第110話 タロウ、観戦する
お、お待たせしました…(;´д`)
剣武祭の2日目、昨日は午後からのスタートだったが、今日は午前中からのスタートである。朝、いつも通りに起きていつも通りに朝練をこなしているからカルミナの調子も大丈夫だろう。
「今日も昨日と同じくらいに人が多いですねぇ~」
「本来なら昨日で大会は終わって後はわいわいやるだけでござるけど、今日もでござるからなぁ」
「参加者が沢山ですもんね…」
「タロウ、どこか観れる所無いかしら?出来るだけ高いところが良いわね」
俺達の身長じゃ、後ろの方だと観にくいものな…。どこか…あるかな?
「う~ん、やっぱり観やすい所は埋まってるな~」
「せめて吉晴さんの試合だけはちゃんと観ておきたいわね。ベリー先生も何の武器を使うのかは知らないらしいし…」
もしかしたら晴海さんや葡萄さんなら知っていたかもしれないが一緒に来ていない。晴海さんは双葉さんがこんな密集してる所に来たら衝動が抑えきれないと踏んで祭りには来ていないし、葡萄さんはどこかに居るのかも知れないが分からない現状だ。
「吉晴さんってあんまりガッシリした体格という訳では無いし…軽めの武器かな?」
「ありそうよね…小太刀?うーん、でもそれだけだとやっぱり不利よね」
「あ~…」
「ベリー先生?何か心当たりでも…?」
「昔からよく投げ技や絞め技の練習台にしていたでござるから…もしかしたら柔術…体術に重きを置いてるかもしれないでござる」
それは何とも…可哀想というか…。
「体術ね…それに重きを置かれるとこちらもそれなりにやらないといけないわね…」
「いけるかカルミナ?」
「うーん…ベリー先生に体術は教えて貰ってるけど、どうかしらね?とりあえず槍で出来るまではやるわ!」
「それがいいでござるよ。槍の特性を十全に発揮してくるでござる!」
「はい!」
「それでは、2日目の!トーナメントを始めたいと思います!!」
周囲の観客達から拍手が沸き上がり、一回戦が始まった。
「頑張れー!カルミナー」
「頑張るでござるよ!カルミナさーーん!!」
「カルミナさん!頑張ってーー!!」
カルミナは軽く手を上げて応えてくれた。カルミナの一回戦の相手はどうやら同じ槍の使い手の様だ…。
◇◇
私は槍を数回振って、重さや長さの最終確認をしていた。
「お嬢ちゃん、手加減は無しだぜ?悪いな」
「気にしないで…こちらも修行をしに来てるのだから」
試合前だというのにヘラヘラと喋る男はたかが知れる。中には強いが故の余裕って人が居るのかもしれないが、この男からはそんな気配もしない。
「そうかい……じゃあ、そろそろ始めようか」
「ふぅ…いいわよ」
相手のオジサンとの距離は大きく2、3歩踏み込めば槍なら届く距離。つまり開幕ダッシュの可能性があるから……よし。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
予想通りね。でも…遅い。遅い遅い遅い遅い!!これは、返し技をしてくださいと言ってる様なものじゃないの!!はぁ…一回戦だとこんなものなのかしら?タロウが当たりに思えるわね…。
「くらぇぇぇ!!」
「…ベリー流 槍術 返し技 『三華突』!!」
槍を持って突っ込んで来る相手に対し、槍を持つ手に一突き、少し前屈みになっている上半身に一突き、浮いた事で見えた腹部に最後の一突き。
こちらの槍を操る速さや相手へと技を出すタイミングが難しいが、こんなに遅い相手なら余裕よね。
「ぐはぁ!?ぐっ……ま、まだだ!!」
「ベリー流 槍術 一の型 『乱突』!!」
乱突は槍を使った事が無い人や戦い慣れてない人ならテキトーに突いてる様にみえるでしょうけど一応…肩の付け根や関節、ダメージが入りそうな所を狙って打っている。
本物の槍なら既に大怪我だけど、木槍なら平気よね?
