第101話 タロウ、修行を再開する
よろしくお願いします!
朝、眩しさで目が覚めた。陽の暖かい光では無く、もっと鋭く瞼を突き刺すような光である。
「ん?あら、タロウ…起こしちゃったかしら?」
「ん、なんか…眩しさを感じて…って、それが原因か」
おそらく光の上位精霊サンライカの力を試していたのだろう。カルミナの掌の上には握り拳より少しばかり大きめの光が存在して、朝なのに眩しさを感じる程の光を放っていた。
「光を出すだけって訳じゃないんだろ?」
「えぇ、サンライカとも話てみたんだけど…あ、今は別の場所でシェリーフ達と話してるわよ。…それで、今は色々と試している所よ」
「光…か。これまた概念としは解釈の幅が広いし、恐らく強い魔法になりそうだな…」
「そうね。攻撃、防御、それに癒しの光、浄化の光…サンライカが支配の力なんて言ってたのも少し理解できるわ」
「カルミナが力に溺れた時は俺が止めてやるから…と、言いたいが簡単に止められなくなってるんだよなぁ」
「そ、そこは男らしく言い切りなさいよ!」
「お、タロウ君も起きたでござるか?」
「あ、ベリー先生…おはようございます。夜の番ありがとうございました」
「構わないでござるよ!迎えまではまだ時間があるでござるがそろそろ海岸沿いに戻るでござる」
「じゃあ、私が双葉さんにも知らせて…ついでにマツリ様とかの準備を手伝ってきますね」
「頼んだでござる!」
カルミナが晴海さんの護衛についてる双葉さんに声を掛けて準備に入った。俺も昨日の道中に取れた食べれる果物の味見と朝食を兼た食事を取ったり、準備を始めた。
「父上達の話し合いは終わっているでござるかねぇ?」
「まぁ、織田史郭が条件を呑んで動いてくれる事を願っておきましょう。その辺に関してはお任せです」
「ま、そうでござるな!拙者達はノビノビと修行をしたらいいんでござるから!」
カルミナの力も試したり考察したりと色々としたいし、早くベリー先生とも打ち合える様にも成りたいから帰ったらまた修行だな。…焦らず確実に、だけど。
女の子の準備には時間が掛かるみたいでベリー先生と話していたから特に気にもならなかったがけっこう待った様な気がする。マツリ様も野宿なんかして貰って申し訳ないけど、体調を崩してはいないようでそれだけは良かった。
「タロウさん、苺さん、お待たせいたしました」
「おはようございますマツリ様」
「さ、では用件も達成された事でござるから帰るでござるよ!」
帰りも当然として魔物は出るわけで…魔物が出るという事はマツリ様が騒ぎ出すという事で…。
「あー!危ない!?きゃ!きゃーー」
「うるさい!そろそろ慣れろ!」
「ですが!ですが!もし、怪我なんて致しましたら…」
「それはそいつの修行不足だ!死なない限り何とでもなる!というか、お前も鍛えるなら覚悟を決めておけ。殺すという事がどういう事かをな…」
「やはり、殺さねばならないのでしょうか?」
「戦いの道を行くならばそういう事もあるって話だ。戦いにおいて、殺さずに終わらせるなんてのは余程の力の差が無いと不可能だ」
「う……」
「ちっ、最低でも、敵から逃げ切れるくらいには鍛えてやる。殺す殺さないは勝手にしろ」
「は…はい!双葉先生、よろしくお願いします!」
「麻津里様、頑張るのでして~」
行きと同じで途中で晴海さん、双葉さんと交代してこの島に上陸した時の海岸まで戻ってこれた。もちろん途中の果物は採集してある。意外と美味だったからだ。
「帰る頃にはおやつ時ですかね?」
「そのぐらいでござろうな!どうするでござるか?どこかにでも寄るでござるか?」
「賛成よ!」
「私も行きたいです!」
「晴海が行くなら」
「では、ご一緒させて頂くのでして~」
帰ってからの予定を決めていたら海の水平線上に船が見え始めた。どうやら迎えのおっちゃんが来たようで、数分後には俺達は船に乗りエドヌの港に向けて出発した。
◇◇◇
「すっかり話し込んじゃったな」
「そうね、晩御飯は…今日はいいかしら」
俺達は港に戻って来てから甘味屋へ行き先程までおしゃべりを楽しんでいた。双葉さんの男を油断させる仕草や言葉の講座が開催された時の女性陣の食い付きは凄かったが、最後には…というか油断させた直後に殺してしまっているから為になったのかはイマイチ分からないけど…。
そのまま皆でぞろぞろと安倍家へと帰宅した。最近はこっちばかりの様な気もするが作戦指揮の忠晴さんに徳川家の方々も居られるから仕方ないのだが。もう少し落ち着きが見られるまでは、駿様も美輿様も天道様もまだ安倍家に滞在なされている。
「皆、お帰り」
「父上、ただいまでして~」
「麻津里様もご無事なようで何よりです」
「はい。皆さんの活躍を見れて大変心躍りましたわ!」
「苺、帰ったか」
「あっ、父上も居たでござるか。…そうだったでござるな、史郭殿の件でござるな」
