第111話 タロウ、正座する
お待たせしました!
よろしくお願いします!
大会が終わった次の日からまた、修行をする日常へと戻って来た。今日もさっそく山へ登り、修行が始まろうとしていた。
「まずは、昨日、一昨日の大会の反省会からするでござるよ!」
「反省会…ですか?」
「そうでござる。まずは、タロウ君から言うでござる!」
「そうですね……、葡萄さんの槍に手も足も出なかったと言ってしまえばそれで終わるんですが…。技を上手く対処された上に全然慌てて無かった所をみると俺の技術が足りなかった、って感じですかね?今回は自分から攻めて行けましたし、それは良かったと思うのですが……」
「兄様は槍に関して言えば、私より上手いでござるからな~……よし、タロウ君はまだ伸び盛りでござるから、技術の向上と型の研究でござるな!」
「そう……ですね。頑張ります!」
総合的に見ればベリー先生の方が強いけど、槍だけを見れば葡萄さんの方が強いのか…そりゃ、まだ敵わないわな。同じ槍としてカルミナが葡萄さんと戦った方が良いような気もするが、俺も学べる事があったし…これはこれで良かったかな?
「じゃあ次はカルミナさんの番でござるよ!」
「そうですね……。吉晴さんに色んな型の技やフェイントも入れて戦ったんだけど……結局まともにダメージを与えられなかったのよね。1つの動きに対する対処の種類が豊富で…全部を対処されるって精神的にキツかったわ。私の戦闘技術の全てが吉晴さん以下に思えてきたわ…」
「吉晴の凄い所でござるな。『良く学ぶ』……吉晴を一言で言うならこれでござるな。本を読む、試す、応用する。吉晴は昔からそういう奴だったでござるよ」
吉晴さんは昔から勉強をして知識を蓄えていたのか……。俺はこの世界に無い物をイメージすることが出来るが、吉晴さんはこの世界にある物で新しい物を創っている感じだ。
色んな書物を読み漁り、組み合わせて新しい型を作り上げる。だから最適化、効率化されている訳で――強い。吉晴さんは三大欲求に知識欲が加わってる感じがする…そこは是非とも見習っていきたい部分だな。
「だから、私も色んな知識を頭に入れていきたいと思ってるわ!人の弱点を知るとか、普段は気にしてないけど知らない事とか……もっともっと調べないとって感じかしらね?勿論、槍もやっていくわ!」
「うむ。勉強なら吉晴に直接聞きに行くといいでござるよ!拙者は無理でござるからな!わっはっはーでござる!」
俺も吉晴さんに色々と質問しに行くかな?とりあえず本を借りよう。練習の合間合間とか就寝前に読んだりするだけでもだいぶ変わってくるだろうし!
「じゃあ、最後は桃!」
「うんとね~……私は今までやって来た事をこの先も続けて行けば良いかな?だって、お姉ちゃんに教わってるんだもん!」
「桃!あ~桃はなんて良い妹でござろうか!桃はこのまま強くなればいいでござるよ!」
まぁ、目標としてベリー先生を越えることが出来れば……それが1番だな。戦闘面に限って言えば、今まであった人の中で魔王の次?くらいだと思うし。
「それじゃあ反省会は終わりでござる!各自、目標を持って修行に当たるようにするでござる!」
「「「はい!!」」」
◇◇
その日もベリー先生との修行を終えて、俺とカルミナは安倍家にやって来て――そのまま玄関を通って真っ直ぐ吉晴さんの部屋までやって来た。
「吉晴さん、タロウです……カルミナもいます!オススメの本をお借りしたいのですが!」
「どうぞ、入って良いですよー?」
俺とカルミナは吉晴さんの部屋に入って、足の低い机を挟んで対面に座った。
「それで……オススメの本って話だけど暇潰しかい?」
「ちょっと自分達の知識不足を教えられましたからね!」
「そ、そうかい…。何はともあれ、知ることは大事な事だ。逆に知識が無いという事はそれだけで大きな弱点だからね」
ごもっとも。知識があればあるほど魔法にも応用が利くし、練習の効率も良くなるだろうし、ここはオススメの本を是非とも紹介して欲しい。
「私は吉晴さんと戦ってそれを思い知らされたわ……」
「おや?私の記憶だと、カルミナ君と戦った事は無い筈だけど?」
「ぽぴぱるさんだろ?カルミナが戦ったのは」
「え?でも、ぽぴぱるは吉晴さんなんじゃ……」
「いいじゃないかカルミナ…ぽぴぱるさんでも吉晴さんでも……ね?」
「いや、まぁ…別にそれはいいんだけど……何か釈然としないというか…」
そういう設定だから!気にしちゃ駄目なやつだから!