「かはっ…!!…がっ………。」
「しょ、勝者!カルミナ選手です!!素晴らしい槍の技術で相手を圧倒的しました!!昨日の桃選手に次いで凄い女の子だぁ!!」
「ふぅ。これならタロウと打ち合いしてた方がよっぽどいいわね。吉晴さん相手にどこまで出来るか……今はそれを考えましょうかね」
◇◇
カルミナは一回戦を楽々と突破した後、次の二回戦も槍だけで相手を圧勝していた。だが、問題は次のポピパル…吉晴さんをどう攻略するかだな…。
「吉晴さんの武器は何でしょうね?やっぱりマスクを被ってましたが……一回戦と二回戦じゃ使う武器を変えてきましたし…」
「そうでござるなぁ……体術を主体にしていると考えて、短剣、短刀…とにかく短めで振りやすい武器でござろうな。カルミナさん相手なら特に」
「そうだとしたら、武器の長さを考えるとカルミナが有利ですよね?」
「吉晴は頭が良いでござるからな…そこが1番厄介な所でござる!知識がある分、色んな場合に対処する技術があるでござるよ」
確かに、練習している時以外は色んな本を読み漁ってるイメージがある。参考書から物語まで様々な物をだ。そこから知識を蓄え練習する姿は尊敬している。
「知識に加えて普通に動けますから強いですよね~」
「カルミナさんは、勢いで押しきってしまえばいいでござるよ!」
「あっ、もうすぐ始まるみたいだよ!お姉ちゃん、タロウさん!」
おっと、そろそろか…。是非とも勝って欲しいな。
◇◇
「よろしく頼むわね、吉晴さん」
「嫌だなぁ…僕はポピパル。それ以上でもそれ以下でも無いよ」
「私は舐められているのかしら?」
「いやいや…2日目のトーナメントでは1番の危険人物だと思ってるよ?だから"これ"なんだ」
指抜きの木製グローブ…。そんな物まで用意してあるなんて!武器と言うよりは防具よりだと思っていたけど……本気、みたいね。
「徒手での格闘技を主体とするのかしら?」
「さぁ…どうだろうね?でも、僕は式神を使うだろ?己を鍛えないと式神を十全には使いこなせないんだ。式神を守りに使うのは勿体ない」
細いし、普段はニコニコしているから武闘派じゃなく、参謀などの頭を使う派の人だと思っていたのに…凄い威圧感ね…。戦闘準備は出来ているみたい…。
「よし、いき……」
「はっ!!」
「…!!?」
「どうだい?今、踏み出す事を躊躇ってしまわなかったかい?」
今のは…いったい?
私が動きだそうと足を踏み出して…いや、踏み出そうと考えた時に言葉と一緒に威圧感が襲ってきた。…動けなかった。正確には動けるが…確実に隙を作ってしまっていた…。
「どういう…」
「武術の1つだよ。体術……とは少し違うけど、隙を作るだけじゃない。もう、君は僕に操られているんだよ?自覚はあるかな?」
操られている?私が?…いえ、嘘よ。きっと考えさせる事で油断や反応を遅らせようという事ね。なら、こちらか…
「は!!!」
「……くっ!?また!」
「君の踏み出す一歩は躓くようにさせて貰うよ。僕はその隙を見逃さない」
まだ、武器を交えてすらいないのに…何かしらこの……少しずつ追い詰められていく感覚は!!
「吉晴さん、頭の良い相手が…まさかこんなにも厄介だとは思わなかったわ」
「ポピパルだ。そうかい、それに気付けたなら良かったよ。じゃあ、遊びはおしまいにして……やろうか?」
吉晴さんが拳を構えた。長さなら私の槍の方が有利ではあるのだけど…近寄られて、体術に持ち込まれたら槍じゃ不利ね。
「来ないなら、攻めるよ?」
「いえ……行きます!!」
◇◇◇
「ベリー先生、カルミナどうしたんですかね?というか、二人とも全然動きませんが…」
「いや、よく見てると動こうとした時はあったでござるが…吉晴の威圧で留められたって感じでござるな。気を操ったのでござるよ」
気を操る…気功とかいうやつか?どうやるかは知らないけど…。これも勉強している吉晴さんの引き出しの多さだな。帰ったら俺も本を読み漁ろうかな?
