第117話 タロウ、目覚めさせる
この作品を初めて投稿してから今日で4ヶ月です!あっという間な気もしますね。
今回は少し短めですが、よろしくお願いします!
(´ω`)
翌朝。ランニングをし終えた俺は、式札を量産する部屋に行く前に忠晴の所へ来ていた。
「おはようございます、忠晴さん。昨日、カルミナと模擬戦をしたのですが、アレの成果が出ましたよ」
「おはようございます。やはり昨日の地響きはお二方でしたか……。それで、アレは上手く機能しましたか?」
アレとは、昨日のカルミナとの模擬戦で使った式札の事だ。上から降ってきた雷をしのいだ式札である。忠晴さんの理論で完成したオリジナルだ。
「えぇ、上手く“逸らせる”事が出来ましたよ」
「実験はしていましたが、戦闘でも上手く使えるのなら問題は無さそうですね」
忠晴さんが作り上げた式札は、簡単に言うならば“魔力版の避雷針”だ。中身を考えると、全然違うのだけど。
まずは、式札に魔力を沢山込める。出来れば、紅緋を召喚するくらいの魔力は込めた方がいいらしい。前準備……というか、発動準備はコレで完成だ。
忠晴さん曰く、『魔力と魔力は引き合う関係』にあるらしい。対峙した二人が魔法を放出して、よくぶつかり合う理由はコレだ。その話を聞いた時には、何故、今まで気にしなかったのだろうと思った程に驚いたし納得もした。寝耳に水ってやつだな。
つまるところ、魔力の塊となった式札を発動させれば相手の魔法を誘導出来る……という事である。
「上手く機能はしましたが、タイミングが難しいですね。早く発動すると術者に修正されますし、遅すぎるとホントにギリギリになりますからね」
「なるほど。タイミングが良くても式札を遠くに飛ばし過ぎたら効果も薄いでしょうし……この式札は緊急用で、防御魔法との併用を前提とした方が良さそうですね」
カルミナの攻撃を回避する時も、衝撃の風によって飛んでくる小石から身を守る為に防御魔法は使っていた。もし、完全に誘導出来なかった時の為にも防御は必要になるな。
「そうですね、致命傷を受けない為の策として利用します。……それにしてもすごい発明ですよ、これは!」
「ははっ、そうかい?式札を扱う術者しか利用しない技術だけどね」
だとしても、新しい物を産み出すというのは凄い事だ。俺も何かを産み出せる様に、今日も頑張りすか。
「それでもですよ!では、僕も基礎からやって来ますね!」
「ありがとうございます。タロウ君も、頑張ってください」
◇◇◇
午前中に作り上げた式札を使って、晴海さんと術の試し合いをしている。式札について知らない晴太君に気付かれない様に、部屋から離れた場所でだ。
「では、拘束系を試すのでして~」
「はいよ。どんとこーい!」
攻撃タイプの式札は的を用意して扱うが、防御、拘束、その他の安全性のある式札は実際に試している。こっちの方がイメージの補強にもなるからだ。
「『拘束風』」
「んぐっ!?……結構キツイな。風の圧も凄……い。ってか!痛い!痛い!痛い!」
風の拘束は圧力がかかる。全身を締め付ける様に拘束する為、生身では解けないだろう。身体強化で無理矢理するか、術者へ遠隔攻撃をするしかないだろうな。
「解いたのでして~」
「ううむ……これは晴海さんは試さない方が良いと思う。加減を間違えたら骨が折れると思うし……」
晴海さんは魔力の調節が上手いから、俺が痛がる所のギリギリで調節していたけど……俺にそれが出来るかと聞かれたら怪しい所だ。
「いえ、試すのでして~。どんとこーい!なのでして~」
「本当に?本当の本当に?」
晴海さんが力強く頷いた。うぅ……絶対に気を付けよう。繊細さ、俺の中にある全ての繊細さをかき集めてやろう。
「じゃ、じゃあ……少しずつ強くしていくから、痛くなったら早めに言ってよ?絶対だよ?」
「はいなのでして~」
俺は晴海さんと同じ『拘束風』を使って晴海さんを拘束していく。まだ発動したばかりだから、体に風が纏わりついてるくらいにしか感じてないだろう。よし、ここからだ。