…吉晴さんも苦笑いしてしまっている。葡萄さんの差しがねっぽいもんなぁ~名前から大会に出る事までの全てが。
「まぁ、とりあえず……何かオススメの本があれば貸して頂きたいです。アイテムボックスにしまっておくので汚したり無くしたりはしないと思うので…。」
「そうだね……タロウ君にはコレを、カルミナ君にはコレを貸そうかな?」
「これは……恋愛の物語?」
「私の方もよ?」
「この2冊はとっても感動してね!是非とも読んで欲しいんだ!」
「あ、あの…私達はもっとこう……」
「待てカルミナ、まずはこれを読もう。読むのにだって理解力というか読解力が必要だ。その練習に、物語はちょうど良い――ですよね、吉晴さん?」
「うん。書いてある事を深く読み取る為には恋愛の本が1番だからね。娯楽としても楽しんでおくれ」
「はい!では、読み終わったらまた別の本を貸してくださいね?吉晴さんのオススメで!」
「そういうことなら……お借りしますね吉晴さん」
「次までに選んでおくよ。恋愛の物語だ、二人の為にもなるかもね?」
そんなイタズラ心を最後に発揮されて、俺は苦笑いだけどカルミナは少し顔が赤くなっていた。ありがたく本を借りた所で俺とカルミナは部屋に戻って休むことにした。読書は明日からだな。
◇◇◇
俺は今、せっせと式札に模様を描き込んでいる。今度は式神の模様ではなく、式札をそのまま使うための模様だ。基本的な事は式神を出す時と変わらず、模様とイメージと魔力だ。これが合わさらないと効果は無い。
緋鬼王、紅緋、狛犬…それに蒼鬼王、翡翠の5名は外で何やかんや訓練をしているから、この部屋に居るのは俺と晴海さんだけだ。
勿論、麻津里様は双葉さんと猛特訓中である。
「ふぅ……防音の式札はこんな感じかな?さっそく試してみるか!」
俺は描いた式札を部屋の四隅に設置して、部屋の中央でこの部屋を式札の結界で囲むイメージをして――手に持っている5枚目の式札に魔力を込めた。
「…っ!?ダメかー……後方に出来た結界部分が薄くて部屋に外の声が入ってきてる……」
「でも、前の方からは何も聞こえてこないでして~」
「じゃあ、後ろに設置した2枚の内の1枚か、もしくは両方の式札がちょっとダメだったのか……描き直しだなー」
「私も出来たのでして~」
そう言った晴海さんも俺と同じく部屋の四隅に式札を設置させて、部屋の中央で魔力を込める。
「……完全に遮断されてますね…」
「やったのでして~!成功なのでして~」
俺の式札に描く模様と想像してるモノに少しの差がある為に、式札が上手く機能しなくて失敗してしまったけど、晴海さんの描いた式札は全部が均一の整った模様だから成功している。つまり……
晴海さんは手に持っていた式札を、成功した式札として大事に保管し始めた。忠晴さんに見せるか、次に量産する時の為に大事にしまっておくのだろう
「もっと、描いて描いて描いて描かないとかぁ~」
「タロウさん、頑張るのでして~。私より魔力が多いから練習が沢山出来て羨ましいのでして~」
たしかに、他の人より魔力の多い分、1日の式札を試せる練習量も増える。そのお陰で何とか晴海さんに追い付く事が出来てはいるが……やっぱりたまには1回で成功させてみたいものだな。
「ふぅ~一旦、休憩でも挟もうかな?」
「でして~私もそうするのでして!」
俺はアイテムボックスから吉晴さんに借りた本を取り出して読み始めた。この本は一組の男女の恋物語で、出会いから結婚するまでの色んな出来事が書かれてある本…らしい。
「タロウさん、何を読んでるのでして~?」
「ん?あぁ、これは吉晴さんに借りた本だよ!恋愛物語だけど」
「兄上のでして~?面白いのでして?」
「まだ、序盤だけど結構面白そうな雰囲気はあるよ!」
「そうなのでして~、私も何か借りてみるのでして~」
おっ、どうやら晴海さんも読書仲間になってくれるみたいだ。皆で読めば、感想も言い合えたりオススメし合えたり楽しさがその分増えるな!