「お姉ちゃん、どういう事?」
「例えば…『あっ!』…って、私が今言ったでござろう?」
「う、うん…なんか急に言うからびっくりしたけど…」
「それでござる!桃は拙者の話を聞こうとしていたのにその"聞こうとしていた"意識がびっくりで消されてた…筈でござる」
「あっ…そう言われてみれば…そうかも?」
「それをカルミナさんに当て嵌めれば……」
「動き出そうした"意識"そのものを吉晴さんからの気で飛ばされて…動く事を一瞬忘れたと…」
「正解でござる!他にも相手の正面で不意に音を鳴らすとかでござるな。気を操る事の一部でござるが、知らなければ恐いでござろう?」
まだまだ学ぶ事が沢山ありそうだな…。知識を蓄えればそれだけ出来る方法も増えて行くだろう。葡萄さんと吉晴さんに、大会を通じて教えて貰ってる感じがするけど……気のせいだな!
◇◇
「うん。いいね、槍の扱いは相当に上手いと思うよ?」
「ならっ!!さっさと!やられてくださいよっ!!」
「あはは~これでも僕はベリー先生に昔から追い掛け回されていてね、避けるのは上手いんだ」
違う…。避けるのも上手いのかも知れないけど…避ける前の話ね、これは。私が槍で突こうとした時には既に動く方向と槍の弾き方を決めている。
私の予備動作でここまで読まれるなんて…くっ。
「どうしたのかな?動きが単純になってきてるよ?」
「ちっ…」
「おや?下がるのかい?まぁ、いいけど」
落ち着け…落ち着くのよカルミナ。吉晴さんには知識がある。しかも動ける。でも、ベリー先生の方が強い。…そこを考えないといけないのにあまり時間が無い…。
ベリー先生の方が強い理由…。何でも器用にこなす吉晴さんよりベリー先生が強い理由。
ベリー先生は吉晴さんより強いから…強い?ダメね…私じゃタロウみたいに色々考えられないわ…。でもつまり、吉晴さんより得意な分野で吉晴さんの上を行けば良いってことよね!!
「何だか考えすぎていた気がするわね……これも吉晴さんの策かしら?」
「さぁ?でも、何か決まったのかな?さっきよりは良い顔付きになったみたいだけど?」
「えぇ、帰ったら勉強するわ!でも……今は倒させてもらいます!!」
「うん、良い気迫だね。女の子を殴るのは気が引けるが……手加減なんてした方が怒られそうだね、やれやれ…」
「ベリー流槍術 二の型 『槍乱連舞』!!」
◇◇◇
結果的に言うと……カルミナは負けてしまった。
追い詰める所まではいったが最後の最後で吉晴さんの方が上手だった。顎に拳を貰って、カルミナは軽く脳を揺さぶられたみたいでフラフラしているところにトドメを貰っていた。
今は本部のテントでカルミナを休ませている所である。
「カルミナ、気分はどう?」
「ぎぼぢわるい…」
「おぉう……とりあえず安静にな。吉晴さんは決勝に進めたみたいだ。午後からはその決勝が始まるけど…どうする?」
「帰るわ……やりたいことが増えたのよ」
カルミナもか……俺も葡萄さんと戦って技術が足りてない事を思い知らされたからな。
「よし!カルミナ、サンライカに今すぐ治して貰って帰ろう!大会はベリー先生達に見てもらっておけばいいし……ちょっと言ってくるね」
「分かったわ~サンライカ、お願い」
『分かりました。魔力をお借りします』
俺とカルミナは大会の決勝を見ずに安倍家の方に帰って来た。カルミナが本を読むと言った時には驚いたが、俺もちょうど本を読み漁りたかったし一緒の部屋でそれぞれの興味のある本を読むことにした。
夜になって、帰って来たベリー先生達の話を聞くと…どうやら、優勝は葡萄さんで準優勝は吉晴さんだったみたいだ。
「なんで、そんなに顔が腫れてるんですか?」
「へりーのひゃつがにゃ……」
「ほくはとばっひりですよ……」
「成敗でござる!つまり、真の勝者は私でござるよ!」
ベリー先生は高笑いしていたが、二人は全然笑っていない。その状況を見て俺とカルミナは笑ってしまったが。
こうして、一回戦で負けたせいで盛り上がりに欠ける大会だったが、俺もカルミナも課題が見つかる大会になった。
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