「あっ……少し窮屈になってきたのでして~」
よし、よし。まだ大丈夫だな。集中しろ俺。真剣にだ。全魔力を使わないでも簡単に潰してしまうくらいの女の子だ。一瞬も気を抜けないぞ……。
「あっ……ち、力を入れてもほとんど動かなくなってきたのでして~」
まだ……大丈夫かな。コレくらいの拘束でも止めてはいい気はするが、ヌルいイメージを残すのも良くないし……もう少しくらいかな。
「晴海さん、もうそろそろキツイでしょ?」
「……んっ。大丈夫なのでして~もう少し、もう少しだけきつくして欲しいのでして~」
えっ……大丈夫なのかな?もう、だいぶきつく縛ってはいる。風の拘束だから服がギュッと締め付けられているのも分かるし、表情も苦しそうだ……頬が紅くなって息遣いも少しずつ荒くなっている。
……いや、晴海さんに限ってまさかね。いやいや、まさか……ね。
俺は少しと言われた所を少しともう少しだけ強くした。
「あっ……これ……良いのでして~。全身が拘束されて指一本動けないのでして~……気持ちが良いのでして」
気持ちが良いって言っちゃったよ!?ちょうど良い力加減なら、締め付けられた後の解放感や、凝りが解れるマッサージをされた後の様な感じで気持ちが良いのも分かる。
だが、今の晴海さんにやってる力加減は……晴海さんにとっては痛いと感じてもおかしく無いくらいだろう。つまり……晴海さんはそっちに目覚めた、という事なんだろうな。
俺とカルミナはまだ誕生日が来てないから晴海さんや桃さん、マツリ様と同じ十二歳だ。この年頃は思春期に入っていてもおかしくないし、晴海さんも成長期という奴なのだろう。
心だけは大人なつもりの俺である。ここは大きな器で受け止めてあげよう。
「晴海さん……痛いの?気持ち良いの?」
「痛気持ち良いのでして~」
そうか。うん、そろそろ拘束を解こうかな。これ以上は色々と危険だしな。
「あっ……。何でしょうこの解放感は……これはこれで良いのでして~」
「それは分かりますけど……」
晴海さんは被虐体質なのかな……直接戦闘をするイメージも無いし、正解では無いかもしれないけど、こういう痛みを今まで知らなかったという弊害なのかな?どうしてそんな体質が現れたのか……不思議だ。晴海さんにそんなイメージも無かったから、本当に意外である。
「痛いのが少し心地よかったのでして……コレはどういう事なのでして~?」
……どういう事とな。さっきも思ったが、マッサージだって大袈裟に言えば痛気持ち良いだし、変な事では無い……と断言したいが、晴海さんのコレは出来ないかなぁ。
「変では無いと思いますけど……そうですね、体質的で心理的な事なので共感してくれる人が近くに居るとは限りません……ね。ですから、隠せとまでは言いませんが、あまりおおっぴらにする事では無いかと思いますよ?」
これぞ大人な対応……かな?あまり自信は無いけど、否定も肯定も自分じゃしなくて曖昧さに求める。お茶を濁すって感じで。晴海さんが納得してくれればそれで良いしな。
「そう……なのでして~。分かったのでして、でも……たまにさっきみたいにギュッとして欲しいのでして!」
おっと、そうくるか。予想外……いや、予想の斜め上って感じだ。自分で好きな感覚で拘束の式札を使うと思っていたからな。俺に頼んでくるとは雀の涙ほども思っていなかった。
「いや、ですが……少し恥ずかしかったりしますよね?ですから、こういうのは一人でした方が良いかと……」
「ですけど、私一人では少し怖いのでして……タロウさんは変に思わずに、アドバイスまでくれているのでして!だから、安心なのでして~」
そんな所で安心感を与えられるとは思っていなかったぞ……。晴海さん、少し暴走してない?熱とか出てる可能性もあるな。
「ん?何でしてー?」
「熱は……無いか。素か。素なのか……。晴海さんも成長期って事なんだなぁ」
キョトンとしてる顔も和むが、今はどう対応するのが正解か模索しなければ……。とりあえず先延ばし、ですかね?