「そうだ。…でも、そちらも無事に終わった。安心していい、街も次第に活気が戻るだろう」
そうか、上手く事は進んだわけだな。それならもう大丈夫なのかな?…修行しよ!解決したなら俺は修行するぞ!…明日から
「えっと、最後の修行はどっちだったかな…確かマツリ様に会いに行ったのがベリー先生とだから…次は安倍家での修行からスタートか」
「そうだったわね。サンライカの技を色々と試せるわ!」
「忠晴先生はまだ手が離せないんですよね?」
「ごめんね、もう少しやることがあるから…しばらくは晴海と訓練して貰っていいかい?」
「わかりました。晴海さ…」
「私を忘れるなよ男」
そうだった、そうだった。双葉さんの事を少し忘れていた。晴海さんとの穏やかな時間が殺気でピリピリした環境になるとか勘弁願いたい。
「は、はは…。では、晴海さん明日お暇ならお願いしますね。暇じゃなかったら全然1人で式札を描いてますんでお気になさらず…」
「私も明日から修行を再開するのでして~。双葉が居れば、タロウさんの刀の修行も可能になるのでして~」
なるほど、午前中は式札の練習とかは勿論するとして、午後に武器を使った修行が出来るなら大助かりだ。…相手が双葉さんじゃなければ
「うっかり殺しても悪く思うなよ」
「マツリ様はどうするのですか?」
「わ、私も明日からにします!双葉先生、よろしくお願いしますね」
「あぁ、とりあえず動き易い服装で来い」
「拙者は…特にする事無いでござるな。」
「苺、暇ならお前にはこっちを手伝って欲しい」
「分かったでござるよ父上!」
それぞれの明日からの予定が決まり今日は解散となった。マツリ様に貸したローブを中々手放さないという一悶着はあったがその日は普通に終わった。
◇◇◇
「はぁ…はぁ…よろしくお願いします」
「ランニングで息切れか。まぁ、それはこれからだな最初から言っても仕方あるまい。では、ナイフの素振りから初めて行くぞ。死ぬ気で振って死ぬ気で身体に叩き込め」
「はい…。せいっ!やぁ!」
「もっと鋭く、もっと速くを意識しろ。今はナイフ1本での素振りだが、慣れてきたらナイフ2本にしたり、短剣とナイフの2本にしたりするからな」
「はい!せいっ!やぁ!」
今日からマツリ様の修行も始まった。朝のランニングは俺とカルミナの半分でギブアップしてしまったが少しずつ伸びていつかは3人で走りきれる事に期待しよう。
俺はマツリ様の素振りの声を聞きながら式札の描く練習だ。色々と考えたが、戦闘では火属性で、移動用と偵察用に風の属性に決めてしまって、この2属性でやっていこうと思っている。
理由はいくつかあるが、主な理由は魔力の節約だ。主じゃない理由としては、やはり少なくした方が式札も少なくて済むし、効率が良いからだ。そんな訳で、今は風の属性の移動用と偵察用の式札の描く練習と細部を拘ったりしている。
『主、申し訳ない。紅緋を貫いてしまいました』
「あ、うん。何となく察知は出来たよ。来い!紅緋」
せっかく今描いてる式札を描き終えたら新しく作っておかないとな…。それに、紅緋を喚ぶ時の必要な魔力が増えている気もする。感覚的なモノで本当に少しだが…これは紅緋が強くなってるという事で良いのだろうか?
『くぬぅ…今のは惜しかったの…くっふっふ』
『どこがだ、まだ隙が多い。相手の罠に飛び付き過ぎだ』
『そうだ、紅緋、あんなに分かりやすい罠に飛び付く者がおるか?あっはっは!』
『な、なにお~!次は貴様の番だぞ!翡翠』
『緋鬼王様、よろしくお願いします。紅緋ほど単純ではありませんよ』
…と、聞こえて来てから数分後に緋鬼王が今度は申し訳無さそうに晴海さんに翡翠をお願いする姿を見せた。ついでに、高笑いをする紅緋の声も…。仲良いことは善きかな。
『主、申し訳ない。アトラス殿をお喚び願えますか?』
「ん?アトラスを?どうしたんだ?」
『紅緋と翡翠は二人で訓練させました。私とある程度戦った後は二人で訓練する方が刺激になって良さそうなので。それで、アトラス殿にリベンジをしようと思いまして…』
「なるほど、そういう事ならすぐ喚ぶよ。召喚 アトラス」
『アトラス殿、いきなりで申し訳ないが、腕相撲のリベンジをさせては貰えないだろうか?』
『うーん。いいぞ~』
「じゃあ、台を作ろうか。アトラスには高さも合わせないとな」
『主、よろしくお願いします!』
「頑張れよ緋鬼王。アトラスも、油断するなよ」
『えぇ、リベンジ果たさせて頂きます』
『負けないぞ~』
二人の為に台を土魔法で作り、一応強度も強めておく。後は二人の準備次第だが…どちらも良さそうだし、始めるか。
「よし、始めるぞ。3…2…1…始め!」
『ふんっ!!ぬぬぬ…』
『うぬ~ぬぬなぁ~』
今回もお互いは互角でほぼ…いや、緋鬼王が少しずつアトラスの腕を倒していく!?今回はリベンジ成るか!?アトラスも頑張れ!
