続編 -1 on 1・7-
――夕方6時半。
やっとの事で家に辿り着いた。
(じ、地獄……)
「……た、ただいま……」
玄関のドアを開けると夕飯のいい匂いがしていた。
死ぬほどおなかがすいている今日はメチャメチャ美味しく食べられそうだ。
(あぅぅ……疲れた……)
あれから宗はドリブルやパスのやり方も教えてくれた。
後は最初に言っていた1 on 1も。
もちろん、宗は全然手を抜いていた。
だって宗が本気を出したらあたしはきっとその動きの速さについて行けなくて
突っ立っているだけ。
こんな風に疲れることもないだろう。
「どうしたの? 姉ちゃん」
二階にある自分の部屋を目指して重い足を引き摺るように階段を上っていると
下から誠が不思議そうな顔で見上げていた。
「……バスケ、してきた」
「バスケ~ッ!? 姉ちゃんが? 誰とっ?」
誠は普段あたしがまったく運動なんてしないのを知っているからすごく驚いた。
「宗」
「え、シュウさんと? それなら俺もやりたかったー。てか、姉ちゃん
よくシュウさんの相手が出来たね?」
(う……)
「宗がちゃんと手加減してくれたし、丁寧に教えてくれたもん」
「シュウさんの特別レッスン?」
「うん」
「えー、いいな、いいなー」
「それより誠、背中押して……」
「はぁ?」
「足が重くて……上るのが辛い」
「……姉ちゃん、普段どんだけ運動不足なんだよー?」
そんな事を誠に言われつつ、何も言えないあたしは、今はただ
階段を上る事で精一杯だった。
そして、その日の夕食――、
「「おかわりーっ」」
いつもは誠の声だけが響く食卓に今日はあたしの声も響いていた。
……しかし、
“本当の地獄”はその翌朝にやって来た。
「おっはよ♪」
駅の改札の前に行くと宗は相変わらず爽やかな笑顔で手を振っていた。
「……お、おはよう」
「あれ? 琴美、どうしたんだよ? なんか動きがおかしいぞ?」
ヨロヨロとまるでロボットのようにギクシャクした動きで現れたあたしを見て
宗がちょっと噴き出した。
「き、筋肉痛……」
「え、まさか昨日のバスケで?」
「そう……そのまさか」
「……」
宗は何も言わなかったけれど、思いっきり呆れていた。
だって、いかにも「嘘だろ? あんな程度の運動で?」と言った感じの顔をしているから。
「もうやりたくない?」
「ううん、そんな事ないよ」
宗と一緒なら何をやってても楽しいし。
それに何より“絵を描く事しか取り得がない”なんてあの子達に言われっぱなしじゃ悔しいもん。
「でも、宗はあたしが相手じゃつまんないんじゃない?」
「全然、すっげぇ楽しいよ」
宗はにんまり笑って即答した。
その笑顔であたしは吹っ切れた。
“宗はあたしのどこがよくて付き合ってるのかな?”
そんな事を考えるのはもうやめよう。
宗が“楽しい”って言ってくれてるんだし。
「じゃあ、また今度一緒にバスケやろうぜ」
「うんっ」
「琴美の筋肉痛が治ったらだけど」
そして宗はその後、「しかし、筋肉痛て……どんだけー」と大笑いしていた――。