「とりあえず、その件は置いておいて……次は防御の式札で訓練しましょうか」
「はいでして!タロウさん、よろしくお願いなのでして~」
修行以外の事までよろしく頼まれている、そんな気がしてならなかったが、とりあえず修行は修行としてその日の分もちゃんとやり終えた。
◇◇◇
夕暮れ時、使った的等の片付けをして戻ると……マツリ様が双葉さんと打ち合っていた。
「まだ、やってるんだな……どうりで、成長も早い訳だ」
最近、マツリ様も双葉さんの指導のお陰で二刀流が板についてきたらしい。最初はナイフの二本だったが、今は短剣の二本を操っていて……他にも短刀や短槍など、場合によって使い分けれる様に練習しているみたいだ。
基本的には手数の多さで勝負するスタイルらしく、体力を付ける為に、双葉さんがマツリ様をランニングへと連れ出す姿を何回も見たことがある。
だが、結果的にマツリ様は実力も体力も付けているし、双葉さんの指導は厳しく見える時もあるがマツリ様にとっては、それで間違っては無かったんだろう。
「マツ……いや、声は掛けない方が良いな。夕食の時にでも話せばいいか」
ラストスパートをかけているみたいだし、ここで集中力を散らす様なことはしない方が良いと思って踏み留まった。
「晴海さん、先に食堂に行っておこうか」
「そうするでして~」
食堂に向かった俺と晴海さんは、そこでカルミナと合流した。命先生の修行で魔力をほとんど使いきるカルミナは、いつもご飯が出てくるまで椅子に座って机に伏せている。
そして俺は、魔力が無くて気だるいカルミナの隣に座って本を読み出す。これは安倍家でのいつもの流れでもある。
それからしばらくして、良い匂いが食堂中を漂い始めた頃にマツリ様と双葉さんが修行から戻って来た。
「タロウさん、タロウさん、今日は珍しく褒められたのですよ!褒めて下さい!」
褒められたから褒めてくださいとは贅沢な。なんて、少し思ったが頑張ってるのは事実だからここは褒めておこう。
「先ほど少し見ましたよ。武器の扱いも上手になられましたね!凄いですよマツリ様」
「タロウ~、私も褒めなさいよ~」
隣でグダっとしているカルミナの頭を撫でておく。こいつはコレで満足するだろう。
「タ、タロウさん!私も、私もです!はいっ」
対抗意識からか、マツリ様は自ら頭を出してきた。出されたからにはとりあえず撫でておこう。
「えへへ~」
「二人共……このくらいな。ご飯も出来たみたいだし」
名残惜しそうな顔をされるともう少しくらいは撫でたくなるが、ここで終わっておかないとタイミングを無くしそうだからな。
ご飯を食べた俺とカルミナは、風呂に入ってから九重家の方へと向かった。明日の九重家での修行を終えれば休みだし、気合いを入れて頑張りますか!
◇◇◇
「頑張りますかと気合いを入れたばかりなんだがなぁ~」
「しょうがないわよ。雨が降ってきちゃったんだから。今日は別メニューかしらね?」
翌朝、起きてからすぐに雨音が聞こえてくる事に気がついた。ランニングへ行く事も出来なくは無いが躊躇っているのが今の俺達だ。
雨の時のメニューは筋トレや身体強化の訓練を中心に行っている。今日もその流れだろうな。――と、思ったのも少しの間だけであった。
「緊急クエスト!緊急クエストです!!冒険者の皆様はギルドへとお集まりください!至急、お集まりください!!」
この感じ……久々な気もする。俺とカルミナは急いで支度して、玄関で待っていてくれたベリー先生と共に雨を魔法で弾きながら、ギルドへと走って行った。
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