『ま…けない!!』
『うおぉ~』
結構な強度を誇る机がミシミシと軋み始めた。これは…そう長くは保たないかもしれない。しょうがない。起爆剤の投入だ。
「アトラス、勝ったらお菓子が待ってるぞ…」
『!!…うおおおお~』
『ぐぬっ!?ここに来てからのこの力はいったいどこから!?だが、耐えてチャンスを待つ!』
「アトラス、今度、好きなお菓子をいくつか選んで良いよ…」
『!!…もらった~』
『なっ!?…ぬあっ!…ぐっ……くぅ…』
最後の力を出しきって、無事に勝利をもぎ取ったのは今回もアトラスだった。
『やった~!勝ったぞ~』
「おめでとう、アトラス。はい、とりあえずお菓子。今度買いに行く時に好きなの選んで良いからね」
『嬉しいぞ~』
『くっ、またしても敗北…。アトラス殿の力は凄まじいな…主が途中に何かを言っていたが、それで本来の力が出たと言うなら主には感謝だな。…アトラス殿、完敗です。鍛え直したらまた、再戦をお願いしたいのですが、よろしいですか?』
『いいぞ~でも、私も成長中だからまだまだ強くなるんだぞ~』
『!?…ま、まぁ…そちらの方が倒し甲斐がありますよ』
「ありがとうなアトラス。緋鬼王、お前はまだ強くなれる。それを証明出来るのはお前自身しか居ない。頑張れよ」
『はっ!主、勿体なきお言葉、感謝致します』
『アタシは帰るぞ~』
アトラスにはお菓子を持たせて送還し、緋鬼王は鍛練へと戻って行った。俺もやる事をやらないとな。
そんな感じで午前中は過ぎて行ったが、午前中で昼御飯を食べられなくなるくらい疲労してしまったマツリ様は午後の訓練は見学となった。
マツリ様は申し訳無さそうにしていたが、修行を始めたばかりの時にいきなり双葉さんの訓練を受けたらそうなるのも普通だと一応は慰めておいた。それでも悔しい者は悔しい様で修行への熱は冷めていない様だ。
「来い!狛犬」
『ウォン!』
「よしよし、狛犬、ちょっと乗せておくれ」
『ウォーン!』
午後になり、俺は午前中に描いた移動用の式神として狛犬を喚んでいた。毛色は綺麗な茶色が殆どだが、とろどころ深緑色があしらわれてあった。人が乗っても平気で走り回る体格に、立派な角が生えてある。狛犬といっても鬼の様な特徴が付いていた。
「魔力は1割程度の消費だが、ちゃんとこちらの言葉は理解しているみたいだな…。よしよし、じゃあ次は…来い!烏」
次は偵察用の烏を召喚してみた。召喚して気づいたが、俺にはピヨリが居るんだったな…。ピヨリにも他の偵察を頼んで無いと使わないから…今回は帰って貰うか。
「気を取り直して、狛犬、進め!」
『ウォン!!』
「あ、ゆっくりな!最初はゆっくりでいいから!そうそう…良い子だ」
狛犬の乗り心地は悪くない。掴む所が首の後ろの毛の部分になってしまうのが申し訳無い。まぁ、首に手を回してもいいのだが強く絞めてしまいそうでそこは少し躊躇ってしまう。
「狛犬、敷地内を一周してこようか」
『ウォーン!』
俺と狛犬は安倍家の敷地をぐるっと回ってから最初の地点に戻ってきた。誰も居ない直線ではスピードを出してみたが、中々の力強い走りをしてくれて頼りになりそうだったね。
「タロウさん、私も乗りたいのでして~」
「タロウさん!私も!私も乗りたいです!」
「では、お二人で乗られますか?狛犬、大丈夫だよな?」
『ウォン!』
前に晴海さん、後ろにマツリ様が乗ってゆっくりと歩きだした。また、一周でもするつもりだろうな。さて、俺は…
「双葉さん、お手合わせお願い出来ますか?」
「構わんが、距離が近付けば本気で斬るからな…」
「はい、それで大丈夫です。本気の殺気でお願いします!」
「ほぅ…では、行くぞ…死ね!!」
双葉さんに模擬戦を申し込んで実戦に近い経験を得ようとしていた。本気で斬りかかってくれる人は貴重だし、これからもお願いするだろうな。とりあえず、見損なわれない様にしないとな!
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