それから、俺と本を借りてきた晴海さんは読書を続けていた。いたのだが……。
「タロウさん!タロウさん!私、今日も修行をしましたのよー?……って、あれ?本を読んでますの?」
「お疲れ様ですマツリ様。えぇ、まぁ…ちょっと教養でも身に付けようと思いまして」
教養とか言ってみたけど、読んでるの恋物語だった。ま、まぁ…吉晴さんも為になるとか言ってたし?
「タロウさんは十分に頭はよろしかったと思いますけど…?」
「そうですかね?吉晴さんを見ているとそんな自信は無くなってしまいましたよ。ですから、少しでも知識を求めて吉晴さんに本を選んで貰って借りてるのですよ」
「そうなのですか……タ、タロウさん!お邪魔は致しませんので!お隣に座っていてもよろしいですか!?」
「え?隣に……ですか?」
「はい!休憩の間だけでも……ダメでしょうか?」
「い、良いですよ!良いですからそんな落ち込んだ顔をしないでください!」
「は、はい!では、お隣に失礼しますね……よいしょ」
近い!?あ、隣ってこんなにすぐ隣に座るって事だったのか?よ、読みにくい感があるぞ…これ…。
「タロウさん、後でカルミナさんに報告なのでして~」
「ちょ、晴海さん!?いつからそんな役目を負ってたの!?」
「ふふふなのでして~」
「タロウさん!良いではありませんか!私は構いませんよ!」
いや、俺が構わないんだけど……絶対にお説教コースなんだけど…。
「よし、少し離れましょうかマツリ様。はしたないですよ?」
「いやです!隣に座るって言いましたもん!タロウさんは良いって言いました!」
言質!!くそっ、これは油断したな…。
「晴海さん、どうにかなりませんかね……?」
「あー、お菓子が食べたいのでして~」
いつからこんなにたくましい子になっちゃったんだろ…でも、仕方ない!
「では、これをお納めください」
「うむ、たしかになのでして~」
裏取引で何とか安全を確保したが……なんか、今後も揺すられる予感がしてならない…ホント、気を付けねば。
マツリ様は自分の休憩時間ギリギリまで俺の隣に座ってニコニコとしていた。マツリ様の気持ちは知っている分、あまり強く言えなくなってしまっている……気がする。
「では、私は双葉先生と続きをしてきますね!タロウさん、私、頑張りますからね!」
「あ、うん!頑張ってくださいねマツリ様」
マツリ様が戻ったタイミングで俺もそろそろ式札描きに戻る事にした。読んでいた物語の続きが物凄く気になるが、切り替えはしっかりしないとな。
◇◇◇
「っん~~ぷはぁ!!疲れたけど今日の修行はこれで終わり!」
「お疲れ様なのでして~」
「晴海さんもね!」
「おい晴海、麻津里が今日は城に戻るらしいから送りにいくぞ」
「分かったのでして~。父上に言ってくるから少し待つのでしで~」
「今日の麻津里様は泊まりじゃないんだね?」
「たまに将軍様に報告へ帰るのでして~」
なるほど。進捗具合とか気になるんだろうな駿様や美輿様は……。
「タロウさん、タロウさんも明後日ですよね!?」
「そうですよ。ですからまた明後日ですね麻津里様」
「えへへ…明後日が楽しみです!」
それから準備が出来た晴海さんがやって来て、双葉さんと3人で城まで送りに出掛けた。俺もカルミナを迎えに行かないとな。
「タ~ロ~ウ~!!」
「え?え?な、なんで怒ってるのでしょうか!?」
俺が迎えに行こうと思っていたら、逆にカルミナの方からやって来た――怒りながらだけど。
「晴海さんから聞いたわよ!!」
え!!?ちゃんと賄賂も渡した筈なのに!?ど、どうしてだ?さては、裏切ったのか?
「最初は普通に聞いたけど何も言わなかったわよ?でも、お菓子を渡したら教えてくれたわ!!私の渡したお菓子の方が良いお菓子だったみたいよ!」
「くそっ……少しケチったのが裏目に出たか!」
「そんな事より!寄り添っていたってどういう事なの!?」
「いや、寄り添っては無いよ?俺は本を読んでただけだ!その隣でマツリ様は座っていただけだぞ!……ニコニコはしてたけど」
「せ、せ、正座しなさい!!今からお説教よ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃ……」
この後、お説教が思ったより長くて、明日の朝のランニングをしながら九重家に行くことになってしまった。
誤字脱字がありましたら報告お願いします!
(´ω`)




