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続編-デザート・3-

七月、夏休みも近づいて来た頃――、




「最近、二ノ宮ってマメにメールしてるよなー?」


部活が終わって部室で着替えていると、ふと武田が妙な事を言った。




「やっぱ違うクラスになって寂しいからか?」




「???」


武田の言っている事がさっぱりわからない。




「何の話?」


「おまえと琴美ちゃん」


「俺と琴美?」


「いや、最近よく休憩時間にメールしてるから」


「誰が?」


「琴美ちゃんが」


「誰と?」


「だから、おまえと」


「……俺っ?」


今の武田の話を整理すると……




『最近、休憩時間に琴美がよくメールしている』


     ↓


『武田は相手が俺だと思っている』


     ↓


『だけど、俺はしていない』


     ↓


『つまり、琴美は俺以外の誰かとメールしている』


     ↓


『考えられるのは藤村さん』


     ↓


『だが、彼女なら直接教室に行くだろう』


     ↓


『じゃあ……誰だ?』




「……」


藤村さん以外の人物で琴美にメールしそうな人物を思い浮かべる。


しかし、もし仮にいたとして武田が“最近、よくメールしているなぁ?”と思うほどの回数か?


いや、そもそもそれこそ教室まで行って話す方が早いし。




「なぁ、それって休憩時間の度にメールしてるのか?」




「自分でしておいて訊くかぁ?」


武田はまだ俺だと思っているらしい。




「てか、俺……休憩時間に琴美にメールする事ってほとんどないんだけど……」




「え……」




「で、そのメールって休憩時間の度にしてるのか?」




「う、うん……まぁ……」




「……」


(誰だ?)




「ひょっとして……琴美ちゃん、浮気してるっぽい?」




「っ!?」




「あ、いやいや……ま、まさかなー? 琴美ちゃんに限って……」




そう……“うちの子に限って”じゃないけれど、“琴美に限って”浮気なんて有り得ない。


そう思いながらも俺はその後、数日間琴美に事実を確認出来ないでいた――。






     ◆  ◆  ◆






――数日後。




「……なぁ、琴美」


相手が誰なのかわからないまま、いつまでも悶々とした気分でいるのが嫌になり、


帰りに思い切って訊いてみる事にした。




「最近……よく休憩時間にメールとかしてない?」




「うん、してるよ?」


琴美は『よく知ってるね?』と言わんばかりの顔で答えた。




(あっさり認めたって事はやっぱり相手は女子で浮気じゃないのかも?)


「誰としてるの?」




「んっとね、この間、宗達と練習試合した高校のキャプテンの人」




「え……っ?」


琴美の口から出た相手の正体は思いも寄らない人物だった。


あの横川千尋がマネージャーをしているバスケ部の部長だ。




「あの人、知り合いだったのか?」


(俺と横川さんみたいに同じ中学だったとか?)




「ううん……あの日ね、実は帰りに迷っちゃって公園のベンチで途方に暮れてたら、


 たまたまそこを通り掛かった市川さんが駅まで連れて行ってくれたの。


 やっぱりキャプテンをやるだけの人ってそれだけ人に対して気配りっていうか、


 親切に出来る人なんだねー?」




「それ……絶対、ナンパだって」




「まさかぁ~? だって、ナンパならもっと可愛い子に声を掛けるでしょ?」


そう言って可愛らしく『あはは』と笑う琴美。




(おいおい、自分が“全校三位”だっていう事、忘れてないか?)


琴美は自分が可愛いという自覚がまったくない。


だからいつも無防備だし、誰に対してもこんな可愛い笑顔を向けるんだ。




「でも、現に携帯の番号とか訊かれたんだろ?」


(それとも琴美から訊いたのか?)




「うん、駅で別れる時に訊かれたから教えたんだけど」




(やっぱ、それナンパじゃん……)


「ちなみに……なんだけどさ、どんなメールしてるんだ?」




「朝は普通に『おはよう』とか、授業が終わった後とかは『さっきは数学で眠かった』とか」




(他愛もない話か……)


「もしかして……電話も掛かって来てたりする?」




「うん、時々」




「……」


黙り込んだ俺の顔を琴美は『どうしたの?』という感じで覗き込んだ。




「電話も他愛のない話?」




「うん」




「例えば、会う約束したりとか……は?」




「それは言われた事ないなぁ」




「そっか……」


だけど、何れきっと言ってくる。




「もし……『会いたい』って言われたら……どうする?」




「どうするって、もちろん断るよ? だって、市川さんと会うより宗と会いたいもん」


琴美は『そんなの当然でしょ?』という風に柔らかい笑顔を浮かべた。




「……そっか」


琴美がアイツの事をなんとも思っていないとわかり、とりあえずホッとした。




「でも……あんまり、親しくして欲しくない……。後、思わせぶりな事もして欲しくない」




「思わせぶりな事って……?」




「例えば『会いたい』って言われて、『会う気はあるけど用事があるからダメ』とか」




「うん、わかった」


そう言ってにっこり笑う琴美。




(ホントにわかってんのかな?)




「もしさ、断りきれずに会う事になったりした時は、ちゃんと俺に言って?」




「うん」




「俺が琴美を守るから」




「市川さんは全然チャラ男じゃないから大丈夫だよ?」




「そりゃ、俺だってあの人の事、チャラ男だとは思ってないけど……」


(はぁ……やっぱり、全然警戒心持ってないや)




もうすぐ夏休み。


琴美は今年も八月いっぱい湘南に行く事になっている。


七月いっぱい警戒しておけば、とりあえず心配はないだろうけれど……。




しかし、武田が教えてくれなかったら全然気が付かなかったな。




(ふぅーっ、あぶない、あぶない)

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