになるが悪くないかもしれない。釣りというよりは、魔族を捕まえたら綱引きっぽくなりそうだ。そうだな……綱引きなら、アクエスの魔法で捕まえてアイガルに凍らせて貰うのもアリだな。そして、ダークラムに綱を辿って相手に動きを鈍くする魔法を掛けて貰えば……いける。
「案は出た。後は綿密に打ち合わせをするか……紅緋、ヒントをありがとう。ほれ、お菓子。ここは任せたぞ!」
『くふーっ!後は任せておくと良い!さっさと、魔族を倒してくるといいぞえ!』
紅緋にヒントを貰った俺はルミナス、アクエス、アイガル、ダークラムと打ち合わせに入った。
魔族を陸に引っ張りだす為の仕掛けはルミナス以外に任せる。ルミナスは俺の護りを担当して貰う。魔族が魔物をけしかけて来る可能性を考慮してだ。
技の順番やタイミングを話したり調整して、俺達の準備は整った。よし、やろうか。




