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“タイプじゃないから。”


そう言って片思いだった彼・高杉和也くんは踵を返し、


あたしに背を向けると颯爽と歩いていった。




少し離れて待っていた彼女のところへ。




なんだ・・・彼女いるんじゃない。


・・・わかっていたコトだけど。




何人目の彼女なんだろう・・・?




たった今、フラれたばっかりなのにそんな疑問が頭に浮かんだ。


はっきり言って高杉くんはカッコイイ。


背がスラっと高くて、顔も鼻筋が通っていて所謂イケメン。


サッカー部のエースで女の子に優しいからモテる。


・・・てゆーか、モテまくる。




だから連れて歩いている彼女はいつも違っていたりする。


チャラ男。




・・・なんでそんな人を好きになったんだろう?




彼女がいるのに“タイプじゃないから。”と、あたしに言った。


普通ならここは“彼女がいるから・・・”とかでしょ?


もし・・・あたしがタイプだったら?


どうなっていたんだろうか・・・?


さっきの子と別れてあたしと付き合ってたのかな?




・・・そんなワケ・・・ないか。




あの子・・・綺麗な子だったな。


髪が長くてミニスカートがよく似合う細くて綺麗な足だった。


高杉くんと手を繋いで歩いて行く時もにっこり笑って、


すごく可愛いな・・・と同性のあたしが見てもそう思った。


それに比べてあたしはミニスカートはあまりはかないし、


目が悪いから眼鏡だってかけてる。


髪は長いけど・・・。


友達はみんな「琴美は眼鏡さえかけてなきゃ絶対モテる!」


と言うけれど・・・


そんなコトないと思う・・・。






高杉くんと彼女が去って行った後、さっきまで青々と晴れていた空が


いつの間にかどんよりと薄暗く曇っていた。




降り出しそうな空・・・。




あたしの心の中とリンクしてるみたい・・・。




ゆっくりと空を見上げると大粒の雫がポタポタと落ちてきた。


あたしの涙と一緒に頬を伝って顔を濡らしていく・・・。




このままずっと立っていても仕方がない。




あたしはで雨宿りをしようとすぐ近くにあった雑貨屋のテントの下に駆け込んだ。


雨に濡れた眼鏡を外して、バッグの中を手探りでハンカチを探した。




・・・チリン・・・。




バッグの中で小さな鈴の音が鳴った。


携帯につけている恋愛成就のお守り。


ハート型の小さな鈴のストラップ。


きれいな桜色とかわいい鈴の音がすごく気に入って、


バレンタイン・デーの時にチョコと一緒に


買ったんだっけ・・・。




全然きかなかったじゃん・・・。




あたしは携帯からお守りを外した。




・・・捨てようかな。


でも・・・どこに?


このまま家に持って帰りたくないし・・・。


どうしよう・・・。




掌に乗せたままのストラップをじっと眺めていると、


突然、雷が鳴った。


その大きな音に驚いてあたしの体がビクッとした瞬間、


掌からするりとストラップが滑り落ちた。




あ・・・。




・・・チリン。




ハート型の鈴が小さく鳴って地面に落ちたのがわかった。


だけど・・・拾う気になれない。


どうせ捨てるつもりだったし・・・。


・・・とは言え、こんなとこに放置して行くのも気がひけるな。




拾おうか・・・拾うまいか・・・




「・・・はい。」




え・・・?




ボーッとしたまま考えていると頭上から声がした。


その声の主を確認すべくあたしは顔をあげた。




う・・・眼鏡外してるから全然見えない・・・。




辛うじてわかるのは、あたしが見上げるほどの長身に茶髪。


そして・・・手には桜色の小さな“何か”を持っているのがぼんやりと見えた。


あたしが落としたストラップみたいだ。




その人はストラップをなかなか受け取ろうとしないあたしの手を取ると、


「落ちたよ。」と言って、あたしの掌にストラップを乗せた。




あたたかい手・・・。


優しい声・・・。




・・・チリン。




ストラップは小さく鈴の音を鳴らしてまたあたしの手に戻ってきた。


だけど受け取る気がないあたしの掌はストラップを握る事さえしない。




チリン・・・。




また地面にストラップが落ちた。


すると、その人はまたすぐに拾った。




いらないのに・・・。




「いらないの?」


その人は少し笑いながらそう言った。




うん・・・いらない・・・。


・・・なんてコトは言えるワケがない。




でも・・・受け取る気もない。




「・・・。」


あたしが黙ったまま俯いていると、


その人はストラップをブラブラさせながら


「じゃあ、これ俺がもらっていい?」


と言った。




は・・・?




あたしは驚いてハッと顔をあげた。




「いらないんでしょ?」


そう言ってまたあたしの目の前でストラップをブラブラとさせる。




うん、いらない。




あたしはコクッと小さく頷いた。




「じゃあ、貰う。」


その人はそう言うとにっこり笑った。


・・・よーな気がした。


眼鏡をかけていないからよくわからない・・・。




「貰ったお礼にさ・・・」


その人は自分の携帯を出した。




「これ・・・あげる。」


そう言って、今まで携帯につけていたらしきストラップを


あたしの掌に置いてぎゅっと握らせてくれた。


「え・・・いいんですか?」


「うん。」


しばし、その人の顔をじっと見つめた。


でも・・・どんな顔をしているかわからない。


ここでわざわざ眼鏡をかけて見るのもナンだし・・・。




「・・・あ、ありがとう・・・ございます。」


あたしはとりあえずお礼を言った。


「こっちこそ。コレありがとう。」


その人は優しい声でそう言うと、


「それじゃ!」


と、いつの間にか小降りになった雨の中を走っていった。






あたしの手の中には彼がくれたストラップがあった。




眼鏡をかけてそのストラップを見る。


目に入ってきたのはきれいな緑色の天然石。


翡翠・・・かな?


透明な石は水晶?


水晶と翡翠・・・あとは羽根をモチーフにしたシルバーのパーツ。




これ・・・ホントに貰ってよかったのかな?


あたしは今さらながらそう思った。


だって・・・あたしがあげたのは小さなハート型の鈴がついているだけだよ?




あたしはその人が走っていった方角に目を向けた。


けど、やっぱり・・・もういるはずもない。

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