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続編 -にぃたん・5-

亜理紗ちゃんが泣き止んで、ようやく落ち着いた頃、


「どうしたの?」


と、あたしが聞くと


「……ことみちゃん……、さがしてたの……」


亜理紗ちゃんは小さな声で答えた。




「あたしを?」




(なんで?)




「うん……、ことみちゃんがにぃたんにあげた、


 コップ……こわれちゃったの……」




「それってー……碧いマグカップ?」




「うん……」




選択授業で作ったあのマグカップだ。




「ありさ、そのコップ、つかいたくて、にぃたんにおねがいしたの……


 でも、にぃたんがダメっていったから、ないしょでつかってたら、


 おっことしちゃったの……」




(あらら……)




「そしたらにぃたん、ものすごくおこって……、


 ありさのことゆるしてくれないの……」




(それでずっと宗の機嫌が悪かったんだ……)




「だから、ことみちゃん、おんなじコップうってる


 おみせ、おしえて……?」


亜理紗ちゃんは目に涙をいっぱい溜めていた。




「……ごめんね、亜理紗ちゃん、あのコップ、


 売ってないんだ……」




「もう、ないの?」




「うーん……えっとね、あれはお店じゃ買えないの」


すると、亜理紗ちゃんはシュンとして俯いた。




「あ、でも、大丈夫だよ、きっとにぃたん、


 もう許してくれるよ」




「ううん、にぃたん、ありさとずっとおくちも


 きいてくれないもん……」




「大丈夫、にぃたんきっと許してくれるよ。


 それより、亜理紗ちゃん、もしかして一人で来たの?」




「うん」




「お家の人にはちゃんと言って来た?」


あたしが顔を覗き込むと亜理紗ちゃんは首を横に振った。


きっと今頃、宗の家では亜理紗ちゃんがいなくなって大騒ぎしているはずだ。


さっき宗がメールで遅れると言ったのは亜理紗ちゃんを捜しているからだろう。




「じゃあ、にぃたんにお迎えに来て貰おうね?」




「……」


すると亜理紗ちゃんは不安そうな顔であたしの顔を見上げた。




「大丈夫、あたしがついてるから」


亜理紗ちゃんの小さな手を握るとひんやり冷たくなっていた。










――10分後。




「亜理紗っ!」


自転車に乗ったまま宗がベンチに近づいてきた。


その声に亜理紗ちゃんはビクッとして、両目をギュッと閉じながら


「……ごめんなさい……」


と、泣きそうな声で言った。




「あー、宗、待ってっ」


宗の顔は完全に怒っている時の顔だった。


亜理紗ちゃんに何かを言おうとして口を開きかけたところを


あたしに止められ、眉間に皺を寄せた。




亜理紗ちゃんは宗に怒鳴られると思ったのか、


あたしに抱きついたまま、グスン、グスンとまた泣き始めた。


そして、その様子を見た宗は溜め息をつきながら


自転車を降りて亜理紗ちゃんの隣に腰を下ろした。






「亜理紗ちゃんから聞いた」




「……」




「亜理紗ちゃんね、宗が怒ってるのすごく気にしてて


 それで、どこのお店に行けば同じマグカップを売ってるのか


 あたしに聞く為にここであたしを捜してたんだって」


あたしがそう言うと宗は驚いた顔で泣いている亜理紗ちゃんに視線を移した。




「にぃたん……ごめん、なさい……」




「亜理紗、あれはな、琴美が作ってくれた


 世界でたった一つのマグだったんだぞ?」




「ごめん、なさ、い……」




「宗、亜理紗ちゃんの事、もう許してあげて?」




「……」




「宗?」




「……わかった。もう、いいよ、亜理紗」


宗はあたしが顔を覗き込むと、少しだけ表情を柔らかくした。




「……ほんと?」


亜理紗ちゃんは宗の顔を少しだけ見上げた。




「うん……だから、お家に帰ろう。お父さんとお母さんが心配してる」


宗は亜理紗ちゃんの頭を優しく撫でて親指で涙を拭うと手を繋いだ。










――亜理紗ちゃんを家に連れて帰った後、宗はまたすぐに


あたしが待っている駅前の小さな公園に戻って来てくれた。




「亜理紗のやつ、今頃こっ酷く叱られてるだろうなー?」




「だ、大丈夫なの? 放っておいて」




「まぁ、今回の事は俺がずっと亜理紗と


 口利いてやらなかった所為もあるから、


 母さんにはあんまり叱らないでやってくれとは


 言っておいたけど黙っていなくなっちゃったからなー。


 一時間くらい説教されるんじゃないか?」




「宗、そんなに怒ってたの?」




「だって朝、あのマグカップでコーヒー飲むの


 楽しみにしてたのに、俺が学校行ってる間に


 こっそり使ってて割ったとか言われたら誰だって怒るだろ。


 しかも、俺まだ3,4回しか使ってなかったのにー」




「そうだけど、弟や妹ってお兄ちゃんやお姉ちゃんが


 使ってる物を自分も使いたいって思うのよ。


 あたしだって今までにどれだけ誠におもちゃとか


 食器とか壊されたか……。


 今だってあたしのシャーペンとかよく勝手に


 持って行ったりするんだよ?」




「他の物ならともかく、琴美が作ってくれた


 初めてのお揃いのマグでお気に入りだったし、


 亜理紗に使わせたら絶対割られるってのが


 わかってたから使っちゃ駄目だって言ってたのに、


 勝手に使うし、予想通り割るし」


宗はそう言うとちょっとだけ頬を膨らませた。


その頬をあたしが指でつついて潰すと宗はちょっとだけ笑いながら


「琴美、それより今日はどこに行く?」と、言った。




いつもの宗の顔に戻った――。

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