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First Love-本編宗視点・16-

―――昼休憩。


昼食を食べた後、ちょっとだけ昼寝をして


朝と同じ様に雨の音に起こされた。




そして、食堂に行くと琴美がいた。


「何物思いにふけってんの?」


頬杖をついて窓の外を見つめている琴美に声を掛けた。


すると、琴美はハッとしたように振り返った。




もしかして、また高杉の事でも考えてたのかな?




「見てもいい?」


琴美の目の前に座り、置いてあったスケッチブックに手を伸ばした。




「うん。」




「琴美ってさー、よく物思いにふけるというか、考え事してるよね。」




「そぉ?」




「うん。」


ゆっくりページを捲っていくとスケッチブックの中には


いろんな絵が描かれていた。




風景、花、魚、動物・・・そして、人物。




「風景ばっかじゃないんだな。」




「うん、その時“描きたい”って思ったモノを描いてるから。」




そして、琴美のその言葉と同時に“とある絵”が俺の目に留まった。




「じゃ、これも?」


俺はその絵を琴美の方に向けて見せた。


その瞬間、琴美は声も出さずに「あ・・・。」と言った。




「これ・・・高杉?」




琴美は絵が上手いからホントは聞かなくてもわかるけど・・・。




「・・・。」




「・・・。」


俺は黙って琴美の反応を待った。


だけど琴美はなかなか「うん。」とは言わない。


でも、この絵はどう見たって高杉だ。




だから「違う。」とも言わない。






「おーい、二ノ宮。そろそろ練習行くぞー!」


そうして、俺と琴美の間にビミョーな空気が流れ、


お互い黙ったままでいると武田の声がした。




「おう!」


俺は武田に視線を向け、スケッチブックを閉じた。




・・・琴美・・・やっぱり・・・






「あ〜あ・・・雨の所為でなーんか気まで滅入るよなぁー。」


武田と一緒に体育館に向かっていると


ダルそうに言いながら武田は俺の顔をちらりと横目で見た。




俺の気が滅入ってんのは雨の所為じゃないけど・・・。




「そーだな・・・。」


とりあえずそう返した。






午後の練習は軽いストレッチの後、パス回しの練習と


ドリブルからのシュート練習とか・・・その他いろいろ。


だけど、どうにも雑念が入ってる所為か集中できないでいた。




「なんか、調子悪そうじゃん?」


練習が始まって2時間が過ぎた頃、休憩に入ったところで


武田が話しかけてきた。




調子が悪いというか・・・琴美の事が気になってるだけなんだけどな。




「シュートだっていつも結構決めてんのに、今日は全然だし。」




確かに武田の言うとおり、いつもはちゃんと決められるシュートも


まったく決められないでいた。


それでさっき岡嶋先生にも怒鳴られた。




「なんか“心ここにあらず”って感じだけど。」




つーか、武田から見てもそんな風に見えるのか・・・。






その夜―――。


風呂から上がって部屋に戻る途中、目の前を琴美が歩いていた。


琴美もだいたいいつも俺と同じくらいの時間に風呂に入るからか、


風呂上りによく一緒になる。


今日もまだ濡れたままの髪で団扇を片手に外に向かっていた。


多分、また海を見に行くんだろう。




「平野さん。」


不意に聞こえた声に振り向くと


俺の後ろから高杉が歩いてきていた。




「海、見に行くの?」


振り向いて足を止めた琴美に高杉がそう言いながら近づくと


琴美は俺に気付いたのか一瞬だけ視線を俺に移した。




「あ、ううん・・・。」


琴美は小さく首を横に振ると「おやすみっ。」と言って、


慌てて部屋に戻って行った。




・・・?




俺はてっきり、高杉とまた海を見に行くんだと思っていた。


だけど、琴美は逃げるように去って行った。


高杉もなんだか不思議そうな顔をしている。




俺が居たから・・・?




いや、だけど・・・




あー、もう、わかんねぇっ!






俺はそのまま外に出た。


そして、琴美がいつも座って海を眺めている場所に座った。


月明かりだけが照らしている海からは波の音しか聞こえない。


雨はすっかりあがって雲もほとんどなくなっていた。


見上げた空には無数の星・・・。




すげー、星空・・・。




琴美はいつもこれを見ていたのか・・・。


毎日見たくなる訳だ。




琴美と二人で見たかったな・・・。




なんて事を思っていると、きらりと一瞬何かが光った。




あ・・・流れ星・・・。




琴美と・・・て、あら?




俺が心の中で願い事を言っている途中で流れ星は消えた。




「・・・。」




願い事・・・最後まで言えなかった・・・。




「二ノ宮、こんな所で何してんだ?」




星空を見上げたまま動かないでいると後ろから


武田の声が聞こえた。




「流れ星って・・・消えるの早いな・・・。」




「はぁ?」


振り向くこともせず、そう言った俺の隣に並びながら


武田は気の抜けた声で言った。




「願い事・・・最後まで言えなかった。


 あんなんじゃ、三回も繰り返して言うのなんてムリ。」




俺がそう言うと武田はプッと吹き出した。


「そんなの、当たり前だろ?


 簡単に言えてたら、流れ星の有り難味がないじゃんか。」




「まぁ・・・それもそうだな。」




確かにその通りだ。




「つーか・・・なんでお前が隣なんだろうな?


 どーせなら、琴美ちゃんの隣でこの星空を見たかったな・・・。」


武田はがっかりした様子で言うと不服そうな顔をした。




それは、こっちの台詞だっつーのっ!

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